『祝福の指輪』
少し、ゲーム的な話をしたい。
各PLが信仰する女神は、全てが同じ存在では無いそうだ。
例えるならば、『憤怒』のイベントで俺達の目の前に現れたキキョウ様と、イベント『女神との邂逅』によって俺が会うことのできるキキョウ様は、全く同じ存在ではない。
言うのなら、ビギニスートで信者からお菓子をもらって喜んでいるリリア様や、バインセンジでPLから金銭を巻き上げているフェルシーも、俺が『女神との邂逅』で会うことのできる存在ではない。
よくクランに遊びにきて、宴会をしているパスファ様やグレーシー様もそうだ。
つまり、厳密に言うと『女神との邂逅』によって出会うことのできる女神様達、信仰している女神様達は各PLに割り振られた、そのPL専用の女神様であり、コピー……分霊的な存在らしい。
ちなみに、『キクリの耳』で聞くことのできる声もこの分霊の方の声だ。
では本体は? という話しになるのだが……上記の『女神との邂逅』で会うことができない、ビギニスートで盗撮されたり、バインセンジでニャックに反逆されたり、クランで酔いつぶれたりしている彼女達こそ、本来の女神様なのだ。……残念な方々である。
そして、そうやって遊びに来ている本体の記憶……保存されたデータは、各PLの女神達に反映されるそうな。最近のゲームって凄いね。
ちなみに、俺と先輩みたいに、二人で『女神との邂逅』の空間に入った場合は、そのPL達の女神のデータが混ざりあった物となるらしい。今回は俺のデータが強く出た。
そして、ある条件を満たせば、女神様も仲間にすることができるそうなのだが、その仲間にできる女神様も自分専用のものが仲間になる。
つまり、俺が女神様を娶ったとしても何ら問題なく、ゲームは続いていくという訳だ。
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「ツキトさぁ……こういう時に私を頼るのはやめようよ? みーちゃんを頼ってあげなってば。パートナーなんでしょ?」
テーブルを挟んで座っているケルティがため息混じりにそう言った。
その先輩には見限られました……。このヘタレって……。
俺はケルティの自室のテーブルに突っ伏し、涙を流している。
考える時間をくれるというので、俺は空間を後にしたのだが、その後、先輩の機嫌が悪化。
男ならビシッと決めやがれ! ヘタレは出てけー! と、全身のもふもふを逆立たせて怒られてしまったのだ。……もう死ぬしかない。しくしく。
「そんなにウジウジしてるから駄目なんですよー? ケルティお姉さまみたいに割りきっていくべきです! ウジ虫め!」
ケルティの腕に抱かれているアンズにまでダメ出しされてしまった。……俺は本格的に駄目かもしれない。
というか、ケルティは割りきりすぎだろ……。今ハーレムメンバー何人よ?
「ん? ん~……一応3人かな?」
ほら増えてるじゃん……。
お前節操とかないの? その内フロイラちゃんに後ろから刺されるんじゃないの?
ていうか刺されろ。
「違うのです! 3人目は無理矢理割り込んできた図々しい奴なのです!」
へー、じゃあその3人目さんはどこにいんだよ? そんなにケルティにお熱とか、殊勝な変態じゃないか、見下げ果てた奴だな。
「ソイツは今、道場で柱に括りつけられて喜んでいるのです!」
確か、部屋に入る前に確認したけれど、今日のサンドバッグ係は……。
「もっと! もっとだ! 私を痛みつけるといい! 私を夢中にさせてみせるのだ! ……きゃうん! いいぞ!」
……ミラアさんですね。
って、ケルティさんや。
お前って奴は結局これかい? どんな変態でも、肌を重ねたらハーレムメンバーってか? やっぱり刺されるべきでは?
「……あっちから誘ってきたんで……つい。めちゃくちゃに攻めるの楽しかったです……」
楽しんでんじゃねーよ……。
悪いけど、俺はお前みたいには生きられんわ。こうやって先輩に拒絶されたことをウジウジと悩んで生きていくしか無いのだよ……。
俺はカタツムリになりたい。ぅねぅねしながら生きたい。
「相当きてるね……。切り替えていきなよ、うまくいけば女神様をお嫁さんにできるんでしょ? 良かったじゃん」
違うって。
あくまでも、仲間にできるだけだよ。
俺は自分の左薬指にはめられた指輪に目を向けた。
『祝福の指輪』。
『浮気者の指輪』と『教会の指輪』が融合し産み出された、俺の新しい『プレゼント』である。
もう1つも同じ名前だ。効果もほぼ同じ。
前の2つの指輪の効果を1つに凝縮した物となっている。
しかし、俺のアイテムボックスに眠っている物は、更に追加の効果があった。
『対となる指輪を持つ者の仲間になる』。
つまり、この指輪を指にはめてしまった者は、女神でさえ、俺の仲間になってしまう強制力を持った『プレゼント』なのだ。
リリア様曰く、好きな相手にプレゼントしてください、とのことだったのだが。
好きな相手と言われてもなぁ……。
「要するに結婚ですよね? 何が違うのです?」
いやぁね? リリア様から説明してもらった後に、他の女神様達から一言あったのよ。
……それを聞いたらさ。
『もしも、ミャアにそんなものを寄越すっていうのなら、遊び相手くらいにはなってやるのニャ。遊ばせてもらうのニャン』
『まぁ、戦闘くらいなら手伝ってあげるよ。いろんなところに連れて行ってくれると嬉しいなぁ。……エッチな事は、ちょっと……』
『なぁ!? そういうこともしなければならぬのか!? え、えっと……、妾もそういうことは……の? と、とりあえず、構ってくれれば嬉しいのじゃ! うむ!』
『ん? 私は戦うしかできんぞ? 後、毎日美味しいご飯を用意しなければ、実家に帰らせてもらうからな。……あ、ち、違う! そういう意味ではない!』
『……何も言うことはありません。貴方の思う通りにしてくださいな』
って感じでな。渡したからって結婚するって訳じゃ無さそうだったんだよね。
でも、皆さん嫌だとは言わなくてさ……。
「おーう、モッテモテじゃん! 良かったね、私だったら全員いただきますって感じだけどな……って、アンズちゃん、かんじゃ駄目だよ? 興奮するから」
アンズがあむあむとケルティの腕を噛んでいる。……ケルティにはどうってこと無いようだが。
で、だ。
お前らもこの間のあれ見ただろ? フォークが飛んできたやつ。
「ああ、あの……」
この前ケルティ達とこの部屋で話をしていた際、ちょっとした一言のせいで、カルリラ様の攻撃が飛んできたのだ。
フォークが壁に突き刺さった。
「それがどうしたのさ?」
なんかさ、どの女神様を選んだとしても、俺はろくな目に会わない気がしてさ……。
下手をこいたら、俺は女神様全員に何度でも繰り返し殺されてしまうかもしれない。
「……それはあるかもねぇ。でもそれだけだよ? せっかくのゲームなんだから、普段できない事をしようよ」
ケルティはそう言ってアンズの事を優しく撫でている。
そりゃあ、そうやって割り切るのが一番なんだろうけどさ……。
「わかったんなら、出てった、出てった。自分の欲望正直にいきなさいな。私はそうすることにした」
ケルティはニカっと笑って俺の事を追い出した。……なんだよ、相談のってくれるって言ったくせに。
けど、ケルティの言ってることは正しい。
ウジウジと悩んでいる暇があるのならば、自分の好きなようにやって、失敗してしまえばいいのだ。
そっちの方が何倍もスカッとする。
まずは先輩との仲直りといこう。じゃなきゃ何も始まらない。
そう考えて、俺は訓練道場を後にして、廊下に出た。
途中で大槌を持ったかわいらしいパン屋の少女とすれ違ったが、何も見なかった事にしよう。うん。
俺はケルティの無事を祈りながら、先輩の自室に急ぐのだった。
・サンドバッグ係
スキルレベルを上げる為の犠牲……犠牲? 叩く方も叩かれる方も、ガンガンレベルが上がっていく。
・殺されてしまうかもしれない
……わたしは、殺さないよ? ホント、ホント……。




