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街のネズミに御用心

 俺達はミラアの能力を使わせて貰い、ビギニスートにへと訪れた。

 帰還ポイントからビギニスートに移動すると、そこは最初の路地裏だった。


 いや、やっぱ便利だわ、帰還ポイントの増設って。

 いつもなら朝にサアリドを出て、次の日の昼ぐらいにビギニスートに着くのに、魔法なら一瞬だもんなー。性格に目をつぶれば本当に優秀な奴だよ。ミラアの奴は。


 そして今回、共に移動してきたイカれているメンバーなのだが……。


「ツキト! 何でおれがヒビキと一緒なんだよ!? 怖いんだって!」


「ワカバさん、仲間に許可なしで種付けする訳が無いじゃないですか? ……という訳で、後で産んでもらっていいですかね?」


「ヒビキくん。相変わらずなのはいいんだけど、関係無い人にそういう事、言わないでね?」


「なぁ……何でアタシ呼ばれたの? ヤバイ方々しかいないんだけど?」


 ワカバにヒビキ、先輩とチップである。


 ちなみに、他のメンバーなのだが、この国の王都に乗り込み、戦争に参加した際の報酬を上乗せするよう脅……交渉しに行くクエストに出掛けた。……ゼスプとドラゴムさんも参加したからな、何分で崩落するだろうか?


 さて、皆様方、今回の目的についてなのですが、ヒビキから説明があります。これが終わったら弟は他のメンバーに合流しますのでご了承ください。


「よっしゃあ!」


 ワカバがガッツポーズを作る。良かったね。

 ちなみに、ワカバには重要な役割があるのでクランに加入して貰った。ヒビキへの苦手意識は捨てきれていないようだが……そのうち慣れるだろ。


 んじゃ、ヒビキよろしく。


「はい。……この間、ビギニスートにリリア様を盗撮しに来たときの話なのですが……」


「いや、なにやってんだよ。ガチじゃん、それ」


 チップの突っ込みが入った。

 それに対して、ヒビキは親指を立て良い顔をする。真剣な眼差しだ。


「ガチです。その際なのですが、やたらと街中にネズミが多かったんです。……見てください、そこにも居ます」


 ヒビキが指差した方に目を向けると、30センチ位のネズミが4、5匹じっとこちらを見つめていた。……デカイな。


 と、思っていたら、ヒビキのプチ人形達が上から強襲し、ネズミ達を殴り殺してミンチにする。

 あっという間の出来事だった。


「ヒビキくん、どうしたのさ? なんか過剰反応じゃないかい? いつもの余裕が無いように見えたよ?」


 先輩は俺の肩の上で不思議そうにヒビキに質問した。


「……実は、不意打ちされてボクの子機が一体やられてしまったんです。それが……こちらになります」


 ヒビキはポケットからバラバラになったプチ人形を取り出した。小さい人形ほど壊れやすいとは聞いていたが、これは酷い。


 原型が無くなっている。人の姿をしていたのか疑うほどにバラバラになっていた。……あれ? もしかして、これは……ウサミミパーツ!?


 ヒビキ、この子って俺から作ったウサミミ部隊じゃないのか?


 俺がそう聞くと、ヒビキはコクりと頷いた。


 ヒビキのウサミミ部隊は人形達の中でも優秀な個体だ。スピードに特化しており、PLでも苦戦する実力のはずなのに……。


「ボクの手持ちでも最高の性能を持ったウサミミ部隊に、あのネズミ達は追い付いて来ました。そして、集団で狩られてしまったのです」


 そ、そんな俺が腹を痛めて産んだ子が……ショックだ……。


「そして、今のビギニスートの裏通りにはそんなネズミが大量に蠢いています。……チップさん、確認できますか?」


 俺はチップに目を向ける。既にウィンドウを表示してマップを見ているが、その顔は芳しくない。


「確かに、敵性のNPCがうじゃうじゃいるな。こんなん異常としか思えない。特に酷いのは……教会だな。多分リリア様とシバルのじーちゃんがネズミに襲われてる。急いで行った方が良いと思うぞ?」


 リリア様が?

 邪神が関わっているかはともかく、急がないと不味いな。……チップ、全員そこまで飛ばせるか?


「ああ、大丈夫だ」


 チップは自信ありげに力強く頷いた。


「まっ、待てよ。なんかこれから突入する流れになっているけど、おれは戦えないからな? 操れそうなNPCも居なさそうだし、足手まといになる」


 しかし、ワカバが突入を拒否した。


 ワカバの能力『紅糸』はNPCを操る能力だ。NPCの身体を操る事はもちろん、ステータスまで自在に吸収したり受け渡したりできる。

 しかし、操るNPCがいなければ何の役にも立たない能力だ。


 ……大丈夫だ、その辺も考えているよ。ヒビキ、あっちと合流してくれ。


「了解だ、兄貴。……ワカバさん、ボクの体、上手く使ってくださいね?」


 そう言ってヒビキは目を閉じた。

 もう一度、目を開くとヒビキの雰囲気が変わる。他の人形と意識を交換したのだろう。


 ワカバ、今の目の前の人形はNPC扱いになっているはずだ。これなら、お前の能力で操れる。


「はぁ? ……マジだ、NPCになってる。本当に使って良いのかよ?」


「はい、構いません。マスターからはワカバ様に体を差し出すよう言われています。好きに使ってくださいませ……」


 驚くワカバに対し、メイド人形はペコリと頭を下げた。


「よし、準備は良いみたいだね! それじゃあ行こうか! チップちゃん!」


 先輩が指示をすると、チップは手際よくウィンドウを操作し、俺達を教会内部に飛ばした。




「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? ネズミ! ネズミいやぁ! シバルぅ! 助けてぇ!」


 教会に突入した瞬間、リリア様の絶叫が響き渡った。


 状況を確認すると、十数匹程の人と同じ位の大きさのネズミが教会内部で動きまわっていた。

 ネズミ達は初老の神官のようなPL、シバルさんの周りに囲う様に集まっている。


 シバルさんは絶対防御の神技『リリアの祝福』を発動させ、周囲にバリヤーのように展開して耐えているようだ。


 しかし、突破されるのは時間の問題に見える。


「っ! 『マジック・レーザー』!」


 先輩は直ぐ様魔法を発動させ、ネズミ達をレーザーで凪ぎ払った。


 俺もそれに習い、敵の懐に突っ込みが大鎌を振るう。シバルさん達に意識が向いていた事もあり、こちらの攻撃に反応できないようだった。

 的確にネズミの首を飛ばす。跳ねた首が地面に落ちる前に、ネズミ達はミンチになった。


 大丈夫です? 助けに来ましたぜ?


 俺の顔を見たシバルさん目を見開き、驚きの声をあげた。


「おお! まさか救援が来るとは! これも女神様の御導きのお陰ですな! 感謝いたしますぞ、リリア様! はははははは!」


 シバルさんの後方で、シスターさんと抱き合っていたリリア様は泣きそうになりながら叫ぶ。


「私は関係ありません~~! ネズミ怖いの~! やだぁ~!! たすげてぇ~!!」


 ……よし、SSは撮った。後でパスファ様に贈ろう。


 俺が教会の奥に目を向けると、教会の床に空いた穴からネズミが這い出てくるのが見えた。このネズミの大きさも尋常ではなく、やはり人と同じくらいはありそうだ。


 しかし、床に出てきた途端に眉間に穴が開き、ネズミは絶命する。


「出てきたのはアタシが撃ち抜く。早くその穴、塞いじまえ!」


 チップの支援射撃だ。

 狙いは正確であり、頭を出した瞬間ネズミ達は死んでいく。以前よりも命中精度が格段に上がっていた。


 俺はチップがネズミを殺している内に穴に近づいて壁生成の魔法を発動させようとするが、先輩から静止がかかった。


「待って! このまま全滅させる! 『コラプション・スワンプ』!」


 先輩は、床の穴の中に向かって魔法を発動させた。

 『コラプション・スワンプ』はゼスプがうっかり作ってしまった毒属性の広範囲殲滅魔法である。


 その場のノリで、強酸性の毒沼を発生させる魔法を作ったのだが、その沼から手が伸びて周囲の生物を沼に引きずり込み、逃がさないという効果までついた為に、とんでも魔法になってしまった。


 発動したら終わりと言っても過言ではない極悪魔法である。


 その証拠に、穴の中からはネズミ達の断末魔が響き続けていた。


「ふふん、これで時間を置けば全滅でしょ。ネズミが猫に勝てる理由はないもんねー!」


 先輩はふんすとドヤった。


 先輩? そう言うのをフラグって言うんですよ? という訳で、念のため穴は塞いでおきますね……。


 俺はネズミの声を聞きながら魔法を発動させ、逃げ道を塞ぐのだった。……本当にフラグじゃ無いよなね?



「いやっはっはっは! 助かりましたぞ! 皆様方! まさかネズミがあんなに凶暴化しているとは思わなかったのです!」


 シバルさんはいつもの様に豪快に笑った。


 教会の内部はボロボロに破壊され、そんな場合では無いと思うのだが……。


「シバル、笑っている場合ではありません。危機が去った訳では無いのですよ? あのネズミ達を倒さなければこの街は滅んでしまいます……」


 冷静さを取り戻したリリア様は、諭すようにシバルさんにそう告げる。


 話を聞いたところ、シバルさんはシスターから教会内のネズミ掃除のクエストを受けたらしい。


 まぁ、ネズミ位ならと、クエストを受注した瞬間、床に大穴が空いて大ネズミ達が溢れだして来たそうな。


 そして、リリア様絶叫。幼女帰り発生。


 大ネズミのビジュアルが駄目だったらしく、パニックになって逃げまくったらしい。

 高い戦闘能力を誇るシバルさんではあったが、多勢に無勢と判断しリリア様とシスターを守る事を選択。


 もう駄目かと思った時に、俺達が教会に突入してきたそうだ。


 俺が思うに、シバルさんの判断は正しい。リリア様を放って置いて戦闘を続けていた場合、『神殿崩壊』が発動する危険性があった。

 そうなった場合、俺達も巻き込まれ死んでいただろう。地下にいるネズミ達を殺すこともできずに。


「……皆様方」


 シバルさんは顔を引き締めて、俺達を見る。


「申し訳ありません。一人でも大丈夫だと、油断しておりました。こんなことを言うのは失礼だと思いますが……、どうかお力添えをしては頂けないでしょうか?」


 そう言って頭を下げてくる。


 もちろん俺達は承諾し、シバルさんのパーティーに参加した。

 

 クエスト名は『寝たきりネズミを叩き出せ』。


 そして、チップが確認した最奥に鎮座する大きな反応、クエストのボスの名は……。


 怠惰の《マザーラット》。


 間違いなく、邪神の1柱であった。


・SSは撮った

 ……良い仕事するじゃん。


・幼女帰り

 リリア様がパニックになり、威厳を捨ててしまった状態。狙ってさせることができないか模索中。やり過ぎると『神殿崩壊』で殺されるので注意。

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