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使用人の務め  作者: 椿崎 圭
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百合の花①




『いってらっしゃいませ』


そう言って奥様を見送ったなつめ達、使用人頭を除く一同は仕事をしながら話をしていた。


「今日のドラマ絶対リアルタイムで見ようね!!」


「私、奥様に大広間のテレビ使っていいって許可もらったわよ」


桃菜の呼び掛けに奥様付き使用人の一人、カエデが応える。落ち着きのある彼女は(はた)から見ると桃菜の姉のようだ。


「さっすがカエデさん!良い仕事する!」


正直、このお屋敷で働いている者は皆良い仕事をしていると思う、となつめは思う。


「ドラマは楽しみだけど、でも奥様に付いて行けるのちょっと羨ましい…」


桜子(さくらこ)はほう…とため息をつきながらそう言った。今回奥様に付いて行った使用人頭のことを言っているのだろう。


「仕方ないよ~。やっぱ奥様にお仕えして一番長いし、信用も信頼も私達の比じゃないんだよきっと」


「そうね。でも別に信用信頼の問題じゃないと思う。ただ単に適材適所ってだけじゃない?」


カエデの言葉はどこか桜子と桃菜をフォローしているようだ。決して桜子達が奥様に信用されていないわけではない、と。


「そうですね。私もそう思います」


なつめもカエデの言葉に同意する。他の奥様がどうかは知らないが、自分達の奥様はそういう人だ。


「ん?」


窓を拭きながら話を聞いていたなつめは気づく。


「どうしたの?なつめ」


「庭師の方々、まだいるんですね」


奥様と新しく何を植えるか打ち合わせした後すぐ奥様が出掛けたため、庭師も今日はもう帰ったとなつめは思っていた。


視線で庭にいる庭師を指しながらなつめは言う。その視線から察したカエデは、あぁ。と呟く。


「今日はとりあえず手入れだけ軽くするんですって。ついでに状態も見るって言ってたわ」


「時間かかるでしょうね~」


桃菜はのほほんとしながらそう言った。庭の多くの花達が庭師達を翻弄している。


「ただの手入れでもあれだけあればね」


苦笑する桜子に、皆首を縦に降りながら同意した。


だんだん暖かくなる気候を感じながら、なつめは少々気の毒だなと思い庭師達に視線を戻した。



◼️◼️◼️



「うわ。それ、どうしたの」


昼下がり、休憩を終えたなつめとカエデは廊下を歩いていると花の妖怪に出くわした。


「さっきお花屋さんが来てね、奥様に是非ってプレゼントしてくれたの!」


「なんで花屋?」


来客の予定はなかったような…となつめは隣のカエデを見る。


カエデも同じように思ったらしく、なつめと目を合わせてお互い首を(かし)げた。


「なんかねぇ、近くに新しくお店開いたから今後ともよろしくって」


なるほど、営業か。なつめは妙に納得した。


二つの妖怪の両手には今にもこぼれ落ちそうな量の花が抱えられている。白百合(しらゆり)を主とした色とりどりの百合にカスミソウ、小さめのバラの花束だ。


抱えすぎて姿が見えづらいが、声から桃菜だとなつめは判断する。そうするともう一つの妖怪は桜子か。


「それにしたって…多すぎない?」


若干顔を引きつらせて言うカエデとは裏腹に、無表情ながらなつめは内心、めっちゃ媚びてるなーこりゃ。と思っていた。


「お屋敷広いし、あちこちに()けられるようにじゃないですか?」


花の中から目元だけを器用に出して桜子が言った。本当に妖怪のようだ。


「それにしても、これだけあると壮観ね」


「宝塚みたいですね」


「宝塚って百合の花なの?」


「さぁ?ただのイメージです。でも女の世界ですし、案外百合(・・)の世界かも」


「むしろ女の修羅場って感じがしないでもないけどねぇ」


「二人ともこれちょっと持って!」


なつめとカエデのどうでもいい会話は桃菜の言葉によって遮られる。


「もう水切りまで終わってるってさ」


そう言って桜子は、すぐに生けよう!となつめとカエデに目で訴えた。




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