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スパイへの罰……罰?

「チップ!」


 ミラアが自分がスパイであることを自供した瞬間、メレーナが動く。

 チップに呼び掛けた後、自らミラアに向かって特効を仕掛けた。同時に、銃声が二つ重なって会議室に鳴り響く。


 ミラアが行動に出る前に、銃弾は彼女の両膝を貫通し、その両目が消失した。

 負傷した足は自身の身体を支えきれず、彼女は仰向けに床にへと倒れ込んでしまう。


 瞬きすら許さない。


 一瞬の出来事だった。


「……と、魔法を封じていなかったねぇ」


 メレーナは魔法封じの杖を取り出し、ミラアに向かって杖を振るう。……これで完全に逃げ道は無くなった。


 こちらの蘇生魔法で自殺はできず、アイテムの使用はメレーナの能力で使えず……。ログアウトしても身体の負傷は治せない。


 詰みだ。


「くっ……ははははははははは!! 速い! 速いなぁ! 全く迷いが無い! 『教官』の名前は伊達じゃないと言うわけか! ……最っ高だ! 私はこれを望んでいた!」


 両目から血を垂れ流しながら、ミラアは至極愉しそうに笑い声をあげた。その様子は、思わず背筋に寒気が走るような気味悪さがある。


「さぁ! 何が聞きたい!? 拷問しろ! 私を壊してみせろ! 刻んで、犯して、汚し尽くせ! そしたら、少しは口を割るかも知れんなぁ!? あははははははは!!」


 ここまでくると、ドMを通り越してただの破滅願望だ。しかも、他人を巻き込んでくるからたちが悪い。


 恐らく、スパイをしたのも向こうのクランに情報を流すのが目的では無く、自分をこうやって破滅に導くのが目的だったのだろう。


「農場長、こいつの処罰は我々にお任せを。死にたいと懇願するまで痛み付け、必ずや情報を引き出しましょう」


 チャイム君が牙を剥き出しながらミラアの腕を持ち上げた。……待て待て、そんなことやる必要はねぇよ。離してやれ。それに、そんな事してもコイツを喜ばせるだけだ。


 俺がそう言うと、チャイム君は納得できない様子だったが、渋々その手を離す。


「ツキト、それなら私とチップにやらせな。私が内臓抜きつつ、チップが死なないようにHPを管理する……駄目とは言わせないよぉ?」


「アタシもそれでいい。……それに、コイツの耐久おかしいことになってるから、下手な事しなきゃ死ななそうだ。さっさとやっちまおう」


 メレーナとチップが殺気だっている。止めれば矛先がこちらに向きそうな勢いだ。


 だから待てって言ってるだろ。

 それに、俺はさっき言ったつもりだぞ?



 何も問題は無い、って。



 俺がそう言うと、ミラアの表情が真顔に変わった。そして、顔をこちらに向け、口を開く。


「何を言っている? クランの情報を漏らしたのは私だぞ? 兵器を破壊された代わりに、奴等は情報という武器を手に入れた。今頃は対策を練っているだろうな」


 確かに、ミラアの言うとおり、奴等は俺達の能力に対して対策を講じて来るだろう。……しかし。


 奴等の持っている情報は、何もかも中途半端すぎる物だった。


 ミラア、お前適当な情報を漏らしただろ。それこそ、既知の情報や動画を見ればわかるような情報ばかりを伝えたな?


 俺がそう問いかけると、ミラアはふっと鼻で笑った。


「何を言い出すかと思えば……、何を根拠にそんな事を言っているのか私にはわからないな。それに聞き出したいのなら拷問を……」


 ああ、そう言えば。

 さっきは無編集って言ったけどよ、そういえば一つだけ編集されているところがあったな。……何故、アークとシーデーが映っているところだけカットした?


 あー、別にわかっているから言わなくても良いけどよ。あの二人が動画に映ったのはあの演習が初めてでな。クラン以外には存在を知られていない、珍しい優秀な人材がアイツ等だ。


 正直言って、アイツ等の能力が無きゃ今回の破壊工作も上手くいかなかった。いや、上手くいかないだろうと、お前は考えたんだ。


 だからお前は意図的に動画を編集した。演習動画も1回目と2回目の分しか動画サイトにアップロードしていない。


 3回目や4回目も演習の撮影はやっていたんだろう? じゃあ、なんでそのデータを渡していないんだ? 最新のデータを使わなきゃ意味が無いだろ。


 そして……。


「もういい! それ以上はやめろ!」


 俺の説明を遮ったのは、他でもないミラアだった。初めて聞く彼女の怒鳴り声に、辺りはしんと静まり返る。


 そして、重々しく口を開いた。


「……お前の、言っている通りだ。確かに私は価値のない情報、そして虚偽の情報を奴等に流し、報酬を受け取っていた。……だが、スパイを頼まれ仕事をしたのは事実だ」


 自分がスパイだと言及されたときとは比べものにならない程に、悔しそうな声である。実際にミラアの眉間には、深いシワが刻まれていた。


 戦場において、情報というものは重要な物だ。

 しかしながら、間違った情報というものは毒の様な物で、取り返しのつかない事態を巻き起こす。


 特に、仲間内から広がった偽情報というものは、嘘みたいな速度で浸透していき、組織全体を蝕むだろう。


「つまりは……二重スパイをしていたのじゃろう? クランの情報操作をしてくれたのじゃから、ワシ等の為になっているではないか」


 サンゾーさんはそう言ってミラアの肩を支えて、椅子に座らせようとする。


 ミラアが俺達の情報を流したことにより、奴等はその情報を頼りに誤った対策を立ててくるだろう。

 クランが有利になる要因を作った、その功績はとても大きいものなのだが……。


「なのに、何故そうやって罰を受けようとする? ワシにはそれが理解できんわい……」


 周りのメンバー達も、ミラアが何をやっていたのか理解したらしく、武器を納めていた。

 雰囲気も先程のよりは穏やかになっている。


 しかし、ミラアはそれが気に入らなかったらしい。


「やめろ! 情けをかけるな! 殺せ!」


 掴んでいるサンゾーさんの手を振りほどこうと暴れるが、腕力では敵わないようだった。しばらく暴れると、ぐったりとしてしまう。


「大人しくせんかい。あー……誰か回復魔法をかけてやってくれ。お前達も、もうミラアがワシ等に不易な事をしていた訳でない事は、わかったじゃろう?」


 先輩がミラアに近づいて魔方陣を展開する。……リジェネレーションの魔法だ、先輩が使うのなら直ぐに全ての傷が元通りになるだろう。


「っく……! やめろ! やめるんだ! そんな事をするな! まるで私がお前達の為に仕事をしたかの様に話を進めるんじゃない! これでは……」


 魔法が発動すると、思っていたようにミラアの身体の傷は直ぐに修復した。無くなってしまった眼球も元に戻った。


 自分の視界が回復し、俺達の様子を確認したミラアは静かに崩れ落ちてしまう。



「これでは……まるで私が良い事をしたみたいじゃないか……」



 ………………。


 俺達はその言葉を聞いて、お互いに顔を見合わせる。……うん。まぁミラアだし、こんなもんなのかな?


「それは喜ぶべき事じゃないのかしら……?」


 しかし、ドラゴムさんはよくわかっていないようで、首を傾げている。


「違うんだ! 私は……自分のしたことを誰にも理解されず、評価されず、さんざん拷問された後、最後には無惨に殺される、という報われないシチュエーションを楽しみたかったんだ! 最後までゴミクソに扱って欲しかった!」


 ミラアは涙を流しながら、床をドンドンと叩いている。


 相変わらずの面倒臭さであった。……つまり、怒られたかったんでしょ? もういいじゃん、メレーナとチップに礼言っとけよ。


 そう言うと、ミラアは俺を指差し睨み付ける。


「そういうところだ! 鬼畜ド外道クランと聞いて、楽しみにしていたのに、お前達は優しいし、修行以外がホワイトすぎる! 私はもっと心身共に追い詰められると思っていたのに……これでは、私は真人間になってしまう!」


 駄目だ、相変わらず意味がわからないことを言っている。誰か理解できる奴はいないかと周囲を見渡すが、全員黙って首を横に振った。


 とりあえず、お前が頑張って二重スパイをしていたのはわかったから……。とりあえず、落ち着けよ……な?


 俺はポンポンとミアラの背中を優しく撫でてやった。すると、彼女は嗚咽を漏らしながら、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。



「うぅ……拷問……酷くて……惨くて……トラウマに、なりそうなの……やって……ほしい……」



 ……お前。


 本当に面倒くさいな!?


 仕方がないので、俺はチャットを使ってミラアを拷問してくれる人材を要請した。……けれども、誰一人として名乗りを上げてくれる親切なメンバーはいなかった。



 ……え?



 これ、俺がやんないといけない奴?



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 会議が終了したので、各員は解散し自分の仕事に戻っていった。


 そんな中、俺はヒビキを引き連れ、ミラアを拷問するために処刑室を訪れた。


 ミラアについては、ヒビキの苗床になってもらうことで落ち着いてもらった。しばらくの間は回復魔法をかけられつつ、プチヒビキを産み続けるらしい。


 今は拘束具に捕らえられていた。


 ちなみに先輩も来たがっていたが、こんなもん見せられるわけが無いので、帰ってもらった。


「ああ……すまん。私としたことが取り乱してしまったよう……うぅあっ!? あぁあああ!?」


 会話中でも関係なく、次々とプチヒビキが腹の中で成長している様で、ミラアは苦しそうな声をあげた。しかし、顔は嬉しそうだ。


「ふぅ……すまないな」


 本当にな。


「兄貴、ここはボクに任せて帰っても良いよ? ……というか、このまま放置して帰ろう」


 ああ、うん。

 ちょっとコイツにお願いしたいことがあるからさ。それ終わったら帰るよ。


 俺の言葉にミラアが反応してビクンと身体を震わせた。……いや、また一体産み落としただけだった。


「はぁ……はぁ……。ほぉ? 私に何かを頼みたいと? ……いいだろう、今の私は気分がいい。何をすればいいのだ?」


 切り替え速いな……。


 実はさ、お前がクランのPR動画を撮りたいって言ったって聞いたから、どんな奴を撮るのか気になってさ。差し支えがないのなら、教えてほしいなーと。


 ゼスプの話を聞き、先程の会議の時に聞こうと思ったのだが、タイミングを逃してしまった。


 おかしな物を撮られても困るので、早めに聞きたかったのだ。


「あぁ、あれか。ケモノや、お前みたいにケモノに化けれるPLを集めて『もふもふクラン! ペットショップ!』という動画を作ろうとしてな。完全に私の趣味だ」


 ふふん、とミアラは得意そうな顔をして、またプチヒビキを産み落とした。


 ……もふもふクラン……ちょっと見てみたいかも。


「目移りすると怒られるって、兄貴わかってる?」


 しれっと弟に心を読まれた。……うるせーやい。俺と先輩も出演者候補だっつーの。


 俺もそれは見たいんだけど、ちょっと作ってほしい動画があるんだ。お前が良ければ、協力してほしいんだけど……。


「ほう? ……どんな動画だ? 聞くだけ聞いてやろうじゃないか」


 ミラアは微笑んで俺の顔を見つめてくる。……どうやら機嫌がいいのは本当らしい。


 そりゃ良かった。

 実は、俺がふざけたのが悪いんだけど……、あっちの国のクランで悪い噂が広まってしまっててな。


「……つまり、お前の火消しに協力しろと? つまらないことはしない主義なのだが……」


 そのミラアの答えに、俺はニヤリと笑って見せた。


 逆だ。


 燃料を注いでもっと面白くしたい。

 噂が本当だと確信させて、奴等の不安を煽りたい。

 せっかくの戦争なんだ、思いっきり盛り上げていきたいじゃないか。


 なぁ?


「悪い奴だな……。しかし、私好みの提案だ。私は何を撮ればいい? テーマは? 主役は? 締め切りは?」


 ミラアは食い気味に質問をしてくる。その姿はとても生き生きとしていた。


 焦るなよ?

 まぁ、俺達としては一度やっていることだから、隠すわけでも無いんだけどさ。


 簡単に言うと……。



 魔王軍再び、って奴だな。

・性癖

 ここまで来たら矯正不可能なんじゃないかな? 変態は周りに迷惑をかけない程度にしよう。……じゃあわたしはリリア様に癒されに行くから……。

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