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怠惰の《マザーラット》

「……また数が増えているみたいだ。足元にはもう何も居ないみたいだけど《マザーラット》を倒さないと際限無く増えるのかな……?」


 チップの能力で敵の動向を確認しているのだが、どうやら敵のネズミ達は現在進行形で《マザーラット》に産み出され続けられているそうだ。


 また無限湧きかよ。

 厄介なんだよな、数で攻められるってのは……。


 俺とチップはウィンドウに表示された敵影を見てため息をついた。一体の大きな敵影の周りに、うじゃうじゃと敵が蠢いている。

 

 マザーの名前からして、どんどん産んで数を増やしているのだろう。……何故か、弟の顔がちらついた。


 でも、アイツはネズミ算というかはエイ◯アン式で増えるからなぁ。寄生した相手の性質をコピーしてるし、完全にあれだよな、うん。


 だれかー、航海士の人呼んできてー。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 俺達は教会にリリア様と依頼主のシスターを残して、地下に降りた。

 そこは洞窟となっており、灯りもないようだ。

 おそらくは、ネズミ達が掘り進んだトンネルなのだろう。あちこちに食い残しや糞が散らばっており、異臭を放っている。


「なんか気味の悪いトンネルだな。おれ、この先に行きたくないんだけど。……ツキトぉ、おれ要らなくない? 帰って良いよなぁ?」


 ワカバがそんな情けないことを言うので、何か言ってやろうと振り向くと、体中にプチメイドを張り付かせた幼女がそこにいた。……それは体に装備しても意味無いぞ。


「こうやって張り付かせてた方が咄嗟に能力を使えるんだよ。……というか、コイツら強すぎじゃないか? ステータスだけなら、おれの能力で最強になれる位だ。……ふふふ、野心が湧いてくるぜ」


 ワカバは悪い顔をして笑っているが、俺は知っている。

 最近作られたプチメイド達はシーデーの『プレゼント』により、小型の爆弾に改造されているのだ。


 つまり、今のワカバは体に爆弾を張り付け悦に入っている、何も知らない可哀想な自爆テロリストなのである。裏切るような事をしたら起爆させられるだろう。


 だって、後ろで普通サイズのメイドがにやけてるし……。


 憐れなワカバに対して、先輩が口を開いた。


「敵前逃亡は許さないぜー? とりあえず、僕は魔法でこのトンネルを照らすよ。ワカバくんは、ヒビキくん達を使って後方の対処をお願い」


 チップは前進経路の確認と索敵をするとして……俺とシバルさんは何をすれば良いですかね?

 俺は戦闘じゃないと役にたてませんし。


「ふふふ……。我々には重要な仕事があるのですよ」


 重要な仕事?

 何かする事なんてありましたっけ? 周囲の警戒ですか? チップがいるから別に来たときにだけ対処すれば良いのでは?


「そんなことではありませんよ。さて、服が汚れるのはよくありませんね……」


 そう言うと、シバルさんは神官風のローブをはだけさせ上半身裸になった。


 老人の様な顔からはわからなかったが、鍛え上げられた筋肉をしている。分厚い胸板に、筋の入った太い腕、ゴツい身体だ。……少し憧れちゃうよね。


「シバルのじーちゃん身体すご! というか何で脱だんですか! 女の子だって居るんですからね!?」


 チップが顔を赤くして叫んだ。

 くそ、俺の裸を見たときはそんな反応しなかったのに……悔しい……。


「はっはっは、申し訳ない。だがこれから洞窟を採掘していくのです。ならば、この姿が正装というものですな! ふんっ!」


 シバルさんはそう言いながらポーズをとった。素晴らしい筋肉である。


「と、言うわけで、ツキトくんとシバルさんにはここから《マザーラット》に向かって、一直線に新しいトンネルを掘ってもらいます!」


 なるほど、いつものですね。


「そう、いつもの! よろしく!」


 わかりました、少々お待ちください。今、愛用の鶴嘴を出しますので……。


 俺がアイテムボックスを漁ろうとすると、シバルさんが俺の肩を叩いた。

 そしてゆっくりと首を横に振る。


「ツキト君、違うでしょう?」


 ……え。何がですか? 土は鶴嘴で掘るものでは……。


「いえ。採掘は素手で充分。スキルとして『採掘』を使えば鶴嘴など不要でしょう。そして、貴方のその格好は……相応しく無い」


 お、(オトコ)だ。(オトコ)の目をしている。


 俺はシバルさんに真っ直ぐに見つめられてそう思った。ここで断るのは男がすたる。

 まさか、この人とこんなに意識に差があるとは思わなかった。


 先輩とチップは無いわ~とか言っているが、そんなことはどうでも良いのだ。



 俺は……脱いだ。





 結果、意外に掘れた。その辺はゲームよね。

 そうなってくると、脱いだ意味はあったのかと言われれば反応に困るが、テンションが上がる効果があったみたいなので、無駄ではなかったらしい。


 女性陣からはドン引きされるというデメリットはあったが、楽しければいいのだ。


「あ、ちょい右に軌道修正……うんオッケ。……ところで、服着ないの?」


 後でな!


「チップちゃん、きっと男の人にしかわからない何かがあるんだよ。僕も服を脱ぐ意味は全くわからないんだけどさ……」


 先輩は俺の肩からチップの肩にへと移動していた。身体全体を使って土を削りとっているので、乗り心地が悪いらしい。


 ちなみに、拳や足で削りとる要領で掘っている。……なんかの漫画であったな、こんな話。


 そんな方法だけれども、シバルさんと協力して掘り進んでいるので、とんでもないスピードで進んで行っている。

 《マザーラット》がいる空間まで、もう少しと言ったところだろう。……急がなければ。


「おい! 後ろから来る敵が増えてるぞ!? メイドがなんとかしてるけど、これ大丈夫なのかよ!?」


 敵も俺達の掘削に気付いたらしく、周り込まれていた。今はまだ、ワカバの操作しているメイドのおかげでこちらに問題は無いが、これ以上敵の数が増えるのはよろしくは無いだろう。


「ワカバくんはそのまま撃退を続けて。《マザーラット》のいる部屋に着いたらすぐに後ろの通路を塞ぐよ。チップちゃん、今こっちにどのぐらいの敵を引き付けられてる?」


 どうやら、この通路に現存するネズミ達を引き寄せるのも作戦の一つだったようで、俺達が通って来た道はミンチで舗装されていた。どのくらい倒せたかはわからないが、《マザーラット》との決戦には有利に動けるだろう。


「かなりの数がこっちに流れ込んでるけど……、強い奴はみんな死んだみたいです。今いるのは産まれたばかりのネズミだけ……いや! 後ろから流れてくるやつらが急速に成長してます!」


 チップが焦った様に声をあげた。


 あぁ!? ……もしかして、殺された身内を食って成長してるんじゃね? ネズミだし、共食いぐらいするだろ。


 俺は採掘の手を止めることなく答える。

 

 《マザーラット》が『怠惰』の能力を持っていると仮定すると、産み出される子供達は凄まじい速さで成長し、ステータスを向上させる事ができるはずだ。


 代わりに自分の成長が遅くなる特性を考えると、味方や子供に守らせる、世話をさせるというのが『怠惰』の本質のように思える。


「ははっ! ならば! 先に《マザーラット》を倒すのを優先した方が良さそうですな! ツキト君、あげていきますよぉ!」


 シバルさんは楽しそうにそう言うと、更に掘り進めるスピードを上げる。俺もそれに合わせた。


「そうだね! ワカバくんは引き続き後方の牽制をよろしく! 掘り終わったタイミングで僕が後方を一掃するよ!」


「くっ……悪い! 今やってくれ! 徐々に強い個体が混ざってきた、このままじゃ押しきられる!」


 ワカバが慌てた様にそう言うと、先輩は、しょうがないなぁ、と一言呟いた。


 先輩が魔法で灯していた光が一瞬消える。


「『マジック・レーザー』!」


 後方から目映い青い光がトンネルを照らした。

 すぐに目の前が真っ暗になるが、再び先輩の魔法で火が灯される。


「後方の敵、半数が消滅……まだ残っている奴らもこっちに向かっています。……ツキト、今のうちに掘り進め! 《マザーラット》の周りの敵が薄くなってる!」


 要するにチャンスって事だな!


 俺達が懸命に拳を振るっていると、腕が壁を貫通する。

 良いタイミングだ。このままぶち抜いてしまおう。……シバルさん!


「息を合わせますぞ! ……はぁあ!」


 二人で息を合わせて壁にタックルして、俺達は広い空間に飛び出す。そして、その部屋の主を見て言葉を失った。


「な……なんなんだよ! あれぇ!?」


 だが、ワカバの叫び声で我に帰り、目の前の物体を確認しなおす。


 目の前にあったのは、壁にへばりついている、肉厚な赤黒い粘菌だった。ところどころで粘菌の一部がボコボコと発泡し、弾けると辺りに血液の様な赤い汁を飛ばしている。


 発生した泡が大きく膨らんだと思うと、それを突き破って10センチ程のネズミが飛び出した。


 それをみて、俺はゾッとする。


 これが《マザーラット》、『怠惰』に取り憑かれた生物の末路なのだろう。目の前の存在が、ただ生物を産み出し続けるだけの化物だという事を理解してしまった。


 嫌悪感が喉の奥から沸き上がって来るようだ。これが元々はただのネズミだったのだと思うと、気持ちが悪くなってくる。


「……ツキトくん、松明出せるかい? 僕が一気に潰す」


 了解です、先輩。


 俺はアイテムボックスから松明を取り出し点火した。ついでに装備も付けなおす。


「よし……『ファイア・サークル』!」


 先輩が魔法を唱えると、粘菌に重なるように魔方陣が発生し、一気に燃え上がった。

 結構な距離をとっているにもかかわらず、俺達にも熱風の余波が伝わってくる。


 ……だが。


「なっ……効いていないだって!?」


 粘菌は先程と何も変わらぬ様子で壁に張り付いていた。


「みー先輩! ソイツ、魔法が効かないみたいです! それと、後方から敵が……!」


 後方に振り替えると、奥の方から何かが大量に走ってくる音が聞こえてきた。まずい、このままじゃ挟撃に合う。


「お任せあれ! こちらからの敵はこのシバルが食い止めましょう!」


 シバルさん!? 大丈夫です、壁を塞げば……。


「……いや。元々このトンネルはネズミが掘ったもの……壁で塞いだとしても一時しのぎにしかならないでしょう。誰かがやらねばならぬのです!」


 そう言って、シバルさんはもと来た道にへと踵を返した。……生き残ってくださいね?


 俺は松明を渡し、壁生成の魔法を使う。壁の向こうに残されたシバルさんは、最後まで笑顔を崩すことはなかった。


 シバルさんを見送り、俺は粘菌にへと武器を構える。


 すると、壁にへばりついているそれがドクンと脈動した。


 どうやら俺達を敵だと確認したらしい。先程にも増して、発泡の勢いが強くなる。


 邪神との戦いが、始まろうとしていた。

・『怠惰』

 前時代の『怠惰』はカルリラとキキョウが協力して打ち倒した。わたし達と出会う前の出来事なので詳しいことはわからないが、『二度と相手にしたくない』と言っていたので、強敵だったみたいだ。

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