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侵入、隣のクラン会議~自分の評価を聞いてみよう~

「それでは━━これより定例会議を始めます」


 軍事国家ザガード。


 その帝都にあるクラン『シリウス』。


 ザガード国内でもトップクランと称えられているこのクランにおいて、幹部による会議が行われようとしていた。


 円卓を十数名のPLが囲み、室内の正面に表示されているスクリーンを見つめている。

 その顔ぶれを見ると、魔物種のPLは存在せず、全員が人間種のようである。皆、軍服のような服装で、ビシッとした格好だ。


 ……重苦しい空気である。


 そんな中で、進行役の女性が口を開いた。


「今回の議題につきましては、バインセイジ等に現れたテロリスト、通称『ガン・ドッグ』についてです。彼女は自らがクラン『魔女への鉄槌』のメンバーであることを宣言していました。また、彼女の姿は以前より国内で確認されていると報告を受けております」


 どうやら、すでにバインセイジでの話は伝わっているらしい。そして、チップの話も知っているという事は、クラン間での情報共有もしているようだ。


 関係としては、同盟軍のような感じだろうか?


「『ガン・ドッグ』に『魔女への鉄槌』か……、私も聞いたことがある。『鉄槌』は、確か敵国にあるというクランだったな。ネットに演習動画が上がっていたはずだが……?」


 太い腕を組んで、スクリーンをを睨み付けている指揮官のらしき男性が唸るように口を開く。


 それに進行役はコクりと頷いた。


「その通りです。クラン『魔女への鉄槌』とクラン『ペットショップ』は敵国、アミレイドにおけるトップクランと言われております。後者の組織は教育機関及び資金確保、前者は戦闘及び攻略の為の組織であるとの事です」


 うん、大体あってる。

 どうやらうちのクランの情報は漏れまくっているらしい。まぁ、隠している情報なんて『プレゼント』の能力くらいだから仕方ないけど。


「今回の戦争において、最も注目しなければいけないクランだと皆様は認識をしてください。……これから皆様に見ていただく映像は先程の話に出てきた演習の様子です。どうぞご覧下さい……」


 スクリーンに目を向けると、この間実施された、わんにゃん大戦争の様子が映し出された。


 部屋に集まった面子は食い入る様にその動画を見ている。……なんか恥ずかしいな、これ。ダメ出しされる未来が見えるようだ。


 あれから演習は繰り返し行われており、徐々にではあるが、メンバー達の動きと連携に磨きがかかっていった。

 なので、できれば最新の動画を映してほしかったのだが、残念ながらスクリーンに映っているのは第1回と第2回の様子である。


 要するにぐっだぐだの演習の様子が皆様に検証されている訳ですよ。ええ。


 スクリーンに映されていた映像が終わると、ゴーグルを付けたパイロット風のPLがため息をつく。


「こんなもんなのか? ……なんか拍子抜けだな。コイツら時代遅れな戦いしかできねーの? 爆撃機で制圧できそうじゃん?」


 それに対して、整備服を着た女性が頷いた。


「だね。それに、装備も大したこと無さそう……。兵器も銃しか使って無いし、戦闘機を撃ち落とす事もできなそうだよね? 誰かわからないけど、爆弾を設置した人を潰せば余裕そう」


 おぉう、ごもっともなご意見である。

 だから戦闘機とか戦車をぶっ壊して回ってるんだけどさ……。


「しかしながら演習を行い戦争に備えるという着眼は悪くない……。兵士長、我々もできるだろうか?」


 指揮官さんがそう聞くと、一人のPLが立ち上がって彼に向かい敬礼する。


「はっ! 確かに演習を行う意義は大きいものと思われますが、莫大な費用がかかるものと思われます! イベントが開始されるまで後数日しかないこの現状、実施できても1回が限度かと!」


 兵士長と呼ばれたPLが大声で返答した。……ちなみに、昔のマンガに出てきそうな兵士の格好をしている。出っ歯だ。


 彼の答えに対して、指揮官さんは力強く頷く。


「わかった、ありがとう。……一度でもしておいた方がいいだろうな。兵士長、今すぐ計画の作成に入ってほしい。急いでくれ」


 了解であります、と言って、兵士長君は部屋から出ていってしまった。


「……さて、皆は彼等が大した戦力を持たないと判断したようだが……私はそう断言したくない。今回のバインセイジ等におけるテロ行為。これの目的は兵器の破壊が目的であったようだ。白兵戦へと持ち込む作戦なのだろう」


 その言葉に、室内にいたPL達の視線が指揮官さんに集まった。


「しかも、彼等は長い間この国において諜報活動を繰り返していたらしい。……しかも、『ガン・ドッグ』についてはこのクラン内部での目撃証言もある。こちらの手の内も割れていると考えていい」


 その言葉にどよめきが起こる。


 思っていた以上に、チップは仕事をしていたらしい。本当に味方でよかったと思う。……いつも腹ペコなのがたまに傷だが。


「しかし、だ」


 指揮官さんの発現で、室内のざわめきが静まり返る。


「我々も情報を集めていなかった訳ではない。こちらからもスパイを送り込み、諜報活動を実施していた」


 ……ほう?


 一体いつの間に、と驚けばいいのかもしれないが、どこまで調べる事ができたのか興味がある。


 そちらの諜報員がどこまで頑張れたのか、教えてもらおうじゃないか。


 指揮官さんが進行役に視線を送る。すると、スクリーンの画像が切り替わった。


 そこには、タビノスケとチャイム君の姿が映されている。


「それでは、説明をさせていただきたいと思います。これから説明するのは、戦場において注意しなければいけないPL達です」


 ……え。


 タビノスケとチャイム君が? そりゃあ、今回隊長役をやってもらったけど……。アイツら基本的にヒャッハーしてただけですよ?


「宇宙外生命体のPL『タビノスケ』とコボルトのPL『チャイム』、両者二つ名はありません。しかしながら、部隊を率いて戦うことができ、種族特性である狂気散布や味方の能力を強化する能力を持っております」


 真面目に検証していらっしゃる……。片方はアイドルのライブに参加するノリで戦っていたと言うのに……。


「でも、戦闘機や爆撃機で空から攻撃すれば……」


 パイロット君が否定的な意見を言おうとするが、進行役は首を横にふった。


「狂気散布は見た対象に状態異常を与えます。それに、タビノスケは遠距離攻撃もできるPLです。もしかしたら、戦闘機も落とされるかもしれません」


 あー、できそう。

 アイツの攻撃範囲目に見えるところ全部だし、チャイム君に強化してもらえば戦闘機も落とせるかも。


「チャイムについても、ある程度は指揮を取れる様ですので、注意すべきです。……次にいきます」


 スクリーンが代わる。


「エルフ『ケルティ』、二つ名は『銀眼』……彼女は有名なPLですね。《ウルグガルド》の初討伐を成し遂げた人物です。能力は肉体の改造、大幅にステータスが強化されていることが確認できています」


 ……若干違うけれど、まぁそんなもんか。何か調査が甘い気がするな。


「次にロックゴーレム『ビルドー』。大盾の『プレゼント』を有しており、敵の攻撃を引き寄せる事のできる能力を持っています」


 ざっくりしてるね!?

 アイツの能力は攻撃もだけれど、敵本体も引き寄せるからね? むしろそっちがメインだと思うよ?


 コイツ、どっから情報引っ張ってきたんだ? 演習にはビルドーは出ていなかったから、誰かから能力を聞き出したはずだが……。


「続きまして、犬の獣人『チップ』、『ガン・ドッグ』というのは彼女の事ですね。能力はわかっていませんが、空間跳躍のような移動に関する能力かと思われます」


 もしかして、過去の映像を一つづつ確認して検証したのだろうか?

 チップも他人に自分の能力を話さないほうだし……、それに一番重要なステータス確認ができる能力を把握していないようだ。


「次です。妖精『メレーナ』、二つ名は『裏切り者』及び『教官』。能力は……スキル『強盗』を強化したものとの事ですが、心臓を抜き取る技術を有しており、対人戦において高い殲滅能力を誇ると思われます」


 大体合ってる……か?

 メレーナの何が怖いって、能力の有効範囲だと思うんだよな。

 アイテムも使えないし、近づき過ぎると心臓抜いてくるし……。


 実際戦った事の無いやつの意見だよなぁ……。


「続きまして、ドール『ヒビキ』、二つ名は『ドールズ・メイド』。彼は……」


 ヒビキの写真が映し出された瞬間何名かが目を逸らす。……あー、この反応は苗床経験者がいるな。間違いない。


「……説明しなくともよさそうですね。能力は寄生と増殖。皆様の中にも犠牲者がいらっしゃる様ですので詳しい説明は省かせていただきます」


 おお……弟よ……。お前はどこまで出張してるんだよ……。

 あ、指揮官さんが青ざめている。アンタもやられてたのか。ドンマイだわ。


「次は癒し枠です。ドラゴン『ドラゴム』、二つ名は『もふもふ要塞』。ドラゴンブレスが強力であり、高い殲滅力をもっていますが、あまり前線に出ることは少ないそうです。彼女のモフモフ動画は一見の価値があるかと……」


 え? ドラゴムさん、そんな動画出してるの? 知らなかったわ、これ終わったら見にいこっと。


 俺がドラゴムさんの動画を楽しみにしていると、指揮官さんのドスの効いた声が響く。


「そんな事は聞いていない……! 自らの仕事を全うしたまえ……!」


 そう言ってギロリと睨む指揮官さんに対し、進行役はペコリと頭を下げる。……冗談も許されないとか、こっちの会議は真面目だねぇ。


「失礼しました……。次は『鉄槌』のリーダーである魔族の『ゼスプ』、二つ名は……『セクハラもふ魔族』!? ちょっと! この資料を作ったのは誰ですか! おかしいでしょ!? クランのリーダーなんですよね!?」


 ……それは事実なんだけどなぁ。


 うちのクランの共通の認識だし……。アイツ目を離せばドラゴムさんもふってるし……。動物PLにセクハラかましてドラゴムさんに処刑されるのは日常茶飯事と化してるし……。


 セクハラもふ魔族なんだよなぁ……。


「申し訳ありません……! 資料の製作者には厳しく言っておきますので……!」


 進行役は何回も頭を下げている。……すみませんねぇ、うちの魔族が。


「よい……。お前のミスでは無いのだろう? それよりも次の情報を……」


 さっきは怒ってたみたいだが、指揮官さんは意外に寛大なようだった。きっとヒビキのトラウマで気が動転していたのだろう。


「は、はい! 今度は『ペットショップ』のリーダー、こねこの『みーさん』、二つ名は『魔王』。魔術師であり、高い戦闘能力を有しております。バインセイジを独力で更地にしたという話もありますが、詳細は不明です。能力についても不明となっております」


 流石先輩である。

 『ロータス・キャット』の能力は広まっていないらしい。というか、言われなきゃわからない能力だしな、あれ。


「えぇ……なんでサポートのクランのリーダーの方が強そうなの……。というか、爆弾を仕掛けたPLは? どうせバインセイジのクラン潰したのもそのPLなんでしょ?」


 整備服さんがダルそうに質問した。


 そういえば、シーデーの顔は割れていないのか。ついでにアークも。

 どっちも表に出て来て派手に暴れたことも無いしな……そんなものかな?


「爆弾を使うPLの詳細はわかりません……。我々もそのPLを探していますが、全く尻尾をつかませてくれないのです」


 最近のシーデーはアークとバディになって行動してたからな……。わからなくても仕方がないか。


「そして……最後に紹介したいのが、この間のバインセイジ消滅の実行犯と言われている、ヒューマン『ツキト』。二つ名は『死神従者』。どんな人物か調べたのですが……」


 お、最後は俺か。


 そういえば紹介されてなかったな。


「酷いの一言ですね。関わっちゃいけない部類の人間です」


 …………んー?


「演習での映像を見ていただいたのでわかると思いますが、彼は味方を殺すことを躊躇しません。しかも、全ての女神の神技を使うことができ、歯向かうPLは誰であろうと殺す様な人物ということがわかりました」


「神技を? ……厄介なPLだな。それに危険だ」


「更に、拷問や脅迫までするそうです。しかもセクハラまでしてくるとか……」


「うわぁ……」


「ヤベェ奴だな」


 皆さんドン引きしている。


 おいおいおいおい! ふざけんなよ!? なんでそんな評価になってるんだよ!? おかしいだろ!?


 アーク! なんか言ってくれ!


「え。一般のPLの考えているツキトはんのイメージは、そんなもんやで?」


 ……まじかー。


 仲間にすらフォローされなかった。残念。


「あ、それと、チップはんから『こっちは爆弾仕掛け終わったから撤収するぞ』ってチャット飛んできたから、ワテらの仕事も終わりや! クランに帰れるで!」


 お、そうなの? んじゃ、俺達も爆弾置いて帰りますか!



 今更だが、俺とアークは『シリウス』のクランに侵入している。

 格納庫近くのこの部屋に爆弾を仕掛けようとしたら、会議が始まってしまった。


 それならと、他のクランで作業している別動隊の作業が終わるまで、どんな話をしているのか聞いていこう、ということになったのだった。



 俺はアイテムボックスからキャビネットを取り出して、部屋の隅に設置する。中身はシーデーお手製の爆弾だ。


 チップに作業終了のチャットを送ると、すぐに目の前の景色が変わる。


 どうやら、どこかの山腹のようだ。遠くに帝都が見える。……やっぱり、チップの能力強化されてんな。前はこんな遠くまで飛べなかったのに。


「ツキトにアーク、お疲れさま。そっちも大丈夫だったみたいだな」


 チップの声が聞こえたので、そちらに振り向くと、俺達以外のメンバーは全員揃っていた。


 どうやら皆うまくいったらしい。


 おうよ。後は爆弾起動させて終わりだろ? さっさとやっちまおうぜ?


 俺がそう言うと、シーデーが力強く頷いた。


「うんっ! それじゃあいくよ!」


 ちなみに、シーデーはこれまで各町を回り、爆弾で人を殺しすぎてしまったために、もう感覚が麻痺しまったようだ。正気を保っている様に見える。


 けれども、た~まや~、とか言っているので、多分頭のネジが外れてしまったのだろう。……うん、ごめんね?


 そんな一皮向けたシーデーは戸惑うこと無く能力を発動した。


 瞬間。


 帝都の至るところから爆炎が発生した。轟音がこちらまで届き、空気をビリビリと震わせる。


 兵器工場に、各クランに割り振られた格納庫、ザガードの主力武器はこれで全て吹き飛んだ。……長かった。


「やったー! 大成功!」


 シーデー嬉しそうにぴょんぴょんとその場で跳び跳ねる。メレーナがこの光景を見たら喜ぶだろう。


 斥候班もやりきった顔をしている。


「はぁ……これで私達も帰れるかな?」


 足元のカタツムリがため息をついて呟く。ケルティはこの姿で任務を達成したらしい。


 ああ、そうだな……。

 流石にここまでやったら文句も言われないだろう。


 胸はって帰ろうぜ?


・帝都

 ザガードにおける最重要都市。軍事施設や工場等がある。それにより冒険者のクランも多い。……けれども、テロによって重要施設は全て吹き飛んでしまった。わたし達は人と建物は復活させてあげるけど、兵器は保証外だから、ごめんねー。

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