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こねこの憂鬱

※今回予想以上シリアスになってしまいました。

 

 任務を終えた俺達は、無事にクランに帰還した。


 もちろん、俺がクランに帰って一番最初に訪れたのは先輩の部屋だ。

 ドラゴムさんが話を通してくれていたので、先輩に直接会って謝ることができた。


「……まぁ、ちゃんと謝りに来たことは評価してやるよ。それで、何か言うことがあったんだろ?」


 先輩はこねこの姿で椅子に座っていた。むすっとした顔をしている。


 俺は先輩の言葉を聞いて、顔を上げた。


 そうなんですよ! あれは話を聞いてほしかっただけだったんです! あれは事故だったのです。いや~、覚えていてくれたんですね!?


 俺は必死になって言い訳をした。

 許されるかはわからないが、必死になればきっと先輩はわかってくれるはずだ。


「だからぁ、それはわかったって言っただろ? 結局何が言いたかったのさ。そんな強引に抑えつけてでも、僕に言いたかった事ってなんだい?」


 先輩の目は変わらずじとっとしている。俺の答え次第では、大変な事になってしまう気がした。


 えーと……『祝福の指輪』を渡す相手を決めました。それで、明日にでも指輪を渡しに『女神との邂逅』をしようと思います。今日のうちにお願いしておけば、パスファ様が迎えに来てくれるそうですので。


 俺がそう言うと、先輩の顔は更に厳しくなった。


「へー……なんでそれを僕に言いに来たのかな? 一人で行けよ」


 先輩は冷たく言いはなった。……しまった、これは失敗した気がする。


 いや……、あの……、俺一人だと少し不安で……。指輪を渡した瞬間に、女神様に殺されそうで怖いんですよ……。どうか、どうか一緒についてきてください……。


 俺は頭を下げた。もう俺にはこれしかないのだ……が。


 先輩は何も言ってくれない。


 俺が言っていることは本心だ。あの女神様達のことである。別に指輪が欲しいわけでは無いくせに、自分にくれなかったとか理由をつけて、俺を殺しに来る可能性が大いにある。


 その時、俺一人では逃げられないだろう。

 先輩には是非共に来てほしいのだ。来てもらわないと困る。


「……」


 けれども、そんな俺の気持ちとは裏腹に、先輩は何も言ってくれない。ずっと俺を見てくるだけだ。


 せめて無言では無く、馬鹿にするなり、罵倒するなり、踏んだりしてくれれば安心できるのだが……。あ、後半ご褒美だわ。何を考えているんだ俺は。


「……わかった。いいよ、一緒に行ってやる」


 ホントですか!? やった!


 俺は勝利を確信し、頭を上げた。……あれ?


 なんだか、先輩の様子がおかしい。

 とても、元気がないように見える。どうしてしまったのだろうか?


「……でも、君はわかっていないみたいだね。それは君の目標が叶うという事だよ?」


 俺が不安に思っていると、先輩は寂しそうにそう言った。

 どうしたのだろう、と不思議に思っていると、先輩は椅子から降りて俺を見上げてくる。

 その表情はどこか寂しそうに見えた。


「もしも、明日君の目標が叶ったら僕の手助けは……もう、要らないだろう? これからは君の好きにするといいさ。僕との協力関係もこれで終わりだ。もうこんな、こねこの世話をしなくてもいいんだよ」


 そう言い残し、先輩は部屋の外にへと出て行こうとする。


 ……はい? あの……先輩? それはどういう意味なんですかね?


 俺は先輩の事を目で追う。

 けれども、彼女は俺に一切振り返らず、部屋から出ていってしまう。


 そして、出ていくときに苦しそうに言葉を漏らす。


「……自分で考えろ。……バカ」


 いつもと違う雰囲気に、俺はどんな言葉をかければいいのか、まったくわからず……。


 ただただ、去っていくその姿を見送ることしかできなかった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「ちょっといいか?」


 久々に自宅に戻り、ベッドに座って休んでいると、隣に住んでいるチップが訪ねてきた。住んでいるといっても、たまーに来て飯をたかりに来るくらいのお隣さんだが。


 ……なんだよ? 俺は今、先輩とのコミュニケーションに失敗して落ち込んでいるところだ。できることなら放っておいてくれ。


「それは……ツキトがみー先輩の事を蔑ろにするからでしょ? もっとあなたから関わってあげないと」


 ん? ……ああ、素か。お前いきなりRPやめるなよな。誰かと思ったわ。


 チップは慌てたり、気を抜くと素が出る。普段のあのイキっている雰囲気はRPの一種みたいなものである。

 今回は自然に素で話しているみたいだが。


「私とあなたの仲でしょ? たまには楽に話させてよ。……なんて言われたかは知らないけど、みー先輩が自分の事をどう思っているのかくらい、わかっているくせに。なんでそんなにショボくれてるの?」


 チップは落ち着いた様子で、俺にそう言った。優しい顔をしている。


 は、知らんな。

 人の心なんて俺にはよめんよ。話していて、何か変だなって察する位が限界さ。


「じゃあ……私がどうしてここに来たのか察することくらいはできるでしょ? そうやって言うんだから……ね?」


 どうやら、おちょくりに来たらしい。くそ、人が珍しく落ち込んでいるからって。


 ……さあな。飯でも食いに来たのか? それだったら冷蔵庫の中に何か入っているからそれを食ってくれ。俺の肉は無いけどな。


 俺は悪態をついた。

 けれども、チップはそれを全く気にしていないようで、笑顔のまま口を開く。


「ツキトは、みー先輩に何をしてほしいの?」


 ……どう言うことよ?


 俺はチップの質問の真意が理解できず、そう聞き返した。


「二人はさ、ずっと一緒に遊んできたから、何を言わなくともお互いの事をわかったつもりでいるけど……きっとそんな事はないと思うな。ちゃんと自分の思っていることを教えてあげないと」


 なんじゃそら?

 チップちゃんよー。こう言っちゃ悪いけど、これゲームだぜ? そこまでしなくても、相手に合わせてあげるくらいで充分だろ。俺はそれで満足だ。


 俺のそんな言葉に、ゆっくりとチップは首を横に振る。


「……ゲームだからこそだよ。はっきり言って、ゲームの中だけの繋がりなんだよ、私達。それってすごい脆くて、すぐに切れちゃう繋がりだと思う」


 チップは何か思うことがあるのだろう。

 憂いを帯びた顔をしている。


「きっとさ、みー先輩はその繋がりが切れるのが怖いんだ。ツキトが自分から離れていく事が怖くてしょうがないんだと思う。だから、あなたの思っていることをちゃんと教えて欲しいいんだよ」


 ……つまり、どういう事だ? 俺は何をすればいい?


 俺が質問すると、チップは柔らかく微笑んだ。

 


「さぁ? 自分で考えれば? ……ふふっ」



 先輩と同じ事を言い残し、チップは出ていった。本当に、自分の言いたいことだけ言って帰ってしまった。


 俺はため息を一つ吐き、部屋のベッドに寝そべって天井を見上げる。……どうしたものかな。


 俺はもう一つの『祝福の指輪』を取り出し、自分の選択が本当に正しいものなのか、もう一度考えを巡らせるのだった。 


・覚悟は……決まったかな?

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