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バインセンジの斥候班

 俺とケルティ、アークはバインセンジに飛ばされてしまった。

 今は薄暗い路地裏から、表の騒がしい通りを伺っている。


 俺達はミラアの能力によって、強制的にここまで飛ばされてしまった。

 現代的な街の様子を見て、俺はため息をつく。


 さて……ここからどうするよ?


「そうだねぇ……とりあえず観光でもする? 国境沿いは警備が固すぎて歩いて帰るのは無理……というか、帰ってもまたこっちに送り返されるだけだし……」


「せやなぁ。……って、ケルティはんは姿を変えたほうがええんちゃう? こっちの国はエルフを迫害してるらしいで?」


 そういえば、そういう設定だったな。


 まぁ、バインセンジの中ならエルフの姿でも問題はないだろう。ニャックが黙認しているくらいだし。

 他の街ではどうかはわからないけど。


 どうする? アークを首に巻いておけば幻術で姿を誤魔化すこともできるが……。


「いや、カタツムリになるよ。ツキトには悪いけど、肩を貸してね?」


 ケルティは姿をカタツムリに変化させた。俺がウサギさんになれる様にケルティはその身をレズツムリに変えることができるのだ。


 俺は地面を這っているレズツムリの殻をつまみ、そのまま肩に乗せた。


 ちなみに、デフォルメ化されたデザインのカタツムリなので、外見はさほど気持ち悪くない。


「あちゃー……ツキトはん、また浮気するん? そこはみーはんの席やろ? 後でチクられたらどうするねん」


 浮気じゃねーよ。

 仕方がないだろ、ケルティが単品で動くってなったら目立つんだよ。

 

 銀色のカタツムリの殻を背負ったフィギュアが、その辺を飛び回る姿を想像してみろ。

 めっちゃ目立つだろ。


「せやね……まぁ、ワテの負担が減るからええか……」


 んじゃ、とりあえずバインセンジ観光と洒落混みますか。戦争中って言っても、あのニャック達はいつも通りだろ。


 屋台を見て回ろうぜ?


 という訳で、俺達はバインセンジの街にへと繰り出したのだが……。


「とまれぇ! 貴様らこの国のPLではないな! 連行させてもらうぞ!」


 俺達は表通りに出た瞬間に、サイボーグの武装集団に囲まれてしまった。全員ガスマスクをしている。


 ……観光も楽じゃねーな、おい。


 俺はため息をつきながら両手を上げた。


「抵抗の意志は無し、か……。待て、お前見たことがある顔をしているな。もしかして、何か動画とかあげてる?」


 リーダーと思わしきガスマスクが銃を突き付けながら俺に問いかける。


 いや? 俺はあげてないけど、クランにそういうのが好きな奴がいるから、そいつの動画じゃない?

 というか、俺達は観光に来ただけだから、このまま見逃してもらってもいいかな?


「駄目だ! ただでさえ大量のスパイがこの国に入っているのに、怪しい人間を見逃せるか! 悪いが、名前、職業、所属クラン、あるのなら二つ名を教えて貰おうか」


 できることならば穏便に進めたかったのだが……、いや、まだその可能性は捨てきれないか。


 ちらりと、アークの方を見た……つもりだったが、そこには誰もいなかった。能力で姿を隠しているらしい。……上手いな。


 あー……、名前はツキト、職業は農民、クランには所属していない。二つ名も無い。いわゆるエンジョイ勢だ。以後よろしく。


 俺は嘘をついた。

 少しでも時間を稼ごうという魂胆だ。こんなところで騒ぎを起こす気はないし、戦う気もない。


 が。


「ツキト? ……………『死神従者』ぁ!? う、撃て! こいつはヤバイ! 早くころ」


 速攻でバレちまった。


 俺は大鎌を取り出して、リーダーっぽいガスマスクの首を切り落とす。


 俺の素性が割れてるって言うんなら仕方がない。殺してからどうしようか考えようじゃないか。


「リーダーがやられたぁ!? に、にげろぉ! 殺さr」


 !?


 撤退を宣言したガスマスクの頭が銃声と共に弾けた。

 どうやら何者かの銃弾が撃ち込まれたようである。


 それを皮切りに、他のガスマスク達も同じように殺されていく。


 確実に眉間を撃ち抜かれていた。

 寸分違わず、全員が、だ。違う方向を向いていたのに関わらず。


 まるで銃弾を誘導して、殺したかのような芸当。そんな事をできるのは一人しか俺は知らない。


 銃弾が飛んできた方向に目を向けると、ひょこりと、建物の陰から顔を覗かせる少女の姿があった。


 間違いない、チップだ。


「よっ、やっとで増援が来てくれたんだな。これでアタシ達の仕事も楽になる」


 そう言いながらチップがこちらに向かって歩いてくる。……増援? 何の事だ? 俺達は何も聞かされていないぞ?


 というか、なんでお前ここにいるの?


「そんなに一気に聞かれてもな……。アタシ達の任務にお前らが参加してくれるって、ドラゴムのねーさんから連絡が来たんだ。だから迎えに来た」


 ……ドラゴムさんが?


「そ……、って不味いな。場所を移動しよう。さっきの奴等の仲間が来ている。アタシ達のアジトに案内してやるよ」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 俺達はチップの案内により、バインセンジの地下倉庫へと訪れた。

 元々は酒場の倉庫だったのだが、そこを改造してザガード国を探索する拠点に改造したらしい。


 ランタンの灯りを頼りに地下に下がって行くと、大きめのワインセラーがずらっと並んでいる空間に出た。


 その中央にはテーブルがあり、ザガードの地図が広げられている。


 奥は仮眠室になっているようだ。


「わぁ……スッゴい秘密基地っぽいじゃん。なんかさ、ワクワクするね」


 肩の上のカタツムリが感嘆の声を漏らした。


 ホントにな。こんな場所があるなんて聞いたことがなかった。……斥候班の本部って事でいいのか?


 部屋の灯りを付けているチップにそう問いかけると、こちらを見ずに返答が帰ってくる。


「おう。……って言っても、各街に個人個人で拠点になるものを作っているからな。ここはアタシの拠点だよ。知っているのは、斥候班とお前らくらいさ」


 俺達は置いてあった椅子に座る。

 テーブルの上の地図に目を目を向けると、各街の所に書き込みがされてある。

 クランの数や配置してある軍隊の規模まで記載されていた。……すげぇ、めっちゃ仕事してんじゃん。


「はぁー、斥候班の皆さんは急がしそうやねぇ。ワテ所属しなくて正解やったわ」


 アークも地図を覗き込んでいた。


 そういえば、アークも潜入向けの能力なのに斥候班じゃないんだな。所属していたら大活躍だったんじゃね?


「嫌やー。だって急がしそうなんやもん。それに、ワテは他の戦闘職さんのクエストをお手伝いするっちゅう、大事な仕事があるんや」


 成る程、どっちかっていうと暗殺向けってことか。


「いや……そんな物騒なもんちゃうでー……」


 と、そんな話をしていると、チップがお茶を持ってやって来て、俺達の前にカップを置いていく。


 そして、チップも椅子に座った。


「それで……お前らなんて言われてこっちに来たんだよ? ねーさんからは、面倒見て上げてって言われただけなんだけどさ?」


 どうやら、チップは俺達が流刑にあったということを聞いていないらしい。……上手いこと誤魔化そうか。


 いやぁ、ちょっと失敗しちゃってな! それのペナルティって事で、ミラアに半強制的にバインセンジに飛ばされたんだよ! まさか、斥候班の手伝いをするとは思わなかったけどね、ははは!


 ……苦しいかな?


「そうなのか? ……ま、いっか」


 よし、相変わらずチョロい。

 流石チップちゃんである。


「それで、私達は何をすればいいの? 諜報活動なんてやったことが無いんだけど……」


 ケルティが言うことは最もだ。

 俺達はどちらかと言うと、敵陣に突っ込んで行ったりするのが仕事の戦闘員なのだが……。


「いや、やってほしい事は潜入というよりは、破壊工作だな。いくら騒ぎを起こしてもいいし、殲滅しても構わない」


 なんか物騒だな……、この国の状況ってどうなってるんだよ? 班長のお前が出張る程大変なのか?


 基本的にチップは、クラン本部に待機して上がってきた情報を整理するのが仕事だ。

 たまに現場に行って、任務に参加したりはしているが、何をしているのかはよくわからない。


「説明するけど……この国はPL、クランの戦力を重要視している。私達みたいにクラン単独で動いているんじゃなく、国の兵士NPCとPLが完全に協力関係を築いているんだ。装備も国から支給されているらしい」


「どういう事や? 別に問題があるように思えへんのやけど?」


 まぁ……そんなにNPCが強いとも思えないけどな……。


「いや、そうとも言えない。この国の主力装備は重火器だ。しかも機械……戦車や戦闘機の存在も確認している。どのくらい強いかもわからないんだ」


 戦車はわかるけど……戦闘機!?

 それは予想して無かったわ……。ケルティは何か知ってる? 前作PLだろ、お前?


「確かに、戦車や戦闘機の敵もいたけどさ、アイツらは誰かが騎乗しないと戦えないNPC、みたいな扱いだったかな? 魔法がよく効いたはず。……逆に近接職の攻撃が効きづらいけど」


 うちのクランは、先輩やゼスプみたいな規格外の魔術師が目立つけれども、純粋な魔術職は実はそんなに多くない。


 大体、全体の十分の一位と言っただろう。


 俺やタビノスケみたいな魔法も使えるって奴もいることはいるが、補助で使う程度の使用頻度だ。


 魔法だけで戦うのは不安がある。


「そう、そういう兵器を放っておくのは得策じゃない。戦力も限定されてしまう。しかも、その兵器もPL達にも支給しているみたいだ……だから」


「ワテらがクランに侵入して、戦争が始まる前にそれをぶっ壊せばええんやな! ええやん! やったるで!」


 アークは意気揚々に尻尾を振っている。


 成る程、だから戦闘員の俺達が呼ばれたと……。


「そうだ。アタシ達が調べた基地に向かってもらう。そこにケルティはカタツムリの姿で潜入、ツキトはアークと一緒に潜入して、それぞれ任務をしてもらいたいんだ」


 了解だ。……ところで、この件について先輩やゼスプは何か言ってたか?


「ん? そもそも、この任務はみー先輩からのお願いだから、逐一報告してるよ? 今もツキト達と合流したって報告したし」


 つまり、先輩も俺の動向を把握している訳か。この任務が終わったらクランに帰っても大丈夫だろうか……。


「それじゃあ善は急げって事で、早速始めちゃおうか! ワクワクしてきたね!」


 ケルティはやる気のようで、カタツムリの身体を伸び縮みさせている。


 確かに本格的な潜入任務と考えれば面白そうだ。


 それじゃあ、チップ。作戦を説明してくれ。兵器だけとはいわず、敵部隊を全滅してきてやらあ。


 俺が笑ってそう言うとチップは頷き、テーブルの上に資料を広げるのだった。





「あ、そうだ。これは個人的なお願いなんだけどさ……」


 ん? どうしたよ?


「……お腹スイタ……タベテイイ……?」


 チップの俺を見る目が変わった瞬間、俺は逃げ出した。


 しかし、両足を撃ち抜かれて、あっという間に味見されてしまうのだった。……痛い。

・戦車、戦闘機

 人が乗って戦う騎乗兵器。一つ一つにサポートAIが搭載されており、どんな人間が乗っても操縦が可能。


・ザガード

 人間史上主義国家。機械を使う軍隊を有しており、周りの国を侵略し国土を広げてきた歴史がある。

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