ドキッ! りんりんの初体験!~ポロリもあるよ?~
じゃこん、という音と共に、ギロチンが落とされた。
ガッ、コッ、と固いものが床に転がるような音を立てて、ヒビキの頭が転がっていく。
コロコロと転がるそれが自然に停止すると、バラバラと粉々になって崩れていった。
そうか、ヒビキは生物じゃないから、ミンチにならないんだ。ああやって風化してしまうんだ。
そう思うと、何故か虚しさを感じてしまう。
「はい! ヒビキ君の首が飛びましたー! りんりん、こういうの初めてだったけど、上手にできたかなぁ?」
ギロチン台の前で、フリフリの洋服を着たりんりんがアイドル活動に精を出していた。……斬首系アイドルか、新しいなぁ。
「うひょーう! りんりん殿ぉー! りんりんの初体験、とっても可愛かったでござるよう! もっと! もっと!」
タビノスケも楽しそうにはしゃいでいる。親衛隊としてもこの取り組みに関しては許容範囲内だそうだ。寛容さが違うぜ。
「ふふふ……ライブ配信も良い感じに人が訪れているようだ。お前達のお陰で、私の軍資金が増える増える……」
俺の隣で、ミラアが嬉しそうにパチンコに行ける事を報告してくる。……それは良いんだけど、何でお前もギロチン台に固定されてるの? 今度は何やらかしたん?
「実は、お前達を揃って召喚したのは『ドールズ・メイド』が袖の下を通してきたからでな。共謀罪だそうだ」
お前、そこまで重罪でもないだろ? 悪いの俺の弟じゃん。
「いや、私が自ら出頭した。こういうのも経験だと思ってな。初めての経験だが、こうやって見世物にされて死ぬのは中々悪くない。……じゅんときた」
……どこがとは聞かない事にしよう。
そうかぁ、あの時にヒビキが召喚されていなければと思ったけど、そもそもヒビキの計画通りだったんだな。
ところで……次はお前の番らしいぞ?
りんりんは手を観客席に振りながら、ミラアのギロチンを支えている紐に手をかけた。結んである紐をほどけば、すぐさま刃がミラアの首を切断するだろう。
「マジか。……や、やめろぅ! 私はまだ死にたくない! 金なら払う! 私は悪くないんだ、この隣の男が私にやれと命令したんだ! 私だけは許してくれぇ!」
ミラアがRPを始めた。……って、おい。俺を巻き込むな! ち、違う! 俺は何も言っていない! 全てはコイツのRPなんだ! 騙されるな! やるならコイツも殺せ!
俺がそう叫ぶと観客席がざわっとする。その様子に、俺は嫌な予感がして耳をすませた。
「なんか……『死神』の奴怪しいな……」
「新しい余罪の予感……」
「そもそも……今回『メテオ・フォール』使う意味無かったよな?」
「ミラアさんドMだって言うし……そういう約束だったんじゃ……」
「それかー……虫の如くぷちっと潰して欲しいとか、そんな感じかな……?」
あること無いこと言いやがって……!
ミラアさ~ん、頼みますよ~俺の無実を証明してくれませんかね~。
俺はすがった。コイツの口から説明させた方が早い。と言うか、俺がいくら喚こうが目の前の観客どもは納得しないだろう。
すると、ミラアはこそりと小さな声で俺に要求してきた。
「……お前が今までしてきた拷問を、私にもしてもらおうか? なるべく長く……キツイやつが良い……ふふふ」
え? 嫌です。
じゃこん。
俺が拒否するのとほぼ同時に、ミラアのギロチンが落とされた。
ゴトリと重量感が感じられる音を出して地面に落ちた生首は、満足げな表情をしている。
ワッと歓声が上がるとミラアの身体が弾け、ミンチになった。数分後の俺もこうなるのだろう。
「それじゃあ最後に! クランのシリアルキラー、『死神従者』、ツキトを処刑するよー!」
いぇーい!
俺は自棄になった。こうなったら、みんなと一緒に盛り上がってしまおう。
「ツキトも死ぬ気満々だね! それじゃあみんな! カウントダウンはっじめっるよー! 10! 9!」
8! 7! 6!
俺を含めた全員が一つづつ、カウントをしてゆく。それはまるで、年越しに浮かれている若者達の様だった。謎の一体感を感じざるを得ない。
そしてカウントがゼロになった瞬間、しゅるる、という紐が擦れる音が聞こえた。
刃が落とされたのだろうと思っていると、視点が変わり、俺はギロチン台を見下ろしていた。
異常無く刃は首を切断したようで、俺の身体は弾けてしまう。
俺の死に、観客は雷鳴の様な歓声を上げた。中には感極まって泣き出し、隣の人と抱き合う者もいた。
こんなに喜ばれるなら、たまには死ぬのも悪くはないかな……?
そんな事を考えながら、俺はログアウトするのだった。
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「いや、その前に自分の人望の無さを嘆いてほしいんだけどなぁ? 自分がサイコパスとか言われてるの、自覚無いよね?」
俺は椅子に座っている先輩に怒られていた。いつものである。
しかし、今日の先輩は美少女モードの姿をしていたので、俺としては眼福でしかなかった。幸せ。
……ところで、今回のそもそもの原因なのだが、ヒビキが俺と冒険者ギルドで戦えなかった事が原因らしい。
本人としては、個人的に決着を着けたかったのだが、その後は情報の整理や演習の準備に追われてそんな暇が無かった様だ。
なので、演習の助っ人システムを利用し、たまたま戦場で戦うことになった体で戦おうとしたらしい。
だが、そこで我が弟はとある事に気付いてしまう。
立ち会ったとして、真面目に戦ってくれるだろうか?
ちなみに、俺はヒビキと戦う事になったら逃げようと思っていた。苗床になるのは嫌だし。
そんな俺の考えを看破した弟は計画を実行。余った材料で新たな猫耳カチューシャを作り、先輩を言いくるめてログアウトさせたのだ。
こうすれば、先輩を苗床にしたのだと、俺が勘違いするだろうと考えたらしい。……勘違いしたよ、畜生。
そうやって全力で戦えたヒビキは今は満足して、戦力の回復をすると言い残し、姿を消してしまった。
けれど、こんだけ痛い目を見たのだから、しばらくは大人しいままだろう。
……と言う訳で、ヒビキが全部悪いんですよ。マジですいませんでした。
俺は深々と先輩に対して頭を下げる。伝統芸能、土下座の構えだ。
「ツキトくんの日頃の行いが悪いからに決まってるでしょ。それに、殺戮したのは君だからね? 反省してね?」
はい……。申し訳ありません。
全員殺したのは事実だから言い訳できねぇ……。でも、あの数を殲滅するためには『メテオ・フォール』じゃないと無理だったしなぁ……。地道に殺すのも難しかっただろうし……。
「あとさ……」
俺が頭を床につけながら色々考えていると、先輩の様子が変わった。どうしたのだろうか?
「僕がログアウトしている間の様子は動画で見ていたけど……ツキトくん結構怒ってたよね。……何で?」
何で、と言われましても……。
先輩が酷いことをされたと思いましたし……、俺達の目の前に姿を出せない程、ショックを受けていると思ってましたんで。
俺が姿勢を正すと、先輩は何かを考える様子で、その黒い髪の毛をいじっている。
「ふーん。そうなんだ。……じゃあ、きみは僕のことをどう思ってるのさ? そんなに心配するのなら、ちゃんとした理由があるよね?」
理由ですか?
……だって先輩は、俺の大事なパートナーじゃないですか。
今回、本当にヒビキにやられて、心を病んでしまっていたら俺は悔やみに悔やみきれませんよ。
本当に、無事でよかったと思ってるんですよ?
「ほう~……なるほどね~……」
先輩は不満そうな顔をしていらっしゃる。……もう一声足りなかったかな?
先輩は頼りになりますし、可愛いですし、もうずっと側に居てほしいくらいですよ。忙しくなかったら、また一緒に冒険したいです。
俺は苦し紛れにそう言った。……取り敢えず、機嫌をとっておいて損はないだろう。
嘘は言っていないので、俺は悪くない。
「そう言うわりには、農作業とかクエストにはあんまり誘ってくれないよね? ログインしても顔を見せない事もあるし」
う、嘘は言ってないんですよ? 先輩も新しいメンバー達の育成とか修行とかで忙しいですし、予定が中々合わないだけなんです。
予定が空いてれば、声をかけてるつもりなんですよ?
俺が必死に説明すると、先輩はじっと俺を見つめてくる。……こわい。
「ん~……ギリギリ合格点にしてあげようか。……ちょっと、ここ座りなよ?」
先輩は椅子から立ち上がると、俺に座るように促してきた。……殺されるんですかね?
「きみじゃないんだから、そんな事はしないさ。ほら、座った座った」
俺は警戒しながら椅子に座った。
先輩の椅子は、大きめの玉座で、彼女が座っても大きすぎる物である。座り心地は抜群にいい。
ついつい肘をついて、ポーズをとりたくなる。
「じゃ、失礼しまして、っと」
俺が座ったのを確認すると、先輩は俺と向かい合うように椅子の上に乗ってきた。
いきなりそんな事をされたので、ビクりと身体が硬直してしまう。その隙に先輩は俺の肩に顎を乗せ、抱きついてくる。
ちょ!? 先輩!? ちょー!?
俺は焦った。
「こういうの、好きなんだろ? ヒビキくんから聞いたぜ? こういう体勢のが好きみたいだって。何がかは、教えてくれなかったけど」
アイツ、何を先輩に吹き込んでるんだよ……。何が目的なんだ……。
まぁ、こういう体勢好きだけど。好きだからこそ沸き上がってくる何かを抑えるのに必死なのですが。
精一杯って奴だ。俺は頑張っている。
「……なんか、こうやってると、懐かしい気分になってくるね。子供の頃にお父さんに抱きついていたのを思い出すよ。……ツキトくんはどう?」
先輩の純粋な感想とは真逆の、いけない気分になってきたなんて言えるわけがない。……あ、モゾモゾしないで! 危ない! 危ないんで! 先輩、俺をからかうのも程々にしてくださいね!?
「ふふ、ご褒美だと思ってよ。……そんなに慌てちゃってさぁ、ホントは好きで好きで堪らないんだろう? 正直になっちまえよー? うりうり」
そう言いながら、先輩は頭を擦り付けてきた。
ああ!? いけません、いけませんよ先輩!? 困りますから! どうすればいいのか困っちゃいますから!
俺は抜け出そうともがくが、ガッチリとホールドされていて、中々抜け出せない。
確かに、嬉しい。嬉しいけれども
我慢が、我慢の限界が……!
「……何ヤってんの?」
と、そんな事をパンクしそうな頭で考えていたら、声をかけられた。
ハッとした俺は目の前にいる、声をかけた人物に目を向けた。
そこには、如何わしいものを見る目で俺達をみているパスファ様がいた。
なんてこった。よりによって女神様に見られちまった。死ぬ覚悟をしなければならない。
先輩も振り返り、パスファ様の姿を確認する。
すると、先輩は静かに子猫の姿にへと戻った。そして俺の腹にしがみつき、「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」と呻き声をあげている。どうやら見られるのは恥ずかしかったらしい。かわゆい。
「ホントに何してるのさ? ……と、まぁそんな事はいいんだ。わたしは『浮気者』に用事があってきたんだよ」
パスファ様はそう言うと、ぱちんと指を鳴らした。すると、足元を中心にして、床に魔方陣が出来上がる。……転移魔法ですかね?
「そうだよ? ちょっと用事があってね。……そろそろ決断の時期らしいんだ。リリア様が連れてきて欲しいってさ」
あー、リリア様が……って、決断? 何がですかね?
身体が半透明になっていくのも気にせずに、俺はそう質問した。もうすぐ転移が終了するだろう。
「何がって……そうだなぁ……」
パスファ様は少し照れて、はにかむ様に俺の質問に答える。
「うまくは言えないけど……強いていうなら……花嫁、かな?」
……………………はい?
それは、どういう……?
その答えの真意を聞く前に、魔方陣が発動。俺の目の前を真っ白に染め上げてしまったのだった。
・ポロリ
もちろん首の事である。如何わしいことなど何一つない。
・処刑
娯楽として提供するには少し刺激が強すぎるのでは? ……割りと楽しいけれど。
・……あれ?
そういえば、何か足りないな? いつものは?




