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クラン会議~戦争に向けて~

 カルリラ様の話を聞いた後、俺達はパスファ様に連れられてクランに帰って来た。


 その日は先輩と話し合って、次の日に会議を開いて情報を共有することとなり、俺達は解散した。


 『怠惰』の邪神の討伐方法、戦争における邪神の出現する可能性、他のPL達が集めてきた情報等……。

 お互いに知っておかなければいけないことは多い。


 そして、その情報を元に今後の方針も決めていかなければならない。


 イベントの開始まで時間も少なくなってきている。


 いつものクラン会議はみんな緩い感じでふざけながらやっているが、今回ばかりはみんな真面目にやってくれるだろう。


 メリハリはしっかりしていかなくては……。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「え~……、カルリラの話を聞いていた際、ツキトくんが処女厨だった事が判明しましたが、その件には触れないであげてください……」


 会議ではお決まりの、開幕俺弄りである。


 先輩、違うんです。

 カルリラ様の清楚のイメージが崩れそうになっただけなんです。でも、カルリラ様はそういうことはしていないと言っていたじゃないですか。

 俺はカルリラ様を信じますよ。そして俺は処女厨ではありません。それだけは本当なんです。


 そう言うと、すかさずケルティからツッコミが入る。


「要するに未経験のほうがいいんでしょ? ……ツキト、自分の性癖に正直になろう? ほら、ケルティちゃんが聞いてあげるから。ね?」


 ついでに性癖の暴露を促してきた。無駄に慈愛に満ちた表情をしている。

 腹立つわぁ。言うわけないだろ。


「兄貴は黒髪フェチです。短いのも、長いのも好きなはずですね」


 だが、弟が暴露した。……テメェ! なんで俺の趣味知ってんだよ!? お前に話したことありましたかねぇ!?

 ああ、あったわ! 畜生!


 俺は叫んだ。女性陣からの目線が少し痛い気がした。



 ……やはり、会議というものは静かには進まないらしい。残念だ。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 そんな感じで、いつもの面子に積極的ドMのミラアと、ネカマロリコンのワカバを加えた人員で会議が開始された。


 こっそり俺が撮っていた動画を見せたり、『怠惰』との戦いの様子を説明するなどして、俺の心配とは裏腹に会議は淡々と進んでいった。


 そして、別行動をしていたゼスプ達の報告も淡々と進む。


 今回、ゼスプ達はこの国『アミレイド』の国王に戦争の報酬の上乗せを要求するクエストに参加していたらしい。


 最初は報酬なしで戦えとか言われてたので、当然抗議が起きるだろうと思っていたが、NPCからクエストを受けることができるとは思わなかった。


 クエストの内容をざっくりと説明すると、国王軍との集団戦をし、勝てたのなら報酬を約束するというものだったらしい。


 一応PL達は勝利を納め、武器を改良できる施設が冒険者ギルドに設営されたのだが……。


「今回、参加したPL達は理解していると思いますが……。我々の死因の殆どが、フレンドリーファイアによるものです。……まさか、ここまで集団戦が苦手だとは自分でも思いませんでした」


 そう言って壇上のゼスプは深いため息をついた。ドラゴムさんをもふりながらの説明だったが、この際気にしないことにした。


 話を聞くと、敵の強さはそれほどでも無かったそうなのだが、PL側は我先にと敵に襲いかかってしまった事で、全く連携がとれていなかったのだ。


 普段から、戦うときは3~4人なので、人が多い戦場での戦い方を誰も知らなかったし、気にもしていなかったのである。


「魔術師勢は味方を巻き込みながら敵を吹き飛ばすし、近接職は単体で突っ込んで敵に囲まれる始末……私としては結構面白かったんだけどねぇ? 特に、逆ギレした戦士が魔術師達に切りかかった時はマジで笑えたよぉ?」


 妖精のメレーナが俺の耳元まで飛んできて、詳細を教えてくれた。……そんなことになってたの? 俺も見たかったわ。


「ツキト君もメレーナちゃんも……笑い事じゃ無いのよ? 本来なら全体攻撃ですぐに倒せたはずなのに、あんなに被害が出るなんて……」


 ドラゴムさんは憂いの表情を見せた。


 まぁ、ドラゴムさんのブレスで一掃できたでしょうしね。ちなみに、最後まで生き残ってたのは誰ですか?


 俺がそう聞くと、ヒビキが手をあげた。


「ボクとドラゴムさん、あとビルドーさんくらいだったよ? 最後は、兄貴の言ったとおり、ドラゴムさんのブレスで一掃した」


 ……味方ごと?


「味方ごと」


 俺はヒビキからドラゴムさんに視線を移す。


 すると、ドラゴムさんは恥ずかしそうに手で顔を覆った。……可愛い顔して意外に過激なんですね。


 というか、盾役のビルドーが生き残っているのはなんでなんだ? 真っ先に狙われて死ぬと思ってたんだが?


 俺の質問にビルドーはすぐさまチャットで返事を返してきた。おそらく、質問を想定していたのだろう。


『ビルドー 味方での同士討ちが多過ぎて、敵の攻撃を受けることは全く無かった。例えこちらに敵を引き寄せても、礼儀の知らぬ魔術師が私ごと攻撃を放つので、逆に味方に被害が出てしまう状態であった。能力を使うことができなかったのである。実のところ、味方の攻撃を引き付けていた時間のほうが多かった程だ……(-_-)』


 ロックゴーレムのビルドーの能力は、敵を自分の手前まで引き寄せたり、攻撃を自分に向けさせたりできる、いわゆるタンクの役割に秀でたものである。

 本来ならば集団戦で最も輝く能力のはずなのだが……。


「魔術師の範囲魔法は味方を巻き込みやすいからね。魔法のスキルを上げて巻き込みを制御するとか、味方を巻き込まない範囲を覚えるしかないね」


 そう言って先輩はやれやれといった様子で首を振った。


 ですが先輩、それでも巻き込みはしょうがないのでは? 言うこと聞かないで突っ込む奴は一定数いますし。魔法の耐性を上げてやるのが一番早いかと……。


 攻撃魔法には必ず何かしらの属性が付与されている。なので属性保護の魔法でバフをかけてやればある程度は耐える、のだが……。


 ケルティが違う違うと、俺の意見を否定する。


「例えそうしても、ちょっとはダメージ入るじゃん? そしたら、仲間割れが始まっちゃうんだよね。今俺に攻撃した馬鹿は誰だー、って」


 つまりは、PL個人の問題が大きいと?

 ちょっとは我慢しろよって感じだな。


 ……いや待って、そんなお前が言うなみたいな目を止めてくんない? 俺だって空気はよむよ? そんな戦場で同士討ちを始めるわけないでしょ?


「じゃあ、仲間割れを起こそうとする奴がいたら、アンタどうするんだい?」


 メレーナ、なにを当たり前な事を言ってんだ? 当然、切り殺すに決まって……いや、今のなし、ちょっと考えるから待って。


「やっぱりダメじゃないか……。気を付けなよ? 私も同じ考えで動いてたらいつの間にか処分されたからねぇ。戦場じゃ、何が起きるかわかんないよぉ?」


 なんと俺はメレーナレベルだったらしい。

 クソ、まさかこんな危険人物と同じ発想しかできなかったとは……、最近疲れてるのだろうか?


 俺は頭を抱えたが、そんな事とは関係なく会議は進む。


「いろいろと問題が出てきたね……。この間のフェルシーのイベントも集団戦だったけど、この時の経験を活かせないかな?」


 先輩がそう言うと、とある人物が手をあげた。


 新顔のワカバ君である。


「『魔王』よぉ、それはちょっと違うんじゃね? この間のフェルシーの戦いは相手がニャックで近接攻撃をメインにしてくる魔物が敵だったんだろ? 今度の敵は遠距離攻撃だってしてくるし、軍隊的な連携をとってくる。また別の対策を考えるべきだろ?」


 ……まともな事を言っている。


「わ、ワカバ……。アンタ、どうしちまったんだい? そんなまともな事を言うやつじゃ無かったろう? 誰か、幼女を連れてもらって良いかねぇ!?」


 メレーナが焦っている。


 だよね、ネカマロリコンがまともな事言うなんておかしいよね。

 ヒビキ、ロリ形態召喚してあげてー。


「おれはまともだよ! 幼女も後でいい!」


 どうやらワカバは正常なようだ。幼女成分が不足していた訳ではないらしい。


「話を戻すけど……。お前ら、国境沿いでの戦いでは普通に勝てたんだろ? 参考にするならその戦いにした方がいい。……その時と、今回の国王軍との戦い、何が違った?」


 そういや、あん時は上手いこといったんだよな。


 ザガードの兵士達は機械がメインの部隊で、戦力が未知数だった。なので、様子見で先輩が一撃ぶちこんで、他の奴等が万歳突撃をかます、という流れだったはずだが……。


 俺がそういう説明をすると、ワカバは静かに頷いた。


「結局、それが魔術師運用の基本だろう。敵との距離が離れている内に、遠距離攻撃で戦力を削るのが集団戦では重要だ。そうやって敵が弱まった瞬間に、敵陣に突っ込み敵将の首をとる……。シンプルだが、いい作戦だと思うぞ?」


 成る程……、言われてみれば似たような事をフェルシーの時もやっていたな。


 けれど、実際やろうと思ってできるものか? あの時のたまたまできたって話だし……。


 そこで、ドワーフのサンゾーさんが手をあげた。


「ワシは頭がよくないから、御主らがゴチャゴチャ言っておることはわからん! だが、こんなところでグダグダ話し合っているくらいなら、実際に戦ってみればいいじゃろうが!」


 そんでもって一喝。


 確かに正論ではある。

 実際、俺達だけの主観を話し合っていても、根本的な解決にはならないだろう。

 今回しなければいけないことは、クランメンバーに集団戦のノウハウを身に付けてもらう事である。


「よし! それじゃあ、演習をしよう! チーム分けをして戦争ごっこといこうじゃないか!」


 先輩は楽しそうに言い放った。


 それを聞いて、ミラアが口を開く。


「ふむ……演習か、動画映えしそうじゃないか。それでは、私の方で簡単にルールを作っておこう。それに合わせて人員を貸してくれれば戦争開始までには皆の練度もそれなりにはなるだろうしな。撮った動画は検証にでも使ってくれ」


 ……小遣い稼ぎですか?


「そうだとも? ペナルティをくれてもいいのだぞ? 私は拷問を所望する……!」


 ミラアはそう言ってニヤりと笑って眼鏡の位置を直した。


 ……ハイハイ、後でね。


 じゃあ演習をするというのは確定として、……ゼスプ、どうやってチームを分ける? 一人一人の能力を考えて人員を振っていったら、時間が足りないぞ?


「そうだな……、単純だけど、◯◯派と××派みたいなのを決めて、就きたい派閥に付くって感じでいいんじゃないか? これならお互いの対抗心も出ると思う」


 あれか。イカゲーのフェスみたいな感じか。

 良いかもな、どうせやるなら全力でぶつかった方がいいだろうし。……何がいいだろうか?


 そう言って俺は少し考える。


 その時に、先輩と、ウィンドウを操作して情報を整理しているチップの姿が視界に入った。


 そうだ。



 犬派、猫派とかでいいんじゃね?



 ……思えば、明らかに軽率な発言であった。

 

 俺としてはどっちも好きなので、どっちに付いてもいいものだったのだが……。


「は? 猫に決まってるじゃん。犬は吠えるから怖いよ」


 という、先輩の一言で会議室に火がついた。


「いやいやいや、『魔王』さま、言っとくけどそれはどうかと思うねぇ? 猫は目がおっかないじゃないか? 懐いてくれる犬の方が可愛いに決まってるさぁ」


「私はネコちゃんが好きだけどなぁ。……いや、女の子の話だけど? え? そういう話じゃない? なんと……」


「ボクは犬派です。実家でも飼っていますから。可愛い」


「いや! ネコじゃろ、ネコ! 犬の媚びる感じは好かん!」


『ビルドー わんわんお(^ω^U)! わんわんお(U^ω^)! ……まて、媚びるとはどういう事だ!? サンゾー殿、説明を所望するぞ!』


「私も犬かしら……ゼスプもタヌキさんだし……」


 一気に騒がしくなった。というか、いつも仲のいいビルドーとサンゾーさんがケンカを始めた。


 気がつけば、放送を見ていたクランメンバーがチャットで言い争いをしている。物凄い勢いでログが流れているようだ。


 ……いや、どっちも可愛いじゃん。

 そこまで言い争う事じゃないだろ?


 そう言うと、一斉に部屋中の視線が俺に集まる。


 何故か、全員の目がギラギラと厳しいものになっている気がした。


「……ツキト、お前、それ本気で言ってる?」


「それは僕達への挑戦って事でいいのかな? ちょっと、後で部屋に来てもらおうか……?」


 先輩とチップの視線が特に痛い。


 どうやら、この犬派と猫派の問題は、争いの火種にするには大きすぎるものだったらしい。


「チップちゃんには悪いけれど、これは譲れないんだよねぇ……」


「みー先輩。普段だったらアタシも折れるんでしょうけど、断然犬の方がいいです。犬は頼りになる最高のパートナーです」


 先輩とチップが睨みあっている。


 気がつけば、下の階でも騒ぎが大きくなっているようで、争う音が聞こえてきた。



 ……何て事だ。



 戦争が、始まってしまった。

・潜入、『ペットショップ』


 『浮気者』の野郎! アイツ、動画撮ってたのかよ!? わたしの話が漏れちゃったじゃないか! というかカル姉に甘えるところも見せやがって! 今まで隠してきたのに! これじゃあ威厳が無くなっちゃうだろ!


 何故か信者の数が増えたけどな!


 けど、ムカつくので、わたしは『浮気者』にケジメを付けてもらう為に『ペットショップ』に潜入した。


 気配を探っていくと、どうやら『ロータス・キャット』の部屋にいるらしい。

 わたしは慎重に部屋の様子を伺う。

 椅子に座った人間モードの『ロータス・キャット』の前に『浮気者』が正座をしていた。……アイツ、また怒らせてるよ。

 

「ツキトくん、当然きみは猫派に付くよね? 実家では犬を飼っているそうだけど……本当は猫が好きなんだろう?」


 うっわ。『ロータス・キャット』こっわ。でも可愛い。わたしも怒られたい。


「せ……先輩、俺も猫は好きです。もちろんじゃないですか? 7:3で猫派ですよ。先輩を裏切るわけないですって。……ところで、なんでその姿なんです?」


 また言い訳してる……。

 

 でも、その質問は同感だ。

 猫派にしたいなら、いつものこねこモードで攻めればいいのに。


「ああ、これ? だってきみは、黒髪の女の子が好きなんだろう? 僕も長い黒髪だぜ? どうよ?」


 おおっと!? そっちの方向性で攻めるのか!

 

 『ロータス・キャット』は、ふふん、と笑っている。


「え、はい!? いや、その、似合っているのでは、ないか、と……」


 『浮気者』は顔を赤くして顔を反らした。……アイツ、攻めるときは堂々とセクハラするのに、攻められると弱いんだな。


「ちゃんと僕の顔見ろよ? ……信じてるからね? きみは何時でも僕の味方だって」


 そう言いながら『ロータス・キャット』は『浮気者』の顔を両手で挟み、ぐいっと無理やり自分に向けさせた。

 そして彼の耳元で囁く。

 わたしには聞こえるが。


「……だから、一つ良い事教えてやるよ。……実は僕、処女だぜ?」


 !?


「はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!??」


 『ロータス・キャット』の爆弾発言で『浮気者』が絶叫した。そんな慌てている彼をニンマリと、満足そうに『ロータス・キャット』は見ている。


 おいおい、『ロータス・キャット』。

 君はいつからそんな小悪魔みたいな娘になってしまったんだよ?

 『浮気者』が白眼剥いてぶっ倒れたじゃないか。


 ……いや、しかし、良いもん見れたな。

 

 とりあえず、女の子のオモチャにされてたって、カル姉に報告しておこう。


 そうすれば、いつものでカル姉が殺してくれるでしょ。


 ホント、『浮気者』はしょうがない奴だなぁ。

 

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