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12. もっとも信用できない

 具体的な協力関係に関しては後日のこととして、メルヴィは「次に会うときはおぬしが儂の所に来るように」と念押しして、またしても奇怪な地図を手渡された。


 この地図、カリナにだったら判別できるだろうかと思いつつ、カリナの待つ部屋へと戻ろうとしたのだが……。


「お話はお済になった、ということでいいでしょうか?」

「うおっ!?」


 カリナがいつの間にか、俺の座っているベンチの後ろに立っていた。


「い、いつの間に……」

「お話が終わったであろうタイミングを見計らってからなので、数十秒くらい前に来た程度ですよ。ですのでお二方が何をお話しされていたかは、カリナは存じ上げません」

「そ、そうか……」


 本当に出来のいいメイドで大変結構。

 そんなメイドに逃げられないようしっかりしなくてはと改めて実感する。


「…………」

「…………」


 しかしながら、その後は何を喋ればいいか双方わからなくなって沈黙してしまう。

 妙な雰囲気が流れる。こういうときどうすればいいか、学校で教えて欲しい。


「あの」

「あのさ」


 そして状況を打開しようとして同時に喋ってしまう。なんだこの小説みたいな展開。小説の中の世界だけど。


「……とりあえずカリナも座っていい」

「いえ、私はメイドですので――」

「いいから座れ」

「……では、お言葉に甘えて」


 そう言うと、カリナが本当に申し訳なさそうな顔で隣に座った。まぁ主人とメイドであれば普通はこんなことはしないだろうから仕方ないのだが。


「さてと……どこから説明するのがいいのやら」


 色々と状況が複雑……と言う程の事態ではないのだが、どこまで説明したらいいのかと言う問題である。

 原作知識を全部言うことはできないし、じゃあ適当に嘘吐いて誤魔化すことなんてカリナ相手にできるだろうか。


 嘘は苦手である。小説家はフィクション小説を書けても嘘を吐ける生き物ではない。少なくとも俺の場合は。


「それでは私が質問して、随時クルト様が答える形でよろしいでしょうか?」

「あー、うん、それでよろしいと思う」

「では――」


 と、ここからカリナの質問攻め。

 メルヴィに関する基本的な情報と、馴れ初めは別にそのまま伝えても問題ない。


 問題なのはこの質問だった。


「あの方、何を目的にクルト様に接触を?」


 である。

 メルヴィ曰く、世界の真理を探るためなのだが、これがメルヴィの真意ではないことは確定的に明らかであるし、ついでにこんなことを言ってカリナが信じるかどうかもわからない。


「……まだ話せない、かな。それに関しては」

「私のことを信用していないということですか?」

「いや、カリナのことはこの世界で誰よりも信用しているよ」


 ヴォルフは俺の凋落フラグを立てるやつだし、リリスはその原因を作ってしまった人だし、マース先生はⅠ章ボスで、メルヴィはⅣ~Ⅴ章ボスだからね……。


 俺の周りはこんな感じな奴ばっかりなので、消去法で行けばカリナが一番信用できる。


「だからカリナに出て行かれたりしたら、立ち直れないかも」


 でも原作通りだとヴォルフのもとに行ってしまう……。

 メルヴィに関しては原作とは別の展開にいまなっているけれど、カリナの方は手が付けられてないのでこのままだと……あぁ、なんだか悲しくなってきた。

 でも二兎追う余裕が今あるかと言えば……ちくしょー。


「そ、そうなのですか……」


 んでもって、カリナはドン引きしたのか言葉が詰まっていた。


 ……確かに歯の浮くような台詞だったかもしれない。

 もしかしたらこれは地雷を踏んだのか? 不満を持っている主人にあんなこと言ったら、気持ち悪いと思うのが普通だろう。


 ていうか、カリナはそのままこちらに目を合わせずそっぽを向いてしまった。そこまでか……。


 やはりキャラじゃないことをするもんじゃあない。主人公ムーヴは主人公に任せて、俺は貴族のドラ息子の如く生きていくしかないのかも……。

 はぁ……。


 いや、今はメルヴィに集中しよう。うん、これ以上は悲しくなるだけだ。なぜかこれ以降、カリナが全然目を合わせてくれない事実から目を背けるために。


「今はメルヴィに付き合っている感じだ。どこまでアイツと歩調を合わせるかは今後次第と言う感じだけれど……」

「とりあえず話に乗ってみる。そんな感じでしょうか?」

「そうだね、そんな感じだ」


 彼女がこのままだと死ぬルートに入ること、それを避けようと思っていることを言った方がいいのか、と思ったのだがそれは止めた。

 それに関しては何で知っているんだということになりかねない。


 だけどそれだと説明不足だったのか、カリナは数分程悩んでいた。

 そして結局、言われたのはこんなことだ。


「……私はクルト様を信用できません」


 まぁ、当然か。普通のメイドならそう言うだろう。

 もしこれが、ヴォルフのメイドとして働いてる時のカリナなら「ヴォルフは信用できる」と言って忠誠を尽くすのだろうけど。


 そこまで俺は信用ならない男か。これから勝ち取って行かないといけないな。

 けれどカリナは、「けど」と付け足した。


「けど、反対はしません。どうせ止めても、クルト様が止まりそうにもないと思いますので」

「えっ?」

「クルト様は昔から、やると言ったら絶対やるお方ですので」

「止めるだけ無駄だって?」

「はい」


 言い切りやがった。

 ……まぁ、良いけど。昔のクルトと今の俺とじゃ別人格だから、その確信は見当違いになる可能性の方が高いのだけれども。


「ですので、ある程度は協力すると思います。しかしあくまでも、メイドとしての立場から。クルト様が命の危機に陥るほどの協力は致しかねますので、その時は反対の立場に回らせていただきます」

「……まぁ、それは当然だ。それがカリナの仕事だからね」

「ご理解いただき、感謝します」


 そう言って彼女は、その場で軽く頭を下げた。


 そしてその時に気付いたのだが……ちょっと顔が赤かった。なんで? 照れてるの?

 ……え、何に?


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