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使用人の務め  作者: 椿崎 圭
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なつめ




「よし、あとは…」


大きな屋敷でひとり、そんな呟きが漏れた。


(はしばみ)なつめ。


霧城(きりしろ)家の使用人として働く17歳。


奥様を敬愛しているなつめは、奥様のために今日も甲斐甲斐(かいがい)しく働きまくっている。


なつめは空になった洗濯(かご)を本来の定位置に戻した。


そして自分ができる仕事を探す。



「新しいリネンは他の人達がやってくれてるし、食器も磨いたし、掃除も終わってるし…今日は来客の予定もないし…」



ぶつぶつと呟きながら歩き、なんとか自分の仕事を探そうとする。


ふと、窓から見える庭に目が止まる。



「あ、そうだ」



見事な庭だった。それはもう目を見張るほどに。毎度来客が感動のため息を漏らすほどに。


昨日、そんな庭を見ながらなつめの主人であるこの屋敷の奥様が、「そろそろ虫対策しないとね」と言っていたのを思い出す。


そんな発言を思い出しながら、なつめは今後の予定を頭に刻もうとした。



(庭師の人に連絡入れて虫対策してもらって…あとついでに花の状態も見てもらおう。それと何か、新しい花でも植えるかな…)



奥様に確認してから…と考えながら歩いていると、曲がり角で人とぶつかりそうになる。



「すみません!」



ぶつかる寸前でお互い回避し、なんとかぶつからずにすんだ。なつめの前には、平均よりやや背の高い、童顔の女性が立っていた。



「いえ、私も足早に歩いていたから危なかったわ。今後気を付けるわね」



あなたも考え込みながら歩かないように。と言われて、なつめは恥ずかしさといたらなさとで言葉が詰まる。


なんとも上手い言葉使いでなつめを注意した彼女は、この屋敷の使用人頭だ。奥様に使え一番信頼も厚く、またこの屋敷に一番長く従事している。



「あの、お庭の件なんですが」


「あぁ、虫対策?その件なら昨日庭師の方々に連絡入れたから、明日打ち合わせにくるわよ。ちょうどよかった。その事を話そうと思ってたの」



他の子達にも伝達しておいて。と言って、使用人頭はなつめの返事を聞くとその場を後にした。



(仕事出来るなぁ…)



去っていく後ろ姿を見ながらなつめはそう思った。その足取りは先程よりもゆっくりだ。

虫対策だけならわざわざ打ち合わせする必要もない。つまり新しい花など、それらに関する諸々も奥様と相談済みで手配済みなのだろう。


正直、この屋敷のことは奥様と使用人頭さえいれば全て回るのでは、と思うほどに彼女達は要領が良く、仕事ができた。


しかし同じ職場で働く以上、出来る人間に甘えまくるのはなつめのプライドが許さなかった。



(もっと早く気づけるようにしよう。それから、自分の今出来ることから応用力も広げて…)



考え込みながら歩みを進めてハッとする。



(いかんいかん。また誰かとぶつかりそうになるかも)



なつめはそう思うと、とりあえず今後の自分の目標は後で考えるとし、ひとまず今現状するべき自分の仕事を探すことにした。


榛 なつめ。


若くして働く彼女は向上心が高く、自分の成長に貪欲だった。


年齢相応に遊び呆けても許されるはずである。しかし彼女はそれを選ばない。


そんな性格の彼女は、同年代の人間よりも大人びていて、かつ頭の回る性格だった。


敬愛する奥様のいる霧城家。


これはなつめの成長記録と、その界隈(かいわい)で起こる、ちょっと非日常な日々の物語。



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