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他人の黒歴史を暴いてはいけない

 リリア様は昔話を終えると、お茶に口をつけた。


 その隣ではカルリラ様がテーブルに突っ伏していた。……耳が真っ赤になっている。


「ああ……遂に……私の過去がぁぁ……」


 まぁ、自分の黒歴史をノリノリでバラされたのだから、こうなってしまうのも無理は無いのだろう。


「でも、怖かったのは本当だし。さすがは神殺しのカルリラ様って感じだよねぇ?」


 その様子を途中参加したパスファ様がニヤニヤと笑ってみている。

 きっと、まだ根に持ってるんだろうなぁ。


「凄くいい笑顔してるよね……。それにしても、ツキトくんはいつリリア様が邪神だって気づいたのさ? そんな情報どこで見つけてきたの?」


 先輩、俺だってただただ女神様とお話しして遊んでいた訳じゃ無いんですよ? なにか重要そうな話が出たらちゃんとメモをとったり、後で情報を共有したり、女神様達の好みをリサーチしたりしてたんです。


「意外にしっかりしてるよね、きみ。その割にはしょっちゅう死んでクランに戻って来るけど」


 まー、うっかり殺されたりしてますので。


「大変だねぇ……」


 先輩はそう言うが、女神様に殺されるのにも慣れてきたので、殺されても、ああ、またかーって感じになっている。

 

 どうして、こうなった……?


「……ふぅ。ツキトさまに子猫さん。これが私の話せる限界です」


 リリア様はお茶を飲み終わると、俺達に微笑みながらそう言った。


 とりあえずは、リリア様の事情は大体理解できた。しかし、こうなってくるとカルリラ様がなんで神殺しになったのかが気になってくる。


 聞いてみたいが……、カルリラ様は先程から机の上で己の過去と向き合っている。……カルリラ様~? 大丈夫ですか?


 そうやって声をかけると、カルリラ様がぼそりと何かを呟いた。


「パスファは……」


 へ? パスファ様? パスファ様がどうしたんですか? すぐそこでにやけていますよ?


「何々? わたしがどうしたのさぁ? 今更何を言っても、カルリラの恥ずかしい過去は変わらないけどね!」


 まーた、パスファ様が調子に乗っている。

 そろそろ、調子に乗ったら痛い目をみるって言うのを理解した方が良いのでは?


 そんな俺の考えを読んだかの様に、カルリラ様は口を開く。


「パスファはあの時怖がりすぎて漏らしていました……! パスファが聖水を撒き散らしたのです……!」


 カルリラ様の逆襲が始まった。


 成る程、ビビって粗相した事をばらされたくなかったから、わざわざ出向いたのか。

 俺としては、既に盛大にやらかした方がいるので、そんな事、些細な話だとしか思えないのだが……。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!! カル姉なに言ってるのさ!? 今目の前には『浮気者』達がいるんだよ!? 今の話を他の冒険者にしゃべられたら、わたしの威厳がなくなるじゃん! てか、そんな事は無かったから!」


 本人としては消したい過去だったらしい。


「ふふふ……。パスファ、貴女は少しイタズラが過ぎる。死なばもろともとは正にこの事。共に冒険者様達に弄られましょう……!」


 真っ赤な顔をあげて、カルリラ様は諦めた様に笑った。


 というか、今カル姉つったな。


 何ですか、パスファ様。結局あれですか? 素直になれないお年頃ですか? 実は甘えたいけれど女神としてのプライドが許さない的な感じなんですか?


「ち、違うし! 『浮気者』わからないかも知れないけれど、さっきの話、みんなが集まると高確率でされるんだよ!? わたしの気持ちになればどんだけ恥ずかしいかわかるでしょ!?」


 それはわかるんですけど~、カルリラ様も信者の前でイメージを崩される事を言われて恥ずかしかったんですし、おあいこって事で良いじゃないですか。


「そうそう。それにパスファ様がどんな事をしていたとしても、僕達は信者ですし。気にしなくていいですよー」


 おおっ。先輩もフォローに入った。


 ほら、先輩もこう言ってますし、気にすることなんて何も無いんですよ。カルリラ様も、昔の事なんて気にしなくていいじゃないですか、俺なんて街を歩くと人が逃げていくんですよ?


「そ、そうでしょうか?」


 カルリラ様は恥ずかしそうに、そう言って視線をずらした。


 俺達の話を聞いてパスファ様も落ち着いた様子だ。


 それに、こちらの発言で怒らせたらなにされたもんかわかったもんじゃないし、女神様に変な発言をする奴なんて俺くらいしかいないだろうに。


「カルカルもパスファもなにさ。そのくらいなんて事はないでしょ。私の信者なんて私の事をペロペロしたいとか、私にママになってほしいとか、そんな事を言う人だっているんだよ? キャラ作らなきゃ威厳なんて無いに等しいんだから……」


 リリア様、貴女の場合は事情が違いすぎます。

 というか、貴女の魅力はそう言うところだと、信者の皆様は言っていますので……。


「むぅ……。あんまりセクハラされるのは好きではないのですが。それと、最近やたらと写真撮影をお願いされるのですけど……何か知りません?」


 俺はちらりとパスファ様に視線を送った。苦笑いして首を横に振っている。


 ……すいません、ちょっとわからないですね。やっぱり女神様が町中にいると目につきますから、みんな記念に撮っているんじゃ無いですかね?


 俺は誤魔化した。


「そうなんですか? ……それなら仕方がないですね。私は皆さんに人気の女神様ですから!」


 お、ドヤった。パスファ様が安心したように胸を撫で下ろしている。

 

「それはそれとして、パスファは後で私のところに来なさいね?」


 だが、騙しきれなかった。リリア様は意外にチョロくはないようだ。


「……はい」


 パスファ様はしょぼんと肩を落としてカルリラ様の隣に座った。そして、カルリラ様の肩に力なく寄りかかった。


 カルリラ様は微笑んでパスファ様の頭を撫でている。……いいなぁ。


「さて、少し横道にそれてしまいましたが、何かを質問はありますか? 私に答える事ができるのなら、喜んで答えましょう」


 リリア様がそう言うと、先輩が前足をあげた。


「はい! 残りの邪神はどこにいるの? 場所がわかればすぐにでも倒しにいくんだけど?」


 流石先輩、新しいイベントに対しては興味津々である。

 聞いたことの無いイベントがあればすぐに飛びついちゃうんだから……。


「全員の場所はわかりませんが……『色欲』ならそこに封印してますよ?」


 リリア様はパスファ様に顔を向けた。……あれ? パスファ様達は『色欲』の子供なんでしたっけ? もしかして……。


「ん~? 『浮気者』がなに考えているかわからないけど、わたしの身体に『色欲』を封印してるんだよ。娘の身体とは相性が良かったみたいだねー」


 それ、大丈夫なんですか? この間のフェルシーみたいになりません?


「大丈夫だって~。もう何年も封印されたまんまなんだし。フェルシーがいつ取り憑かれたのかは知らないけど、油断しなきゃ大丈夫でしょ」


 そう言うパスファ様はもう人目をはばかることもせず、カルリラ様に抱きついている。

 リリア様はそれを見て深いため息をついた。


「はぁあ……。パスファ、貴女はそう言っていつも失敗するでしょ。……と、残りの邪神についてなのですが、どうやら既に復活しているみたいですね」


 ほう……。でも、そういう話は聞いたことが無いのですね。もしかして向こうの国で復活したんですか?


「そうです。彼等はしばらく前に復活して『ザガード』の国の要人に取り憑き、戦争を起こしました」


「つまり、次の戦争に参加すれば戦うことになると? ……でも何で戦争なんて起こしたんです?」


 そういえばそうだ。

 もう一度神の座に戻りたいのなら、人間じゃなく、女神様を狙えばいいだろうに。


「……『傲慢』は世界の管理者になるよりも、人を蹂躙したいと願っていました。奴にとっては自分以外の存在は踏み台でしかありません」


 口を開いたのはカルリラ様だ。先程と同じようにパスファの頭を撫でているが、顔はどこか険しさを感じさせる。


「そして、『嫉妬』の目的は……生物の殲滅でしょうか? 昔は死者の国を作り上げるとか、訳のわからない事を言っていましたから」


 カルリラ様……。

 リリア様の話では、一番最初にやられたのは『嫉妬』の邪神だったはずですが、やっぱりカルリラ様が倒したんですか? どうやって?


 俺がそう聞くと、カルリラ様は表情を変え、静かに微笑んだ。


「今度は私の番ですかね……」


 カルリラ様はパスファ様を手離し椅子に座らせると、俺達に向かい合った。


「これはなんて事のない、一人の少女のお話です……」

・何気にカル姉の昔の話を聞くのはじめてなんだよね……。おとなしくしとこ……。

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