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アンズ~レズエルフの甘い囁きに堕ちた雌犬~

「いやぁ~、ごめんね? いきなり部屋に土足で入り込んで来たからさ、敵襲だと思っちゃったんだよ」


 俺は新人研修を終えて、ケルティの和室に訪れていた。い草の良い香りがする。


 説明会を終えた後は、シーデーが工房の案内をしに、新規メンバー君達を引き連れて行った。もう、逆らう愚か者などいなくなったようだ。


 ああなれば、俺もお役御免だろう。


「にしても、人員が欲しいからって適当に増やすのはどうかと、ケルティちゃんは思うんだよ。優秀な子を探した方が早いんじゃない? 私のときみたいに」


 それが一番良いんだけどよ。フリーの前作PLはもう居ないだろうし、一から育てた方がいいって話も出てきてな。

 ま、人ってのは蓋を開けてみないとわからない。シュレディンガーの猫ってやつだな。


 ……ちなみに、ケルティがクランに入った経緯なのだが、俺がサアリドの街で見付けて、声をかけたのがきっかけだった。

 

 初めてゲームにログインしたときにも声をかけていたので、前作PLをクランに加入できれば心強いと思い、再度声をかけたのだが……。


 ストーカーだと思われて、戦闘になった。


 仕方なく、ほぼ拉致する感じでクランに連行したが、結果丸く収まったので結果オーライだ。……いや、チップの顔見たら大人しくなっただけなんだけどさ。


 思えば、長い付き合いだな。


「シュレディンガーって……、うちの猫さんは死なない事で有名じゃん。中身見なくても結果わかってるじゃない」


 うまい事言ったつもりだったが、言い返された。……クソ、それはオチに持ってくるつもりだったのに!

 

 ケルティに言い負かされた俺はみっともなく言い訳をする。


 例えだよ、例え。そこで先輩出したら全部ぶち壊しじゃねーか。

 それに、箱の中身が死んでようが生きていようが、関係無いんだよ。最終的に役にたってくれればいいんだ。


 役にたってくれたのなら、死因が毒ガスだろうが餓死だろうが関係無いさ。


「うわぁ……、予想以上にド外道ですねぇ……」


 気が付くと、ケルティの隣に白い毛並みのメスコボルトちゃんが座っていた。ハンチング帽を被り、ピンクの服を着ている。


 俺は驚いて声をあげた。……なんか、さっきからみっともない真似しかしていないな。


「ちょっと! 私のアンズちゃんの顔見てそれはないでしょ! ……と言うか、ツキトこういう子好きでしょう? モフいよぅ? にしし」


 ケルティは現れたコボルトちゃんを撫でながら笑った。


 うるせー! いきなり現れたからびっくりしたんだよ! それと俺はセクハラもふ魔族じゃな……!


「ケルティお姉さま、こちら証拠になります」


 コボルトちゃんは何かの機械を取り出すと、かちりとスイッチを押した。


『……スゲェ! 高級な毛布に包まれてるみてぇだ! 手触りよし! 柔らかさよし! 香りよし! おお!? 話に聞いているよりもお肉が付いている!? ぷっにぷにだぁー!』


 俺の声だった。


 間違いなく、この間の畑でドラゴムさんと戦った際の音声だ。しかも、完全なセクハラ及びもふハラ発言である。ゼスプに聞かれたならば命は無い。

 まさか録音されているとは思わなかった。


 ……そうだ。思い出した。

 このコボルト、『追い詰めカメラ』の奴だ。


 『追い詰めカメラ』はやたらと俺達の悪評を広めているクランだ。

 先輩や俺に関わったら命が危ないとか、ヒビキを見たら周りに10体はいると思えとか、あること無いこと言いふらしている奴等である。


 ……よし、拷問だ。拷問にかけよう。


 俺は立ち上がり大鎌を構えた。


「きゃうん!? 決断と行動が速すぎますぅ! ケルティお姉さま、助けてぇ!?」


 黙れぇ! てめぇらのせいで、新規PLが俺の顔見ただけで逃げ出してんだよ! どんだけ俺の悪評を広める気だぁ!? ああ!?


 アンズと呼ばれたコボルトは、サッとケルティの後ろに隠れた。

 ケルティはため息をついて、俺に向かい合う。


「あーはいはい。ツキトには悪いけどさ、この子はクラン抜けちゃったの。今はチップちゃんの管轄で動いてもらってるから」


 はぁ? 抜けたぁ?


 ……なに? お前もしかして、変な事してないよな?


 ケルティの女絡みの話になると、違う問題が出てくる。やめろよ? まじでやめてくれよ? あ、既にお姉さま呼びされていたということは……。


 なるほど、NTRか。やりやがったな、おい。


「自己完結しないで!? 違うんだって、前に取材でうちに来たことがあったでしょ? その時から交友関係はあったの。……それで、クランのやり方が嫌になったって聞いたから、私が引き抜いて上げたんだって!」


 ……つまり、もう『追い詰めカメラ』とは関係無いと?


「そ、そうなんですぅ! アイツらワタシの事をこき使って、好きな事させてくれないです! それに悪質な編集をしているのは上のやつらです!」


 ケルティに隠れながらアンズが吠える。

 なんかチップを思い出す光景だ。犬科って皆こうなの?


 ……なんかやる気、削げたわ。


 俺は戦闘態勢を解いて、座り直した。


「見て、アンズちゃん。これが女の子に甘い男だよ。騙されないように気を付けてね? もう数名は餌食になってるから……」


「それは、ワタシでも追いきれなかった闇です。……実際何股してるんですか? 見知らぬ美少女とデートしてたとか聞きましたよ?」


 !?


 俺はその発言を聞いた瞬間飛び退いた。……というか、何でそんなこと言っちゃうかなぁ!?

 

「え? 何して……」


 動くな! ケルティ!


 俺が叫ぶと、急に目の前から何かが飛んできて、俺の頭の横を通りすぎて行った。

 後方を確認すると、壁に畑仕事で使う様なフォークが突き刺さっている。


 俺はそれを指差しながら、抱き合って震えている二人の顔を見た。


 どちらも心当たりが無いようで首を横に振っている。……ですよねー。


『良い反応です。次からはもう少し速くしていきますね? ……それと、今の話は誰とのお話ですか?』


 うん、やっぱりカルリラ様だった。


 カルリラ様! 勘違いです! 

 その話は、この間のビギニスードでの話です! カルリラ様もご存じですよね!?

 

『……あ、その話だったのですね。それなら良いのです。もう終わった話ですから。……でも、次は避けられないと思ってくださいね? ふふふ……』


 ゆ、許された……。


 最近のカルリラ様は以前に増して殺意が高くなっている。

 しかし、直接会いに行けばそんな様子は微塵もない、というか、かなり良くしてもらっているのだが……どうしてこうなった。


 俺は二人に向かって、震えながら問いかける。


 理解してくれたかな?

 女神様は、見ているんだよ……。


「ほ、本当に女神様と懇意にしているんですね……。女の子との悪い噂が少ない訳です……」


「私も初めて見たけど……、今のカルリラ様の攻撃? 良く避けれたね、ツキトもやるじゃん……」


 ははは……、初めて避けれたよ、次は無理そうだがな……。


 って、俺の話はもうやめよう。墓穴を掘る未来しか見えない。


 聞きたいのは、お前に頼んでいた『追い詰めカメラ』の話だ。任せろって言ってたのはお前だろ?


 俺がケルティの元を訪ねた理由は『追い詰めカメラ』を潰すためだった。いい加減見逃せないと話をしたところ、自分に任せて欲しいと言われたので、遠慮無くお願いしていたのだ。


「ん? 任されたからアンズちゃんを連れてきたんでしょう? 元メンバーから話を聞くのが一番早いだろうし?」


 そういや、前から個人的な付き合いが合ったって言ってたな……。


 確かにそれなら話が早い。

 俺としては別に『追い詰めカメラ』が迷惑かけなきゃ、なにしようが文句は無いんだけどよ、気になっている事があってな。


「気になる事ですか……?」


 アンズはケルティに抱きつきながら俺の顔を見ていた。


 そう。『追い詰めカメラ』は動画や画像を撮ったり、wikiの編集をしたりして、攻略情報や各PLに注意換気をする、広報活動がメインのクランだよな。……表向きには。


「は、はい……。けど、悪質な記事もありますので……、信じるかどうかは読み手次第ですが……」


 まぁ、それはしょうがないだろう。

 むしろ、全部を信じている奴等がバカなんだから、気にする事じゃない。


 けどさ、アイツら勝手にうちのクランの動画撮ったりしてるじゃん。あれってどうなってるの?


 それを聞くと、アンズはしまったという顔をした。


「えっと……良識あるクランメンバーは、ちゃんと取材として許可をもらっていました。もちろん、ワタシも……」


 ほぅ?

 じゃあさ、投稿されていた俺の動画見たんだけどさ、やたら広告多かったよな……?


 広告料って、どうなってる? 


「えっ……とぉ」


 アンズはサッと視線を外した。


 今のご時世、何でもかんでも金稼ぎになる時代だ。

 動画を投稿して生計をたてている人間もいるほどである。


 『追い詰めカメラ』の動画を見たが、明らかに許可をとっていない隠し撮りの様な動画が、何十万再生とかされていて驚いた。中には百万を越えるものさえあった。


 そして、その動画で稼いだ広告料はどこに行ったのか? もちろん、俺達(被写体)の手元にはそんな物は一円も入っていない。撮って良いという許可も出していない。


 アンズちゃ~ん、話せば楽になるよぉ?

 別に君の事を断罪したい訳じゃないんだ、ただの興味として聞いているだけなんだよ~?


 お金の行方はどこに消えたのかな~?


「ひっ……お、お金はみんなクランリーダーの手元に入って、ワタシ達は一銭ももらっていないです! 本当なんです!」


「ちょっと! 女の子を脅しちゃ駄目でしょ! ……よしよし、怖かったねぇ、もふもふ……」


 ケルティは俺の笑顔に怯えるアンズを抱き締めて、尻尾と尻を撫でている。


 あ、もふハラだー。

 ドラゴムさんに言いつけてやるー。


「最近は、もふもふするのも規制が厳しくなってきたからね……って、それは置いといて……。ツキトは何がしたいのさ? お金欲しいの?」


 いや?

 まぁ、勝手に金づるにされて腹立ってるってのはあるけど、金が欲しいわけじゃないよ?

 そりゃあ、今まで稼いだ金を取材費としてもらえるなら……とは思ったけど。


「いや、やっぱ欲しいんじゃん」


 俺も人間だからな。


 けど、とりあえずは無許可で撮ったうちのクラン関係の動画の削除と、保存されているデータを削除させたい、ってのが目的だな。


 これ以上、悪い噂を流されるのは勘弁だ。


 だから、アンズにはアイツらの本拠地を教えて欲しい。それくらいなら良いだろう? 


「ま、まぁ……それくらいなら。ワタシが情報源だと言わないって、約束してくれたらいいです……」


 勿論、そんな事はしねぇよ? 安心してくれ、迷惑をかける気はない。


 ……そうだ。ケルティも手伝ってくれよ、アイツらにはお前も迷惑してただろ?


 俺がケルティを誘うと、その表情が曇る。


 あの《ウルグガルド》との戦いの時、ケルティは能力のデメリットで装備が壊れてしまい、少しの間だが全裸になっていた。


 しかも、そこを『追い詰めカメラ』に撮影されてしまい、拡散されてしまったのだ。……大事なところは謎の光で守られていたけど。


「確かにあれは消しときたいなぁ……。恥ずかしかったし……」


 だろ?

 そうと決まれば善は急げ、だ。

 それと、クランまでの案内はアンズに任せたい。アイツらアジトを転々としていて中々尻尾が掴めないからな。……いいかな?


 アンズはコクりと頷いた。

 まだ怯えているようだが、ケルティも一緒なら大丈夫だろう。


 よし、決まりだ。

 それじゃあ久々に……。



 クラン潰し、行ってみようぜ?







 ところで、ケルティさんや。

 君とアンズちゃんはどんな関係なのかな?


「私のハーレムの一員だけど? ツキトにはあげないからね?」


 あ、やっぱり?

 そんな気はしてたんだよね……。


 俺の予想通りNTRでクランに連れてきたらしい。……頼むから犯罪だけは起こさないでね?


・NTR

 寝取り。相手を快楽堕ちさせて自分の物にする行為。お互いが幸せなら、それでいいのではないかとも思う。しかし、性癖は押し付けるものではないのであしからず……。


・フォーク

 農業用の大きなもの。いわゆるピッチフォーク。柄は木製の事が多いが、充分武器として使用できる。カルリラのお気に入りの武器である。早い、鋭い、便利。

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