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戦争の始まり

 数日前の話である。


 国境の砦が破壊され、大量の戦車やサイボーグが雪崩れ込んできた。

 その大隊は隊形を維持しつつ前進、隣国からの侵略が始まったのである。


 しかし、運が悪いことに国境から一番近い街はこのサアリドであった。


 フェルシーのイベントが終わり、暇していた俺達はその知らせを聞き、両手(もろて)を上げてその軍隊に突っ込んだ。


 ものの5分位で敵部隊は消滅してしまったが、残骸に珍しいアイテムが結構あったので美味しいイベントだった。やったね!

 ……と、この話が終われば良かったのだが、そうはならなかった。


 その戦闘が終了して数分後、隣国『ザガード』より、『アミレイド』への宣戦布告が発表されたのである。


 うわー大変だねぇとか言いながら、クランに戻ってチップと茶を啜っていたのも束の間。国の役人とやらがクランにやって来て、こう言ったのだ。


「冒険者クラン『ペットショップ』及び『魔女への鉄槌』に告ぐ! 戦争に義勇兵として参加せよ! 繰り返す! 義勇兵として参加せよ! これは王命である!」


 まぁ唖然としたよね。


 義勇兵って詳しく知らなかったから調べたけど、見返りなしで参加して戦う兵ってことらしいじゃん。


 要するに、テメーら俺の為に死んでくれよ。あ、報酬は無いけどいいよね? だってお前らこの国で暮らしてるじゃ~ん? 王様の俺の為に死んでよ~? って事らしい。


 よし、取り敢えずこいつの晒し首を王様に贈ろう。そうすれば報酬ぐらいは用意してくれるかもしれない。


 俺は笑顔を作って武器を携えた。


 おや?


 他のメンバー達も武器を抜いたぞ?


 なるほどな~、やっと全員の頭のネジがぶっ飛んだのか。先輩の教えの賜物だな。結構時間かかったけど、ようやく慣れたようだ。……悲しい。皆どうかしちゃった。


 ……あれ? なんで皆武器を俺に向けてるの? え? ここで話をややこしくするなって? あ、痛たたたた、チップぅ~お前もかよ~、噛むなって~。


「お腹すいタ……ツキトタベタイ……オイシイ……スキ……」


 ……ちょっと裏行ってくるわ。




 と、そんな事があって、俺達のクランは戦争に参加することになった。


 ……あ、食われて無いよ? ちゃんとご飯をあげて、味見だけですんださ。ちょっと痛かったけどね?

 

 話を聞けば他のクランにも戦争の話が広まっており、運営の告知にもクランメンバーを集めるよう記載されてあって、PL間に戦争ムードが高まっていった。


 どうやら、イベントの告知も兼ねていたらしい。……結構唐突に突っ込んできたな。


 戦争では両国のクランがPvPで殺しあうことになるらしい。1日に一回、クラン同士で殺しあうイベントだそうだ。負けても特にデメリットは無いらしい。報酬が減るだけ。


 でも負けたくないのが人間でして。


 情報収集にしても、戦力にしても、大事なのは数だ。

 だから他のクランもメンバー募集に躍起になっていた。


 そういう理由で、ここ最近の俺達の活動は戦争準備が主になっていたのだ……。



 けど、そんな忙しいときでも、ちょっと遊びに行くぐらいなら……いいよね?


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 今日の仕事が一段落ついたので、俺はクランを抜け出し、グレーシー様のお屋敷を訪れていた。


 招待されたのに、無下にすることはできないだろう。……決して、仕事を押し付けられる前に、逃げた訳では無い。


 『教会の指輪』の能力ですぐに女神様の元に来ることができるので、クランからすぐに来ることができた。


 グレーシー様のお屋敷は洋館の様な建物で、玄関を開けると目の前には大きな階段があり、壁には絵画等が飾られていた。ファンタジーとかでよく見る貴族の家の様だ。


 あまりの豪華さに目を奪われていると、右から声をかけられる。


「お嬢様へのお客様ですか?」


 ハッとして声の聞こえた方に振り向くと、そこにはメイド服を着た半透明な人がいた。……うおぁ!? 出たぁ!


 幽霊ですか!? うわっ、足もない! 浮かんでる!?


 俺が慌てる様子を見せると、メイドさんはクスクスと笑う。


幽霊(レイス)は初めてですか? 我々はグレーシー様の元で働いている使用人です。主に身の周りのお世話をしております」


 あ、ああ……、そうなんですか。

 すいません、驚いて。今日はグレーシー様に用事があって来たのですけど……。


「ツキト様ですね? ……話は伺っております。どうぞ、ついてきてください。ご案内します」


 メイドさんはホバー移動をしながら屋敷の奥に入って行った。……幽霊だなぁ。俺そういうの苦手なんだけど……。


 屋敷の中を進んでいくと、何回か使用人にすれ違う度に俺はびくびくしていた。あっちは頭を下げてはくれるが怖いもんは怖い。


 途中、女神様達の肖像画があったりして見所は多かった。


 そう言えば、グレーシー様の友好関係……というか、女神様達の関係性がよくわからないな。

 パスファ様とリリア様は育ての親と子供なのは知っているが……。


「つきました……」


 あ、どうも。


 気が付くと、目の前には大きな両開きの扉があった。俺はゆっくりとその扉を開き、中の様子を確認する。


 どうやら書庫の用で、沢山の本棚が並んでおり、部屋は紙の匂いがした。


「おお! やっと来たのじゃな。こちらに来て座るがよい」


 声の聞こえた方向に進むと、小さなテーブル前にグレーシー様が座っていた。

 テーブルの上には本が積み重なって置いてあり、今の今まで読書をしていたのだとわかる、のだが……。


 グレーシー様、どう見てもパジャマなんですけど。生活感ありすぎじゃないですかね?


「む? まぁまぁ、よいではないか。使用人達は小言を言うが、ここは妾の家じゃしの。どんな格好をしようが妾のかってじゃ」


 うーん、この女神……。中々にだらしないなぁ。


 そんな事を考えながら、俺は用意されていた椅子に座った。……そういえば、伝えたいことがあったんですよね?


「うむ。しかし、このままでは口が寂しいだろう? ……おーい! 酒を持ってまいれ」


 グレーシー様がそう言って手を鳴らすと、壁からメイドさんが現れた。……ひぇ。


 そして、何事もなかった様にテーブルの上にウィスキーとドライフルーツを置き、去っていった。


 服装にはつっこまないんですね……。


「それでは乾杯といこうではないか……、ストレートでも大丈夫かのう?」


 そう言いながら、グレーシー様はグラスにウィスキーを注いだ。


 勿論。好きですよ。それじゃあ、……乾杯。


 カチン、という軽い音が部屋に響いた。





 そして、グレーシー様が酔っ払った。はえーよ。即落ち2コマかってーの。


「ふぁ……。お主には礼をしたかったのじゃ……、こねこに負けて落ち込んでいる妾を励ましてくれて感謝しておる。思い返すと少し恥ずかしいがな……んっ」


 そう言ってグレーシー様はまた酒を煽った。……もう、飲み過ぎですよ~? また酔いつぶれちゃいますよ? そうなったらまた俺に運ばれる事になりますが?


「その時には頼むのじゃ。ところで……」


 グレーシー様は立ち上がるとふらふらと俺の方に寄って来た。

 そして、そのまま俺に倒れ込んでくる。……うわっ! どうしたんですか!?


「ん~? この前は妾の頭を撫でたり、抱き締めたりしてくれたではないか? こういうのが好きなのだと思ったが、違ったかの?」


 抱き付いてくるグレーシー様はニヤニヤと笑っていた。酒のせいで頬がほんのりと赤く染まっており、妖艶さを感じさせる。


 俺をからかっているらしいが……ふふふ。甘いですなグレーシー様。酒の入っている男をなめてはいけませんよ?


「どうしたのじゃ~? そんなに慌てて。前のお主はもっと……きゃ!?」


 俺はグレーシー様を膝の上にのせて、そのまま正面から強く抱き締めた。


 前の俺は……、なんですかねぇ?


「なっ、何をするのじゃあ!? 妾にこんな事をして、不敬であるぞ!」


 まぁまぁ、この前はこんな感じだったでしょう? ほら、なでなでしてあげましょう。


 俺は手をグレーシー様の頭にのせて、優しく撫でた。のせた瞬間びくんと体を震わせたが、徐々に力を抜いて俺に体重をかけてくる。


 この女神様、今までの女神様の中でもトップクラスにチョロいな……。


「お、御主……妾が悪かったのじゃ……。こんな姿を誰かに見られでもしたら死んでしまう……離してはくれぬか……?」


 ええ~? この前はもっともっとと、ねだっていた癖に~。

 いいんですよ? もっと甘えてくれても?


「うう……そんなぁ……、うそじゃ~……これでは妾の威厳が無いではないか~……」


 おーよしよし。

 落ち着いたら離してあげますからね~。


「うぅ~……」


 他の女神様ならここで暴れて俺が死ぬのだろうけれど、グレーシー様はこうすると借りてきた猫の如く大人しくなる。


 魔術師だから力が弱いというのもあるのかも知れないが……あれ?


「…………」


 グレーシーさまー?


 俺の呼び掛けにピクリとも反応はない。不思議に思っていると。耳元にすぅすぅと寝息が聞こえてきた。


 ……ああ成る程。

 寝ちゃいましたか……。




「はぁ……すまぬな、昔を思い出したら寝てしまったようじゃ。……この事は他言無用じゃ。約束じゃぞ?」


 目を覚ましたグレーシー様は水を飲んで、ため息をついた。


 勿論ですよ。……ところで昔とは?


「ああ、昔、リリア様に同じような事をしてもらっていたからの。懐かしい話じゃ……妾はパスファとフェルシーと共に、リリア様に育てられたのじゃよ……」


 リリア様が聖母と呼ばれる由縁ですよね?

 パスファ様の話は聞きましたが、フェルシーやグレーシー様もそうなのですか?


「うむ! あの頃は聖母の名を冠してはいなかったがな。妾達にとって、あの方は世界で一番の母親なのじゃよ……」


 グレーシー様はそう言って微笑んだ。


 そうだったったのか……。確かにパスファ様とフェルシーも仲が良かった。


 そういえば、カルリラ様から聞いたのですが、リリア様だけ生まれついての女神様なんですよね。

 聖母と言われる前は、なんと呼ばれていたんですか?


「確か、ただ女神様と呼ばれていたはずじゃな。……それにしても、カルリラ様とはよく会っているのか? どうだ? あのお方は変わり無いだろうか?」


 ?

 カルリラ様ですか? ええ、きっと変わっていないと思いますよ。

 ……ところで、なんで同じ女神様なのに様付けなんですかね?


「それはそうじゃろう、私達が出会った時には、既にカルリラ様は……!」


 グレーシー様はなにかを言いかけると、慌てて口を押さえた。顔も目を見開いて、しまったという顔をしていた。


 はい? カルリラ様がどうかしたんですか?


「な、何でも無いのじゃ! 今の妾の言葉は忘れるのじゃ!」


 明らかに慌てている。

 この前のカルリラ様との話でも、なにかを隠している様子があった。

 そして、俺にはその予想がある程度ついている。


 ……グレーシー様。

 一つ、聞いてもらってもよろしいですかね? もしも違っていたのなら、殺してもらっても構いません。


 もしも当たっているのなら……聞かなかったことにしてください。


 ……リリア様についてです。


 


 俺はこの質問で、この世界の秘密の一つを解明した。

 



 結果から言ってしまうと、俺の予想は的中していた。

 グレーシー様は驚いた顔をしたが、諦めたかのように目を閉じて、静かに頷いた。


 確かに、秘密にしなければいけない内容だった。……できれば、違っていれば良かったのだが。


 そして、こんな考えに至った俺は殺されても仕方がなかったはずなのだが、グレーシー様は笑って許してくれた。


「謎を解き明かしたくなるのは、人として当然じゃ。それに、お主は事実を言っただけじゃしな……しかし、誰にも言ってはならんぞ? 困惑する者もいるじゃろうからな」


 当然ですよ。誰にも言えませんって。

 ……けど、どうしたもんですかね。これからどうしたらいいか、困りもんですよ。


「すまぬな。実のところ、妾にもわからないことが多い。……カルリラ様が全てを知っておる。妾達が女神と呼ばれるようになったきっかけは、あのお方じゃからな……」


 やはり、カルリラ様は他の女神様達とは事情が違うらしい。やけに邪神に詳しかったので少し引っかかるところがあったのだ。


 ……わかりました。


 今日はありがとうございます。

 気になっていたことが、一つなくなりました。


「それならば良かったのじゃ。……にしても、遅くなってしまったが大丈夫かの?」


 まぁ……仕事から逃げて来ましたんで少し怒られるかも知れませんが、大丈夫じゃないですかね? ……それでは、失礼します。


 俺はそう言って、メイドさんにつれられて部屋を出た。


 振り替えるとグレーシー様が手を振っているのが見えたので、俺は笑顔を作った。


 また、来ますね。










『グレーシーと何をしていたんですか……? お元気ですね……』


 クランに帰ってきた瞬間、目で捉える事ができない速さで何かが飛んで来て俺の頭に突き刺さった。


 成る程、こっちのパターンで怒られるのか……。



・女神

 やっぱり気付いてたか。というか、みんな口軽すぎるでしょ……。どんだけ油断してるのさ

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