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13. 決闘!原作主人公 vs 王子の誇り。解説:負け犬貴族

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 ここはどこだ?

 そうだ、王立魔法学校だ。


 王立魔法学校の生活を楽しむためには魔法を楽しまなければならない。なんとも目から鱗な発想であろうか!


 このクソ雑魚ナメクジのクルトとはいえ魔法を鍛えなければこの先メルヴィやカリナどころか自分を守ることすら叶わない。

 故に、魔法を頑張るしかない。


 王立魔法学校は理論を優先する性格があるためか、魔法の授業は座学が主だ。しかし基礎的な魔法実習はあるし、ついでに言えば必須科目である。


 しかし魔法学校入学時点で魔法基礎実習を受ける必要のないくらい卓抜とした才能を持つ生徒というのは毎年数人いる。


 そしてその数人の中に主人公は当然――いないんだなこれが。


 ヴォルフは精霊魔法は使えても教団魔法はからっきしだから教師からの評価がされにくいのである。

 我らの学年でそれに該当する生徒は、


「余の決闘を潔く受けるがいい――、この国を統べる者として!」


 15歳にしてノクスティア王国最高権力者、国王(キング)ヘイロー。


「いやまだおま……あなたは王位継承前のはずですよね、殿下」


 ――の息子で、後に主人公ヴォルフとの友情に芽生える、王子(プリンス)ヘイローことジュベイル・ヨルク・フォン・ヘイローである。


 こいつは王位継承権第一位なので無事息災なればヘイロー朝ノクスティア王国第30代国王となれる。

 まぁ、原作では色々と内紛起こして貰うのだが。王侯貴族は物語の為に内紛を起こして貰うために存在する。


 この日、入学後初めての魔法基礎実習の授業を受けることになった。


 初めてと言えど、多くの生徒は基本的な魔法は既に身につけている。

 そうでないと入学できないからである。使えないのはヴォルフくらいなもので、彼は精霊魔法を教団魔法に偽装して入学している。


 それなのに一般枠の中では優秀な成績で入学しているのは考えてみるとおかしい。

 もし地球に帰ることができたらこの点を修正しておくか?


 まぁそれは後のこととしておいて、その実習授業において「とりあえず決闘形式の実戦をして、理論と実戦がどれほど乖離しているかを見る」ということで、(第一学年にしては)熟練している二人が決闘を行うこととなった。


 そのひとりがジュベイルになり、対戦相手として俺を指名してきた……のは、原作通りの展開。


「しかし余と張り合えるだけの力を持った者は貴様しか見当たらぬ……」

「恐縮です……が、残念ながら私は殿下と張り合えるだけの実力は持っておりません」


 ジュベイルはかなりの素質がある男だ。


 もともとヘイロー家は魔術師の家系ということもあって才能溢れる子が生まれやすいというのもあるのだが、それを考慮に入れてもジュベイルは魔法の天才である。


 んでもってついでに過剰に自信家である。


 まぁ、これくらいの実力があるなら自信家にもなろうという話だ。


 ちなみにこのジュベイル殿下がクルトに魔法基礎実習にて決闘を挑むのは原作通りである。

 これに対してクルトは、先日ボコボコにされたという私怨もあってヴォルフにやらせようとする。


 しかしヴォルフはジュベイルに「本気で来い」と言われたため本気で精霊魔法を使ったら、精霊魔法を知らないジュベイルは不意を突かれ劣勢となる。


 最終的にヴォルフはジュベイルに負ける。

 しかしこれは、勝ってしまうとクルトと同じくイジメを起こすのではないかという不安からであり、試合自体は終始ヴォルフ優勢だった。


 しかしかえってその決断がジュベイルの怒りを買った。


 そしてなんやかんや色々あって、ジュベイルはヴォルフ最大の親友となるのである。

 なお、決闘を嗾けた方のクルトは、ジュベイルが勝利を譲られたことに気付かずジュベイルを褒め称えてしまったためジュベイルの怒りの矛先を真っ向から受けてしまい、以降、ヘイロー家とヴァルトハイム家の仲は急速に悪化、家ごと没落するフラグが立つ。


 ……これは阻止しないといけないなぁ。


 とは言っても対処法は簡単だ。

 ジュベイルとこのまま決闘するか、ヴォルフに決闘を押し付けてもジュベイルをべた褒めしなければいい。


 個人的には、あまり戦いたくはない。

 ジュベイルは先にも述べたようにかなり強い。一対一で戦えば惨敗は目に見えている。


 しかし惨敗したからと言ってジュベイルの性格上、こちらを嫌うと言うことはない。彼は王となる資格が十分にある性格なのだ。


 いっそここで自分の弱さを皆に見せつけてしまえば、変に見栄を張る必要もなくなって肩の荷が下りるかもしれない……うん。

 そうしよう。虚勢を張るのは貴族の悪い癖だ。


「ヴァルトハイム候の言う通りであります。殿下の実力に適う者はこのクラスには最早おりませんでしょう」

「そうか……。そこまで言うのなら今回は止めておくとしようか。しかし誰とも決闘する機会がないと言うのも……」


 あれ? なんか勝手に話が進んでる?


 どうやら別の貴族のバカ息子がジュベイルをヨイショするために、会話に横やりを入れてきたようである。

 おい、こっちの段取りが! これも歴史の修正力なのか!?


 思わず件の生徒をグッと睨む。どこの誰だか知らないけれど、なんてことをしやがったのだ。

 しかし俺の睨みを相手生徒は感謝の念ととらえたのか、それとも俺を貶めることにまんまと成功した喜びなのか、ニンマリと笑っていた。


 畜生、殴りたい。非力クルトだけれど、猛烈に殴りたい。


 あぁでもそんなことより、ジュベイルの次の相手の心配をしないと。

 ここまで話が進んでしまった以上自分が再立候補するのはかなり不自然。ここはどうにかしてヴォルフが対戦相手とならないよう会話の主導権を――、


「んー、ではこうしましょう。入学実技試験において優秀な成績を収めたヴォルフラム・ラインフェルトとの決闘というのは? 一般人ですが、実力はありますよ」


 握れない! ここに来て空気だった教師からの制圧射撃! なんてことを!

 いや、まだだ。ここで反対意見を出せばまだ乗り切れる!


「し、しかし先生。仮にも一般人が殿下の相手をするというのは――」

「ヴァルトハイム候、余計なお世話だ。戦いに身分も血統もない。戦場はいつの世も平等であるのだからな。そのラインフェルト殿とやらはどいつだ?」


 ……万事休す。

 ジュベイル対ヴォルフという対戦カードはココに成立する。

 よし、こうなったらプランBだ。


「ジュベイル殿下。ラインフェルト殿はあちらにいる黒髪の青年でございます」

「おう、ヴァルトハイム候が彼を知っていたのか」

「まぁ、入学式の日に色々ありましたし……彼は有名人でしたので」

「なるほど。それほど有名な者とあれば、余を満足させられる戦いが出来よう」


 出来ない出来ない。不満を吐きだすバトルになる。


 勝たせてもらったジュベイルに原作のクルトは、ジュベイルの神経を逆なでさせて没落フラグを見事に立てる。

 だから今回はジュベイルが勝ったとしても褒めたりせず「お前は勝ちを譲られただけやぞ」という言葉を、最大限に敬意を込めて言えばいい。


 ジュベイルは俺の言葉に従い、ヴォルフの下へと向かい、決闘の相手をしてくれないかと頼む。

 王族の癖に腰の低い奴だ。そこがいいところではあるのだが。


 彼の正体を知らないヴォルフは、それをあっさりと受け入れた。こんな腰の低い王族がいるとも思えないと言う偏見がそれに拍車をかけた。


 決闘を受け入れた途端、


「庶民如きが殿下と決闘だって?」

「烏滸がましいことだ、恥を知れ!」


 たぶん原作クルトと同じような立ち位置なんだろうなと言う貴族たちの暴言やらなんやらが聞こえる。

 殿下自身がそれを望まれているのにその言葉は些か身の破滅をもたらす言葉であろうことなのに彼らは気付いているのか。


 まぁ、ジュベイルはそんなの全然気にしてないが。


 世間に疎いヴォルフはここで初めてジュベイルの身分を知るのである。


「彼らのことなど気にすることはない。存分にやりたまえ」


 と、殿下。やだ、男らしい……。


「あ、あぁ……」


 でもこのままだと、ジュベイルの言葉を鵜呑みにしたヴォルフが勝ちを譲らず全力で勝ちに行ってしまうのではないだろうか。

 一応、俺の方からヴォルフに忠告をしておくか。


「ヴォルフ」

「な、なんだ、クルトもいたのか」

「また呼び捨てに……まぁ今はいい。いいか、今回は丁寧な忠告をしてやるよ。今から戦う相手が誰であるかをもう一度考えて、失礼のないようにしろよ?」

「あぁ、そんなの当然だろ……?」


 どうやら念押しする必要もなくわかっていただけたようだ。


 その察しの良さがいつまでも続けば、Ⅱ章あたりで誰かしらのヒロインとちゃんとカップル成立しただろうに。いや前にも言った通りⅦ章くらいまで察し悪いままの予定だけどさ。


 ヴォルフとジュベイルは、魔法基礎実習を行っている演習場の脇にある、決闘台に上がる。

 これは一対一での、正々堂々の剣戟決闘を想定したもの。それ故に決闘台が円形・正方形ではなく、およそ幅2メートル×長さ10メートルの長方形である。


 左右への逃げ道がないため、魔法防壁を展開して魔法を撃ちあうか、魔法防壁を展開する間もなく速攻で片を付けるのが定石だ。


「では、ラインフェルトとジュベイル殿下の決闘を行う。身体保護魔法はこちらでかけるが限度があることは忘れぬように。決闘に際しては身分関係なく、また決闘の結果に双方文句を言わないこと。双方、それはよいか?」

「問題ない」

「大丈夫です」

「よろしい。それでは――決闘開始!」


 しかぁし!! 精霊魔法は教団魔法に比べて即効性に欠け、またこの第Ⅰ章時点でヴォルフは魔法防壁に相当する精霊魔法を使えない!


「聖なる力よ、儂を護りたまえ。――『障壁(プロテクト)』」

「《契約》《(フラガ)》――彼の者を灼き尽くせ!」

「ふんっ、遅い!」


 ヴォルフは最も早い攻撃魔法を使うものの、一瞬早くジュベイルが魔法防壁を発動。

 一番早いのに間に合わないという、精霊魔法特有の速射性能の低さである。


 これによってヴォルフは苦戦を強いられる……とは行かない。だって主人公だもの。


「ならばこうするまで。《炎》――障壁を迂回し、死角を突け!」

「なんだと!?」


 精霊魔法は、一度精霊と契約が完了すると途端に連射が効くようになる。つまり最初の一発は遅いが、あとは早いのだ。


 また応用性が高く、精霊を介して魔法を自由に操作できるのも特長。


 欠点は、あくまで「契約している精霊の魔法にのみ、それらの効果を得る」ということ、そして契約は術師の集中力と魔力、意思力の強さによってその速射性、精密性が保障される。

 それらの有無次第で精霊から一方的に契約破棄される可能性もある。


 しかし今のヴォルフは、気合十分らしい。《炎》の精霊が、上手い具合に迂回機動を取っているのが見て取れる。


「い、いったい何がどうなってるんだ。あんな魔法見たことないよ!」

「あのヴォルフなんとかとかいうやつは何者なんだ!?」


 決闘を見ていた他のモブ生徒たちが、主人公がどれくらい凄い奴なのかを読者に印象付けるために騒いでいる。

 中には女子生徒がいて、この戦いぶりに惚れてヴォルフの人気がひそかに上がる。そしてリリスの不満度がちょっと上がる。


「あれは――」


 そして解説役のモブ、後にアストラル・スピードワゴンと名付けてしまった生徒が地の文に変わって初解説をしようとした。


「あれは俺らが知っている魔法とは別物かもしれない。少なくとも、ああいう魔法は見たことがない。新しい魔法を開発したんじゃないか?」


 が、そこから先は原作者の仕事だ!


 世の原作者はだいたい自作の設定をみんなに語りたくて仕方ない生き物なのだから。

 語りすぎて本編が設定集みたいになって読者に飽きられるまでがテンプレ。


 いや難しいよね、小説を設定集にしないで小説にするのってさ。


「ヴァルトハイム卿、ま、まさかそんなことがあるなんて……」

「俺もそんなことできるとは思えないが、目の前の現実はそうであるとしか。あるいは教団も知らないような古い魔法だったり、珍しい魔法だったりするのかも」


 とは言え、原作通りモブの解説をなぞることしかできない原作者。

 だってここで精霊魔法がどうのこうのと言ってしまうと「なんでお前知ってるんだ」と突っ込まれる。


 なんでそれがダメかと言えば、魔法は教団魔法しかないものという固定観念から、精霊魔法使い=異端者、異教徒、詐欺師などと看做され、教団を敵に回す可能性があるからである。


 ていうかヴォルフは後々、教団幹部の目の前で精霊魔法を使ったせいでそれがばれて、教団から監視される羽目になり、監視役のシスターと恋愛フラグを立てるのである。


 ……ちょっと羨ましいと思ったが、今の俺は教団と敵対して生き残れる自信も実力もないので、ヴォルフの精霊魔法を知らないフリをしよう。


「くっ……しかし、余の防壁を貫けるものなし!」


 ジュベイルは、ヴォルフの迂回する魔法という見たこともない魔法に翻弄されてしまう。

 全周を魔法防御によって守り死角を作らなくなるが、そうするとジュベイルは全周防御に手一杯になって攻撃が出来ない。


 再契約するだけの時間的猶予が出来たことで、ヴォルフは契約する精霊を《炎》から、貫徹力に優れる《地》に変更する。


「《契約》《(ジオ)》――儂を邪魔する障壁を穿て」


 生成される、固く鋭い岩の矢がジュベイルの魔法防壁を攻撃する。

 それも一本二本ではなく、十数本、しかも同じ箇所に。


「あいつ炎属性から地属性に変えたぞ! 殿下の魔法防壁を打ち破るつもりだ!」

「確かに魔法防壁は同じ場所を攻撃すればいつかはそこが破れる可能性があるが……でもあんなに精密な攻撃ができる者なのか!?」


 ざわつくモブ、そして俺。

 熱い戦いしてるなぁ。俺のまったくあずかり知らぬところで熱い戦いを繰り広げてるなぁ。


 悲しいったらありゃしない。主人公やライバルが鎬を削って敵と戦っているのを見守るヒロインの気持ちってこういう感じなのだろうか。


 俺にも混ざらせろ。


 しかし俺にはあの戦いに混ざるだけの力はない。

 力が欲しい。切実に。出番的な意味で欲しい。お客様の中に「力が欲しいか……?」と契約を持ちかけてくる神か悪魔はいらっしゃいませんか?


 けれどもそんな都合のいい契約を持ちかけてくる者は(当然)おらず、戦いは最終局面を迎える。


《地》の精霊と契約したこと、またジュベイルが防御に徹したことでヴォルフはほぼ一方的に殴ることが出来た。

 しかしとてジュベイルの魔法防壁の硬さは尋常ではなく、槍上の岩石は防壁に弾かれてあらぬところで、身体保護魔法では保護されない非生物の壁や地面を抉るのみ。


 それでもヴォルフが圧倒的優勢。

 なのだが、ここで彼の脳裏に敵が王族であることが過る。

 王族を敵に回したら大変だ。

 それこそ、物語序盤で喧嘩を売ってしまったクルトから貴族的な嫌がらせが起きたの――って、あれ? 起きてないよね?


 今クルト俺だし、貴族的嫌がらせをしたら没落フラグが立つから拘わらないようにしていたんだけれど……この場合どうなるんだ?


 その疑問は、直後にヴォルフが答えを出してくれる。


「このままだとトドメを差し切れない……ならば!」


 そう言ってヴォルフが主人公らしいカッコよさで抜剣、一気にジュベイルに向かって突撃を敢行したのである!

 ……いやいやいやいや、その展開はいったいなんなんだ!?


「正気か貴様!」

「正気かあいつ!」


 図らずともジュベイルと俺の意見が一致した。なお思っていることは全然違う模様。


 魔法戦の最中に剣による近接戦闘に切り替える思い切りの良さはさすが主人公である。

 まぁ肉体保護の魔法があるから思い切りが良くなるのは仕方ないね。


「小癪な――」


 それにジュベイルの不意を突いたのは確かなようで、彼は今一歩対応に送れる。


「その首、貰います!」


 その隙を見逃さない程俺の考えた最強の主人公は甘くない。故に、


「勝者、ラインフェルト!」


 ヴォルフはジュベイルの首筋に剣先を突きつけることに成功したのである。

 …………。


「えっ?」

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