いずれ枯れ行く蓮の猫
俺が駄目っ子チップ愛好会の皆様と、畑仕事に精を出している内に、イベント期間は終了した。……お、人間に戻った。
ちょうど時間になると、空に大きなウィンドウが現れ、フェルシーの姿を映し出す。
『ちっくしょー! 今回は散々だったニャ! このままじゃ終われないのニャ! という訳で……覚えておくがいい! ミャアは再び戻って来るのニャ! あぁいる……びー……ニャーック!! ……って、み"ぎゃあああ!?』
『二度とやらせるかー! このアホー!』
という流れで、パスファ様にドロップキックを食らったフェルシーが吹っ飛んでいき、映像は終了した。
なんだろう? あの方々オチ担当とかそんな感じなのかな? そういう役割もしなくちゃいけないとか、世界の管理者って大変だなぁ……。
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そんなこともあったが、それはおいといて……。
俺はビギニスートに訪れていた。
そして、いつぞやのように噴水の縁に座って町行く人を眺めている。
「うわっ……見ろよ『死神』だ……。こっち見て、獲物を探してる……」
「目ぇ合わせんな……! アイツ、時間止められるらしいぞ。こっちに気付いたら、知らない内にミンチされるぞ!」
「あれ? 今日『ペットショップ』のイベントの日じゃないよね? なんでいるの?」
「というか、犯罪者だから街を歩けないんじゃ……」
「殺された人は、心までボロボロにされるらしいよ……?」
「やばいぅ……! セクハラされるぅ……!」
「いやいや……そんなヤバイ人な訳……って、鎌もってるぅーーー!? にげろぉ! 首刈られるぞ!」
何故か。
何故か、面白いことを言っている奴等が多かったので、俺は舌打ちをして立ち上がると、新しい大鎌を携えた。
そうすると、不思議な事に周りの人達が静かになる。
この大鎌は、先日カルリラ様から貰った御下がりである。性能はよく分からないが、とにかくヤバイ事は、何となく理解しているつもりだ。
何て言ったって、アーティファクトだし。
だが、いくら凄いといえど……、
生きてる獲物に使ってみないと、わからないよなぁ?
とりあえず、俺の事を死神と呼んだPL君に向かって、俺は最高の笑顔を贈った。にっこり。
「え……俺? ……や、やめてくれ! 俺が何をしたって言うんだよ!? ただ目が合っただけじゃないか!?」
PL君は顔を青くして、尻餅をついた。そのまま後ずさっていく。
目が合ったじゃないかー。
充分な理由だろう? しかも、本人も自覚して、その首をさらけ出していると見える。
……わかりやすい自殺志願者だな? けけっ。
ゆっくりとした歩調で彼に近付き、俺は首を曲げて、ゴキリと鳴らした。
そして、目を見開き、大鎌を振り上げる。
もちろん、笑顔は絶やさない。
「うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そこまで威嚇すると、PL君は走って何処かに行ってしまった。
それを見送り、周りにいる奴等を一瞥すると、同じように逃げ出してしまう。
ったく、見せもんじゃねーんだよ……。
俺はまた噴水の縁に座った。
そして、地面を見つめて呟くのだ。
どうして、こうなった……。
おかしいなぁ……? 俺は普通にゲームを楽しんでいただけなのに、いつの間にか、死神キャラが定着しているじゃねーか。俺は農民だぞ?
というか、さっきの奴等は誰だよ?
うちらのクランメンバーじゃ無いぞ? というか、新規プレイヤーの様にも見えたんだが……。
あー……成る程。
そう言えば、情報をネットに流している不届き者がいたな。
……確か『追い詰めカメラ』ってクランだったか?
偏向報道が好きな奴等だと聞いていたし、もしかして、俺の事もそいつらが情報を流しているのでは無いだろうか?
ならば、一度壊滅させて、情報を検閲しなければ。
待っているがいい。我らが『ペットショップ』の傘下にしてやろう……。
「お~い、何悪いこと考えているんだい?」
悪巧みをしていると、先輩の声が聞こえた。
しかし、地面を探してもこねこの姿は見当たらない。……はて?
「こっちだよ、こっち。顔を上げなよ?」
俺は顔を上げ、声のした方向に顔を向けた。
そこには、人間バージョンの先輩が立っていた。……あれ? もう二度とその姿にならないって、言ってませんでしたっけ!?
今回、俺がビギニスートに来た理由は、先輩と遊ぶためである。
この間のチップやドラゴムさんに対し、セクハラをしたというのは誤解だったと認めてもらうため、俺は今日、先輩を楽しませなければならない。
しかし、拠点であるサアリドの街だと、何かと因縁をつけられ、まともに遊ぶことも出来ない可能性が高かった。
よって、新規PLが多いビギニスートで、待ち合わせをすることとなったのだが……、その姿で来るとは思っていなかった。
「ま、こねこの体で動き回るのは酷だからね。街を見て回るならこっちの方がいい。名前も他人からは確認できないしね。……ところで、隣いいかい?」
ええ、どうぞ。
……そうだ。
どうせなら、最初に会った時みたいに、持ち上げて乗せて上げましょうか?
俺が意地が悪い感じにそう言うと、先輩は妖しく笑い口を開く。
「そうだね。……じゃあ、乗せてもらおうか?」
見た目のからは想像できない大人っぽい表情をされて俺はびびった。……見た目高校生だけど、二十歳は越えてるんだっけ?
先輩は俺が驚いたことに満足げな顔をすると、迷い無く、俺の足に座ってきた。
っ!?
「なんだよ? こういうのには慣れて無いのかい? あ、胸借りるよー」
そう言うなり先輩は、椅子に座るように俺に寄りかかってくる。……ちょっと!?
先輩!? 何してるんですか!? 冗談キツいですって!
「むぅ、失敬な。今まで僕の事を肩に乗せたり、両手で掴んだりしていたのに、今更このくらいどうって事ないだろう? いつもの通りと思えばいいのさ。……あ、座り難いから足閉じてー」
あ、すいません。
……じゃなくてですね!? モテない男にこういうことはしてはいけません! また、俺の新たな容疑が増えるじゃないですか!
「なんでさ? ……もしかして、僕の姿がこんなに可愛い姿になってしまったからかい? そう言えば、チップちゃんが、一緒に温泉入ってから、ツキトくんが優しくなった、って言っていたけど?」
ああー……、チップですか……。
あれはギャップが凄かったんですよ。だって、今まで犬としか見てなかったのに、いきなり女らしさを出して来るんですもん。
そりゃあ少しは意識しますぜ。
「へー。……じゃあ僕の場合は?」
……とんでもねぇ事を聞いてきたぞ。この人。
先輩の先ぱいは、恐らくAとかそんなものだろう。……だが、背が低めで、身体が全体的に細い先輩ならそれが合っている、と思う。
俺の中ではおっぱいというのは芸術なんだ。その人に合った大きさであれば、大きかろうが小さかろうがどっちでも良い。
だから俺としては、ケルティのおっぱいは素晴らしいと宣言したい。カルリラ様は柔らかさが最高。パスファ様は暴力。チップのは凶器。
先ぱいは……犯罪ですかね?
「どういう意味!? ……でも、そう言うって事は、前と全然見えかたが変わったって事で良いのかな? ……えっち」
先輩の顔は見えないが、きっとニヤリと笑っているだろう。……くそぅ、なんか良いようにやられてるな。
「ま、ツキトくんで遊ぶのはこの辺にしてあげよう。ここまでやられて、セクハラをする度胸も無い奴が、女の子に夜這いを仕掛けれるとも思えないしね。無罪放免って事にしておくよ」
どうやら、俺のセクハラ容疑は晴れた様だ。……てか先輩、今の話の流れ的に、それでいいんですか?
「いいよ? 別にぐだぐだ文句を言うつもりも無かったし。……いや、言いたい事はあったかな?」
へぇ、何ですか?
……できれば、俺の上から降りて話をしてくれると嬉しいんですけど? 結構恥ずかしいんですよ? 今の状態。
「ん、却下」
駄目らしい。残念な様な、嬉しいような。
「これから言う事、ちゃんと聞いててね? ……この間さ、僕を敵の攻撃から守ろうとしてくれただろう?」
あー、触手が伸びてきた時ですね。
よく考えれば無駄な行動でしたけどねー。すぐにキキョウ様が来てくれましたし、そもそも先輩は死んでも死なないでしょう?
先輩の『ロータス・キャット』は死亡しても、すぐに復活できるという能力だ。ぶっちゃけ、先輩一人であの場も切り抜けられただろう。
「ああ、やっぱりわかってたんだね。僕の能力。……でも、デメリットは知らないだろう?」
……そう言えば、先輩の行動を見るに、何かしらの制限が与えられているとは思えない。
『プレゼント』には必ずデメリットが存在するはずなのに。
「……僕の『プレゼント』は、ああいうストーリーやイベントが関係する戦いになると、無効になってしまうんだ。そういう能力」
……!?
それじゃあ、あの時の先輩は……。
「うん、本当に死ぬとこだったんだよ? だからあの時、守ってくれて、少し驚いたけれど……嬉しかったんだ。……ありがとう、ツキトくん」
素直にお礼を言われて、自然と顔が熱くなった。
この姿勢でよかったかも知れない……。
「……それとね、僕の能力は、すぐに復活できるだけなんだ。後はデメリットだけ。他のPLの様に、いろんなボーナスがある訳じゃない」
そこまで言うと先輩は俺から降りて、振り返った。何処か、寂しそうな笑顔をしている。
「だから、きみ達が強くなっていくにつれて、僕はどんどん弱くなっていくと思う。だって、僕は皆ができる事しかできないから」
先輩は、最強だ。
現段階では、誰も目の前の少女に実力で勝つことはできないだろう。
しかし、長いスパンで考えれば、先輩はステータスが高いだけの、ただのこねこになってしまう。
他のPLのような、オンリーワンの能力が無いからだ。
「こんな足手まといになる事が決まっている僕だけどさ、それでも良いのなら……」
先輩は少し頬を赤く染め、申し訳なさそうに俺を見つめてくる。
「きみが側にいて、僕を守ってくれないかな……?」
俺は先輩の言葉を聞いて、少しの間、呆然としていた。
ここまで弱気になっている先輩を初めて見たからというのもあったが、そんなことを考えていたなんて思ってもいなかったからだ。
少し迷ったが……俺は、
「……わっ!?」
立ち上がって、先輩の頭を撫でてあげた。
もう、なにアホなことを言っているんですか?
俺が先輩の盾になることなんて、当然の事でしょうに。
何を不安がっているんです? それじゃあ可愛いだけですよ?
「なっ! ツキトくん、僕を子供扱いするのやめてよね!? これでもちゃんとした大人なんだからな!」
じゃあ、そんな事で子供みたいに悩むのはやめましょうよ?
ここまで築いてきた関係が、そんなに簡単に崩れる訳でもないでしょうに。
もっと楽にいきましょう?
「君ねぇ!? ……いや、そういやきみは、そういう奴だった……。あーあ、なんか悩んでいたのが馬鹿らしくなってくるよ……」
ま、そういう事ですね。
安心してくださいよ。俺はずっと先輩の良きパートナーとして頑張っていくつもりですので。
……だから。
これからも、よろしくお願いしますね?
俺がそう言って笑いかけると、先輩は恥ずかしそうに俺から視線を反らし、静かに頷いた。
その後、俺は先輩の手を取りながら、ビギニスートの街を巡るのだった。
あれ?
もしかしなくても、これ、デー……。
と、そんな事を考えた瞬間。
何処からともなく飛んできた包丁によって、俺の身体は弾ける。
女神様は、見ていた……。
・オチ担当
違うよ? それはフェルシーの役割だからね? わたしはあんな猫とは違うから。
『いや、大体いっしょニャ。ミャアと同じアホだニャ、コイツ』
……まだ息があったか。
・何処からともなく飛んできた包丁
あー、なるほど。自分の力が込められた持ち物の座標を目標にして、次元を貫通させて投擲しているね。これ。アーティファクトを渡して、ついに直接手を出してきたかぁ……。
というか、まだカルリラ現役だね。絶対怒らせないようにしないと……。
・あ、そう言えば
飲み会やるんだけど、『浮気者』も来るかい?




