11. 媚び諂うことこそ貴族の醍醐味?
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中庭どころか、地階に到達した時点で息も絶え絶えであった。
今後、何をどうするにも体力づくりをしなくちゃなぁ。
「いやぁ、まさかおぬしがあんなに大胆なことをしてくれるとは思いもしなかったぞい」
「そいつはどうも……」
ぜぇぜぇ息を切らしながら答える。
このときには、逆にメルヴィに引っ張られる形で俺が連れられている状態である。
「しかし、おぬしは本当に情けない奴じゃの。魂の色以外は全然ダメじゃ。体力も、剣技も、魔法も中途半端でダメダメじゃな」
「うるせー。俺、ヴァルトハイム選帝侯家嫡男、クルト・エードラー・フォン・ヴァルトハイム最大の武器は権力・カネ・コネなんだよー……」
「何とも悲しいの……」
そんな目で見ないでほしい。原作者が一番よくわかってるんだ。クルトはこんな奴だということに。
貴族のドラ息子にはそれしか取り柄はない。悲しいね。
俺とメルヴィは適当なベンチに腰を掛ける。
「で、なんの用なんだ?」
数分程息を切らしていたが、なんとか喋れるようにはなれたので本題に入ることにする。
あまり長い間カリナを置いてけぼりするわけにもいかないし、さっさと用事を済ませたいところ。
「おぬしに一刻も早く会いたくてのぉ……」
「いやそういう茶番は良いから」
時間ないって言ってるじゃろがい。
「全く、少しは乙女との会話を楽しもうという気概を見せんのか?」
「……乙女?」
「ぶち殺すぞ」
トーンがマジだった。
いやでもメルヴィさん、この世界では珍しい天人種である。
原作において、この世界に住む人種は実に多種多様だ。絶対数では人間が一番多く、次いでエルフやドワーフ、そして獣人などが続く。
その獣人の中でも特に少ないのが天人種あるいは天人族。
読んで字の如く、天から舞い降りた天使のように白い翼を持つ種族だ。と言ってもこの翼は出し入れ自由で、天人族であることがバレると面倒事が起きることもあって、基本的に翼はしまってある。
メルヴィもそうだ。
元来魔法適正に優れ魔力が高く、さらに非常に長命であり、一説によるとエルフ以上の長さだとかなんとか。
「天人種は長命が基本で少子化が進んでるって聞いてるんだが」
そういうわけで、メルヴィが乙女という説は崩れる。
具体的な年齢は設定してないので本当に乙女だったりするかもしれないが。
「女に年齢を聞くものではないぞ。それに乙女とは実年齢とは関係のないものじゃ」
実年齢云々を除外しても乙女とは言えないような感じがするのは気のせいだろうか。そう言ってしまえばそれこそぶち殺されそうなので言わないでおくけれど。
クルトは空気を読める良い子なのだから。
「顔に出とるぞ」
「……ナンノコトカナー」
「まったく、おぬしという奴は……」
右手で額に手を当て嘆息するメルヴィ。そして空笑いする俺。
「んで、結局は何の用事だったんだ?」
「…………まぁ、おぬしに会いたかったというのは半分……いや2割本当なんじゃがな」
今の乙女のくだりで半分が2割になったのだろうか。
「魂の色云々がそんなに気になるのか?」
「おぬしはそんな軽々しく言ってるが、結構重大な問題なんじゃぞ?」
そうなのか……原作者知らなかったよ。
こいつに転生者であることがバレるとか、協力してくれそうな人物を見つけて人心掌握するときに参考にしている程度しか活躍の機会がなかったんだが。
いやさ、良い感じの設定思いついても作中でそれを活かす機会がなくなる能力とかあるでしょ?
魂をのぞき見する能力に関してもそうなりそうだったから、かなりあいまいな設定しか考えずに途中で放棄してしまったんだよね……。
うんうん。異能バトル系小説が難しいと言われるわけだ。
「あ、どうぞ続けてください」
「……」
ひとりで色々と創作に関して思いを馳せていたら、メルヴィに不審者を見るような目で見られていた。不審者に不審者だと思われた。
「おぬしが持つ魂の色は不思議じゃ。『まるで二つの魂が重なり合っているよう』にな……よく見れば、ひとつの魂は消えかかり、ひとつの魂が輝きを増しておる」
「輝きを増す魂いが、消えかかる魂を乗っ取ろうとしている感じかな?」
「良い表現じゃ。まさしくその通り。どうやらその自覚があるようじゃな……自身が、この世界における『本来のクルト』ではないということに」
「……そこまで言われると、否定することはかえって愚策かなぁ」
「それを口にすることもまた愚策じゃと思うがの」
カッカッカッ、と高笑いするメルヴィである。
実際こいつは原作でヴォルフを転生者だと見抜いて、それを本人に告げている。ならここで認めてしまっても、まぁ、ちょっと展開が早くなった程度のことである。
「ご明察の通り、俺はこの世界の本来のクルトじゃない。気付いたらクルトになってたよ」
「やはりの」
そう言うとメルヴィは鼻を鳴らした。
予想が的中したことを喜んでいる……と思ったが、そうではないらしい。
「だからこそ、こうして会おうと思ったんじゃ」
「答え合わせの為に?」
「いいや違う。儂の目的の為に、じゃ」
メルヴィは、自身が目指す真の目的を話すことはない。
例えばマース先生には「魔法の権威復活」が自身の目的であると話すし、とある章では「イルミナティオ教団のさらなる拡大」と言い、またある人物には「魔法という病巣の駆逐」を、メインヒロインのリリスには「世界の破滅」を目的と話し、拒否された。
主人公ヴォルフには「世界の真理を追い求める」ことが目的と話した。
どれもが、彼らを仲間に引き込むための甘言である。
さて今回のメルヴィの甘言ガチャはどれがあたるのだろうか。それとも、原作にはない目的が語られるのだろうか。
「儂の目的は、この世界の真理の探究。それに協力してほしい」
「本当にそれが目的かぁ?」
「本当じゃぞ」
嘘だぞ。本当の目的は別にあるぞ。
今回は主人公ヴォルフに提案したものが当たった。
つまりこれでこの世界の主人公は名実ともに俺となったわけだな! わっはっは。
でもこの世界の真理既に知ってるんだよな。斜塔……もとい宇宙戦艦がこの惑星に墜落して、その優れた科学技術をイルミナティオ教団が「魔法」として広めた。
メルヴィはこの世界の真理を知っているのか?
答えはイエス。斜塔の正体が宇宙戦艦であること、魔法が科学技術であることを彼女は既に知っている。
だからこそメルヴィは教団魔法を知り尽くしているし、精霊魔法の研究にも手を出せている。
ここはどう答えるのがいいだろうか。
……このようなメルヴィからの誘いを、リリスもヴォルフも断った。
リリスは「誰かの下でこき使われるつもりはないわ」と毅然と言い放ち、ヴォルフは「リリスを手にかけようとした奴の下につく気はない」と拒否した。
であれば、主人公と同じ提案をした俺としても彼らに習って、メルヴィの誘いに乗らず毅然とした態度で矜持を持って拒否するのが男というものである!
「どうじゃ、おぬしもこの世界の真理を知りたくはないか?」
メルヴィからの再びの誘い。
これに対しては俺は彼女と目を合わせて、キッパリと言い放つ。
「その誘い、乗ったァ!」
「…………えっ」
そしてなぜか誘った本人にドン引きされた。
なんでや、それが目的だったんじゃろがい!
「いやなんか一瞬、儂の誘いを拒否するような雰囲気醸し出してた気がしたんじゃが」
「そんなことはないぞ。なぜなら俺は貴族だからな」
「や、貴族云々と何の関係があるんじゃ?」
「それは簡単な事だ。貴族とは、強者に媚び、弱者を池に突き落として棍棒で叩く生き物だからである!」
「おぬし相当下劣な人間じゃな!?」
いやまぁ、大した理由はないんだけどね?
リリスとヴォルフはメルヴィからの提案を拒否して、敵対することになったんだよ?
この作中一、二を争う強キャラに。
そんでもって俺ことクルトにそんな強キャラとタメ張れるだけの力はない。ならば選択肢は唯一つ、メルヴィに媚び諂うしかないのである!
「おぬしを誘ったこと、早速後悔してるんじゃが」
「えぇ……」
「まぁ、しかしおぬしはそこそこ名の知れた貴族の息子というのなら使い勝手……じゃない、活躍の機会も多いじゃろう。そのコネ……じゃなくて、手腕を期待しとるぞ」
「いいよ、別に言い直さなくても……」
人生、持つべきものはカネとコネのある知人なのだから。
基本主人公クズです




