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RPは楽しいけど……他人に迷惑かけないでね?

 目の前にいる少年は、見るからにファンタジー作品の『勇者』という格好をしていた。


 銃火器を主力とするこの国において、その姿は明らかに浮いていたが、……このゲームなら、何が起きても不思議ではないだろう。


「テロリストめ! 何が目的だ! 何故バインセンジをも巻き込んで、こんなことを……!」


 暫定勇者くんは、目に涙を溜めてそう叫んだ。


 RP? 結構本気度凄いですね?

 とか思ったが、名前を確認すると、勇者の『クローク』、という名前が白字で表示されていた。


 NPCだったかぁ……。と言うか、本当に勇者だったよ……。


 困った。


 俺の目的は、ケルティとアークが爆弾を設置し終わるまでの時間稼ぎなので、これがPLだったらいじり倒して時間を稼ごうとも思うのだが……。


 あれか。俺にRPをしろと申すか。NPCに合わせろと言うのか。


 切り殺してもいいのだが、相手は勇者という、明らかにストーリーに食い込んでくる事を匂わせる名前をしている。


 何の考えも無しに首をちょんぎると、後々ストーリーに支障をきたす危険性がある。……後で共闘とかになっても嫌だし。


 別にRPが嫌いでは無いのだが、多少は恥ずかしいところもある。人となり……というか、このクロークくんがどんなキャラなのかもわからないし……。


「何をしている!? 何も言うことがないのなら、こちらからいかせてもらうぞ!」


 おっと、剣を構えて今にも襲いかかって来そうだ。……仕方がない。


 俺は口角を引き上げ最っ高の笑顔を作った。そして高笑いをあげる。


 ゲラゲラと、相手の琴線に触れるように不快な笑いだ。


「っく! 何がおかしい!」


 ふっ……まさか勇者ともあろうものが、魔王様の部下の顔も知らないとは……。私を笑わせようとしているとしか思えなくてね。クックック……。


 魔王軍RPである。

 前にイベントをやった時には割りと好評だった奴だ。その後、街中で襲われるようになったのは言うまでもない。


「魔王……だって……? まさか、アミレイドに潜伏しているといわれている、あの魔王の事か!?」


 よしよし、のってきた。


 ……そうだとも。我々はこの国を潰すのが目的だ。その為には目障りな冒険者達には消えてもらわなくてはならない。


 故に、貴様と戦おうとは思わん。私の邪魔をしないと言うのならば、見逃してやろうでは無いか。我々の敵は冒険者だけだからな。


「ふっ……」


 クローク君は俺の言葉を聞いて、ふるふると震えている。これは恐怖から来るものでないことはすぐにわかった。


「ふざけるなぁぁぁ!!」


 クローク君は激情に身を任せ、真っ直ぐに俺に突っ込んでくる。


 不意打ちで無ければ当たらない様なちゃちな攻撃だ。俺は避けつつ、向かって来るその身体を蹴り上げた。


「カハっ……!」


 かわいそうな事に、俺の蹴りは彼の鳩尾にへと吸い込まれてしまった。口から空気を漏らした音がした。


 クローク君は苦しそうに身体を丸めると、顔だけあげて俺を恨めしそうに睨み付ける。


 おお、怖い怖い。

 まさか、実力差もわからないとは。その程度の実力で向かって来る無謀さが怖い。


 貴様には止めることなどできんよ。諦めてそこで這いつくばっていいるがいい……。


 ちなみに、おそらくだがクローク君はさして強くない。精々チャイム君やタビノスケクラスだろう。


 もちろん、近接戦闘の話である。魔法やスキルを考慮してしまうと、クローク君は今のところカスである。


 つまり、遊ぶ位がちょうどいい、雑魚敵だ。


「っく……! させは、しない! 『ブレッシング・ヒール』!」


 と、思っていたが、クローク君は上位の回復魔法を使用して再び立ち上がってきた。

 やはり、勇者たるものバランスよく呪文を使えなければ。

 その辺良くわかってるぅ。……という訳で。


 『サイレス』。


 俺は呪文詠唱を阻止する魔法を使った。クローク君の身体の周りに半透明の霧の様な物が漂う。


 すまんな。これ負けイベントなのよ。


「バカな……! ぼくの魔法を封じるだって!? 卑怯だぞ!」


 クローク君はいくら振り払っても消えない霧に歯噛みして、俺にいちゃもんを付けた。


 卑怯? そうやって魔法に頼ろうとするから、貴様は未熟なのだ。その剣は何のためにあるのか、自分で不思議に思わないかね……?


 俺は成長を促してくる系の敵キャラに方向性をチェンジする事にした。楽しくなってきたのである。


「な、なめるなぁ!」


 その体を奮い立たせ、クローク君が俺に切迫した。



 その後は、暫くキンキンと音を鳴らしながら、大鎌と剣の刃をぶつけ合っていた。傍目から見れば中々にいい勝負をしている様に見えるかもしれない。


「いけっ! クローク! 死神なんて殺してしまえ!」


「俺達は駄目だったけど……おまえなら……!」


「援護なら何時でもいけるぜ! 何時でも言ってくれ!」


 それと、騒ぎを嗅ぎ付けた兵士達がクローク君の支援に馳せ参じた。……いや、お前らも戦えよ。


 俺が冷静にツッコミをいれると、クローク君が叫ぶ。


「彼らは力を持たない弱きもの達だ! おれだけに集中しろ! 彼らには手を出すな!」


 兵士達が、わっ、と歓声を上げた。……駄目だコイツら。自分がモブか何かだと勘違いしていやがる。


 俺は呆れながら大鎌を力任せに振るい、クローク君を吹っ飛ばした。

 すると、その吹き飛ばされた小さな身体を、モブと化したPL達が受け止める。


「み、みんな! すまない、このままじゃあ、ぼくは……」


 弱音を吐こうとするクローク君を、笑ってモブが制した。

 彼らはゆっくりと首を振ると、その手をクローク君から武器へと持ち替える。


 そして、俺に銃口を向けた。


「クローク! よく見ていろ! これが俺達の覚悟だ! 俺達の屍を踏み越えていけ!」


「……! 駄目だ! 君達じゃそいつに敵わない! ぼくに任せて……」


「ばっか。俺達が戦っている内に休めって言ってんだよ。早く回復して、俺達の事を助けてくれ」


「そうそう。俺達なんて盾になることしか、できないんだから。な? そうだろ?」


「み、みんな! ……わかった。どうか死なないd」


 『ダーク・ストーム』。


 俺は暗黒属性の全体攻撃を放った。一応『グレーシーの追約』も発動しておいた。

 

 だって、そんな茶番興味無いし。クローク君以外いらないし。


 真っ黒な嵐が、モブ達を暗黒へと引きずり下ろし、ミンチに変えていた。しかしながら、クローク君にはあまり効いていなかったらしい。


 嵐が晴れると、そこには地面に四つん這いになっているクローク君がいた。


「そんな……みんな……」


 涙を流している様で、床にはポタリポタリと水滴が落ちている。


 ふはははは! どうした勇者よ! 貴様は仲間が死んでも泣くことしかできんのか? 嘆くことしかできんのか?


 どうやら、仇をとることも知らぬ腑抜けのようだな! ふはははははは!


 俺は煽った。

 別に意味があるという事はない、ただのRPである。


 しかし、クローク君には予想以上の効果があったようだ。


「き……貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 何も考えずにクローク君が俺に突っ込んでくる。直線的であり、分かりやすい、愚直な攻撃だ。


 俺はこの攻撃を楽々と避けた……のだが。


 クローク君の攻撃は先程とは全くの別物だった。


 避けた後の俺がいた場所は、床が砕け、破片が辺りに飛び散っていた。


 ……威力が上がっている?


「許さない……許さないぞ! よくもぼくの友達を……!」


 暗黒属性の付属効果は、視界の消失だ。

 その効果があるにも関わらず、クローク君は俺を狙おうとしていた。

 そして、その狙いも検討違いとは言いづらい。


 もちろん、今も俺の方を向いて狙いを定めている。


 なんだ? 何かおかしいぞ?


 俺はチャットで現在の状況について、作業中の二人に確認をした。


 できることならば、すぐにでもこの場から離れた方がいい。目の前の勇者という存在は不確定要素が多い。


 返ってきた答えは、既に爆弾を仕掛け終わったという、最高の答えだった。


 俺は攻撃を避けながら、チップにチャットを送る。……アイツのことだ、死んでいる訳がない。


 チャットを送り、逃げ道を確保した俺はクローク君に捨て台詞を吐く。


 勇者よ。残念だが時間のようだ。私は暇では無いのでな、お前と同じように遊ばなければいけない相手が多いのだ。


「遊、び……? 遊びだと!? ふざけるな! ぼくの友達はお前の為に死んだのでは無い! 自分の意思で死んでいったんだ!」


 その考えが愚かだと言うのだ……。


 誰も死にたくて死ぬ奴などいない。その考えは貴様の独りよがり……いや、守れなかった自分への言い訳でしかない……。


「ち、違う!」


 本当の仲間とは何か……また私と相対するときにまで考えるといい……。ふははははははははははは!!


 そう言い残して、俺はチップに安全圏まで運ばれるのだった。……中々RPも面白いもんだな。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「あ! お帰りなさい! ……えと、大丈夫、だったかな?」


 俺達が雑木林に戻ると、シーデーが笑顔で迎え入れてくれた。……ちゃんとこちらの心配をしてくれている。天使かな?


 ちなみに、チップ率いる斥候班は自ら稼いだカウントを競いあっていた。意外に好戦的らしい。


 おう、こっちは元気だよ。

 爆弾も全てかけ終わったはずだ。いつでも起爆してくれて構わないぜ?


 俺がそういうと、レズツムリの姿から半裸の姿に戻ったケルティが、不思議そうに俺を見てくる。


「あれ? まだクロークがいるはずだけど……いいの?」


 ん?

 なんで敵の心配しなくちゃならないの? 殺しても復活するし、別にいいだろ?


 さっきまで遊んでいた相手を殺す事に抵抗を覚えなくも無いが、これは仕方が無い事なのだ。うん。


「わかったよ。それじゃあ起爆するね! ……一応皆地面に伏せてくれると嬉しいな」


 おう、頼んだ。


 俺達は全員地面にうつ伏せになった。

 後はシーデーの合図で爆弾が起爆し、格納庫が吹き飛ぶはずだ。


「……よし、それじゃあいくよ? 『ダブル・クリエイト』起動!」


 シーデーが自らの『プレゼント』の名前を高らかに宣言する。


 すると一瞬。


 全ての音が消えた気がした。


 その後、大きな音と共に、吹き飛ばされるのでは無いかと思うほどの暴風が俺達を襲う。


 巻き上がる砂煙の中、辛うじて目を開けてクランがあった場所にへと目を向けると……。


 そこには見上げる程大きなキノコ雲が出来上がっていた。


 クランの建物なんて、全て吹き飛んでしまっている。……うっそだろ?


「つ、ツッキーさん……。どうしよう、兵器だけじゃなくてみんな吹き飛んじゃった……」


 おぉ……シーデー……。


 自分がやらかした事に驚きと戸惑いを隠せていない様だ。


 俺も、爆発オチもたまには悪くないなと、言いたかったのだが、バインセイジもついでに吹き飛ばしているこの現状……。放置することはできないのだが……。


 ……まぁ、こういう時もあるよね?


 俺はこの惨状について、考えることを放棄するのだった。

・今日のフェルシー

 フェルねぇちゃんの能力は、簡単にいえばサイコロの出目を操作する能力だ。

 例えるなら、アイツは6面ダイスを振っても、100の面を出して、0の面も出せる。……要するに、世界の法則からねじ曲げて、自分の都合の良いように操作できる。本当なら、カル姉にも勝てるはずだ。


「うっわ! 死ぬかと思ったニャ! まさかバインセイジごとミャアを殺しにくるとは思わなかったニャ! ま、ミャアはこんなんじゃやられないけどニャン! みんな死んじゃったけどニャ。……うう……リリアさまぁ、復活してあげてニャア~……さみしいニャ~……かわいそうだニャ~、お願いニャ~……」


 アホだから自覚できていないのがたまに傷だけども……。

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