第1回『わんにゃん大戦争』
俺、一生先輩に付いていくわ。
まさかあんなことカミングアウトされるとは思わなかったし。
そんでもって、俺が目を覚ました後、照れ隠しで殴られたから本当の話っぽかったし。顔、真っ赤だったし。俺死んだし。
いやぁ、暴走する女の子っていうのは可愛いものですね? 心が穏やかになりますよ。
けれど、やられっぱなしは俺の性分にあわない。復活して、先輩を弄りにいこうじゃないか。
と、ログインし直してクランに復活した瞬間、目の前から包丁が飛んできた。
なんとなく予想していた俺は、体を半身にしてそれを避ける。……流石に何度もやられていれば俺だって学習しますよ? カルリラ様。
『なるほど。成長しているということですね? ですが、油断はいけません』
そう言われた瞬間、俺は俺を見ていた。
死ぬ瞬間の第三者目線への変更である。
まずいと思ったときには、何もない所から出てきた大鎌の刃によって、俺の首が切り落とされていた。
カルリラ様からの天罰は、遂に直接的な攻撃に移行したようだ。
『次からは、これでいかなければいけませんね。……ツキト様、あまり女の子をからかうものではありません。わかりましたか?』
はい……。すいませんでした……。
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そんな若干理不尽な事があったけれど、俺は元気です。
クランの会議が終わった次の日、俺達はサアリド郊外にある草原に訪れていた。
今はそこに設営した簡易テントの中で、この前の会議の面子と用意された資料に目を通している。
今日は予定通り、戦争に向けての演習を先輩を旗印にした『猫派』と、駄目っ娘チップ愛好会率いる『犬派』に別れて行う為だ。
それにあたり、ミラアがルールを考えてきてくれたのだが……、すこし気になるところがちらほらとあった。
なんか、先輩とかゼスプとか……一人で無双できそうな奴等の名前が抜けてるんだけど、これどういう事?
自主的に張り付けになっているミラアに、俺は質問した。
「ふごっ……ふごごふご、ふぐごごぐ、ふごごご……」
あ、猿轡してたの忘れてたわ。今外すから待っててな。
俺はミラアが自分から付けた猿轡を外してやった。取らなくてもいい目隠しは取らない。……いや、なんか怒られそうだし。
「……ぷはっ。はぁはぁ……、私は……私は何をされるんだ?」
おっと、ただいまRP中らしい。俺には関係無いが。
すまん、ちゃんと答えてくれたら拷問してあげるから。素直に言うことを聞いてくれ。
「くっ……何をしても、私を拷問にかける気だな……? 外道め、私はどんな辱しめも甘んじて受ける覚悟だ……! 簡単に情報を吐かせると思うなよ!? ……少し、激しめだと嬉しい」
面倒くっさ!?
お前、面倒臭いよ!? 話が進まないからぱっぱと説明してくれねーかな!? 資料を手渡したら自分で器用に張り付けになりやがって! 訳わかんないんだけど!?
いまいち、これまでの変態達とは毛色が違うミラアの扱いには手を焼いていた。ヒビキやケルティでさえドン引きしてるし、どうしろってんだよ?
「……なんだつまらん。仕方ないから説明してやるとするか」
と、思っていたら、ちゃんと話してくれるようだ。
ありがてぇ。
「前提を忘れているようだから説明するが……お前達の様な奴等が手を出してみろ。すぐに演習が終わってしまう。そうなれば、演習の意味が無い」
上から目線なのが気になるが、言っている事はわかる。
結局のところ、俺達が暴れると力で圧倒できてしまうから、戦略の訓練にならないという話だろう。
でも、それだと俺達見てるだけじゃん。
そりゃあ見てわかることもあるんだろうけれど、あんまりにも退屈だぞ?
「ふん、それに関しては考えがある。……資料を見てもらったらわかると思うが、今回の会場は何もない草原での殺し合いだ。何もない場所だからこそ、事前に作戦を頭に叩き込まなければならない」
俺はもう一度資料に目を通す。……事前に会場は壁で囲っているようだ。その中で二組に別れて戦うらしい。
その中には何個かフラッグが設置してあるようだ。……なにこれ?
「そのフラッグを自陣に持ち帰る事ができれば、派閥に合わせてお前らの誰かがに会場に召喚される様になっている。召喚されたら思う存分腕を振るうがいい」
ミラアの『プレゼント』の『マーカーペン』はワープポイントを設置する能力だ。
どうやら、結構いろんな応用が効く能力らしく、PL自身にポイントをつける事もでき、ミラアのタイミングでランダムな召喚もできるそうだ。
「ちなみに、既に全員ポイント済みだ」
……うっそ。いつの間にそんなことしてたのよアンタ。
「企業秘密だ。それと、戦いの様子は私の奴隷達が中継している。音声も聞こえる様にしたから、存分に研究をするといい」
それを聞くと、ゼスプは立ち上がった。
「それじゃあ、オレ達『犬派』は隣のテントに移動しよう。……戦場であったら全力で頼む」
ゼスプはそう言って『犬派』を連れだって出ていってしまった。……意外にゼスプもやる気なのね。
俺は『犬派』を見送り、ミラアにもう一度猿轡をつけ直して頬をぶった。ご褒美である。
「ぐふぅん……!?」
嬉しそうだ。
その後、俺は残った『猫派』の面子を確認する。
先輩にケルティ、サンゾーさん
ミラア、ワカバに俺を加えた6名だ。
対する『犬派』はゼスプ、ドラゴムさん、メレーナ、ヒビキ、ビルドー……最後は代表に持ち上げられたチップの6名である。
一応、人数で見れば均等ではあるが『猫派』は戦闘向けの人員が少ない。若干不利な気もするが……そこは現地で戦ってくれるクランメンバー達に期待しよう。
俺がそう考えていると、椅子の上でお座りしている先輩が声をかけてくる。
「ツキトくん、今回の演習メンバー達はどんな感じになっているのかな。ある程度は君の方で調整したって聞いたけど?」
そうですね、どっちも可愛い派が多かったので、そのあたりはほぼ均等になるように分配しました。
俺も全員の『プレゼント』を把握している訳では無いので細部の実力はわかりませんが、総合的に考えればトントンではないでしょうか?
「ツキト、聞き忘れてたんだけどよ、現場に指揮官の様な奴はいるのか? ちゃんと指揮を出してやんなきゃ演習の意味がねぇぞ?」
ワカバがダルそうに椅子に寄りかかりながら聞いてきた。
ワカバの言うことは最もである。
基本暴走気味のPL達をまとめることができなければ、いくら数が多くともそれは烏合の衆と変わらない。
だが……。
「あー、大丈夫じゃない? 一応アイツらにも声かけたんでしょ?」
ケルティには察しが付いているようで、膝の上に乗せているコボルトのアンズを撫でながら俺に聞いてきた。……犬なのにネコとはこれいかに。
……まぁ、大丈夫だ。ちゃんと考えているよ。
『ペットショップ』及び『魔女への鉄槌』には二つの過激派が存在する。
一つは『犬派』に付いた駄目っ娘チップ愛好会。
リーダーのコボルト、チャイム君の率いるチップの為なら何でもやってしまう武闘派集団である。
常に集団戦で戦ってきた彼らは、チャイム君の指揮の元ならば数倍の実力を発揮する事ができるだろう。
チャイム君の能力は部下の強化するものであり、今回の演習では多いに活躍してくれるだろう。
『犬派』はチャイム君に任せれば大丈夫だ。
「うむ……。『犬派』は中々手強いと言うことはわかった……。じゃが、『猫派』は誰が指揮を取るのだ? 他に武闘派集団と呼べる者達はいないはずじゃが?」
難しそうな顔をしてサンゾーさんが俺を睨み付けてきた。
……そんな怖い顔しないでくださいよ?
実はサンゾーさんが全く興味が無いだろうPLが、戦争にはぴったりの能力と大量の兵隊を持っているんです。……ミラア、ウィンドウ映してくれ。
俺はそう言って、ミラアの頬をもう一度ぶった。
ミラアは嬉しそうに身震いして、大きなウィンドウを表示する。
そこには両陣営が闘う会場の様子があらゆる角度から映されていたのだが、明らかに戦場には似つかわしくない物があった。……ライブステージである。
「……なんじゃあ、コイツは」
サンゾーさんは戸惑いの様子を隠しきれていないようだ。
ステージの上ではネコミミを付けた幼女が楽しそうに歌って踊っている。
それを見ている観客は多いに盛り上がっており、統率された動きで彼女を応援していた。
職業アイドルの小人のPLりんりんと、彼女の親衛隊達である。
親衛隊長である宇宙外生命体のPLであるタビノスケに話を聞いたところ、りんりんが参加する陣営に付くと言っていたので、りんりんに頭をさげ『猫派』に入ってもらったのだ。
りんりんの能力は自分にターゲットを集中させ、判定に成功した敵PLに対して魅了のバッドステータスを付与しつつ、味方にはステータスを向上させる事ができる。
そして、タビノスケ率いる親衛隊は、りんりんを守るとなれば狂った様に闘うだろう。恐怖を知らない特効兵達である。
愛好会程の統率力は無いが、士気の高さでは親衛隊の方が勝ると判断した。
そう説明すると、先輩が怪訝そうな顔をする。
「勝負にはなるかも知れないけれど……、検証になるかなぁ……」
そのあたりはやってみないとわかりませんね。けど、何回か繰り返しやっていくうちに、見えてくるものがあるでしょう。
それを活かせるように、していくのが俺達の仕事でもありますし、ね?
「……確かに、その通りだね。それじゃあ、始めちゃおうか。ゼスプに準備ができたってチャットを送っておくよ」
了解しました。
それじゃあ、ゆっくりと観戦でもしますかね……。
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ウィンドウの中で両陣営の長が睨みあっていた。
『犬派』はコボルトのチャイム君が両手に小刀を装備し、片方を『猫派』の陣営に向けている。
『義は我々に有り! アイドルなどにかまけている腑抜けどもに鉄槌を下そうぞ! 準備はいいか!』
チャイム君の気合いのこもった雄叫びに『犬派』が更に大きな声で呼応した。
それに相対するタビノスケは、身体から生えている大量の触手の先に刀を装備して今にも襲いかかりそうな様子を見せた。
『拙者達の愛に義は無いと? ……言ったでござるなぁ!? お前らぁ! りんりん殿をお守りしろ! 拙者達の命を捧げるのでござるぅぅぅぅぅ!』
その言葉に、親衛隊達が目を狂気に染め上げ叫びをあげる。
全員が武器を抜いた後に、カウントダウンが始まった。
そして、それが0なった瞬間、両陣営の緊張が弾ける。
こうして、演習は開始されたのだった。
・天罰
気に入らない信者に対して女神が行うことのできる攻撃。……けど、カル姉の場合は少し事情が違うみたいだ。
・猿轡
いや……これ猿轡じゃなくてギ○グボールじゃん。だから、なんでこんな物を持ってるのさ? おかしいでしょ?




