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魔神のグレーシー

「おぉー……結構似合ってる……のかな?」


 俺はクラン内にある先輩の部屋の前に来ていた。


 パスファ様から、先輩も連れて来るように、と言われたからだ。俺としては、先輩に酒を飲ませるのは控えたいのだが、女神様がそう言うのだから仕方ない。


 それで、部屋の前まで来てみると、部屋の扉が少し空いていて、中の様子が見えている。


 部屋の中には先輩が居たのだが……美少女モードになっていた。

 

 本人曰く、恥ずかしいからもう二度と人間の姿にはならないと言っていたのだが、なんと鏡の前でクネクネとポーズをとっているではないか。


 しかも、頭には猫耳のカチューシャがついている。……あざとい。


「ヒビキくんめ……服とセットだからって置いていったけど、ホントに何考えてるんだか。……可愛いかな?」


 なるほど、ヒビキの犯行か。

 流石仕事人だ。悪く無い着眼点だと誉めてやろう。


 ちなみに先輩の着ている物はヒビキが作った物である。

 黒いドレスのような服で、動きやすそうに手が加えられている。スカートの中はこだわりのスパッツだ。


 それに加えて、今の先輩はネコミミがプラスされているので、最強だと言わざるを得ない。


「そう言えば、腰に付けれる尻尾もあったんだっけ。……うわぁ、これ見て喜ぶ人いるのかな?」


 はーい。ここに居まーす。はーい。


 パーフェクト形態になった先輩は、上半身を捻ってみたり、鏡に背を向けて後ろからの見え方を確認している。途中で挟まるネコっぽいポーズはとても可愛い。あ、今、にゃんって言った。にゃんって。


 一通りポーズを取り終わって満足した様子の先輩は、アイテムボックスから新しい服を取り出した。あれは……メイド服!?


「一回着てみたかったんだよねぇ」


 先輩は楽しそうにメイド服を眺めている。


 っく! メイド服を着ている先輩は是非見たいがこれ以上は不味い! 着替えを覗いたとなれば先輩は何をするかわからない。


 ここは一度メッセージを送って時間を置いてからまた来ようかな……。


 そして、撮ったSSは後でゆっくりと鑑賞しよう。……ふふふ。

 てか、これじゃあヒビキとやってることかわんねーな。やはり血は争えんか。




「飲み会? パスファと?」


 こねこに戻った先輩は玉座の上で寛いでいた。どうやら、俺が部屋を覗いていたことはバレていないらしい。よかった。


 グレーシーって女神様も来るらしいですよ? 俺は会ったことがないので、どんな方かは知りませんが。

 それで、パスファ様が先輩を呼ぶようにと言っていましたので、呼びに来た次第です。


「へー。それで僕を誘いに来たんだ……人間の姿にはならないからな?」


 勿論ですとも。

 俺としても、先輩がいてくれたら心強いですから。……多分俺、女神様に殺されるんで復活させてくれると嬉しいです。


「きみ、どんくらい女神に殺されれば気が済むのさ? ……ま、しょうがないなぁ、僕もついていってあげるよ。お酒にも慣れたいし」


 先輩は一度背伸びをすると、椅子から飛び降り、俺の体をするすると登って肩に座った。久々の肩乗りである。


 それじゃあ行きましょうか。


 俺は先輩を乗せて、部屋から廊下に出る。

 酒場までは距離があるので、先輩にグレーシー様について聞いてみよう。


 そう言えば、グレーシー様ってどんな女神様何ですかね……って、爪食い込んでますよ? ごりごりHP減っていってるんで……先輩! 死ぬ! 俺死んじゃいます!


 先輩の爪は格闘スキルに依存しており、凄まじい威力を誇る。

 こねこの猫パンチと侮るなかれ、耐久を鍛えていないPLなら一撃でミンチである。


「きみなぁ、そうやって見境無く手を出そうとするから、浮気者って言われるんだよ? 自覚あるかな?」


 先輩の爪は引っ込んだ。

 やべぇよ……。HPが3割切ってるよ……。


 せ、先輩、信仰するだけですよ。別に口説く訳じゃ無いですし、それに今日は一緒にお酒を飲むだけです。


「本当ぉ? この間のチップちゃんの件は忘れて無いからな? しかも、そのときもお酒を飲んでたんだろ? 変な事しちゃダメだからね!」


 しませんって。

 それに酒飲んで前後不覚になったのはチップの方ですよ。先輩も気を付けてくださいね? ゆっくりと飲むんですよ?


「わかってるよ。……それで、グレーシーの話だっけ? やっぱり信仰するの?」


 信仰はしますけど、とりあえず、これから会うのに何も知らないっていうのはどうかな、と思いまして。

 あっちは女神様ですし……。


「まぁ普通は知ってるだろうしね。……でも、グレーシーかぁ。なんというか他の女神と比べると地味なんだよね」


 と、言いますと?


「正式名称は『魔神のグレーシー』って言って、魔法の女神様なんだけど、魔法使いでもあまり信仰するメリットが無いんだよね。各種属性の耐性が上がるけれど、それはレベルや防具でなんとかできるし」


 神技はどうなんですか?


「神技は……ごめん、忘れちゃったや。というか、前作でもグレーシー信仰したこと無かったんだよなぁ……。パスファ信仰万能だし」


 時間停止は強いですよねぇ。

 俺も何度もお世話になってますよ。


「便利だよねぇ……っと。それで、どこの席でやるの?」


 先輩と話していると、クランのロビーに到着した。

 酒場はロビーに併設されており、いつもPL達の騒ぎ声が聞こえている、のだが……。

 今日に関しては静かで、何処と無く張り詰めた空気が漂っている。


 ……やっぱりこうなったか。みんな先輩が酒飲むのトラウマになってるな。


「おーい! こっちこっち! 先始めてたよ~!」


 声がした方に顔を向けると、顔をほんのりと赤くしたパスファ様がこちらに手を振っていた。


 俺達もその席に向かおうとすると、肩を叩かれた。

 誰だろうと振り返って見ると、そこにはゼスプが心配そうな顔をして立っていた。目線が俺の肩に向いているので、先輩に用事があるのだろう。


「もしかしてみーさんもここで飲むのですか……?」


 その声は若干震えていた。うん、気持ちはわかる。


「そうだよ? 何か問題あるかい?」


 先輩がそう言うと、ゼスプは俺の顔を見た。……言いたい事はわかっているよ?


 先輩は酔っぱらってクランメンバーを皆殺しにしたことがある。止めなかった俺達も悪かったのだけど。


 そんな過去があるから、ゼスプの言いたい事はよくわかっていた。


「……頼んだぞ、オレ達は厳戒態勢をとる」


 了解だ。

 任せてくれ、無事に飲み会を終わらせて見せよう。


 俺はゼスプの手を握った。

 先輩を酔わせた場合、どんな被害が出るかはわからない。クランが吹き飛ぶならまだ良い。ヘタすればサアリドの街が吹き飛ぶ。


 俺がしっかりしなければ……。




「もう少しでグレーシー来るってさ~」


 俺達が席に着いたときにはテーブルの上は料理で埋まっていた。

 サラダや焼き鳥等普通の居酒屋のメニューの品と共に、中央には香しい焼きそばが鎮座している。


 そして、パスファ様の前には空になったビールジョッキが並べられていた。……ペース早くないですか?


「大丈夫だって! わたしがお酒強いのは『浮気者』も知ってるだろう? まだ飲み始めだよ! アハハ!」


 確かに、パスファ様は結構強い方なのだが、ペースが早いので直ぐにぶっ飛ぶ。

 しかし、酔っ払ったら寝るタイプなので危険度は低い。


 だからこそ、危険なのは先輩なのだ……!


「行儀は悪いけど、テーブルの上に乗らせてもらうよ。あ、僕にもお酒持ってきて!」


 先輩が声をかけると酒場の奥からニャックがやって来た。手にはワインが注がれた猫用の餌いれを持っている。


 ちなみに、このニャックは俺がスカウトした焼きそば屋だ。事前に頼み込み、先輩が飲むワインはブドウジュースでかなり薄めている。


 抜かりは無い。


「お待ちにゃ! 旦那は何を飲むかにゃ?」


 あ、俺もビール頼むわ。後1人来るからその時に2つよろしく。……あ、グレーシー様もビールでよかったんですかね?


「あーアイツ何でも飲めるから大丈夫だよ。……ところでさ、頼みがあるんだけどいいかな?」


 何ですかね?


 パスファ様は周りを警戒しながら、俺たちにだけ聞こえる様に身を乗り出した。


「グレーシーが来たら機嫌をとってほしい……、できれば信者にもなってあげてほしいんだけど……」


 ?

 俺は大丈夫ですけど……先輩は?


「僕、パスファ様の信者なんですが……」


「あー……流石にそれは不味いね。わたしが目の前にいるのに信仰を変えたら、談合したのがばれるね……」


 それにしても、なんでそんなお願いを?

 気難しい方なんですか?


「いや……信者が少な過ぎて、だいぶ精神的にやられてる。実はこの飲み会、グレーシーを慰める為に企画したから……」


 なんと。

 女神様達もそんな悩みがあるんですね……。


「でも、本人はプライド高くてそういうところは絶対に見せないのね。できればそこには触れないであげてやって?」


 了解です。

 先輩も大丈夫ですかね?


「うん、大丈夫だよ。とりあえず楽しませれば良いんだよね?」


 はい。そういう事です。


 俺達の打ち合わせが終了すると、ロビーの入り口から声がかかった。


「『魔神のグレーシー』様がいらっしゃいました!」


 俺は立ち上がり、入り口に目を向ける。


 そこには長い銀髪で、魔術師の様な服装の女性がこちらに向って来ていた。

 肌の色は青く、頭には羊の様な丸まった角が生えている。背中には女神様特有の翼が生えていた。

 そして、最も印象的なのはその冷たい目だ。思わず目を逸らしたくなる威圧感があった。美人なのに勿体無い。


「ふん……妾をこんな所に呼び出すとは……。パスファよ、妾を満足させる事ができなかったらどうなるか、御主わかっておるな?」


 まるで女王様を思わせるような話し方だ。

 こんな態度であるが、今日は彼女を慰める会である。つまり、あの態度は無理をしているらしい。


「はいはい、わかってますって。ほら、わたしの隣に座ってよ。それと、グレーシーの信者になりたいって子も連れてきたからさ」


「ほう? ……ああ御主が『浮気者』か。思ったよりは見れる顔をしておるのじゃな」


 グレーシー様はパスファ様の隣、俺の対面の席に座った。

 それに合わせた様に、焼きそば屋がビールジョッキをテーブルに置く。……良い仕事だ。


「それじゃあ、ジョッキ持って~。『ロータス・キャット』はそのままでいいよ~」


 俺達はジョッキを手に持った。

 グレーシー様もジョッキを手に持つが、その表情は全く変わらない。


「さて、今日は妾の為の酒宴だということじゃったな。それには礼を言うのじゃ」


 やたらと偉そうだが我慢だ。

 ここで機嫌をとらないと、信仰させてくれないだろうし。


「妾がリリア様の片腕、魔力の管理者『魔神のグレーシー』じゃ。今日は楽しんでゆくといい。……乾杯」


 ジョッキがぶつかり合う音と共に、飲み会が開始された。


 そして、それは悲劇への始まりへの合図でもある事を、俺達はまだ、知らない。

・ちなみに、女神様の一番人気はパスファちゃんだよ! それで、上からリリア様、カルリラ、フェルシー、キキョウ、グレーシーの順番だね。グレーシーだけ異常に信者が少ないよ。うん、できれば信仰してあげてね……。

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