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夢見の扉

 俺はクランメンバーを引き連れて、国営の冒険者ギルドに来ていた。


 全ての職員がNPCのギルドには基本的には、特に用事が無いので近寄る事は無い。

 しかし、ここ最近は事情が変わって、とある施設がよく使われるようになっていた。


 ここには、終了したサブクエストやイベントを再度体験できるという、『夢見の扉』という施設がある。


 その扉を通ると専用マップに移動し、クリアしたクエストを何度でも受注することができるのだ。


 つまり《ウルグガルド》やフェルシーのクエストを再度受けるPLが増えたという訳だ。


 だから最近は『ギフト』を持つPLも徐々にではあるが増えてきている。


 だが、この扉で受ける事ができるクエストは難易度が格段に高くなっていた。


 《ウルグガルド》のクエストは敵のステータスが格段に高くなっており、あの当時の俺達なら、確実にクリアできない強さに設定されている。《ウルグガルド》のステータスも筋力が1万を越えていたりして、指がかすっただけでHPが吹っ飛ぶ強さになっていた。


 フェルシーの強さは変わらないが、レベル帯に関係なく、肉の化物と化したニャックが襲いかかってくる。しかも、女神様の支援が無いので最初から最後まで自力でクリアしなければならない。……まぁ、『パスファの密約』で時を止めれば一瞬で終わるクエストなんだけどさ。フェルシー自体は弱いし。


 そんな強敵達を相手に立ち回れるPLは限られているので、俺やヒビキがクランメンバーと一緒にクエストの攻略をしていたのだが……。


 ヒビキや、お前とクエストに参加したメンバーの元気が無いんだけど……どうやって《ウルグガルド》を殺したのか教えてもらってもいいかな?


 連れて行ったメンバー達に距離を置かれているヒビキにそう聞くと、不思議そうな顔をして弟は口を開く。


「口の中から侵入して、後はいつものだけど?」


 つまり巨人の身体の中に寄生してエネルギーをすいとり、人形を成長させ、腹を突き破って殺したのだろう。……いつも通りグロいな。

 

 しかも、寄生先の生物の大きさによって、人形の大きさや数も変えることができるらしく、最近は巨人のようなメイド人形も作っているらしい。


「強い個体を作るのが楽しくてね。……という訳で、まだクエストをクリアしていない人はいますか? いくらでも付き合いますよ?」


 ヒビキは笑顔でメンバー達をクエストに誘う。しかし、みんな顔を青ざめて首を横に振った。……うん、わかる。わかるよ。


「なーんだ……折角さっき作った奴の試運転で、怪獣大決戦やろうと思ったのに……」


 そう言ってヒビキは唇を尖らせる。……だが、俺はその話に惹かれるものがあった。


 え、なにそれ? お兄ちゃん、ちょっと興味湧いてきちゃった。そんなにデカイの作ったのお前?


 俺がついて行っちゃおうかな?


「いや、お前はフェルシー狩りの担当だろ。自分の仕事しろよ、兄貴」


 ヒビキは真顔で俺の誘いを断った。ちょっと頭にきた。


 クソ、真人間のふりしやがって。……そういえば、お前とはまともにやりあった事がなかったな? ちょっと兄の威厳を叩き込んでやろうか?


 俺は大鎌を構えた。

 そろそろ実力行使に移らなければ、こいつは言うことを聞かなくなってしまったらしい。悲しい。


「お、いいじゃん。頼まなくても苗床になってくれるとか、兄貴はやっぱり優しいね」


 ヒビキはニタリと口元を歪ませると、大量の人形達を召喚する。


 小さいプチサイズから、5メートルはある巨大なメイドまで。様々なサイズの人形があちこちに現れ、ギルド内はパニックになっていた。

 そんな事を気にする様子も無く、ヒビキは俺に向かい合い腰を落とし構えた。


「今までいろんなのを作ってきたけどさ、兄貴に産んでもらった個体が一番バランス良く仕上がるんだ……。だから、ボクをもっと産んでよ」


 はっ! 俺はもう二度と苗床にはならん! いくぞこらぁ!


 と、俺とヒビキの兄弟喧嘩が始まろうとした瞬間、ギルドの扉が音を立て、開け放たれた。


「その勝負まった!」


 ギルドのロビーに声が響く。


 何事だと思い目を向けると、一人の女性が立っていた。


「苗床なら、私に任せてくれ! 好きなだけ孕ませるといい!」


 その言葉に俺達は呆れてしまった。


 現れたのは元『追い詰めカメラ』リーダー、OL風のPLのミラアだ。

 最近『ペットショップ』に加入した新顔の変態である。……だってよヒビキ、相手してやって。俺はやだ。


「……え、なにあの変態。あんなのに産んでもらうなんて嫌なんだけど。……あ、戻っていいよ」


 ヒビキが指示を出し、召喚した人形達を帰還させた。それを見た周りのクランメンバー達はほっとした顔をしている。


 ミラアは俺達に近づいてきた。そしてニコリと笑う。


「なんだ遠慮なんてしなくても良いのだぞ? 私、一度はお前に寄生されてみたいと思っていたんだ。手足を拘束され、お前を生み出すだけの肉塊に成り果てる……想像しただけでゾクゾクするな。ふふふ……」


 ミラアは肩を抱き締めて、ぶるるっとその身を震わせた。


 その様子を見て、ヒビキの顔がひきつる。


「兄貴、コイツめっちゃキモいんだけど? こういうのとは、あまり関係を持たない方がいいよ?」


 いや、お前も大概だからね? 人の振り見て我が振り直せってやつだよ? 頼むぜ、まじで。


「ほう……兄弟で私を弄んでくれるのか? そうやって言葉で攻めてくれるなんて……嬉しい事をしてくれるじゃないか」


 ミラアは恍惚とした表情を浮かべる。俺達はドン引きした。誰だ、こんな奴をクランに誘った奴は。


 ……お前思ったよりヤバイ奴だったんだな。

 油断してたわ、まさかうちの弟を越えてくるとは思わなかったぞ。


「ふっ、褒め言葉として受け取ろう。……そんな事よりも、だ。お前に頼まれていた件だが……一つ終わったぞ? 思ったよりも早く見つけられた。今はクランで拘束している」


 ……!

 よくやってくれた、今すぐクランに行こう。

 ヒビキ、お前も来い。今日のクエスト周回は終了だ。


 俺がそう言うと、ヒビキは露骨に嫌な顔をする。


「え、なんでボクも? 相手が誰か知らないけれど、尋問なら兄貴一人で充分だろ。ボク、新しい個体の調整をしたいんだけど?」


 拒否するヒビキに対し、俺はニヤリと笑って見せた。


 いや? お前にも来てほしいんだよ。

 なんて言ったって、これから会いにいく奴は、お前も知っている奴だからな。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 処刑室。


 やらかしたPL(ケルティ、ヒビキ、ゼスプ、俺等)を公開処刑するために設けられた部屋である。


 しかし、実際は何も置いていない空き部屋であり、申請すれば誰でも使える名前の無い部屋であった。一番最初に使用したのがケルティの処刑だったので、その名前が定着しただけだ。


 今日の使用理由は尋問であり、部屋にはX型の拘束具がおかれており、そこには金髪の生意気そうな顔をした幼女が、両手足を鎖で繋がれていた。


「はっ……離せぇ! オマエら、こんな事をして許されると思っているのか!? おれは……おれは幼女だぞ! 離せよ!」


 幼女?


 いや、違うな。君はネカマロリコンという立派な称号があるじゃないか。


 なぁ、そうだろう? ワカバくぅ~ん?


 俺はニヤニヤと笑いながら、拘束されている幼女……もとい、元『紳士隊』リーダーのワカバに近づく。


「ま、またオマエか! 『死神』! 畜生! もう二度と関わらないって決めたのに、今度はオマエからか! なんだよ!? ホモなのかよぉ!?」


 ワカバはどうにか逃げようとして、ガチャガチャと鎖を鳴らす。こうなっても反発心は死んでいないようだ。


 おいおいおい?

 そんな口聞いていいのかぁ? あんまりこっちの言うことを聞かないなら、こっちにも考えがあるぜ? ……おい。


 俺がスッ……と右手をあげると扉を開けてヒビキが入ってきた。


 トラウマが登場した瞬間、ワカバの顔から血の気が引いた。ワカバも苗床経験者だから無理もない話である。


「会いたかったよ……おかーさん……ボク、兄弟が欲しいな……」


 ヒビキはワカバの耳元でそう呟いた。……コイツ徹底してるなぁ。


「ヒッ……変態っ……! やめてくれ、もうあんな事したくない! わ、わかった! 抵抗なんてしない! オマエらの言うことを何でも聞くから……あれだけは許して……」


 ワカバの目の端からポロリと水滴が零れた。あれは相当の覚悟を持ってからやらないと、精神的に大変な被害がでる。


 しかも、年齢設定をRー18にしていた場合、更にグロい表現になるそうなので、もしかしたらワカバはもっと酷いものを見ていたかも知れない。


 ……なんか、可愛そうになってきたし本題に入ろうかな。ヒビキ、もう許してあげなさい。


「ちぇ……これからが面白いのに……」


 ヒビキは残念そうに舌打ちするとワカバから数歩離れた。


「うぅ……ありがとう『死神』……おれ、もう産みたく無いよぉ……」


 ワカバはホッとしたのか、涙を流して俺に礼を言ってくる。……やべぇ、追い詰めすぎたわ。


 ああ、うん。

 とりあえず、質問に答えて欲しいんだわ。


「質問……? おれが知っている事なら何でも答える……だから……」


 わかるよ、俺も何回か産んでるからね……。お前の辛さはわかる。

 お前がちゃんと答えてくれるなら、ヒビキには手を出させないから。


「わかった……。信じるから、何でも聞いてくれ……」


 どうやらワカバは多少落ち着いてくれたらしい。今なら何でも答えてくれそうだ。……ヒビキ、大人しくしててくれよ? 頼むからな?


 俺は一度、深呼吸をしてから口を開く。


 ……聞きたいのは、お前の『プレゼント』についてだ。



 お前『怠惰』の能力を持ってないか?

 


 俺がそう聞くとワカバは驚いた顔をした。


「た、確かにおれの『紅糸』にはそう言う名前の能力があるけど……どうして知っているんだ?」


 やっぱりか! いつからだ! いつからその能力がついていた!?


 俺は思わず前のめりになった。


 ずっと不思議だったのだ。何故ヒビキに『怠惰』の能力を持っているのか?

 ヒビキはその名前を冠する敵を倒したことがないと言っていた。しかし『ギフト』は邪神を倒さなければ得る事ができない。


 ヒビキが『怠惰』の能力を得たのは、ビギニスートでワカバと戦った時期と重なる。


 だから俺は仮説を立てた。



 『ギフト』はPLからPLへ伝染するのではないのか?



 ワカバがあの時点で『ギフト』を得ていたのなら、この仮説は正しいものだと俺は先輩やゼスプに提議した。


 しかし、『暴食』や『憤怒』の能力がギルドで取得できるのに、『怠惰』だけ取得できないのはおかしい、という意見が上がったため、『怠惰』の話は保留となった。


 なので、『怠惰』の能力を所得しているかも知れないワカバに話を聞く必要があったのだ。


 これで、いつその能力を手にいれたのかがわかれば、他のPLにも『怠惰』の能力を持たせる事ができるのだが……。


「こ、この能力はおれが『プレゼント』を手にいれた時からずっとあった能力だ。オマエらは、これを邪神って奴から奪ったって動画で言ってたけど……、おれはそんなの殺した記憶は……」


 ワカバそう言うと、ヒビキが手を伸ばして幼女の頬に触れた。


「嘘はいけません。そんなに……産みたいんですか……?」


 ワカバの顔が一瞬にして絶望に染まった。


 ヒビキ! やめてやれ! ソイツ本気でお前の事ビビってるから! ……後で俺が作らせてやるから、我慢しろよ? な?


「なっ……! オマエ……!」


 ヒビキは俺の言葉を聞いて、手を引っ込めた。……今は情報が必要なんだ。うん。覚悟決めよう。


「ありがとう……ありがとう……『死神』……おれなんかの為に……」


 いいんだよ。

 気にすんな。


 ……にしても、『プレゼント』に貰った時から『ギフト』がついていたって事はかなり早い時期に『怠惰』は死んでたのか。

 あれ? 邪神は『プレゼント』によって封印されるって話じゃなかったか? 最初から『ギフト』がついているっていうのはおかしくないか?


 ……とりあえず、話を聞こう。


 ワカバ、このゲームはいつから始めた? 俺は初日組なんだけどさ。


「……βからだ。それと、おれも初日組だぞ」


 じゃあ……『神殿崩壊』は見たんだな。


 このゲームのサービスが開始された初日。

 最初の街、ビギニスートはリリア様の『神殿崩壊』により消滅した。……今でも語られる大事件である。


「ああ、もちろん巻き込まれた。『魔王』とオマエは逃げれたらしいけど……」


 巻き込まれた……。


 ……! 


 それだ! そのタイミングでお前は『怠惰』の邪神に取り憑かれたんだ!


「は? どういう事だよ……?」


 ワカバは首を傾げた。


 多分、『怠惰』の邪神はビギニスートに潜んでいたんだ。本当だったらゆっくりと力を付けていくはずだったのに、リリア様の『神殿崩壊』に巻き込まれ、倒されたんだろう。


 けど、邪神は封印しなければまた何かに取り憑いて復活するらしい。


 ……きっと、一度倒された邪神は、近くにいたお前に取り憑いたんだ。


「で、でも、おれはそんな変な感じはしなかったぞ?」


 『プレゼント』には邪神を封じ込める力がある。


 お前は邪神に取り憑かれていても、あとから貰った『プレゼント』のおかげで、邪神の力を封じ込める事ができたんじゃないのか? それで、最初から『怠惰』の能力を持っていたんだと思う。


 そんなお前を倒したから、ヒビキも『怠惰』の能力を手にいれた。……あり得ない話じゃ無いだろう?


 俺の話を聞いたワカバは顔をしかめる。


「……悪い。おれにはよくわからない……でも、何で『怠惰』だけクエストが受けれないんだ? 他のは受けれるって聞いたぞ?」


 ……多分だが、あそこで受ける事ができるのは、クリアしたクエストだけだ。


 その邪神が現れるクエストをクリアする前に倒してしまったから、『夢見の扉』に『怠惰』のクエストが現れないんだろう。

 つまり、『怠惰』の能力はお前らだけの能力になっちまった訳だな。


「そうなのか……? でもオマエ達さ、街を再生成させなかったか?」


 確かに、俺達は女神の力を借りて、ビギニスートの街をゲーム開始時点まで巻き戻した事がある。『紳士隊』が良いように荒し尽くして、俺達の力だけではどうしようも無くなったからだ。


 でも、それがどうしたって……。


「あ。そうか……そうだよ! 兄貴の言っていることが確かなら……」


 いきなりヒビキが叫ぶ。……どしたのよ? びびるから、いきなり叫ぶなって。


「そこまで予測できて、何でわからないんだよ!? と、とにかく、ボク達はビギニスートにいかなくちゃいけない。これはボクらの責任だ」


 何でそんなに慌ててんの?


 俺が不思議に思い、顔をしかめるとワカバが一言。


「『死神』、街を最初の状態に戻したらよ……その『怠惰』の邪神も、再生成されてんじゃないか?」


 俺が全く考えていなかった事を口にした。


 ……確かに。


 これ……本当に復活してたら……俺達のせい、かな?


 俺は苦笑いしながらヒビキとワカバの顔を見る。すると二人はゆっくりと頷くのだった。




 そういう訳で、俺達はビギニスートに行くことになった。

 どうしよう……。




・夢見の扉

 人間が作った過去を追体験できる扉。世界の記憶を元にして世界を構築するアーティファクト。


・X型の拘束具

 何でそんなもんクランに置いてあるんだよ。おかしいだろ。


・再生成

 ……え。これやらせたの、わたしなんだけど……やっちゃた?

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