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1話_不思議な少年

「聞いているのか?」

 心配そうに顔を覗き込む友人に気付いてふと顔を上げる。

俺が間抜けな声をあげると友人は呆れたようにため息をついた。

「すまん。考え事してた。」

この一週間俺は先日あったある出来事を考えつづけていた。



 一週間前、天気のいい日だった。

 この俺、鈴木透は一人暮らしの高校生である。両親とは父の出張の関係で別々に暮らしている。そういうわけで自分で必要なものを用意する必要があるためその日はスーパーへ買い出しに出かけていた。買い出しを終えて気分良く歩いていた時そいつは急に現れた。木々の隙間から飛び出してきたそいつはとても奇妙な少年だった。日に当たった事がないんじゃないかと言うくらい白く透き通った肌に絹のように滑らかな黒髪、右目には薄く星型のマークが見える。整った顔を興奮で歪ませ今にも襲いかかって来そうなそいつはどう見ても普通ではなかった。

 さて、諸君に質問だ。買い物の帰りに猛獣のような子供に遭遇した。袋の中には卵もある。君達はどういう行動をとる? 俺は袋を手で押さえ卵を割らないように全速力で走った。自慢ではないが体力はかなりある。少なくとも見た目12歳程度の子供に追いつかれるようなことはないだろう。そう思っていた、息を切らしながら家のドアを閉めようとした俺の目についさっき見たばかりの少年が映るまでは。

 

 玄関の前で彼は笑っていた。まるで遊んでもらえて嬉しいとでもいうように満面の笑みで。俺は溢れ出てくる恐怖を押し殺しながらながら叫んだ。

「なんなんだよお前は!」

精一杯の虚勢を張りながら恐怖の震えを怒りで震えているかのように見せ少年を睨みつける。その言葉に彼がとった反応は俺が全く予想できないものだった。

 彼は突然怒鳴られたことにショックを受けたのか一瞬固まった。そして目の前の男が自分と遊んでくれていたわけではないと知り、泣きそうな顔になりながら言った。

「そんなつもりじゃなかったんだよお」

彼は本当に遊んでもらっていただけのつもりだったのである。俯くその姿に幾らか安心した俺は彼を家に招き入れることにした。



「お前、名前は?」

俺は水をコップにそそぎながらリビングの椅子に座りキョロキョロとあたりを見回す彼に聞いた。

「知らないよ」

彼は当たり前だとでもいう風に言った。

「知らないわけないだろ。自分の名前だぞ」

「だから知らないんだって。名前なんて」

呆れたようにはなった俺の言葉を即座に否定する。

「どういうことだ? 記憶が無いとか言うんじゃ無いだろうな」

俺は嫌な予感がして不機嫌になりながら言う。

「記憶はあるさ。でも名前なんて僕には無いんだよ、多分」

彼は困ったような顔で言った。


 聞くと彼は白い建物で育ったのだという。真っ白な部屋の中で二人の大人が一緒にいる。彼らは食事を用意したり部屋の掃除を行なったが少年とは少しも話さなかったそうだ。

「そんなの親って言わないだろう?」

彼は首を振りながら言った。

 言葉は覚えたのかと聞くと彼は怪訝な顔をしながらみんな話してるではないかと言った。コミュニケーションを取らずに言語を学習することなど可能なのだろうか?

 他にわかったことは以下の通りである。


・年齢は本人の記憶では12歳(二人の大人が話していたらしい)

・今回初めて外に出たため家がどこかわからなくなっている(あの脚力ならば相当遠くの可能性も考慮する必要がある)

・外出にあたり許可は取っていない


 脱走の上に行方不明とは中々洒落にならない。仕方がないので警察に相談した後本人の希望でうちで保護することとなった。名無しでは不便なのですぐるという名前をつけた。本人はまんざらでもなさそうだった。


 そんなこんなで優を住まわせることになったのである。一週間考えつづけるのも無理はない。

「また明日な」

そう言って友人と別れて自宅のドアを開ける。

家の中は優がほっぽり出したものですこぶる散らかっていた。

「こっちに来い!」

いつものように怒りに震えながら優を呼びつける。

こういうわけでこの目に映るも全てが目新しくて興味津々な居候との生活が始まったのである。







 

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