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反省会をしよう……いや、罰とかそういうのはないから

 ━━PLチャイムに告げる。

 一刻も早く『処刑室』まで出頭せよ。


 そんなチャットをチャイム君の送ってから一時間。中々彼は来てくれない。

 折角、移動式の黒板や椅子と机、お菓子とお茶まで用意したのに……残念である。


「中々来ないでござるなぁ。あのケモナー、どこかで盛っておるのでは?」


 そう言いながらタビノスケは器用に触手を使い、クッキーを食べていた。剥き出しの歯がいい感じにキモい。


 ……チャイム君の分は残しておけよ? 後、アイツはケモナーじゃなくて、犬耳フェチではないのか? ……ずずず。


 俺はお茶を啜った。


「拙者にはよくわからぬでござるが、今日のにゃんこりんは最高でごじゃった……。ついSSを撮ってしまったでござるよ」


 タビノスケはアイドルオタだもんなー。……実際どうなのよ? りんりんってネカマかも知れんぜ?


 俺が質問をするとタビノスケはガチガチと歯を打ち付けて笑う。


「ははは、構わんでござるよ。拙者達が見たいのは理想の偶像でござる。実際のアイドルだって枕営業や虐めみたいなスキャンダルはあるで候う。だから、ゲーム中だけでも拙者達の理想になってくれるというのなら、それで満足でござるよ」


 いろいろあるんだねぇ。


 そんな闇がチラ見えするような会話をしていると、処刑室の扉が開いた。……やっときたのか。


 遅いよ~チャイム君。なにやってんだよ、早くしないとタビノスケがクッキー全部食べちゃうよ……。


 ……そのカッコ、どしたの?


 部屋にはいって来たのは間違いなくチャイム君だったのだが、いつもの革製の装備ではなく、白装束を身に纏い部屋に入ってきた。


「農場長……! この度は貴方を疑ったばかりか、期待に答えることができず誠に申し訳ない……!」


 そしてすぐさま地面に膝を付き頭を垂れてきた。


 ちょっと何言ってるのかわからないんだけど……とりあえずこっちに来て座ろうか?

 今から、さっきの演習について……。


「わかっております! 責任を取るのですな! 準備はして参りました! ……タビノスケ! 貴方に頼むのは失礼と存じているが、武士の情けと思い、介錯をお願いしたい……!」


 そう言って、チャイム君は正座して小刀を抜いた。そしてその刃を自分の腹に当てるように構える。


 いや、別に処刑するために呼んだ訳じゃ無いから。この部屋が空いていただけだから。


 タビノスケ、お前も説明してくr。


「承知……! このタビノスケ、承ったでござる……!」


 承知すんなや!


 という掛け声と共に、俺は両名を大鎌で切り殺した。……まったく、一度殺されなきゃわからないのかね? 本当。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 二人を復活させ、椅子に着席させた後に、俺は反省会を開始した。


 えー、先ずは各陣営の作戦計画を教えて欲しい。……つっても、『猫派』は演習通りの内容だから、要点だけ教えてくれ。


「そうでござるな……。りんりん殿からバフをかけてもらい突撃、シーデー殿とアーク殿は先行して罠を張って貰う……これくらいでござるなぁ。守る事は考えていなかったでござる」


 まぁその通りだったな。よくも悪くも計画通りって事だな。

 これについて……チャイム君、何か言いたいことはあるかね?


「……失礼とは思うのですが、『猫派』のそれは作戦と呼ぶにはあまりにもお粗末なのではないかと」


「チャイム殿、それは否定しないでござるが……、拙者達は個人の判断に任せたところが大きいのでござるよ。あと、少し固いでござる。ささっどうぞどうぞ……」


 タビノスケはそう言うと、チャイム君の机にお茶とお菓子を置いた。


「む、申し訳ない。……だが、俺としてはどうしても腑に落ちないのです。りんりんに魔法を封じられたとは言え、あの爆発が無ければ勝てたかもしれないというのに……」


 チャイム君の作戦は、防御陣地を作って魔術師を守りながら戦う感じだよな? で、魔術師の支援を受けながら、白兵戦をする流れだったと思ったんだが?


 俺がそう聞くと、チャイム君はコクりと頷いた。


「そうです。あのまま戦っていれば勝機はあったはずです。我々はどちらかと言うと近接戦闘を得意としておりますから」


 そう語るチャイム君は自信に満ちた目をしているが……。


 多分あのままやってても負けてたと思うよ?


 俺の考えは違っていた。


 チャイム君は驚いた様にあんぐりと口を開いく。まさか、そんな風に言われるとは思っていなかったのだろう。


「な、何故ですか!? あんな防御を捨てた作戦、成功する訳がない! 理由をお聞かせいただきたい!」


 そう叫んで立ち上がったチャイム君を、タビノスケがまぁまぁと宥める。


「落ち着くでござる。何も拙者達も無策で突撃した訳ではないでござるよ。……戦場のど真ん中で『ギフト』を使い、注目を集めたのも作戦の一つだったのでござる」


 そこまで言うとタビノスケはお茶をすすった。


「……確かに、貴方の遠距離攻撃は便利なものだろう。あの位置にいれば何処にでも攻撃できたはずだ。しかし、そうすれば指揮官である貴方が倒される原因に……」


 いや、『猫派』はタビノスケが倒されたとしても関係なかったと思うぞ?

 アイツら基本自己判断で動いているから、タビノスケが指示を出したのは演習開始前と突撃の号令ぐらいだな。


「そうでごじゃる。全員が作戦を頭に叩き込んでいるから、拙者が指示を出さなくとも勝手に動いてくれるという訳でござるな。拙者が死んだ後、誰が指揮を取るのかというのも決めていたでござるよ?」


「……成る程、確かにこちらの陣営は、俺が指示を出さなければ動けていなかった様だ。しかし、それでも……!」


 やはり、チャイム君は納得がいかないらしい。


 認めたくない気持ちはわかるけどよ、タビノスケは宇宙外生物だぞ? どんな特性があるか忘れたのか?


 俺がそうチャイム君に質問すると、彼はハッとした表情を見せた。


「宇宙外生物共通のスキル、狂気散布……!」


 そう言うこと。


 タビノスケの様な種族『宇宙外生物』のPLの『プレゼント』には必ず周囲を発狂させる効果が付いている。


 味方には効かないが、長い時間宇宙外生物の近くにいると、混乱や恐怖、狂気のバッドステータスが発症してしまうのだ。


 この能力は戦場ではかなり有用なものだろう。


「つまり、作戦からしても我々は負けていたということですか……ふふっ。自らの策を過信した結果ですね……」


 チャイム君は落ち着きを取り戻し、自嘲気味に笑った。


 そんな彼の肩を触手が優しくポンポンと叩いた。タビノスケも慰めているらしい。


「チャイム殿。拙者達が勝てたのはたまたまでござる。シーデー殿とアーク殿がこちらの陣営に参加してくれなかったら、戦いはもっと長引いていたに違いないでおじゃる。そうなったら、どちらが勝っていたのかはわからなかったでおじゃるよ」


「お気遣い、感謝する。だが、結果は結果。また新しい作戦を考えていかなくては……」


 ん?

 チャイム君、お前まだ自分の敗因わかってないみたいだな。


 そう言うとチャイム君は首を傾げた。タビノスケも、触手でクエスチョンマークを作っている。


 どうやら、お互い『猫派』が勝てたのは必然だったと思っているらしい。


 いいか? 今回犬派が負けた一番の原因は、白兵戦を陣地から出て行おうとしたからだ。


「なっ……。お、お言葉ですが、農場長。攻めなければ戦争は勝てません。魔法で全員を殺すのも限界がありました!」


 いや、そうでもない。


 魔法を使って大した効果がなかったにも関わらず、魔法使い達に続けて攻撃させたのはりんりんを潰せると判断したからだろう?


 それは正しい判断だ。

 ダメージの肩代わりは近くのファン達にしかできない……そうだよな?


「ツキト殿の言うとおりでござる。その為に護衛を残してきたのでござるからな」


 りんりんの魅力攻撃は早めに潰しておかないと被害が大きくなる。けれど、タビノスケの狂気散布は、その姿を見なければ効果は無い。


 つまり、りんりんが倒れるまで遠距離攻撃しながら陣地に引きこもっていれば、勝てたのは『犬派』だったかもしれないぞ?


 壁と塹壕を作って、陣内戦を有利に立ち回る事ができる環境はあったのに。


 ……焦りすぎたな。


 俺の説明を聞いて、チャイム君はがっくりと項垂れてしまった。


「申し訳ない……、俺は農場長が言っていた事を誤解していたみたいです。……精進します」


 まぁ、あんまし気にするもんじゃないさ。

 とりあえずこれは一回目の反省会なんだからな。


 『猫派』にだって直さなければいけない要素はかなり多い。少しずつでも前に前進できれば……って、ちょっと待って。


「はい、何ですか?」


 最初にここに入って来たときに、俺を疑うとか期待に応えられなかったとか言っていたけどさ……どういう事?


 なんか、まるで俺がチャイム君に入れ知恵したみたいになってるじゃん。


「? 何を言っているのです? 農作業をしながら戦術指南をしてくれたのは農場長ではありませんか」


 ……あー。


 愛好会の皆様とはちょくちょく農場で一緒に畑仕事をしているのだが、いかんせん黙って仕事をするのも気まずい。

 なので、無駄話に花を咲かせて楽しく仕事をしているのだが……。


 そういえばそんな話をしたような気もする。


「その時に、集団戦になったのならば防御を重視すべき、防御した部隊を攻略するためには3倍の戦力が必要だと教えてくれたではないですか」


 ああ……言った記憶あるわ……。


「ご指導されたのに、今回はそれを活かせませんでした。しかもこちらの作戦を看破できたはずなのに、伝えていなかったとは……裏切られたと疑ってしまいました、申し訳ない」


 あぁ……うん……。


 何てこった、コイツに入れ知恵したのは俺だったのか……。

 どうする……。先輩の耳にこの話が入ったらまた裏切り容疑でミンチにされちゃう……。


 俺は二人を見た。ポカーンとしている。


 ……口封じをするべきだろうか?


「ツキト殿、人殺しの目になってるでござるよ。収めて、収めて」


 はっ、……危ない危ない。よく考えたら、今から二人に戦術を叩き込めばいい話だ。いちいち殺す必要もないか。


 ……よし、お前ら。

 今からさっきの演習を参考にしてお前らに戦術指南を行う。


 頼むから、次はまともに勝負してくれよ?


 じゃないと俺先輩に怒られちゃうから……。


 という訳で、俺の授業が始まったのだった。

・白装束

 死ぬことを覚悟していたらしい。けれどこの世界に切腹何て文化は無いのであしからず。というか結局殺しちゃってるし。

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