どうあがいても浮気者
俺はリリア様に復活させてもらい、先輩と一緒に教会からクランまで帰ってきた。
ちなみに、カルリラ様の大鎌は返却した。流石にこねこの姿では扱う事ができないので、以後俺を殺すときにはグーパンを使用するらしい。……ヒェ。
「いろいろあったけど、無事に帰って来れてよかったねぇ。僕も良いもの貰っちゃったし……むしろ貰われたって言った方がいいのかな?」
肩の上の先輩が嬉しそうに笑った。
まぁ、俺は無事じゃ無かったですけどね? でも、先輩が嬉しそうなので、それでオーケーです。何も問題はありません。
……ところで、指輪はそこで大丈夫なんですかね?
「ん? ああ、こっちの姿になったら勝手にこの位置に移動してたんだよね。少し恥ずかしいけど、問題は無いかな?」
こねこの姿のときには、指輪は尻尾につけられている。若干目立つ位置ではあるが、こればかりは仕方がない。
めざとい奴に気付かれて、茶化されるかもしれないが、そんときには容赦なく首を刈ってやることにしよう。そうしよう。
「それでさ……」
はい、なんです?
「せっかく新しい『プレゼント』を手にいれたから、ちょっと試してみたいんだけど……ちょっと付き合ってくれない?」
そう言って先輩は楽しそうに目を細めた。……なるほど。遠回しな死刑宣告ですね、わかります。
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クラン、地下闘技場。
そこでは、腕に大盾を装備したロックゴーレムとこねこが、お互いに構えをとって向かい会っている。
早々にリタイアした俺は観客席で横になりながら、そんな先輩とビルドーの勝負を見守っていた。
え? 手も足もでなかったよ? だってグレーシー信仰の恩恵で魔法関連のスキルが爆上がりしてるんだもん。しかもステータスもガッツリ上がっているし。
という訳で、俺ではサンドバッグにすらなれなかったので、ビルドーを呼んだ訳である。がんがえー。
俺が声援を心の中で送ると、ちょうど先輩が動いた。
「いくよ? 『マジック・アロー』!」
先輩は基本中の基本である、アロー系の魔法を使用する。初心者が使うような初歩的な魔法のはずなのだが……。
展開された魔方陣は直径が1メートル程の大きさであり、そこから打ち出された魔法も、矢というか砲弾と言った方がしっくりくるようだった。
ビルドーはずっしりと腰を落とし、両腕に装備した大盾を地面に固定する。防ぎきれると踏んだのだろう。
だが、パァン! という炸裂音と共に盾に魔法が着弾すると、構えが崩れ、ビルドーは後退りしてしまった。そして、そのまま尻餅を付いてしまう。
それを確認すると、先輩は更に追撃を仕掛けようと魔方陣を展開した。今度の魔方陣は先程よりも大きい。
『ビルドー ヘルプ! こんなに強いなんて聞いてない! これから自分はどうなるというのか!? ( ; ゜Д゜)』
あ、ビルドーからチャットだ。
『ツキト 決まってんだろ? ……俺達は先輩の強さを確認する為のモルモットになるんだよ。先輩が満足するまでな……』
『ビルドー Σ(゜Д゜)』
俺が1号でビルドーが2号。隣で我関せずという顔をしている、セクハラもふ魔族が3号となっている。……おう、ゼスプ。逃がさねぇからな?
「いやいやいやいや……、おかしいでしょ? オレがみーさんに太刀打ちできると思う? 防御特化しているビルドーでもあんだけ食らってるんだよ? しかも今の魔法なに? 『マジック・アロー』? 嘘でしょ?」
ゼスプは顔の前で手を振って断固拒否の意を示した。
しかしコイツは、俺がビルドーを貸してほしいと頼んだときに、「あ、じゃあオレも見に行ってもいいかな? なんか楽しそうだし」と、言っていた。
要するにこの男は、俺が数十回ミンチになっているこの現状を笑いに来た、不届き者である。
よって罰を与えなければならない。……なぁ、俺と一緒に先輩に嬲られようや……ちょうど字面もピッタシだしよぉ……。
俺はゼスプに迫った。
「くそっ、軽い気持ちで付いて来たのが間違いだった……。そういえばなんでみーさんあんなに強くなってんのさ。君もしかして何かした? あの子を止める事ができなくなると、他のクランから苦情が来るんだけど……」
ゼスプは苦笑いをしていた。
先輩はキレると何をするのかわからないところがあるから怖い。前に単身でバインセイジを吹き飛ばしたのが良い例である。
後、酒に酔った時もだ。
どんだけ薄めた奴飲ませてもすーぐ酔っちゃうからなぁ……。暴れ始めようとした時にはクラン総出で止めに入らなくちゃならない。
……なぁ、ゼスプ。
仮に俺が原因で先輩があそこまで強くなったとするじゃん? そんときの責任ってどのぐらい重いと思う?
ちょうど闘技場内では先輩がビルドーをバラバラにしているところだった。……これで1回目か。結構もったな。
その様子を確認して、ゼスプはため息混じりに口を開く。
「責任って……。どうしようも無いでしょ? みーさんが強いのは変わっていないし。問題が起きたら、オレと一緒に頭下げてくれればいいよ」
すまんねぇ……。いつも苦労かけてます……。
何時もなら、問題を起こした場合、被害者側にゼスプが頭を下げに行き、俺が加害者を粛清する形をとっている。……別に殺したいから殺している訳ではない。
「いいさ。仕事柄馴れてる。まぁ……あえて言うのなら、ちょっとお願いしたい事はあるね」
お、何々? お前をこの場から逃がしてやるって申し出以外なら何でも言うこと聞いてやるよ? どしたの?
「その手があったか……。なんか、近々ミアラがオレ達で動画を撮りたいとか言ってたんだよねー。なんか今までのうちのクランのイメージを、ガラッと変える宣伝動画って言ってたよ?」
ほう?
流石広報班長じゃねーか。ちゃんと仕事してくれて、俺も嬉しいよ。ちなみに他の面子は?
「えっと、確か……みーさんにドラゴム、アーク、チップ、サンゾー、チャイム、アンズ……結構居るね。どんな動画を撮るかは聞いてないな」
いまいち共通点がわからないけど……まぁ余程おかしな事させられる訳じゃないだろうから、俺はいいよ?
「お、マジで? なんか、動画の収益は俺達にも分けてくれるらしいし、後でみーさんにもお願いを……」
そう言ってゼスプは闘技場に目を移す。
俺もつられて顔を向けると、先輩が美少女モードになり接近戦を開始していた。
ビルドーの構えている大盾に拳でラッシュを繰り出して、ベコベコに凹ませていた。……そうかー、格闘スキルも強化されてたかー。
『ビルドー 交代……! 交代を要請する! もう無理! 助けて! 助けろぉ!』
『ツキト その権限が俺達にあると思うか?』
『ビルドー (´;ω;`)』
悪いなビルドー。
先輩が満足するまで付き合ってあげてくれ。その攻撃を防げるの、お前くらいなもんなんだわ。
「ん? ……なんか、みーさんの左手に光る物があるんだけどさ、あれってもしかして……」
試合を見ていたゼスプが先輩の指輪に気付きやがった。……まぁ、コイツには話しておいてもいいか。
俺は『祝福の指輪』の事についてゼスプにカクカクシカジカと説明した。
ゼスプは多少驚いた様子は見せたが、最初から最後まで静かに俺の話を聞いてくれたのだった。
「つまりは、みーさんは二つ目の『プレゼント』を手にいれた訳だね。……そりゃ強い訳だよ。女神全員の加護に死なずの能力……神様か何かかな?」
まぁ、俺の『祝福の指輪』は女神様に捧げ物をしないと対して強く無いんだけどな。本当だったら先輩も神技を全部使えるはずなんだけど、使って無いみたいだし。
先輩はついにビルドーの大盾を素手で吹き飛ばした。追撃を仕掛けようとビルドーに飛びかかるが、すんでのところで避けられ、その拳は地面に打ち込まれる。
すると、凄まじい衝撃が俺達の方にまで伝わってきて、身体にビリビリとした感覚が走る。
見ると、拳を打ち込まれた場所を中心に大きなクレーターが出来上がっていた。ビルドーはその光景を震えて見つめている。
「……次はちゃんと当てるから……ね?」
ビルドーは逃げ出した。
しかし回り込まれてしまった。
……憐れな。
「それであの強さなのか……。ところで、ツキトの『プレゼント』って他にどんな能力があるんだっけ? 信仰関係の能力が揃っているって聞いたけど……」
あー、そういえば俺もしばらく能力を確認してないんだよなぁ。もしかしたら、先輩に指輪を渡して何か新しい効果でもついてるかもな。確認してみるか。
「確か、前の名前は『浮気者の指輪』だったっけ? オレその名前聞いて思わず笑っちゃったんだよな。面白かったのに、勿体無い」
ゼスプよー、そのせいで俺に不名誉な称号がついたからな?
まぁ、特徴的な名前だったから、名前が変わったときには少し寂しい感じもしたけどね? でも、他人に堂々と言える名前でも無いし……。
「どうしたの?」
俺は『祝福の指輪』の効果を確認するために、ウィンドウに現在装備している物の一覧を表示した。
しかし、その中に『祝福の指輪』というアイテムはどこにもなく……。
代わりに『浮気者の指輪』という、糞みたいな名前の、よく見知ったアイテムがあった。
俺は予想外の出来事に面食らって思わず硬直してしまった。
が、すぐに再起動して『浮気者の指輪』の能力を確認していく。
中身は『祝福の指輪』と変わっていない。以前の『浮気者の指輪』と『教会の指輪』の効果がセットになった物だ。
能力が同じという事には安心したが……。ん?
フレーバーテキストが変わっている?
『・説明
君らしい名前に戻しておいてあげたよ! お幸せに! byパスファ』
……あー、なるほどなるほど。完全に喧嘩売ってやがる。
つまりは悔しかったら殺してみればってことだな、うん。
俺は一度冷静になって深呼吸をする。先ずは冷静になるのだ。パスファ様が煽って来ることなんかしょっちゅうだし……。
……よし!
こんの……アホおっぱい妖精め~!!!
俺は立ち上がり、大声で叫びパスファ様を挑発した。
冷静になって考えたが、ここまでやられたのならば、受けて立つのが男というものだろう、という考えに至った。
待っているが良い……! そのデカ乳むっにむにに揉みほぐして、ビャービャー泣かせてやるよ……!
俺は妥当パスファ様を決意し、ニヤリと顔を歪ませるのだった。
だがしかし、そんな決意も虚しく、先輩がすぐさま飛んできて、俺の頭を首からねじ切った。素手での犯行である。
そんでもって、復活させられた後、俺は先輩の部屋にお持ち帰りされてしまうのだった……。
すいませんでした……。
・その頃……
ハッ! なんか『浮気者』が不敬な事を考えている気がする! という訳で、カル姉! わたしちょっと行ってぶっ殺して来ないと! じゃ!
「駄目です。貴女には一から修行してもらいます。姉妹を見捨てようとしたのです……容赦は、しませんよ?」
わたしを呼び出したカル姉は、それはとてもとても良い顔をしてにっこりと笑った。
そんなカル姉に引きずられ、わたしは運ばれて行くのだった……。
しゅぎょーいやー……。たすけてー……。
わたしは泣いた。




