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使用人の務め  作者: 椿崎 圭
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「なつめ~!!」


休憩をとろうとお茶を持って歩いていると、後方から名前を呼ばれる。


「桃菜も休憩?」


「うん!一緒にこれ食べよ!」


明るく言う彼女は加島(かじま) 桃菜(ももな)。なつめの1つ上だ。


そんな彼女の手には桃が2つ、乗っていた。


「共食い?」


「違うよお!!」


もちろん冗談のつもりでそういえば、予想通り強く否定された。


彼女は歳のわりに言葉選びが幼い。ついでに言えば顔も幼い。そのふたつが相まって、例え一歳差だとしてもなつめよりもずっと幼く見える。


二人で休憩することとなり、桃を切るために台所に向かった。


「明日さ~やっと最終回で今から楽しみなんだよ~」


「あぁ、ドラマ?」


ここのとこなつめ以外が夢中になって見ているドラマの話を桃菜は話す。


「そう!もう早く明日の夜になって欲しくって」


なつめは興味が無かったが、興奮しながらドラマの話をする桃菜を見ているのは面白かった。


「そんなに?」


「うん!すっごく!視聴率もアホみたいに良いし」


「へぇ」


「なつめも観ればいいのに」


「恋愛系はどうも…」


なんだか体が痒くなる…と言うと桃菜は笑った。


「大丈夫。恋愛系じゃないよ」


「そうなの?どんな?」


「人と人の化かしあい」


「何それ興味ある」


思わぬところで興味をそそられたなつめは食いつく。


ドラマの内容をかいつまんで教えてもらう内に、二人は台所に着いた。


なつめも桃菜も慣れた手つきで桃を切り始める。


「珍しいね。こんな季節に桃って」


今は春だ。桃の季節には早い。


「さっき奥様にお茶持ってったら、貰ったからたべていいよって貰ったの」


あぁ。となつめは納得した。


ツテの多い奥様なら季節関係なく好きなものを手に入れることは簡単だろう、と。


「そう言えば明日は庭師の人達が来るって」


切った桃を器に盛ることもせず右手に包丁を持ったまま、なつめは言った。


「みたいだね~。そのあと奥様出掛けるんだって」


「そうなの?」


「うん。詳しくは今日の報告会(ミーティング)で知らせるって」


使用人頭が。と言って桃菜も同じように桃を食べた。


「会社に顔出すのかな」


「違うって。誰だったかは忘れたけど、少し前に亡くなったお偉いさんの奥様が体調良くないみたいで、お見舞いだってさ」


「旦那様も?」


お偉いさん相手となると夫婦で(おもむ)くのだろうか、となつめは思う。


「旦那様、もう5日帰ってきてないよ?忙しくて行けないんじゃない?」


桃菜の言うことは最もだ。


旦那様は忙しい。なつめの知る限りだと最長で2ヶ月帰って来ないこともあった。


「まぁでも、旦那様もお世話になってた人だったら向こうで落ち合うとか、行けなくてもお見舞金を連名で渡すなりするんじゃない?」


「そうだね」


桃菜の話を聞きながら、密かになつめは感心していた。


天然、天真爛漫、人畜無害。そんな言葉が似合う彼女だが、やはり仕事ができることには変わりない。


彼女の口から出る予想は、先々のことをしっかり考えているとなつめは思う。


(どんな人間からでも見習うべきとこはあるよなぁ)


いつの間にか自分の桃を食べ終え、なつめの桃に手を出す桃菜の手を(はた)きながら、なつめはしみじみと思った。




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