0. 原作者、自作小説の負け犬に転生する
新作です。
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WEB小説には文化と言うか、テンプレがある。
そのひとつが異世界転生・転移。
現代日本に住む主人公が異世界へと誘われたり連れ去られたりするジャンルである。
そのジャンルについて賛否両論、好き嫌いはあるだろうが、俺は好きだ。
大好きだと言っても良い。
どれくらい好きかと言えば、しがない学生身分でありながら、こうして今異世界転生小説を書いてしまっているくらいには大好きである。
感想欄で読者に「異世界転生小説書いてるのは人気が出るからでしょ?」とか書かれてしまっているが俺は好きで書いてるんだバカヤロー。
……とは言え、「じゃあ人気がなくなっても書くのやめないんだ」と言われたらゴニョゴニョしちゃうけれど。
いいじゃないか別に。流行にあやかったって。タピオカだってそうしてるんだから。
あわよくば書籍化とか行きたいし――、
「うん?」
と、心の中で言い訳して執筆しているとき、見慣れない表示が出てきた。
普段来るのは、
「感想が来ています」
「誤字報告があります」
「活動報告にコメントがあります」
……の三種類なのだが、ここに来て初めて見る文面がユーザホームに光っていた。
「『メッセージが来ています』……?」
初めて見る。個人あてのメールみたいな機能だが……まぁ、メール機能を使って感想を書く人もいると聞くし、もしかして今回はそれなのかも。
そう思って開いたら違った。
【差出人:運営】
……運営?
運営!?
え、マジ? 運営からのメール!?
作家個人に運営からのメールが来る時、それには主にふたつ考えられる。
ひとつは警告。
「てめぇ規約違反をしているぞゴルァ!」と運営ちゃんが殴り込みを仕掛けた時。
そしてもうひとつは、運営を介した書籍化依頼である。
ちなみに運営の名を騙る釣りメールがたまに来るという噂があるが、仮にそんなことがあっても、このサイトの場合差出人欄が赤く表示されているかされてないかで見分けがつくので作家諸君は覚えておくように。
それはさておき。
「俺が小説内でやらかした記憶はない……。えっちなシーンどころかキスシーンもまだないんだぞ、あとあとする予定だけど!!」
自分の理想像を反映させた最強キャラに、自分の好きな属性を詰め合わせたメインヒロインをくっつかせることができるのは作家の特権である。
そしてもしそれが書籍化した場合、神絵師に自分の好きな外見属性を詰め合わせて描いてもらえる……。これは熱くなってきたな。下半身が。
俺は恐る恐るそのメールをクリックする。
回線が不安定だったのか、それとも俺の精神が不安定だったのかはわからないけれど、メール本文が開かれるのに時間がかかった。
そして文面が開かれたその時――
俺は、自分の書いてた小説の登場人物に乗り移っていた。
しかも主人公でもヒロインでも悪役令嬢でもボスキャラなく、負け犬当て馬で誰もこいつの名前を憶えてないようなキャラに。
………………。
「……この導入は斬新だな。夢から覚めたら早速新作で使ってみよう」
さすが夢というだけあって、支離滅裂だな!
ESN大賞の応募規定を満たすために第Ⅰ章は月内完結を予定しています