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使用人の務め  作者: 椿崎 圭
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なつめは食器を食器棚から出していた。


優秀な人材がそろうこの屋敷では、仕事を与えられるのを待つのではなく、自ら仕事を探した方が居心地がいい。


なつめにとっては仕事を与えられるまで待つなんて考えられないし、そんな無能などになりたくなかった。


しかし他の使用人は有能で、多くの場合指示される前に何かと仕事を見つけ取りかかり、終わっている。


そこでなつめは食器棚を片付けよう、と思案した。食器棚に閉まってある食器を全て取り出し、食器棚の内側外側を綺麗にし、食器も磨き、また再び食器を棚に戻そうと。


だが、いざ取りかかり思った。



(うん、これは大変そうだわ)



広い屋敷に見合う高価な食器達は数が多い。正直全ての食器を出したところで少し後悔した。



「いやいや、初志貫徹!!」



生まれた後悔の念を払拭するかのように、なつめはそう自分を鼓舞すると腕捲りをして作業に取りかかる。



「…」



黙々と食器を磨く。



「……」



ひたすら黙々と。



「………」


「何やってんだおまえ」



ふと、なつめの後方から声がした。


なつめは面倒臭そうな表情を隠しもせずに声の主に目をやる。



「なに、あんたいたの?」


「なんだおまえ。旦那様に関する予定(スケジュール)は確認してないのか」



嫌味を言ったつもりが嫌味で返される。


もちろんなつめは奥様の今日の予定だけでなく、旦那様の予定も把握している。だがなつめがわざわざこのような言い方をしたのは、目の前の男が鬱陶(うっとう)しいからだ。



「食器磨いてるのも見てわかんないの」


「わかるわ。…この量をひとりで?」



男の質問になつめは返さない。反応するのが面倒臭い。



「布巾どこ?俺もやる」



どうやらこいつも仕事を見つけようとしていたらしい。こいつに頼るのは非常に(しゃく)だが、ひとりで目の前の食器達を磨くのはやはり骨が折れそうなのでここでは余計なひとことは言わずに、なつめは無言で布巾を渡した。



「気が利くだろ」


「やること探してたんでしょ。よかったね仕事が見つかって」


「…おまえ本当かわいくねぇ」



男はむすっとしたかと思うと、布巾を持って食器棚を磨き始めた。


杉山(すぎやま) 陸太(りくた)。17歳。なつめと同じ歳だ。


彼はなつめと違い、奥様を主人としていない。奥様の夫でありこの屋敷の家主である旦那様を主とする。


その忠誠心は非常に強く、もはや心酔を越して崇拝しているようだ、となつめは思う。


以前、旦那様が仕事で大きな功績を成したとき、いかにその時旦那様が活躍したかをうっとりと、嬉々(きき)としてまるで自分の誇りのように語っていたことがある。


正直なつめはイライラした。その大きな功績の裏で、奥様が旦那様のためにどれだけ暗躍したのか、この男は知らなかった。


知らなかった、だからしょうがない。しょうがないのだが、まるで旦那様一人の活躍と言わんばかりのその態度は奥様の存在をないがしろにしているようで許せない。


結果、そんな目の前の男になつめは反撃した。


奥様がどれだけその裏で動いていたのか、旦那様のために何をしたのか、そこにどんな苦労があったのか。


この反撃は二人の口論の火蓋を切った。


もはや功績云々(うんぬん)はどうでもよく、お互いの主の優れている部分の言い合い合戦となった。


しかも本人達の目の前で。


結局奥様の「いや、もう恥ずかしいわ」と言う声で使用人頭と旦那様付きの秘書に止められた。


奥様は苦笑い。旦那様は無表情。


今思い出してもなかなか恥ずかしいことをした、となつめは少し反省する。


そんなこともあり、この目の前の男とはなかなか合わない。


別に嫌いではないのだが、奥様至上主義と旦那様至上主義。合うわけがない。



「棚は磨き終わったぞ」



男の声に、なつめは磨いている食器を置いて確認しに行く。



「…及第点ね」



この男は好かない。しかし仕事はできる。しかも男にしては珍しく気が回る類いなようで、しっかりと食器棚は磨かれていた。


うん、男にしてはよくできてる。男にしては。



「…今、めっちゃ失礼なこと考えてるだろ」


「別に」



なつめは適当な返事で返すと再び食器を磨きに戻る。


男は渋い顔をしながらなつめの横に移動し、まだ磨かれていない食器を磨き始めた。


うん、本当男にしてはよく気が回る。男にしては。






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