6柱の邪神達
さて、今回のイベント『ニャック対戦~天運の女神は微笑まない~』のストーリーについて解説しよう。
何者かに取り憑かれたフェルシーをニャックと共に助けに行くところまでは、俺達が辿った通りなのだが……。
このイベント、フェルシーを倒す必要は無かったらしい。
あのレイド戦なのだが、4段階に別れていたそうだ。
第1段階。
大量の黒服ニャック達との戦い。
これについては、一定数の黒服を倒すことにより次に移行する。この時、PLが壊滅状態、全員が死亡していても構わない。
第2段階。
女神様の介入。
フェルシーとパスファ以外の女神様、4柱の内の1柱が助けに来てくれる。俺達にはキキョウ様が助けに来てくれたが、他のPLは別の女神様が助けに来てくれたそうだ。
……カルリラ様がよかったなー。
そして、ここから先は、俺達は見ることがなかった。
第3段階。
先に来て、やられていたニャック達が立ち上がり、フェルシーの意識を呼び覚ます。そして、フェルシーが覚醒し取り憑いていた『憤怒』を身体の外へと追い出し、フェルシーもこちらの味方として参戦する。
結構熱い展開だったらしい。
第4段階。
棺桶の中から『憤怒』の本体が出て来て、本当の決戦が始まる。
味方が混乱したり、洗脳されたりして大変だったそうな。意識を奪われ、身動きができなくなる攻撃もしてきたらしい。
それに勝つと、つまらなそうな顔をしたフェルシーから、莫大な報酬を貰えるらしい。ツンデレ気味なフェルシーの顔が見物だったそうな。
……つまり。
フェルシーは死ななくてもよかったって事だな! ドンマイ!
いや、おかしいと思ったんだよ。『プレゼント』のスキルも無効化してくるし、肉塊はやたら強いし。他のPLどうやってクリアするんだよ? って感じだったし。
難易度もPLのレベルに合わせて、出てくる敵も変わるらしく、巨大黒服ニャックすら見なかったPLもいたそうな。肉塊については殆どのPLが確認出来なかったらしい。
つまり、このイベントは意外に良心的な難易度だったのだ
ちなみに、フェルシー陣営で参加した場合、PLは担当階層を守りきる度に、報酬がたんまり貰えたので効率がよかった。
……いや、ほら、一度クリアしたし、寝返るのも楽しいかなって。決して報酬に目が眩んだ訳では無い。
攻める側も、守る側も、楽しんで稼ぐ事ができるイベントだった。動物アバターも貰えたし、個人的には満足である。
……しかし、新たな問題が発生した。
このイベントをクリアしたPLの『プレゼント』に、新しい能力が追加されたのが確認できたのである。全員という訳ではなかったが、クリアした人員の中に1人は能力が追加されていた。
そして、『プレゼント』を開封した訳でもなく、追加された能力の名前は全員同じものだった。
『憤怒』だ。
効果は一時的なステータスの上昇。自分にも他人にも使うことができるが、魔法耐性が低いと混乱し、肉体が変化する。
まさに、あの時の『憤怒』がやっていた能力と同じものだった。
そして、とある二人にも、自分の『プレゼント』の能力を確認してもらった。
チップとヒビキだ。
二人はあの戦いのときに、『暴食』と『怠惰』と呼ばれていたのを、俺達は忘れてはいなかった。
そして俺達の予想通り、チップには『暴食』、ヒビキには『怠惰』の能力が追加されていたのだ。
何故、今まで気がつかなかったのか?
ヒビキについてはタイミングが悪かった。
『プレゼント』を開封し、落ち着いた後に確認したら『怠惰』の能力が追加されていたので、こういうものだと勘違いしたのだという。
チップについては、しばらく『プレゼント』の能力を確認していなかったので気付いていなかった。……そんなんだから、お前は駄目犬扱いされるんだよ。
ちなみに、最近の腹ペコはこの能力のデメリットだった。食に関する能力らしい。
この『プレゼント』に新しい能力が追加される現象については、後でパスファ様が説明してくれるそうな。なんか、先輩がアポをとっていると言っていた。
……そんな感じで、まだ気になることは多いが、一応は落ち着いた感じだ。まぁ、イベントは終わっていないので姿は戻っていないのだが。
しかし、俺は用事があったので、この姿の方が好都合だ。
さて……、1stボーナスステージ、行ってみようか?
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俺は約束を守る男である。
イベントに参加する直前に、俺はカルリラ様の元に来て欲しいという話をされていたので、カルリラ様の御宅に参上していた。
もちろん、ウサギの姿で。
「ふふふ……柔らかいですね……。畑にやってくる動物さん達は、すぐに逃げてしまうんです。私、こうやってゆっくりと、動物さんを触ってみたかったのですよ……」
俺はカルリラ様にナデナデされていた。
カルリラ様はテーブルの上に寝そべった俺のお腹に、慎重に手を這わせている。……ちなみに、力を入れすぎて、俺を数回殺しているのは内緒です。はい。
「乱暴なんてしないのに、なんで皆逃げてしまうのですかね?」
なんででしょう? 臆病だからですかね? ところで、カルリラ様なら走れば追い付けそうですけど……。
「追い付きますけど……。その……、捕まえようとすると、力加減が難しくて……」
うん、聞かなきゃよかったな。
俺は身の危険を感じつつ、そのまましばらく撫でられていた。驚かせたり、動揺させてしまうと、カルリラ様はすぐに手に力をいれてしまう。
久々のカルリラ様との戯れに、ぼうっとしていたが、ふと気になることを追い出した。
……カルリラ様、カルリラ様。
聞きたい事があるんですけど、いいですかね?
「はーい、なんですかー?」
カルリラ様はほわほわとした笑顔で俺を撫でている。……今ならいけるかな?
俺はなるべく刺激しないように、やんわりと質問した。
『憤怒』って、なんですかぁ?
俺がそう質問すると……。
めぎゃ。
いろいろな物が砕ける音と共に、ウサギさんの背中とお腹がくっついた。……しまった。タイミングが悪かったな。
復活完了。カルリラ様からの抱擁は何回されても最高である。
「す、すいません、ツキト様……。私はまたやってしまいました……」
そんな俺の心情も知らず、カルリラ様はテーブルの上の俺に何度も頭を下げてきた。
いいんですよ?
そんなことより、さっきの質問にお答え下さると嬉しいのですが……。
「……え? あ、『憤怒』についてですか? ……え~と、ツキト様はどうして、そんなことをお聞きになるのでしょうか?」
実は、キキョウ様に『暴食』や『憤怒』の事を聞きたいのなら、カルリラ様に聞いた方が良いと言われまして。
……ちょっとカマをかけてみた。『憤怒』だけだと、はぐらかされる気がする。
「うっ……キキョウですか」
カルリラ様は困ったような顔をし、少し考えてから、ため息と共に口を開いた。
「はぁ……誤魔化せそうにありませんね。……ツキト様は、この世界の神話について、何か知っていますか?」
神話?
……そうか。女神様がいるんだから、そういう伝説があってもおかしくは無いか。
でも、先輩からも聞いたことの無い話だな……。
俺はカルリラ様の質問に対して静かに首を振った。
「そうですか。……それでは! 私から少しではありますが、教えて差し上げましょう!」
おっ。カルリラ様がやる気だ。
立派なお胸を張って、張り切っている。……ありがたや、ありがたや。
「では先ず、……この世界は、神々によって滅ぼされかけた事がありました」
わぁお。
いきなりクライマックスな話題ありがとうございます。昔は皆さんも、ヤンチャだったんですねぇ。
「あ! か、勘違いしないでください。あくまでも、滅ぼそうとしたのは悪の神々です! 私達はそれに対抗したのですよ!」
あ、女神様と神々は違う存在なんですね。
つまり、邪神と女神様の聖戦って感じですか。
「そうです! 私達は世界を侵食する6柱の邪神達を屠り、この世界の管理者となったのです! 実は、生まれながらの神はリリア様だけで、私達は『女神リリア』に仕える神使だったのですよ? 戦いが終わった後、私達はリリア様から神格を戴きました」
だから、皆さんリリア様を敬っているのですね。他の方はお互いフランクみたいですし。
「……ここだけの話ですけど、リリア様も人目が無いと気さくな方なんですよ? パスファ以外には」
あー、リリア様とパスファ様は親子みたいな関係なんでしたっけ?
「そうですそうです! 懐かしいなぁ……、始めて会ったときの、パスファが泣きながらリリア様を守っていた姿……今でも思い出せます……」
そういう時代もあったんですねぇ……。
……あれ?
なんか、おかしいな。『憤怒』に『怠惰』、『暴食』ってきたから、七つの大罪が元になっている邪神だと思ったけど……6柱?
まぁ、女神達も全員で6柱だし……。
なんか、嫌な考えが頭をよぎったけど、気のせいだろう、うん。
……って、カルリラ様。
まだ『憤怒』の事について聞いていませんよ?
教えてくださいよ~?
「うっ……。私としてはあまり話したく無いんですけど……、『憤怒』だけじゃ、駄目ですか?」
あの、その言い方だと、他の邪神も気になっちゃうんですけど……。少しでもいいので、教えてくれませんか?
俺は両前足を揃えてお願いした。すると、カルリラ様は頭を抱える。
「う~……全部は話せないんです……。言えるのは、私達は6柱全てを倒せても、その存在を消すことはできませんでした。だから封印することしか出来なかったのです……。『憤怒』は封印した邪神の1柱の事ですね」
つまり、俺達が戦ったのは、封印されていた邪神だったのだろう。もしかして、今後も邪神がボスとして現れるのだろうか? ……名前ぐらいは確認しておくかな。
じゃあ、その邪神達の呼び名だけでも教えて頂けませんか?
「あ、それ位なら! え~と……『憤怒』、『暴食』、『怠惰』、『傲慢』、『色欲』……ぁ」
そこまで言うと、カルリラ様は俺から顔を反らした。……え、最後の一柱は?
「……つ、ツキト様。もしかしてですけど、今ので何かに気づきましたか……?」
俺は軽い気持ちで聞いたのだが、カルリラ様の顔にはダラダラと汗が流れている。
……いえ、何も。
俺は嘘をついた。そんな追い詰められた顔をされては、何も聞くことはできなかったのだ。
それに、今考えている事を口走った場合、どのぐらいの敵を作るかわからない。
というか、カルリラ様が凄い目で俺の事を見ている。……ヤバイな、なんか言わないと。
……そうだ。
も、もしかして! 今、名前を上げた邪神達は、全部カルリラ様が倒したとか、そんな感じですか? もし、そうだったら戦神のキキョウ様の顔が立ちませんね! ははは……。
俺は適当な事を言った。
そうすれば、俺が不敬な事を考えていた事はわからないだろう。これで誤魔化すしかない。
さて、カルリラ様の反応はいかに……?
「な……なんで……」
おや? なんか顔が真っ白になってる……。
「なんで私が全員殺した事を、知っているんですか……?」
やっべぇ……予想以上に死神やってたわ。カルリラ様。
って、神格は邪神倒してから貰ったって事は、自力で全員倒したのかよ!?
「ち、違うんです! たまたま……、たまたま私が止めを刺しただけなんです! ですからね、私一人倒した訳では……」
この感じ、多分、何柱かは自分だけで倒してるんだろうなぁ……。
俺はテーブルの上で仰向けになった。
服従のポーズである。これ以上の詮索は、俺の身の危険を感じた。
カルリラ様。変な事を聞いてすいませんでした。さぁ、撫でてください。最後の話は聞かなかった事にしますので……。
「うう……、本当ですよ? 一人で倒したのは3柱くらいなんですよ……」
半数ですね。流石です……。
その後、俺はカルリラ様が満足するまでもふられるのだった。
帰るときには、いつもの御礼にと、お土産も貰えた。……やっぱりカルリラ様は最高の女神様です。
後、邪神についての話は先輩にも通しておこう。もしかしたらパスファ様からの話の時にも、触れるかも知れない。
まだまだ、ゆっくりとした生活はできないようだ。
……まぁ、それはそれとして。
次のボーナスステージ、行ってみようか?
・冒険者の管理者権限
『自由のパスファ』が持つ、この世界の冒険者に干渉できるスキル。何の用事も無いのにふらっと人前に姿を表せるのはこの権限のおかげ。他にも、ステータスや『プレゼント』の管理もする事ができる。勿論種族の変更もできるが、細かい調整を個別に設定しないと、側だけの再現になってしまう。扱いが難しいので、基本使わない。
・邪神について
ノーコメント。……というより、わたしがカルリラと出会った時には、既に3柱の邪神が封印されていたので、詳しくはわからない。けれど、カルリラが居なかったら、わたし達は死んでいたし、この世界はもっと変わっていたと思う。
・神殺しの『カルリラ』
昔のカルリラの名前。あの時のカルリラは、ヤバかったなぁ……。




