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昔話をしてあげましょう

「カルカル~、遊びに来たよ~! 起きてる~?」


 リリア様の元気な声が暗い玄関に響いた。……リリア様、お言葉ではありますがキャラがぶれております。狂信者の方々が死んでしまいますよ?


「大丈夫ですよ。皆さん死んでも死なない様な方々ですし! リリア様は皆に受け入れられる神様なのです! えへん!」


 ろ、ロリだ……。リリア様が全てを脱ぎ捨てて生意気ロリになっておられる!

 どうすればいいのだ!? 動画でも撮れと言うのか!? ……撮るか。


「いや、ツキトくん。リリア様ってこんな感じのキャラだから」


 先輩から衝撃の一言が出てきた。


 そ、そんな! パニックになった時だけロリに戻ると思ったのに!?

 あんまりだ……。残念なところが好きだったんですけど……。


「む! ツキトさまにはわからないと思いますが、イメージは大事なのですよ? 私達は信者の理想を崩してはならないのです! ですから、そんな残念なところなんて見せてませんもん!」


 リリア様は薄い胸を目一杯張って自己主張をする。……崩れましたよ?


 と、俺が呆れていると、奥の方から駆けよって来る足音が聞こえた。

 カルリラ様かな?


「リリア! 来るなら言ってくださいよ! こっちにも準備って、もの……が……」


 カンテラを持ったカルリラ様がこちらの姿を確認するにつれ、声が小さくなっていく。

 俺達の目の前に来ると、一度深呼吸をしてからカルリラ様は口を開いた。


「ようこそおいで頂きました……リリア様……。今日はどうなされましたか? 冒険者の方と一緒だなんて……ふふふ……」


 精一杯取り繕ったつもりの様である。


 ……カルリラ様、だいぶ苦しいですよ。もうリリア様はキャラを作っていると暴露しましたからね?


「ええっ!? 駄目ですよリリア! そんなのじゃまた人気最下位に巻き戻りますよ!?」


 なんだろう、暴露大会かな?

 お互いに容赦なくない?


「カルカルは嘘つくの下手だもんね~。バレちゃったししょうがないよ。こっちの事情全部教えちゃおう? というかこの人が私が邪神だって気づいたきっかけってカルカルじゃん」


 リリア様、それを確定させたのはグレーシー様なので、カルリラ様はそんなに責任はありませんよ?


 俺はただのロリと化してしまったリリア様にそう言った。


 あの時俺はグレーシー様に、『リリア様は邪神と呼ばれている神々と同じ存在なのではないか?』ということを質問した。


 そして、それは的中していた訳なのだが……。


「まー、グレーシーは昔からお姉ちゃんぶってるというか、偉そうにしたがる癖に気が抜けてますから。フェルシーやパスファと違って素直に言うことを聞いてくれるからいいんですけど」


「あの子達も変わりませんねー。たまには会いに行ってみようかな?」


 リリア様とカルリラ様は姉妹の様に笑いあっている。

 

 ……うん。

 なんか不安に思っていた俺が馬鹿みたいだな。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 カルリラ様に連れられ、いつもの部屋に入った。

 お茶とお菓子がテーブルの上に乗ってあり、俺達はその周りに置かれた椅子に座る。


「さてと、何から話そっかな? カルカルが話すと自分の都合の悪いところは言わなそうだし……」


 この間もだいぶぼかしていましたしねぇ……。

 俺としてはリリア様からもお話を伺いたいのですが。


「違いますよ!? 私はリリアの素性がわからないように気を使ったのです! だって貴女は正真正銘の邪神じゃないですか!」


 カルリラ様が慌ててリリア様の発言をすかさず訂正した。……というか、もう邪神であることは隠さないんですね。


「もうバレましたからね。……猫さん、申し訳ないけど私を殺しても『ギフト』は手に入りませんよ? 他の邪神の能力を奪う『プレゼント』の機能こそが、私の『ギフト』なんですから」


「え、そうなの? なぁんだ。じゃあ大人しくしてよ……」


 テーブルの上の先輩はそう言って臨戦体勢を解いた。


 この人油断するとすぐに戦おうとするんだよな~。巻き込まれて俺がミンチになっていることにも気付いてほしいんですけどね?


「あの……今、大事なことをリリアが言ったんですけど……」


 カルリラ様は困惑していた。


 あ、聞いてますよ?

 さっきの話が本当なら、『強欲』の能力と相性のいいPLは気の毒ですねぇ。みんなが『ギフト』探しに躍起になってるのに自分だけ仲間外れとか。


「……何言ってるんですか? 貴方が貰える『ギフト』は私のものですよ?」


 リリア様は俺を見ながら首を傾げる。


 なんですと!?

 じゃあ俺だけ追加の能力が無いんですか? え、なにそれ、ズルい!


「そういう人は代わりに『プレゼント』を強くしてあげてるから、落ち込まないでくださいね?」


 まぁ……今のままでも充分強いんでいいんですけどね?


 ところで、俺達はリリア様の話を聞きにきたんですけど、なんでカルリラ様の所に来たんですか?


「え……そ、それは……」


「カルカルが神殺しを始めたのが全ての始まりですので、当事者がいた方が分かりやすいし、説明もしやすいと思ったのですよ」


 リリア様はちょくちょく爆弾発現をするのが好きらしい。


 目をそらしていたカルリラ様がこれ以上に無い程の驚いた顔をして、リリア様を見ている。


「な、何で言っちゃうんですか!?」


「だって私が言わないと絶対に自分から言おうとしないでしょ? ……あ、カルカルはですね、初めて会った時、私を殺そうとしてたんですよ?」


「きゃああああ!! それは一番言っちゃいけない話!」


 カルリラ様は慌てて立ち上がり、後ろからリリア様の口を抑えた。もうすでに手遅れであったが。


 あー……やっぱりですか。そんな感じはしたんですよ。リリア様を守るパスファ様の姿を懐かしいって言ってましたし。完全に襲いかかった側の目線でしたよね、あの話し方。


「うっ……。ち、違うんですよ。私はそんな子供に守られているリリアを見て、この方は他の神々とは違うんだと感じ、武器を納めたのです……」


 なんか美談の様だ。やはりカルリラ様はお優しいお方……。


 と思っていたら、リリア様はカルリラ様の手を無理矢理振りほどき、口を開く。


「ぷはっ! 違うでしょ? キキョウに羽交い締めにされて諭されたの忘れちゃった? 止められなかったら、あのままパスファと一緒に切り捨てようとしてたよね?」


 ……ひぇ。


 う、嘘ですよね……カルリラ様……。


 俺は顔をひきつらせながらカルリラ様に問いかけると、サッと顔を反らされた。……間違いない。リリア様の言っていることが真実みたいだ。


「……あ、あの頃の私は、少し荒れていまして」


 少しどころの話では無いような気がするのですが……。


「さて、カルカルの事もわかったところで、昔話をしてあげましょう。少し長くなりますけど、気になったところがあったら途中でも質問してもらっても構いません」


 そう言ってリリア様は微笑んだ。


 カルリラ様は諦めたようにため息を吐くと自分の座っていた席に座る。


「……さて、これから話すのは仲の悪い神様達と、その争いに巻き込まれた少女達のお話です。昔々、7柱の神様がいました……」


 まるで、子供に物語を聞かせる母親の様に、リリア様は優しく語り始めるのだった。



・馬鹿みたいだな

 リリア様がそんな悪い存在なわけないじゃん。疑いすぎるのもどうかと思うよ?


・撮るか

 ……寄越せ。


・カルリラ

 あの時のカルリラはね、怖かったよ。うん。何をとは言わないけど漏らすかと思った。キキョウには頭が上がらないよ、ホント。


・昔話

 ……わたしも聞きに行こうかな。名誉の為にも。

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