遂に手を出したようです。皆でお祝い(粛清)してあげてください byヒビキ
いや、よく考えてみたらこうやって獲物を追いかけ回すのは、初めてでもなんでも無かったわ。
日常茶飯事だったわ。
「ヒビキくん、大人しく死のうか……。今なら本体だけで許してやるから……」
「みーさん……もとい、義姉さん。違うんですよ。緊急事態でしたのでああする他に無かったのです。本当にすいませんでした」
先輩はヒビキの生首を踏みつけている。既に身体の方は破壊済みなので、もう弟に逃げ場など存在しない。……というか、ねーさんて、上手いこと言ったつもりかお前は。
とりあえず謝っときな。あと、壁は直しておけよ?
その後、ゆっくり殺すから……。ねぇ、先輩?
「ね、ねーさんって……。それはまだ早いというか、僕達まだお互いの事そこまでわかって無いし……」
おっと、先輩が機能停止した。
赤くなった頬を両手で隠して、あたふたしている。その可愛らしい様子に、俺はほっこりした。
その隙に、ヒビキは新しい人形を呼び出していたようで、先輩の足元から頭部を回収し、新しいボディにへと換装した。……あ! テメェ! 往生際が悪いぞ!?
「ハッ! なんとでも言うがいいさ! それに、ボクに構っている暇なんてあるのかな? 悪いけど、お前の敵はボクだけじゃないんだぜ? 兄貴ィ!」
あ? どういう事よ?
と、ヒビキの叫びを不思議に思っていると、誰かからチャットが入った。
誰だよこんな時に……と、悪態をつきながら確認してみると、チップから一言だけのチャットが来ていた。
『チップ やるじゃん』
……ん? 何が?
「つ、ツキトくん! なんか、皆からおめでとうってチャットが沢山来てるんだけど!? そっち何か来てる!?」
どうやら先輩の方にもチャットが来ているようだ。……なんかチップからは来ましたけど、他には……。
『ワカバ 誰だよその美少女? 殺す』
『タビノスケ このロリコンめが! 殺す』
『りんりん 身の危険を感じました。殺す』
『ケルティ は? 何私より先に手ぇ出してんの? 殺す』
『メレーナ みんな殺すと言っていたので。殺す』
と、俺の方には殺害予告チャットがコレ以外にも大量に送られて来ている。……というかメレーナは俺の事を殺したいだけだろ! いい加減にしやがれ、あの殺人狂!
って、ヒビキぃ! 何しやがった!? こんなに殺意向けられる覚えがねぇぞ!? お前の仕業だろコレ!?
「悪いね! 二人のイチャコラの様子は、全員にばらまかせてもらいましたぁ! 祝福されろ! 兄貴ぃぃぃぃぃ!」
「『マジック・レーザー』」
ビシッとポーズを決めたヒビキを、先輩が魔法で吹き飛ばした。最後まで良い顔をしていたので、アイツも本望だろう。
……どうします? なんか俺大量の殺害予告を貰ったんですけど? それと、俺を探す声が遠くから聞こえてきて、大変恐ろしいのですが。
「ん~……。僕にはよくわからないんだけど、SSでも撮られたのかな? 恥ずかしいね……」
ですね……。
廊下の奥から迫りくるPL達を前に、俺はため息をつくのだった……。
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クラン会議室。
二つのクランの各班長に、戦争で部隊を率いる事になるタビノスケとチャイム君を加えた面子が集まっていた。
戦争のイベントについて、運営の方から最新通知があったらしい。
先程ヒビキが部屋を訪ねて来たのはそれを伝えるためと、俺との問題はどうなったのかを確認する為だったそうだ。
「えー、先程僕とツキトくんのSSが出回ったそうですが、それについては早急に削除してください」
先輩はこねこの姿に戻り、何時もの様に教卓の上に座っていた。少し恥ずかしそうである。
ちなみに、その横には拘束され床に転がされているヒビキがいた。……おう、お前のせいで酷い目にあったぞ。俺はともかく先輩に詫び入れろや。
「わかってるよ……。みーさん、個人チャットで兄貴の連絡先送っておきましたんで……。どうぞお納めください」
弟は先輩に対して俺の個人情報を差し出した。……なにしてんの!? 俺の個人情報を菓子折りの如く渡すのやめろや!?
先輩、何か言ってやってください!
「……許す!」
ヒビキは許され解放された。そして、やりきった顔で自分の席につき、俺に向けて親指を立てにこりと笑った。
俺は泣いた。……弟の俺に対する扱いの酷さに、知らず知らずのうちに涙が流れていた。
畜生……いつか殺す……。
「えー、ツキトとみーさんの問題が一段落したということなので、これよりイベントに向けての会議を開始したいと思います……」
ゼスプはそんな俺達に呆れながら会議を始めた。
「今回のイベント『人魔大戦~勇者の剣と王の錫杖~』についてなのですが……、内容はクラン同士で戦い、領地の奪い合いをするものとなっております」
黒板にウィンドウが表示され、そこにアミレイドとザガードの地図が表示された。
地図は実線により沢山のエリアで分かれており、それぞれの首都にフラグのマークが表示されている。
エリアは色分けされていて、赤のエリアがアミレイド、青がザガードのようだ。今はどちらも同じくらいの面積のエリアを保有している。
「各クランはこの区切られた区域のどこかに参戦し、隣接したエリアに配置された敵クランと戦うことになります。このイベントはログインしていた場合、強制的に参加する事になるイベントです」
成る程、クランって言うよりかは、陣地同士の戦いって感じになるのかな? どうせ、違うクランと共闘する感じにもなるんだろうし。
表示された地図を見ると、赤と青が隣合っているエリアは結構ある。今は二つの色が真っ直ぐな一本線で分けられている状態だ。
初日は隣合っている一面だけの陣地が相手になるのだろうが、日数が立つにつれ周囲の陣地が敵だらけになったりするのだろう。
あまり突出して攻め込めば、目を付けられ優先して倒されてしまう事が予測できる。
「一つの陣地に参加できるクランの最大数は三つまで。戦場に参加している人数が5%を下回った場合、その陣地の敗北が決定します。先にフラグの立っている陣地を奪取した国が、最終的な勝戦国となるようです」
それって途中参加ありなの? 勝てそうなところに参加した方が効率良さそうだけど?
俺が質問すると、ゼスプは首を振った。
「いや。確かに途中参加することもできるし、勝つ事はできるだろうけど、それだと他の陣地が奪われてしまう。どのクランも参加しなかった陣地はNPCが代わりに戦うらしく、PL達には敵わないだろう」
……ただ勝てばいいって訳でも無いのね。
「そうなる。そして、各クランが参加できる陣地は1日に一つのみ、リアルの時間で夜の12時になった瞬間に次の陣地に攻め込む事ができる。一度勝てば、その日はその陣地は確保されたままだそうだ」
つまり、夜の12時以降が最も熱い戦闘になるらしい。社会人の皆様に大変優しいゲームである。……朝になるまでに、決着をつければいいんだな。
「少しいいでしょうか? 戦場での蘇生魔法はどういう扱いになってるのですか? 魔術師が多ければ有利なルールに感じるのですが……」
チャイム君が質問をする。やはり、部隊を率いる者として、気になるところがあるのだろう。
確かにそこは疑問だった。先輩とゼスプがいれば、死んだ奴から復活させていけばいいんだし。戦線も維持することができるが、少しズルい気もする。
「蘇生魔法は使えないとの発表がありました。どうやら、戦場での死亡は離脱した扱いになるそうで、一度離脱すればその日は戦争に参加できません」
つまり、死ねば終わりと……。
「そして、参加したとカウントされるのは、12時にログインしていたクランメンバーのみだ。なので、皆には是非とも参加してほしい。一人でも参加人数が多いことが勝利につながる。……オレからは以上だ」
ゼスプの説明が終わると、今度は先輩が口を開いた。こちらを見渡して、片手を挙げる。
「はい、それじゃあ質問や意見がある人は手を……って、手を上げてる人一杯いるね? みんなどうしたのいつもはふざける時間なのに……」
見るとそれなりの人数が手を上げていた。……え? お前らマジでどうしたの?
「どうしたの、じゃないし! ツキト! いつの間にみーちゃんに手を出してたのさ!? 先に私が美味しくいただくはずだったのに!」
「ツキトてめー! ロリコンに厳しくしてた癖に自分はいいのか!? というか『魔王』がそんなに可愛かったとか聞いてねーぞ!」
「そうでござる! Yes、ロリータ! No、タッチ! の掟を忘れたでござるか! あぁ……クソ、キレそう……にゃ……にゃ……にゃあ……」
先程俺に殺害予告を飛ばして来た面子であった。
いや、お前らよー。
まず、先輩はロリじゃないから、幼く見えるだけだから。それに、まだ手を出した訳じゃないから、未遂だから。
ちなみに、先程の俺を殺そうとした輩は先輩の魔法で、ほとんど吹き飛ばされた。……いや、メレーナだけは気合いで俺の心臓を掠め取っていったけどさ。
どうやらコイツらは、有無を言わさず吹き飛ばされたので、言いたいことも言えず、フラストレーションが溜まっていたようだ。
「手、出してるじゃん! なにそのお揃いの指輪!? ラブラブですかぁ!? お幸せにぃ!」
「え……幼妻、だと……? レベルたけぇ……。同じロリコンとして尊敬するわぁ……。後で好みについて語ろうぜ?」
「にゃあああ……って、け、結婚? 結婚したのでござるか……? 犯罪……犯罪でござるよ! ツキト殿! 友人として見てられないでござる! 一緒にりんりんライブに行って、その危険なリビドーを抑えるでござ……え? なんで大鎌を持っているのでごるか? ちょ、ま、おちついt」
~しばらくお待ちください~
気がつけば、死体が3つ出来上がっていた。……静かになったな。
俺の手には血塗れの大鎌が握られており、他の面子は何事もなかったかの様に、質疑応答をしている。
俺は大鎌をしまうと、何も言わずに自分の席に戻った。
「あ、お疲れさま。そろそろ会議も終わるところだけど、ツキトくんから何か無いかな?」
あ、そうなんですか? ……それでは、ハッキリとしておきたい事があるので、発言させてもらいます。
俺は立ち上がり、前に出た。そして、振り返り、全員の顔を確認してから口を開く。
あー、何人かには話したけれども、この間俺が敵のクランに侵入したときの話をしたい。……そう言えば、これ、ネット配信しているんだっけ?
「クラン限定の配信だ。……なんだ? 話しづらいことでもあるのか?」
俺の質問に答えたのはミラアだった。メガネをかけ直し、ニヤリと笑っている。
……そうか。なら何も問題ないな。
実はだ、アイツ等も小生意気な事に会議をしていてよ、そんときに俺達の『プレゼント』の話になった。
その時に出た話題がこのクランの中にスパイがいるって話だったんだが……、ミラア、お前何か知っているだろ?
スパイの話題を出した瞬間、全員の顔色が変わった。
……いや、ミアラだけは先程と変わらない表情で俺の事を見つめている。不敵な顔と言えばいいのだろうか?
「それで? 何が言いたい?」
クックッとミラアは笑う。……何が言いたいってお前、もうわかってるみたいじゃねーか? 正直になれよ、クソが。
おかしいんだよ、アイツ等、最近頭角を表したばかりのタビノスケやチャイム君を危険視してたし、流していた演習の映像が無編集の物だった。
つまりスパイは最近クランに加入して、かつ、演習の無編集動画を手に入れる事ができる奴だけになる。……そんな事ができるのは、何人もいねぇ。
……お前が、スパイなんだろ?
俺がそう問い詰めると、ミラアは表情を変えずに首を傾げた。何を言っているのかわからない、という雰囲気を出しているが……。
「……そうだが? 何か問題があるのか?」
ミラアは俺の言葉を、素直に認めるのだった。
・その頃……(その3)
「今日はこのくらいにしておきましょうか? これに懲りたら、昔の様に家族を大事にしなさいね?」
はい……すいませんでした……。
ようやく、カル姉の修行が終わった。もうあちこちボロボロである。もう死ぬってなると回復してくるので、終わりがあるかもわからない苦しい時間だった……。今日は『ペットショップ』で飲もう……。そうしよう……。
「あ、そうそう。明日も、やりますからね?」
……終わらないんかーい。




