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『パラサイト・アリス』~帰ってきた少女人形~

※今回の本文はヒビキ視点でお送りします。ショッキングなシーンはありません。



~PLツキト~

 バインセイジ郊外にて


 ぶっちゃけ俺達いらなくない?


 徐々に消えていくキノコ雲を眺めながら、俺はそんな事を呟いた。


「シーデーちゃんがいれば全部済みそうだよね……。私達が潜入しなくても火力でなんとかできそう……。ところで予備のローブとかない?」


 どうやらケルティも俺と同意見らしい。


 そう言うと思って持ってきてるよ。というか、ちゃんと自分で用意しておけよ……。


 そう言って俺はケルティにローブを手渡した。


「サンキュ。……そういえば、ドラゴムさんから何か連絡来てる? シーデーちゃんがこのまま任務をしてくれるなら私達帰っても良さそうなんだけど……」


 そうなんだよな。

 最低でもアークが残ってくれれば何の問題もないんだよな……。


「え、ワテも連れてかえってーな。ワテ帰って遊びたいんやけど?」


 アークから拒否された。


 えー。だって、お前の能力使えばシーデーの能力をフルに活かせるだろ? 演習のときみたいにさぁ、上手いことやってくれよ。……使い込んだクランの金は俺がなんとかしてやるからさ。


「まじで? でも、肝心のシーデーはんが……」


 俺はシーデーに目を向けた。

 

 未だに自分のやらかした事が信じられずポカーンと虚空を見つめている。

 チップに揺さぶられているが、全く反応がない。


 ……もう少し働かなくちゃいけないみたいだ。


 ドラゴムさん、説得うまくいってるかなぁ……。

~PLヒビキ~


 『ペットショップ』よ! ボクは帰って来た!


 クランの地下、ボクの隠れ家でそう叫んだ。ちょっとしたおふざけである。


 みーさんから許可をとって、クランに作ったこの空間は、ボクの残機置き場になっていた。『サモン』の魔法で召喚される人形達はここに格納されているのだ。


 この間の演習で兄貴に根こそぎぶっ壊されたので、今はがらんとしている。ちょっと寂しい。


 なので、最近は残機作成に精を出していた。


 ボクはしばらく裁縫士の仕事もお休みし、各地を回って強いPLを襲っていた。

 ちゃんと決闘と称して産んでもらっていたので犯罪ではない。負ける方が悪いのだ。


 それで作った戦闘用人形は総勢38体。……まだ足りないな。


 なので兄貴にも生産をお願いしようとしたのだが、みーさんとイチャイチャしてたり、国外追放されたりと、忙しいようだったのでまた今度お願いしなければならない。


 積極的に苗床になってくれる強いPLなんて、ミラアさんぐらいなものなのだ。


 本当だったらみーさんに産んでほしいんだけど、そしたら兄貴がガチでキレて皆殺しにされそうだし、そもそも女の子に酷いことしたくないし……。


 夢見の扉で《ウルグガルド》に寄生して孕ませるのも悪くはないのだけれど、それも飽きてきたしな……。


 やっぱ、兄貴を襲うしかないか。うん。仕方がない。


 という事で、兄貴にコンタクトをとろう。やっぱりここで地道に数を増やした方が良いみたいだ。


 アイツには不意打ちを仕掛けるのだ。速攻で孕ませてやるよ……。


 そう思っていると、チャットが送られてきた。……え、ドラゴムさん? ボク何かした? 心当たりしかないから怖いんだけど?


 恐る恐るチャットを開く。


『ドラゴム 話があるのでみーちゃんの部屋まで来て下さい。これを見たら返信をお願いします。』


 うわー……。


 これ確実に殺される案件だよ……。またドラゴンブレスで燃やされる……。


 これ以上残機を壊される訳にはいかないし、本体で行こう。これなら壊されても復活できるし、もしかしたら逃げ切れるかもしれない。


 この間兄貴と戦ったのもこの体だし。……よし、いける。


 ボクは覚悟を決めて、みーさんの部屋に向かうのだった。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 申し訳ありませんでしたぁ!


 ボクは扉を開けた瞬間に土下座をかました。とりあえず何をしたのかはわからないが、謝っておいて損はないだろう。


 みーさんとドラゴムさんは椅子に座っていた。


「あの~……別に怒っている訳じゃないから、謝らなくてもいいのよ?」


 そうなんですか?


 ボクは頭を上げてドラゴムさんをみる。


 いつもの様に朗らかに笑っている……、本当に怒っている訳ではないようだ……。よし!


「僕は少し怒ってるけどね……」


 よくなかった。ボクは再び頭を下げる。


 ちなみにみーさんは美少女モードだった。少し怒られたい気もするが、死にたくないので自重しよう。


 みーさん。何があったのかはとんと見当がつきませんが、申し訳ありませんでした。ですので、その怒りは全て兄貴にぶつけてあげてください。


 きっと兄貴も喜んでくれると思います。


「そうしようとしたらベッドに押し倒されたんだけど!? 君のお兄さん……というか君達兄弟はどうなっているのかな!?」


 なんと。


 あの兄貴がレイプ未遂とは。大胆な行動をとる様になったものだ。昔を知っているボクから言わせてもらえば、大きく成長したと言わざるを得ない。


「みーちゃん。だからそれは誤解だって言っているじゃない。ヒビキ君も何か言ってあげて? お兄さんの事はよく知っているでしょう?」


 ボクは頭を上げてその場に正座した。


 なるほど、ボクは兄貴のフォローをする為に呼び出されたのか。どうやら殺されることは無さそうだ。


 ……そうですね。兄貴は無理矢理とかそういうことはしないでしょう。多分勢いに任せた結果ではありませんか?


 アイツは度々調子に乗ることがありますので……。


「あー、言われるとそうだね。ツキトくんってノリで生きてる感あるし……。昔からそうなの?」


 まぁ、そうですね。道を踏み外さない程度には好き勝手生きているみたいです。


「言うほどおかしな事はしない子よねぇ……。おかしな事に巻き込まれるところはよく見るけれど」


「あんまり好き勝手やられても困るんだけど……。まぁ、押し倒された時も何か言おうとしていたから、そういう事をしようした訳じゃないんだろうけどさ……」


 みーさんはそう言ってため息をついた。……兄貴め、こんな可愛い子にセクハラかまして許されるとか……苗床の刑だな。


 兄貴は昔から運がないというか、面倒事に巻き込まれやすいというか……。そういう人間ですから。


「むぅ……。二人がそう言うのなら、ツキトくんが帰ってきたら話をしてみるよ。……また誰かにセクハラしてそうだけど」


 ははは、まさか。

 流石にそこまで節操ないわけじゃありませんよ。……ところで、なんで兄貴に押し倒されたんですか?

 話がいまいち見えないのですけど……。


 そう質問すると、みーさんの表情が曇る。


「えっ……。いや、実はね……」




 いや、おもいっきりやらかしているじゃないですか。くそ兄貴あの野郎。


「部屋の扉を鶴嘴で壊して侵入したのね……。普通に犯罪じゃない……」


「入れない場所は壁を壊して入れって教えたのは僕だから、完全に自業自得なんだけどね。……でも一番恥ずかしかったのは、だらけてる姿を見られた事だよ。せめてこねこの姿になっていれば……」


 兄貴め。


 自分だけいい思いをして、羨ましい限りだ。……SSとか撮ってないかな?


「もう……できる事とやっていいことは違うのに。……ところで、なんでツキト君を立ち入り禁止にしたの?」


 みーさんはそう言われて、視線を逸らした。


「いや、その、つい勢いで……」


 もしかして、兄貴とケンカでもしたんですか? 原因は?


 ……どうせアイツが悪いんでしょうけれど。


「ええっと……ツキトくんがあまりにも優柔不断だったから……それで口論になりまして……」


「? よくわからないのだけれど……、ツキト君は何を迷っていたのかしら? そんなに怒る事だったの?」


 ボクもクランを離れていたので、何があったのかはわかりませんが……。もしかして、人に言えない様な事なんですかね?


「いや……そういう訳じゃないんだけどさ……。なんかね、ツキトくんの『プレゼント』は女神を仲間にできる物だったらしいんだよ」


 なんと。


 ボクは驚いた。

 確かになんでコイツ『プレゼント』二つあるの、とは思っていたが……なるほど、あれは結婚指輪だったんだな。


「まぁ! それじゃあツキト君の目標が叶うのね! 確か、カルリラ様とスローライフをしたいって……」


 そういえば、そんな事言ってましたね。

 NPCにお熱になるのは止めろって言ってるのに……。


「でもさぁ! ツキトくんったら迷ってんだぜ!? 鼻の下延ばしちゃってさぁ! だから言ってやったんだ! 優柔不断のヘタレだって!」


 女神様達はみんな可愛い方達ですから、迷う気持ちもわからないでは無いですね。……でも、なんでそんなに怒っているんですか?


 ボクがそう聞くと、みーさんはあっという顔をする。

 そして、ほんのりと頬を紅潮させた。


 あー……これはこれは……。


「もしかして、ツキト君が女神様に夢中なるのが嫌だったの? みーちゃんも素直じゃないのねぇ……」


 ドラゴムさんは優しく笑っていた。


 まぁ微笑ましいですよねぇー。


「ち、違うから! 別に嫉妬したとかそういうことじゃないし! スパッと決めれないヘタレにイラッとしただけだよ!」


 おお、あわてていらっしゃる。


 みーさん、兄貴は案外ちょろいところがあるんで、少し優しくしたら簡単に落ちますよ? 誰でも簡単に好きになりますね。……早くしないと、取られちゃいますよ?


「だから違うって言ってんじゃんか!」


 みーさんはテーブルをバンバン叩いて否定しているが、もうその行動が全てを物語っている


 ちなみに、兄貴の好みや恋愛経験を漏らしたのは、みーさんに聞かれたからである。

 別に兄貴に腹を立てて個人情報を漏らしていた訳ではないのだ。


「ふふっ……。そういう理由があったのね。とにかく、ツキト君が帰ってきたらちゃんと謝らないと駄目よ? わかった?」


 ドラゴムさんは微笑んでみーさんの頭を撫でた。


「ぐっ……でも……」


 大丈夫です。

 あの兄貴の事ですから、実際のところ何も気にしていないと思いますよ?


 しいて言うのなら、みーさんに申し訳ないと思ってるんじゃないですかね?


「そうかな……? ツキトくん気にしてないかな……?」


「大丈夫よ。ツキト君にも謝るように伝えてあるから、胸を張って待っててあげて……」


 ドラゴムさんがそう言うと、みーさんは静かに頷いた。


 よかった。

 どうやら兄貴の疑いも晴れそうである。これでレイプ魔の弟という、不名誉な称号は免れる事ができそうだ。


 それじゃあ、ボクはこの辺で失礼しますね? ついでに兄貴にも連絡しておきましょう。それでは……。


「あっ、ちょっと待って!」


 部屋を出ようとすると、ドラゴムさんに呼び止められた。……どうしましたか?


 振り向くと、ドラゴムさんは変わらずに、にこやかに笑っていた。



「なんかね? ここ最近アナタに酷い目に遭わされたっていう報告が沢山来ているのだけど……何か言い残すことはない?」



 やっべ。


 ボクは逃げた。


 クソっ! よりにもよってクランに苦情を入れてやがった! 悪質な苗床どもめ!


 というか、今ドラゴムさん、言い残すことはないかって言ってたよな!?


 殺す気満々じゃないか!


 しかしながら、今の身体は本体。


 他の人形とはステータスも耐性も段違いの最高品だ! そうそう簡単にやられる訳が……!


 と思っていたら視点が変わった。……おや?


 後方からレーザーが飛んできて、ボクの身体を包み込んだ。

 そして、身体が光の粒子になって消えていく。


 そうか……神聖属性って手があったか……。


 PLを襲いすぎて犯罪者になってしまっていたのを忘れてたな。


 仕方がない……。


 収容所に入って来ますか。


 ボクはログアウトして次の苗床に夢を馳せるのだった。

・収容所

 犯罪者が死ねばここで復活する事になる。時間経過でステータスが減っていくが、その分善行値が回復していく。なお、壁は簡単に掘ることができるので、毎日脱獄が起きている。割りと常連もいる模様。……どこの『浮気者』の事かな?

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