修行しようぜ! お前サンドバッグな?
俺は、結構酒が好きな人間だ。
会社の飲み会も結構好きだし、一人でゆっくりと飲むのも嫌いじゃない。
特に、話の合う奴と一緒に梯子するのは最高に楽しい。
まぁ、たまに飲み過ぎて、失敗することも無いわけではないが……。
とにもかくにも、そんな理由で、飲み会に誘われたら確実に参加する俺なのだが、このお誘いは……。
「うう……なんで……、なんで妾だけ信者がこんなに少ないのじゃ~……。おかしいのじゃ~……」
「ほら~『浮気者』~、ここまできたら4つも5つも変わらないって~、信仰してあげなよ~? んでもって、カルリラにぶっ刺されてこいよ~」
「ツキトく~ん。なんかふわふわしてきたんだけど、きみ、おかしな事しただろ? 本当にスケベだなぁ。え? 飲み過ぎじゃないよ? えへへ……」
……うん。
断るべきだったな!
目の前でベロンベロンに酔っ払った女性陣を見て、俺はそんな事を考えていた。
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遡って半日前……。
『飲み会やるんだけど、『浮気者』も来るかい?』
クランでの修行中に、パスファ様から信託がおりてきた。
ちなみに、今日の修行内容は、魔法使いのPLから回復してもらいつつ、数十名にリンチにされるという、耐久力を鍛える修行だ。
俺は柱に縛り付けられて、サンドバッグになっている。
武器についてはケルティ印の歯引きされた武器なので、滅多なことでは死にはしない。
飲み会のお誘いですか? 俺は構いませんが……。
『そう? ……ところで、話しかけて良いような状況じゃないんだけど、迷惑だった?』
大丈夫です。時たま出血しますが、まず死にません。
延々にこの責め苦が続くだけですので……。
『単なる拷問じゃないか!? ええ……、それって誰が考案した修行? そんな事をやらせるとか、相当恨まれてるんじゃない?』
そうなんですかねぇ?
俺としては耐久力とクランメンバーの能力が鍛えられるんで、効率良いと思うんですけどね。
あ、考案者はもちろん先輩ですよ?
『君、今度はなにしたんだよ? というか『ロータス・キャット』も自分の相方になにさせてんのさ……』
嫌だなぁ、ただ修行のコースを選ばされただけですよ?
まぁ、24時間トンネルを堀り続けるか、柱に縛り付けられて6時間殴られ続けるかどっちのコースがいいかと聞かれたら……ねぇ?
『どっちも拷問だよ!? 断るのが常識だって! なんでリンチを選ぶのが当然みたいになってるのさ!? 君達は普段の行いを少し顧みるべきじゃない?』
そうは言われましても……、あ、痛ぁ!? 誰だよ自前の武器で参加してるやつ!? いってぇんだよ!? ケルティんとこ行って歯引きしてもらえ! ゴラァ!
パスファ様とやり取りをしていたら、クランメンバーの一人が普通の武器で攻撃してきたので、怒鳴り付けた。……顔は覚えた、後で殺す。
そう思っていると、彼は困った顔をして口を開いた。
「す、すいません……ケルティさんの部屋に行ったんですけど……。設定をRー18にしろって、表示がされたので入れなかったんです……」
流石ケルティである。
今度はいったい誰を連れ込んで盛っているのやら……。
彼には悪いことをした、謝っておこう。
あー……いきなり怒鳴ってごめんね? でも刃物で切りつけられたら人は死ぬから、武器は交代で使ってもらえると助かるな。うん。
「あ、はい……。こちらこそすいません……」
切りつけた剣を持って、彼は後ろに下がった。
まったく……、ケルティには困ったもんだよ。クランで変なことすんなよな。
『……大丈夫?』
あ、大丈夫ですよ?
それで何の話でしたっけ?
『ああ、話を戻すと、とある女神とお酒を飲むことになったから、一緒にどうかなって』
そうでした、そうでした。
それにしても、女神様の間でそういうことをしているんですねぇ……。お相手は誰です? フェルシーですか?
『いや、あいつとは仲悪いから……』
……ああ。
同族嫌悪ってやつか、口が割けても言えないけど。
じゃあ誰なんですか?
他の女神様でお酒を嗜みそうな方はいないような気がするんですけど?
確かカルリラ様は飲めないと言っていたし、キキョウ様は自粛しているはずだ。リリア様は見た目からして飲まなそうだし……。
『グレーシーだよ? 知らない?』
…………。
え、そんな名前の女神様いましたか?
確かにまだ会っていない女神様がいたはずだけど……。
PVでも見たはずなのに何故か思い出せない。……なぜだ?
女神様といえば個性が強いのがデフォルトのはずなのに、なぜか出てこないな……。
確か魔法に関係する女神様のはずなんだよ。で、ゼスプと同じような魔族っぽい感じだったな。
あと、女神特有の翼も生えていた……はず。その辺り自信がない。
『あー……、確かにそんな目立つタイプじゃ無いけどさ、悪いやつじゃ無いから大丈夫だよ?』
そうなんですか? でも、どうせ癖が強いんでしょう? 俺知ってますよ。
『ボチボチかな? そんなでも無いとは思うけど……。あ、それで飲み会やる場所なんだけど、君達のクランの酒場でやりたいんだよね。いいかな?』
了解です。
あれ? そのグレーシー様はクランに来れるんですか? 女神様達はその辺りいろいろ面倒ですよね?
『わたしと一緒になら大丈夫。それに、グレーシーはそっちの世界に住んでいるから、さほど問題は無いよ』
あの不思議空間に住んでない人も居るんですね……。
それで、その飲み会はいつやるんですか?
早い内に席予約しないと埋まっちゃうんですよね。女神様が来ることを伝えれば大丈夫だと思いますけど。
『実は今日の夜にやろうって話をしていたんだけどさ、いけそうかな?』
急な話ですが今に内に予約しておけば大丈夫でしょう。この修行が終わったらやっておきますね。
『ありがとー。……ところで『浮気者』。さっきわたしに対して失礼な事を考えていなかったかな?』
頭の中に聞こえていたパスファ様の雰囲気が急に変わった。
やべぇ。
『わたしレベルになると、そのくらいは感じることができちゃうんだよねー。実のところ、そっちに遊びに行きたかったし……ちょうどいいね。今行くよ』
殺される。
俺は命の危険を察知して必死にもがく。
ちょっ! 縄をほどいてくれ! 用事ができた! このままだと俺……! って、うわぁぁぁ!
周りの修行中メンバーは俺を不思議そうな目で見ていたが、こちらとしてはそんな余裕はなかった。
なぜなら、すでに見覚えのあるおっぱい妖精が、メンバーの後ろに来ていたからだ。
くっ……チップ並みに気安く移動してきやがった! お前ら後ろ、後ろ!
俺の言葉でメンバーが後ろを振り返ると、パスファ様は笑って挨拶をした。
「やぁ! パスファちゃんだよ? ちょっとそこに縛られている『浮気者』に用事があるんだけど……。せっかくだし、わたしにも修行やらせてほしいな、……良いよね?」
そう言いながら、パスファ様はゆっくりと腰のレイピアを抜く。……お前らぁ! 俺を助けろぉ!
俺は助けを乞うた。
しかし、命が惜しい正直なメンバー達は、何も言わずにずらりと並び、パスファ様に道を作る。その統制された動きには、目を見張るものを感じたが、そんな事はどうでもいい。
畜生! お前ら全員顔覚えたからな!? 後で覚えておけよ!
俺が恨みを込めて叫ぶと、メンバー達は俺から顔を反らす。決して目を合わせようとはしない。……クソったれ!
そんな俺達を見てパスファ様はニコリと笑った。
「さて、わたしの事をフェルシーと同列に見たり、おっぱい妖精とか不敬な呼び方をしている『浮気者』は誰かなぁ?」
パスファ様の構えたレイピアがキラリと輝き、気付かぬ内に俺の首は胴体と別れを告げた……。
『全部ほんとの事なのに、パスファは厳しいのニャ~』
あ、フェルシーじゃん。
そう言えば、あの状態からお前の神技使えば助かったりしたかな?
『悪いけど、あの状態から使える神技は無いニャン。諦めて一回死んでくるのニャ』
へーい。
最近和解したフェルシーに見送られ、俺は泣く泣くログアウトするのだった。
・講義をしに行くので留守にします
~少しお怒りな女神様~




