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リリアの物語

※今回はリリアが昔話をしているだけの話です

 これから話すのは仲の悪い神様達と、それに巻き込まれた少女達のお話です。


 昔々、7柱の神様がいました。


 彼らは決して悪い神というわけではなかったのですが、どうしてか、自分以外の神を嫌悪し『邪神』と言っていたのでした。


 豊穣を司る神『暴食』。

 天候を司る神『憤怒』。

 大地を司る神『怠惰』。

 繁栄を司る神『傲慢』。

 魔物を司る神『色欲』。

 輪廻を司る神『嫉妬』。


 そして、そこまでの欲望が世界に満ち足りているにも関わらず生まれてしまった、人間を司る神『強欲』。


 そうお互いに呼び合って、貶め、敵対していたのです。


 もちろん、それぞれにはちゃんとした名前はありました。けれども、私も忘れちゃいました。それくらい昔々のお話です。


 各々の神達は手を取り合う事を知らず、自分がこの世界の管理者に相応しいといがみ合っていました。……私ですか?


 そうですね、もちろん私も怒りました。だって、皆さん人間の事なんてどうでもいいって言うんですもん。


 私はただ、守りたかったんです。


 人の生活を、命を、その旅路を。

 そして、そんな彼らが生きる世界を、全部、全部、全部。


 小さな虫さんの命でさえも、人に影響を与えるだろう全てを、世界を……守りたいと思ったのですよ。


 そしたら怒られました。


 お前は何を司る神なのか? 恥を知るがいい。お前は私たちの全てを欲すると言うのか!? ……って。


 ですから、私も彼らと戦う決意をしました。

 私達には、他の神の力を吸収する能力がありました。つまり、戦ってその神の役割を奪う事ができたのですね。


 私は他の神に比べたら弱い力しかありませんでした。だから真っ先に狙われるはずだったのです。


 けれど、7柱の神々はにらみ合いを続けます。


 そう、全員が牽制し合って手が出せなかったんですよ。……ちょっと面白いですよね?


 それがしばらく続いたので私は安心しました。


 なんだ、みんな口ばっかりで争う気は無いんだ。信者のみんなも他の神の信者さん達と仲良くしてるし、このままでいいや。……そう、思ったんです。


 だから、私は地上に家を建ててゆっくりと暮らすことにしました。


 ニャックさんにお願いして、家を建ててもらったのです。


 ……え? 何でそこでニャックがって?


 あの子達は迫害されていた種族なのです。

 どの神も、こんなふざけた種族はいらない。信者にしたら格が落ちる、と言って相手にしませんでした。


 なので、ニャックさん全員を私の信者にしました!


 私が導いてやる! 付いてこい!


 と、意気揚々に宣言したんです!


 ……あ、はい。仰る通りです。

 あの子達、素直なんですけど時たま凄いことやらかすんですよね。勢いで生きている、って言うのは私も同意します。


 そんな面白おかしい信者達と、のんびりながーい時間を過ごしていました。



 そんな中で、大きな出来事があったんです。



 とあるニャックが子供達を連れてきたんですよ!


 一番大きい子で10歳くらいの女の子でした。その獣人の子がビックフェアリーの赤ん坊を抱き、尻尾で魔族の幼子の手を引きながら私の前に現れたのです!


 妖精の子供は産まれて1年も経っていない様に見えました。魔族の子も5歳位だったと思います。


 驚きながらニャックに話を聞いたら、こう言ったのです。


 『色欲』が産み、放置した子供達だ。あのクソアマ、いろんな種族と交わって自分の眷属を増やしてやがる。……そんな中で、自分の手におえない子供達は放置していたらしい。見過ごせなかったから、ここに連れて来た。すまねぇな。


 あと、ニャックの代表は俺だったらしいが……。なぁに、腹かっさばいて逃げてきたよ、かかか。って。


 ……今思い出しても、彼よりカッコいいニャックはいません……。


 ?

 ニャックですよ? 盛ってるだろって?


 違うもん! ホントにニャックだったもん! ちょっと大きくて、筋骨隆々で片目に傷があって、煙草をいつもふかしてたけど! カッコいいニャックでしたもん!


 ……ま、まぁ、最早それはニャックではない。というところは否定しません。はい。


 あ、話がそれましたね。


 ……連れて来られた長女の獣人が私を見てこう言いました。


 女神様。私達は『色欲』と呼ばれる女神の子です。貴女と敵対する者から産まれた子です。殺されても当たり前な子です。


 貴女様に、この身、全てを捧げます。


 なので、どうか妹達に御慈悲をお与えください。育ててあげてください。私がどんな事でも致しましょう。だから、どうか、どうか……。


 そして、地面に膝を付き、泣きながら頭を垂れたのです。


 ……誰かって?


 もちろんフェルシーにきまっているじゃないですか!


 今はニャック達に影響されてアホになりましたが、昔はとてもとても優秀な子だったんですよ! ……レベルが上がらないので、ひねくれたってのもあるんですが。


 そんな事があって、私達、四人とニャック達との生活が始まりました。


 ニャックと仲良しな長女のフェルシー。


 褒めてもらいたくて頑張るグレーシー。


 甘えん坊で泣いてばかりのパスファ。


 みんな、私の可愛い子供達です。


 3人はすくすくと成長しました。全員が神としての素質を持っていたので、このまま永遠にこの生活が続いていくと思い、私はとても幸せでした。


 あっ、そうですね。私達の間違いですね。ふふっ……。



 ……しかし、その生活はすぐに終わりを告げます。



 輪廻を司る神、死神の役目を果たしていた『嫉妬』が死に、封印されたのです。



 私は他の神々がついに動き出した。そう思いました。


 絶望しましたよ。

 不安で涙が止まりませんでした。こんなに素敵な生活が終わってしまうなんて、と。


 もう大人になっていたフェルシーは自分が戦うと言って聴きませんでしたが、私は子供達がその様な事をする事が耐えられませんでした…………だからフェルシーですよ! 偽者でもないですし、記憶違いでもありません。昔は凄い子だったんです。


 そして、他の神々は眷属をこっそりと増やしていたそうです。あのような事態を想定していたのでしょう。

 貴方達が彼等と戦うとき、相手の眷属とも戦わなくてはならないのは、その時の名残だと思います。


 特に『怠惰』の神は敵無しだったはずです。

 黒い悪魔を眷属にした彼は、数百万という軍勢を率いてました。……私、あの生物が苦手なんですよねー。脂ぎってカサカサしてますし。


 ですが、その『怠惰』でさえ、封印されてしまったのです。


 そこで神々は気づきました。


 神を殺しているのは神ではない! 違う何かだ!


 ……それがわかって私は安心しました。


 だって、神に逆らう者が現れたということは、私達はもういらないということですよ?


 皆が神という存在から、巣立つ時が来たのだと思いました。


 だから、私は待ちました。


 私を殺しに来る誰かを。


 ……殺されることが怖かったんじゃ無いかって?


 いいえ、いいえ、違うのです。


 私が本当に恐れていたことは、私が守りたかったこの世界を、人を、動物を、自然を、子供達を。違う神にとられてしまうことだったのです。


 ……ですから、他でもない、守りたかった者に命を奪われるのなら、子供達をそれで守れるのなら、それでいいと、思ったのですよ。


 そのあと、『暴食』が倒れ、『憤怒』が打ちのめされ、私の目の前に二人の神殺しが現れたのです。……はい、カルカル逃げちゃダメだよー。全部事実しか言ってないからねー?


 ……二人とも人間でしたが、不思議な力を持っていました。


 金髪の騎士のような女の子はこの世界には無いものを創造し、作り上げる力があり、身体のほとんどを機械に変えていました。……あれ? 知りません? サイボーグ技術も彼女の技術ですよ?


 そしてもう一人。


 黒髪の女の子は『嫉妬』の力の全てを受け継いでいました。

 大鎌を持ち、身がすくむ様な強大な力を持っていました。


 その姿を見た瞬間、私は悟りました。


 ああ、この子が殺したんだ。


 私はすぐに彼女に手を合わせて祈り、こう言ったのです。


 私はどうなっても構いません。ですが、私の子供達……半神のあの子達だけは見逃してください。人間達にはなにもしません。静かに生活していくでしょう。


 そう言いました。……カルカル、お茶はまだ残ってるよ? 全部事実なんだから諦めて!


 すると彼女……もう面倒だからカルカルでいいや。


 カルカルがこう言ったのです。


 全員殺す。……だが、今はお前だけだ。お前の子供達が神を名乗るようになったのならば、首を刈りにいこう。神は全員殺さなくてはならない。


 ……ええ! 誇張は一切ありません! 言ったよね!? 今更恥ずかしがっても遅いから! カルカル!


 ほら! ツキトさまもなにか言ってあげて! ……え? 可哀想だから過去の話は止めてあげて?


 んー……やだ! 


 と、言うわけで、話を戻しますね?


 私はそれを聞いて安心したんです。あの子達3人なら、力を合わせて生きていける。神なんて下らないものに縛られずに生きてくれる。


 そう思って私は目をつむりました。


 ……けれど、私の首は飛びません。


 恐る恐る目を開くと、私の目の前にはまだ小さかったパスファが立っていたのです。

 両手を広げ、私を守ろうとしていました。


 ……これは秘密なのですけど、パスファったらあの時……わぁ!? パスファ!? 貴女どうしてここに?


 え? その話をされると思ってここに来た? 頼むから黙ってて?


 何を言うのですか! 貴女の輝いていた姿を、他人に話すなと言うのですか!? 娘の自慢くらいさせてください!


 それならカッコ悪い話はするな?


 娘の可愛い自慢をさせてください!


 あ! 私が説明していたのに、要点だけ先に言うなんて酷いです! そんな子に育てた覚えはありません!


 むぅ……話してしまったから言いますが、パスファごと殺そうとしたカルカルを、キキョウがなだめてその場は収まりました。


 その後は、カルカルとキキョウに私の話を聞いてもらい、戦う意思はない、人間を支配する気は無いことを伝えました。


 その後、私と3人の子供達はカルカルとキキョウと一緒に生活する事になったのです。……子供達が懐いちゃったんですよね。


 パスファ、諦めなさい。貴女はキキョウの事、大好きでしょ? お姉ちゃん、お姉ちゃんって後をついて歩いてたのを、お母さん忘れて無いですからね?


 グレーシーがカルカルに会いたがってた? ……それはそうでしょう。なんて言ってもカルカルはグレーシーの師匠ですから!


 実はカルカルは魔法も凄く上手に使えるんですよ? ……だから、諦めなって。カルカルがこの世界で最強の存在なのは変わらないんだから。むしろ、なんで農業の神で通せるって思ってたの? 無理があるでしょ。


 あ、そうそう。今でこそ、フェルシーはニャックと一緒にアホをやってますけど、実力で言ったらカルカルの次に強いんですよ? パスファが時を止めても勝てませんからね。本気を出せたら強いんです。


 っと……話を戻しまして。6人での生活が続いていくにつれ、私は思いました。


 私達なら、この世界を管理する事ができる! きっと素敵な世界を作ることができると!

 

 私がそう提案すると、みんなは笑顔で頷きました。……カルカルも私の提案を渋々受け入れてくれました。


 そこから、私達の神殺しの日々が始まります。


 時間はかかりましたが、私達は全ての神々に勝利しました。……大体はカルカルのおかげなんですけどね?


 そして、勝ち抜いた私は、手に入れた力をみんなに分配し、彼女達を新しい世界の女神……管理者にしたのです。


 みんなが手探りで楽しい世界を求め、全力を尽くし、手に入れたのが今の世界。


 その世界で生きるあなた達の為に、作り上げた世界。


 この物語が、この世界『リセニング』の歴史。


 私たちの生きた道筋。


 女神達がこの世界を生きるあなた達を、祝福する理由なのです。

・危ないところだった……。気を抜くとすぐに暴露しようとするんだから……。

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