こねこの部屋~ご用のある方はノックをしてください~
『ヘタレお断り!』
先輩の部屋の前に訪れると、そう書かれた看板が掛けてあった。……成る程、これは試されているな。
しかし、ケルティの尊い犠牲を無駄にしない為にも、俺は止まるわけにはいかないのだ。俺は先輩と和解しなければならない。
コン、コン、コンと、3回ノックをして様子を伺う。
『はぁい、部屋にいるよ~?』
ドア越しに先輩の返事が帰ってきた。どうやら部屋にはいるらしい。
先輩、俺です。少し話したいことがありますんで、ドアを開けても良いですかね?
そう問いかけると、少し間を置いて返事が帰って来る。
『看板見えないの? ……ヘタレはお断りだ! 女神の一人でも連れて来たら、ここを開けてやる! ツキトくんみたいな、優柔不断なヘタレの浮気者なんかを、ここに入れるわけにはいかないもんねー! 帰れぇ!』
どうやら、先輩は俺への態度を意地でも変えないらしい。
残念でしたー!
もう『浮気者』じゃありませんー! 『プレゼント』の名前が変わったのでそんな不名誉な称号は消滅しましたー!
そう、今まで俺は『浮気者の指輪』のせいで事実無根な呼ばれかたをされていたが、『祝福の指輪』と名前が変わったことにより、そんな風に言われる理由はもう無くなったのだ。
『でも、あそこでカルリラに指輪を渡さない時点でヘタレの浮気者ですぅ! 他の女神様に目移りしやがって! 少年漫画のラブコメ主人公か! おまえのラッキースケベを数えろ!』
ほう?
そういう事言っちゃうんですね!? いっときますけどねぇ! 俺のラッキースケベの歴史は、俺の死亡記録ですから!
よっしゃ! と思ったら死んでるんです!
俺は既に断罪済みなんですよ!
カルリラ様の手によってねぇ!
『ツキト様……それは風評被害です! そんなに殺していません! たったの数十回じゃありませんか! ……あれ?』
カルリラ様の言質がとれた。……というか、そんなに殺されてたんだ、俺……。
という訳で!
先輩! 俺はカルリラ様計算で数十回以上断罪されているんですよ!? よって俺はラブコメ主人公では無いんです! 浮気者ではない!
『それ、要するに数十回以上ラッキースケベな事を経験してるって事じゃないか! 変態! エッチ! 僕に何をする気だ!? と、とにかく! 君は入って来るな!』
あ、確かに。いい思いしていましたわ。……じゃなくて!
なんで駄目なんですか!?
変な事なんてするわけ無いでしょ!?
『信じられるかー! 今までの行いを反省しろー!』
っく、もうらちが明かない。こうなったら実力行使でいこう。
ドアノブに手をかけたが、今回は鍵がかかっていた。
どうやら、パスファ様に不法侵入された事で防犯意識が向上したらしい。
それならばと、俺はアイテムボックスから鶴嘴を取り出した。……この世に掘れない壁なんて無いのだ!
ヒャッハー、と奇声を上げて俺は扉に鶴嘴を振り下ろす。
数回鶴嘴をふりおろすと、鉄製の扉はあっという間にひしゃげ、扉としての機能を失ってしまった。
さぁ先輩! 扉は壊れましたぜ? ゆっくりとお話でもしましょうや……!?
俺がそう言いながら部屋に入ると、とんでもない光景が飛び込んできた。
先輩は部屋のベッドの上で横になっていた。人間モードになってリラックスしていたのだろう。
ベッドの横のテーブルの上にはクッキーが置いてあった。
しかし、問題はその服装である。
先輩が真の姿になっている時は、いつもならヒビキの趣味全開の黒いドレスのような衣装を来ているのだが、今日は違った。
今着ていたのは、ゆったりとしたパジャマであった。
普通のパジャマと違うのは、それが黒猫をモチーフにした着ぐるみパジャマだった事である。フードに猫耳がついている可愛らしい物だ。
しかし、パッと見は中高生と言えども、先輩も18は越えている年齢である。
そんな可愛らしいパジャマを見られるのは流石に恥ずかしいだろう。
「……なんで入って来た? 入って来るなって言ったのに……」
先輩は、その服装のままゆっくりと立ち上がった。
こちらに向けるその眼差しは怒りに燃えていた。同時に、顔から火が出るのではないかと思うほど、真っ赤に頬を染めている。
「しかもドア壊して入って来るとか……常識を知らないのかな……?」
ま、待ってください、違うんです。
先輩がヘタレお断りって言うんで、へたれずに入って来いと言っているのだと勘違いしたんです。
決して、先輩の可愛い姿を見たかった訳じゃないんです! ラッキーとか思ってませんから!
あと、似合ってますよ! 先輩!
「うるさい! この姿は忘れろ! 『マジック・レーザー』!」
おっと、先輩から魔法が飛んできた。いつもの極太レーザーである。
何時もなら大人しくくらってログインしなおすのだが……ふふふ、今日の俺は一味違うぜ。
俺は放たれた魔法を正面から受け止め、先輩に向かって接近した。
HPが多少削れたが、気にする程ではない。
「嘘っ!? い、いつの間にそんな強くなってんのさ!? ええい! 『マジック・レーザー』! 『マジック・レーザー』!」
先輩は俺の様子に慌てて魔法を連発するが、そのくらいではもう俺は止まらない。
グレーシー信仰の恩恵により、俺の魔法に対する各種耐性は飛躍的に向上していた。
あの先輩の魔法でも、簡単に倒れない程には。
「ちょ!? こっち来んな!」
ふふふ! 残念でしたねぇ! 俺だって日々成長しているのですよ! ……捕まえたぁ!
俺は先輩の両手首を掴むと、そのまま姿勢を崩し、ベッドにへと押し倒した。
先輩、とにかく話だけでも聞いてください! 俺もあれからいろいろ考えたんですよ!
「話だけって……う、嘘だ! 話だけならこんな事する必要ないだろ!? 僕になにする気だ! 離せぇ!」
じたばたともがくその身体を、俺は無理矢理抑え込んだ。……逃がしませんからね! 今日は面と向かって話を聞いてますとも!
いいですか? 『祝福の指輪』を渡す相手なんですがね……。
「なんでこの状況で普通に会話を始めるのさ!? だ、誰かぁ! 助けてぇ!」
誰も来やしませんよ! 先輩の部屋はクランの一番奥にありますからね! 用事でも無い限り、誰かがここに来ることなんて……。
「な、何をしているの……?」
あったみたいですね。
俺は入り口に目を向ける。
そこには目を丸くしたドラゴムさんが立っていた。
「つ……ツキトくん? みーちゃんに何を……しようと……しているの?」
え、いや、その……。
「ひっく……。えぐ……、やめろよぉ……離せよぉ……」
先輩を見ると、目の端から涙を流し、俺から顔を背けている。
そして俺は現在、そんな先輩に馬乗りになって、ベッドに押し倒している状況だ。
テーブルは倒れ、辺りにはクッキーが散らばっている。
……現行犯だわ、これ。
俺は冷静になった。
とりあえず俺は、先輩を解放しベッドから降りる。
すると、先輩は脱兎の如くドラゴムさんに向かって飛び出し、毛皮の中に逃げてしまった。
ご、誤解なんですよ、ドラゴムさん。俺は先輩に何か変な事をしようとした訳じゃ無いのです。ただ、少し話したいことがありまして……。
「ツキトくんに襲われた……手首を捕まれて……足を膝で抑えられて……誰も助けに来ないぞ、って……」
先輩はドラゴムさんの毛皮から顔だけ出して、そう言った。
違います!? 俺は先輩と話がしたかったんです! 本当です! 信じて!
「ツキトくん……アナタまたやったのね! チップちゃんに続いて、みーちゃんにまで! 覚悟なさい!」
ま、不味い!
逃げなければ!
俺がそう思った時には既に、ドラゴムさんはドラゴンブレスのチャージを始めていた。
ドラゴムさんの毛皮の色が美しい純白にへと変化していく。……見たことの無い変化だ。何の属性ブレス使って来るのだろうか?
だが、グレーシー様の加護を受けた俺には、属性攻撃はあまり効果が無い! 攻撃を受けてでも逃げ切るのだ!
俺はドラゴムさんを押し退けて廊下に出た。そして、全力で逃げ出し……あれ?
視点が、変わってる?
そう思った瞬間、ドラゴムさんから高圧縮されたレーザーブレスが飛んで来た。
それに当たった瞬間に俺の身体は光を発し、粒子になって散らばってしまう。そして、死亡を示すウィンドウが目の前に現れた。
『貴方は神聖な一撃によって、天にへと召されて死んでしまった……』
成る程、あれは神聖属性だったのか。
珍しい属性だから、知らなかったよ……。
俺はログインしなおした後、先輩に頭を下げに行くのだった……。
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勿論許されなかった。
俺は婦女暴行の容疑でドラゴムさんに捕まってしまったのである。
今は会議室に軟禁状態になっていた。何故かケルティも一緒だ。……お前はなにしたの?
「……クランでイチャイチャしてたらドラゴムさんにバレた。『エッチな事はいけません!』ってさ……。天に召されちゃったよ……」
そう言いながらケルティは頭を抱えている。
どうやら、大体同じ事情らしい。俺と同じようにドラゴムさんに浄化されてしまったようだ。
「そういうツキトは?」
……勢いで先輩をベッドに押し倒しました。けど、いやらしい事なんて考えていなかったのに……。冤罪だ……。
「冤罪でもなんでもないじゃん……有罪じゃん……。一緒に罰を受けよう? しばらくすれば、みんな許してくれるよ……」
許してくれるかなぁ……。先輩、あれ絶対怒ってたよ……。
さっき、謝罪をしに行ったら、面会拒否されてしまった。……まぁ、当然ですよね。今思い返したら、俺ってば完全に犯罪者だし。
けど、なんとか先輩にはわかってほしい。そんなつもりはなかったのだと……。
そう考えながら項垂れていると、ガチャリと会議室のドアが開いた。
視線だけ向けると、ドラゴムさんと……ドラゴムさんに摘ままれたアークがいた。
アークはぽいっと俺に向かって投げられたので、俺は受け止めた。……お前はなにしたんだ?
「うう……クランの金でキャバクラ通ってたのがバレてもうた……死にたい……」
アーク……お前って狐は……。
「……さて、風紀を乱したアナタ達の処分を伝えに来たわ! よく聞いてね!」
はい……。
俺達3人は力のない返事をした。……いったい何をやらされるのだろう……、多分処刑じゃすまないよなぁ……。
ドラゴムさんは、何かの紙を取り出して、それに書かれている内容を読み上げる。
おそらくそれに、俺達の運命が記載されているのだろう。頼むから情状酌量の余地をください……!
「えーと……PLツキト、ケルティ、アークについては……あら、まぁ……!」
目を丸くして、ドラゴムさんは俺達と紙を交互に見る。
なんだ、なにが書かれているんだ!? 俺達どうなっちゃうの!?
そう思っていると、ドラゴムさんは落ち着いた様子で口を開く。
「アナタ達全員……期限無しの島流しですって! 国外追放って書いてあるわよ!?」
……はい? ……はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?
容赦の無い判決に、俺達はただただ、驚く事しかできなかった……。
・神聖属性
ゾンビ等の不死性をもった敵に有効な属性。他にも、犯罪者……善行値が低いPLにも大ダメージを与える事ができる。……人殺しは程ほどにね。




