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クラン『追い詰めカメラ』

 俺とケルティはアンズの案内により、サアリドの街を歩いていた。

 最近は更に賑わいを増しており、他クランも人員のスカウトに精を出しているようだ。


 そんな中、人波を泳ぐように俺達は進んで行く。


「『追い詰めカメラ』のアジトは定期的に入り口を変えているんです。なので、メンバーの一人を捕まえて、場所を教えてもらいます」


 アンズはこちらに振り返らず、街中をキョロキョロと見渡しながら前に進む。


 ……本当に大丈夫なのか?

 ヒビキに頼んで探してもらったけど、それらしい奴等は見つけられなかったぞ?


「『ドールズ・メイド』さんですよね? ……残念ですけど、人海戦術にも限界はあるということです。それに、アジトはサアリドにはありませんから」


 ?

 じゃあなんで俺達はこんなところを歩いているんだよ? 直接殴り込みに行こうぜ?


「ツキト、不思議に思ったことない? いくらなんでも、神出鬼没過ぎるでしょ『追い詰めカメラ』ってさ」


 ……確かに。

 俺達が戦っているところに現れては盗撮をしているはずのアイツらの姿を、俺達は未だに確認できていない。

 一度チップが怪しい奴を追跡したらしいが、逃げられてしまったそうだ。


 つまり、奴等はチップ以上の……座標指定ワープ以上の機動力を持っていることになる。……考えるだけで厄介な相手だというのがわかるな。



 アンズ、相手がどんな『プレゼント』か知ってるか? それによっては準備が必要なんだが……。


「えっと。とりあえず、戦闘向けではないです。簡単には言えば、帰還ポイントの設置が出来る能力、です」


 『帰還』という魔法がある。


 決められた場所に瞬時に移動できる魔法だが、その移動できる場所が極端に少ない事で有名だ。


 自分の拠点、もしくは所属クラン本部のみにしか移動できない、まさしく『帰還』するだけの魔法である。


 しかし、それ以外に長距離移動の魔法も無いのでPL達は重宝しているのだが……。


「帰還ポイントで『帰還』の魔法を使えば、予め設置した帰還ポイントへ移動できる能力です。神出鬼没なのは、そのせいですね……。あ! いました!」


 へーめっちゃ便利……、ってまじでか。

 どこよ?


 俺が聞くと、アンズが路地裏に入っていくゴブリンを指し示した。

 明らかに周りを気にしている様子で、怪しさを隠しきれていない。しかも、アンズと同じようなハンチング帽を被っている。


 そして、可哀想な程に動きが遅い。


 俺は人混みを縫う様に通り抜け、そいつの首を掴み、持ち上げる。足が遅かったおかげで、楽に捕まえる事がができた。


 ……さて、何から聞いていこうか?


「だ、誰だ!? 一体何の用があってこんな……ぎゃああああああ!? 『死神』だぁぁぁぁぁ!? なんで!? なんで俺を!?」


 ゴブリン君は逃げ出そうともがくが、力も弱いようでまったく抵抗になっていない。


 まぁまぁまぁまぁ、落ち着いてくださいな。

 ちょっとお話ししましょうよ? インタビューって奴です。大人しくしてくれれば何もしませんから……ねぇ?


 ケルティとアンズを手招きしてこちらに誘導する。

 二人がやって来たら表通りから見えないように、壁生成の魔法で壁を作って道を塞いだ。普段は足場にしているが、本来の使い方はこうなのだろう。


「うわー、逃げ道潰すとか……」


 ケルティが若干引いていたが気にしないものとする。


 ……じゃあ、何はともあれ尋問していきますか。


 君さぁ、『追い詰めカメラ』のメンバーなんだって? ちょっと聞きたいことがあるんだけどさぁ、君達のリーダーに会いたいんだけど、どうすれば会えるかなぁ?


 俺は暴れるゴブリン君の肩に腕を回して肩を組んだ。そのままジワリジワリと力を込めていく。


「ぎゃあああああ!? 死ぬ!? 死ぬって! 話す、話すから! そ、そこだよそこ! そこのゴミ箱の裏! そこで『帰還』をすれば……」


 其処まで聞いたら、俺はそのまま腕に力を込めて、更に締め上げる。ゴブリン君は焦って俺の腕をタップしたり、じたばたともがいたりしていた。


 おいおい、ちょっと口が軽すぎないかぁ?

 帰還ポイントの話は聞いたけどよ、そんなに簡単に口を割るのは怪しさしかないんだけどよぉ……、どう思うよ? なぁ?


「まっマジなんだよ……。やっ、やめ……。あ」


 力を入れすぎたようで、ゴブリン君が弾けた。

 暗い路地裏に肉片が飛び散ってしまう……やっちゃったぜ。


「あわわわわ……」


 アンズが口元に手を当てて、あわわしていた。……かわいい毛玉だな。もふりたいがケルティに殺されるのでやめておこう。


 しかし、殺してしまったものはしょうがないな……『パーフェクト・リターン』。


 俺が魔法を使うと、先程のゴブリン君が目の前に現れる。何が起きたのかよく理解していない顔をしていた。


 使うかわからなかったが、回復魔法を習得しておいてよかったよ、うん。


 いやぁ、ごめんねー。ついうっかり殺しちゃってさぁ。でも、こうやって生き返してあげたから……いいよな?


 俺はニタリと笑顔を見せつけてやった。


「これは復活の魔法……? し、死んでも逃がさないって事なのか……? 何て奴だ……」


 おや、どうやらいい感じに誤解してくれた。これなら拷問する手間が省けるな。


 ゴブリン君はため息を吐くと、覚悟を決めた様に顔を引き締める。


「はぁ……わかった、俺も死に続けるのはご免だからな。……付いてこい、クランまで案内してやる」


 お? 話が早いじゃん。

 ……でも良いのかよ、お前がクランを裏切る事になるけど?


「構わねーさ。それに、俺達はもう裏切られていたみてぇだしな。……もう潮時って事だろ」


 ゴブリン君はアンズを顎で指した。アンズは申し訳なさそうに顔を反らす。

 裏切られた方は気にしていない様だが、アンズには思うところがあるようだ。


「ま、お互いさまだ。それに、俺もそろそろクランを抜けちまおうと思っていたしな。あちこちでクランの勧誘やってるし、それに乗らせてもらうさ。……良い所があればいいんだがな」


 そう言って路地を進んでいく彼の背中は、どことなく哀愁が漂っているのだった……。


 え? なに、この空気? 俺が悪いの?


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 おらぁ! 『ペットショップ』だゴラァ! 全員動くな! 動いたら殺す!


 『追い詰めカメラ』のクランに魔法で移動した瞬間、俺は銃を構え、そう叫んだ。


 移動した場所は机が並べられており、事務所の様な部屋だった。数人のPLが机で作業をしていたのだが、今はこちらを見て驚いたような顔をしてしている。


 それと、大袈裟に動いた奴がいたので、俺は弾丸を撃ち込んだ。……動くなって言ったろうに、殺すぞ?


「ちょっとやりすぎだって。リーダーに用事があるんでしょ? ……というか、殺してるじゃん」


 ケルティにまともな事を言われた。俺はもうダメかも知れない。


 俺が軽くショックを受けていると、一番奥に座っていた女性が口を開いた。メガネをかけたOLの様なPLだ。


「……『死神』に『銀眼』。はぁ、ついに見つかってしまったか。……お前達、何が目的だ? お前達の持っている情報に比べたら、私達のクランなんて大したことは無いぞ? それとも金か? お前らには稼がせてもらった」


 OLさんはそう言って両手を上に上げたが、まるでどうぞ撃ってくださいと言っているように見える態度だ。肝が座っている。


 ……俺達の目的は、お前らがネットに上げている『魔女への鉄槌』及び『ペットショップ』が関係する動画全ての削除だ。

 ああ、それと……クランも潰してもらおうか? 再犯防止ってことでな。


 俺がそう言うと、OLさんは不敵に笑う。


「なんだ、そんな事か。……いいだろう、今日をもって『追い詰めカメラ』は解散だ」


 ……いやに素直だな。別に俺に殺されてもすぐに復活できるんだから、クランの解散だけはー、とかなると思ってたのに。

 お前、リーダーとしての責任とか無いの?


「こういう人なんです…人としてどうかしているんです……クズなんですよ……」


 アンズはため息混じりにそう呟く。相当苦労していた様だ。


「ん? アンズじゃないか。そうか、お前が裏切って、コイツらを連れてきたのか。従順な犬かと思っていたがやるじゃないか。ふふふ……」


 え……なんでこの人裏切られて喜んでるの?

 怖いんですけど。


 俺が呟くと、OLさんは笑うのを止めた。


「む、わるいな。ふざけて小悪党みたいな事をしていたら、このRPが楽しくなってきてな。誰かに断罪されるのを待っていたのだよ。……さぁ、私を惨たらしく殺すといい。できるだけ惨く、な?」


 凄く楽しそうな顔をしている。


 うわぁ……新しいタイプの変態だ。

 ……ケルティ、こういうタイプ欲しくない? いろんなのがいた方がハーレムも面白いだろ?


「ええー……変態はちょっと……」


 お前がそれを言うのか。


「そういう拷問をされるのも、予想はしていた。……さぁ、犯すといい。同性にいいようにやられるのも悪くはないかもしれん」


「あ、結構です……」


 おお、あのケルティが怯む程の変態性とは恐れ入った。


 畜生……まだ用事が合ったのに帰りたくなってきたぞ。これだから変態の相手をするのは嫌なんだ……。


 俺は一度ため息をつき、OLさんに向かって口を開いた。


 悪いけど、別に拷問する気は無いから……。それと、まだ取引したいことがあるんだよ。


 俺は銃をしまい、OLさんに近寄る。


 今、俺達のクランの斥候班が必死で情報を探している案件が幾つかあるんだが……、人員と時間が圧倒的に足りない。


 だからと言って、戦闘要員をそっちに割くのは得策じゃない。


 ……俺達は情報収集に特化したPLが欲しいんだ。


 そう言うと、OLさんはピクリと反応する。


「まさか、お前達のクランに入れと? ……私達は戦闘はできんぞ? 写真と動画しか撮っていなかったからな、足手まといになると思うが?」


 OLさんは怪訝そうな顔をしてそう言ったが、俺はそうとは思わなかった。


 いや、それでいい。

 情報だけを集める部署が欲しかった。


 そして、お前のその移動能力が喉から手が出る程に欲しい。このままクランに拉致してやりたい程にな。


「ほう? 随分と高く買ってくれているじゃないか。……いいだろう、お前の強引なところは嫌いじゃない。それにこういう取引はいいな……実に悪人っぽい……」


 OLさんはニタリと口角を歪ませて笑う。


「よし、わかった。『追い詰めカメラ』の人員に通達しておこう。これからは『ペットショップ』に加入し、活動をしていくとな」


 ……他の奴等に確認しなくても良いのか?


「ああ、アイツらは私の下僕だからな。それに反発するやつはそれでいい。後ろから刺してくれるなら尚更だ。RPが捗る」


 見事に自分の事しか考えてねぇ……クズいなぁ……。


 それじゃあ、広報班って事で運用していくと思うからよろしく頼む。……投稿する動画はこっちで検閲するようになるがそれでいいか?


「ああ、好きにするといい。……それで? どんな情報が欲しいのだ?」


 話が早くて助かるな。


 ……先ずは邪神の捜索だ。

 こいつを最優先でやってほしい。アイツらの『ギフト』は武器になる。

 

 次に、とあるPLを探して欲しい。

 聞きたいこととやらせたい事がある。これは気が向いたらで構わない。


 ……やってくれるか?


「いいとも。こんな小悪党ではあるが、よろしく頼む。……ミラアだ」


 OLさん、もといミラアは手を差し出してきた。……友好の証と言ったところだろうか?


 俺はニヤリと笑ってその手をとった。


 もしかしたらミラアは何か企んでいるのかも知れないが、そんな事はどうでもいい。


 使えるものはなんだって使う。


 でなければ……。



 これから始まる戦争には、勝てない。








 ところで……、俺の動画で稼いだお金、少しでも分けてくれると嬉しいんですけど?


「あー、泡銭だと思って全てパチンコに突っ込んでしまってな……。もう一円も残ってない……ごめんねー」


 ……うーん、クズだなぁ。


 俺は手を組んだことを少し後悔した。


・戦争

 あーあ、ついに停戦が終わったか。短い平和だったねー。人が沢山死ぬんだろうなぁ……。

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