ウサタヌニャック探険隊~薄暗い地下空間に、こねこの正体を見た!~
※明日から投稿時間が昼になったり夜になったりと、不安定になるかもしれません
毎日投稿は続けていきますので、よろしくお願いします。
階層を移動すると、目の前には身長5メートルはあるだろう、巨大な黒服ニャック達が待ち構えていた。
俺はその内の一体に向け、ウサギの身体能力を駆使し、全速力で飛び掛かる。
のろまな黒服も、さすがにこちらに気付いたらしく、大きな手を伸ばして来た。
握り潰そうと迫る指を、俺は爪を伸ばし、切り落とす。
そのまま、不恰好になった手を台にして、再び跳躍した。
目の前に現れたのは、巨猫の首だ。
力任せに短い腕を振るい、その太い首に爪を食い込ませ、抉り、刈り取った。
吹き出る血に、致命を与えた確信を得た後、首がちぎれゆく身体に着地。足に力を込める。
その身体が弾ける前に、俺は銀の弾丸の如く、次の獲物に向かって飛び出した。
後はこれを繰り返しただけの、つまらない戦い。
彼らは、ウサギの白い身体を赤く染めるだけの、つまらない障害物でしかなかった。
「いい加減にしなぁ! クソウサギぃ!」
俺の身体に鋭いローキックが入った。
メレーナの姉御は結構キレているらしく、容赦ない一撃が俺の身体を通り抜けた。
しぬぅ!?
「ああ、すげぇなぁ。アンタのお陰でもう15階層だよ? すっげぇや。……でぇ? 私達は何を楽しめばいいんだい? 焦りすぎなんだよ! 作戦通りに動け!」
うるせぇな! 先輩がゴールで待っているんだよ! それ意外にこの先を進む理由があると思っているのか!? ああ?
第15階層。
俺達は順調に階層を降りていった。もちろん、途中で見つけたニャック達は全て保護している。
敵は見つけ次第、俺が特攻し、殺していったのに関わらず、メレーナには不満があるようだ。
「アンタ、このイベントで結果を残したい訳じゃないだろう? こねこ様に誉めてもらいたいだけだよねぇ? ……一回落ち着いて、周りを良く見な」
他のメンバーが残骸を回収したり、ついてきたニャック達の状態を確認している中、俺はメレーナの説教を受けていた。
「いい? さっきの、こねこ様がこのダンジョンを制覇する直前まで来た、って知らせにゃあ、私もビビったさぁ。けどねぇ、制覇はしていないんだ。あくまで20階層への到達の知らせが来ただけ、……この意味はわかるかい?」
つまり……急ぐ必要性は無いってか?
悠長に進んでいたら、それこそ先輩がイベントをクリアしちまうだろ。
俺の質問にメレーナは静かに首を振った。
「違うねぇ。これは予想だけど、条件があるんだよ。21階層、フェルシーがいる階層に行くまではねぇ。……見てみな。私達の保護したニャックは何体だい?」
ビルドーの方に顔を向けると、大量のニャック達が群がっていた。
あらゆる攻撃を防ぎ、守ってくれる彼にはかなり感謝しているらしく、みゃあみゃあと身体をすり寄らせている。
……少なくとも10匹以上はいるな。
「そう。さっきの表示をよく見たかい? ニャック達の到達数も記載されていた。こねこ様は時間を優先して攻略していったんだろうねぇ。10匹って数は取り残しがある証拠さ」
先輩は各階層の探索をせずに、ガンガン進んで行った。しかしながら、何らかの障害に阻まれ20階層で立ち止まっていると?
で、先に行くための鍵はニャック達だと、お前は言いたいのか?
メレーナは静かに頷いた。
「そうさ。確証は無いけど、じゃなきゃわざわざあんな表示はされないだろう? ……少し冷静になりな。イベントが始まってまだ日は経っていない。そんなに簡単にクリアできる様にはなってないよ。気ぃ抜いていきな」
そう言ってメレーナは頭を撫でてきた。
がしがしという乱暴な感じに撫でられたので少し痛い。……もふり慣れていないな、ゼスプを見習えよ。
「やなこった。私は優しくないんでねぇ、期待しないでおくれ」
ニヤっと笑うと、メレーナはこの階層の探索へ向かった。
確かに言われて見れば、イライラしていたかも知れない。俺を見るニャック達の目が若干引いていた様にも見えたし。
俺は一度深呼吸をした。
最初にニャック達を連れていこうと提案したのは俺だ。
その時はまだイベントを楽しもうという気持ちがあったのだが、先輩の知らせを聞き、焦ってしまっていたのだろう。
探索やニャックの保護も無視して突っ走しろうとしていた。
ビルドーに止められたが、止められていなかったら一人でも強引に進んでいただろう。
……ふう。
なんか、落ち着いたな。
そろそろ、俺も皆と合流して探索に参加しよう。大事なのは協力することだ。
ゼスプの指示にも耳を傾けてやらねば……。
「……ツッキー。悪い、やっぱさっきの無し」
あれ、もう探索終わったの? ……んん?
メレーナの声に振り向くと、彼女は大量のニャック達を引き連れていた。
ビルドーの方に顔を向けると、変わらず大量のニャック達がビルドーに甘えている。
つまり、彼女の後ろにいるのは今見つけたばかりのニャックなのだろう。
……あれ?
なんか、倍以上になってませんかね? メレーナさん?
「探索してたゼスプが見つけてきやがってねぇ……。これ以上連れてくと、探索に支障が出るけど、コイツら死んでもついてくるって言うんだよ……」
えぇ……。それ、ビルドーだけで守りきれんの……?
「無理だから、私とゼスプも防御に回ることになるねぇ……。作戦としては、バフをかけたアンタが敵に突っ込んで行って、殲滅する事になるとさ……」
つまり、さっきとやることは変わらない。
という事でいいんですかね、メレーナさん?
「うん……悪いねぇ、偉そうな事言って……」
メレーナは恥ずかしそうに顔を背けた。若干、顔が赤くなっていたことは見なかった事にしよう。うん……。
そんな微妙な空気になりながら、俺達は次の階層へと進んで行くのだった……。
ようやく19階層に入ると、部屋の様子が変わっていた。先程までカジノを思わせる空間は、なにもない広い洞窟のような景色に変わっている。
そこには一匹のニャック立っていた。
そいつは黒服服も着ておらず、道中で見つけたニャックのように鉢巻きを巻いている訳でもない。
今までとは違う様子に俺達と、50匹まで増えたニャック達は警戒する。……後ろの方がみゃあみゃあうるさいのは、気にしない。
「……ツキト。何かおかしい、様子を見てきてくれるか?」
ゼスプが緊張した様子で、俺に指示をだす。
わかった。さっきと同じように、通路を魔法でふさいでくれ。それと、魔法での支援を頼む。
俺がそう言うと、ゼスプはタヌキの前足を上げ、魔方陣を展開する。
すると、地面が盛り上がっていき、俺の後方一面が壁となった。壁に空いた唯一の通り道は、ビルドーの大盾が扉のように守っている。
これで後ろのニャック達も大丈夫だろう。
俺はゼスプに魔法をかけてもらったあと、慎重に佇んでいるニャックに近づいていった。
俺の姿を確認すると、ニャックは眉間にシワを寄せ、怒りの表情を作る。
「なんで……なんで早く来てくれなかったのにゃ!? なんで、みゃあだけここに一人ボッチになっているのにゃ!?」
いきなり大きな声を出され、俺は戸惑った。いきなり難癖つけられるとは、思わなかった。
「ふざんけんにゃ! ああ、イライラしてきたにゃ! 黒服共にはいじめられるし、誰も助けに来てくれないし、こんなところに捨てられるし……許せないのにゃ! ……にゃぁああああああああああ!!!」
ボコン。
ニャックの身体の一部が泡の様に膨れ、音を立てて弾けた。
そこから、新しい手が生えて来ている。
!?
俺は咄嗟に前に踏み出し、爪でニャックの喉笛を切り裂いた。
嫌な予感がしたのだ。
むしろ、こちらに気づく前に殺さなかった事を後悔していた。
そして、その考えは間違いではなかった。
切り離した断面が、ボコボコと泡立ち、足や手、ニャックの身体の部位を増殖させながら大きくなってゆく。
そして、あっという間に、小さなニャックの身体は、部屋を覆い尽くす様な大きさの、肉の塊へと変貌した。
「許せない……! 許せない……!」
身体のあちこちに作られた口から、怒りのこもった呪詛が漏れる。
その肉の化け物は、ぐちゃぐちゃになったニャックの身体で触手の様なものを作り上げ、それをこちらに叩き付けてきた。
その一撃は地面を粉砕し、あたりに砕けた石が飛び散る。
避ける事は容易だが食らった時の姿を想像し、体に寒気が走った。
久々の強敵に、俺は迷い無く『カルリラの契約』を発動させる。
瞬時に黒霧状態から体を形成させ、伸びていた触手を切り落とした。
しかし、切り落とした断面から、再び新しい触手が発生する。
!
ゼスプ! 巻き込んでも構わない! 撃て!
切り落としたにも関わらず、次から次へと再生、増殖する触手を前に、俺は叫んだ。
物理的な攻撃が効きにくい相手がいる、というのは聞いた覚えがあった。だからこその判断だ。
魔術師でなければ、コイツの相手は厳しい。
「了解した! 『魔女への鉄槌』起動!」
触手の数が増え、それが一斉に俺にへと向かってくる。ゼスプにターゲットが向かないよう、俺はそれらを全て切り落としてゆく。
「威力、80。レンジ、最大。範囲、50。形状、サークル。属性、毒。効果付与、拘束……発現開始!」
肉の化け物の下に魔方陣が展開した。
魔方陣の範囲が俺の足元にも、届いている事を確認。全力で退避行動にへと移る。
ゼスプの能力は魔法の創造。
弱いものから、強いものまで、好きな魔法を作ることができるが、消費するMPの大きさから実用的ではなかった……のは前の話し。
最近は地獄の方がマシとも言える修行の後に、最大火力を出さなければ、2、3回使える程にまでゼスプは成長していたのだ。
そんなゼスプの魔法は、火力だけなら先輩を凌駕する事ができる。
だからこそ俺は脱兎の如く逃げなければならない。
死なないだろうが、相当な痛手を負うことになる……。
と、思っていたら魔方陣が砕けた。
『魔女への鉄槌』の魔法が完成した合図である。……やっべ。
「腐り落ちろ! 『コラプション・スワンプ』!」
先程まで魔方陣があった範囲の床が消えた。俺は何が起きたのかわからず、足元へと落下する。
その瞬間、俺の視点は第三者のものと変わった。どうやら、俺は死んだらしい。……え、一撃ですか?
床が消えた場所は、大きな沼と化しており、そこに化け物も落ちていた。
憎しみを吐き出していた化け物の口は、痛みからか絶叫をあげている。
見ると、浸かった場所からどんどん腐敗していき、肉が溶けていっているではないか。
化け物は触手を形成し、なんとか地面にへと這い上がろうとするが、それを邪魔するかの様に、沼の水が手の形作る。
それが逃がさぬようにと、化け物を掴み、引きずり込んだ。
毒属性の特大スリップダメージと、その場に拘束する効果を持った魔法なのだろう。
相手の再生速度を上回るダメージを与え続けている。
そんな、とんでも魔法を食らった化け物の声が聞こえなくなるのには時間はかからなかった。
「だって、巻き込んでもいいって言ったじゃないか」
ゼスプの魔法で復活した俺は、とりあえず目の前のタヌキさんに文句を言った。
まさか、逃げる暇も無く、一撃で葬りされるような魔法を使われるとは思わなかった。というか、そういうのを使うなら事前に言って欲しかった。
「まぁまぁ、良いじゃないか。今の敵はゼスプちゃんの魔法じゃないと厳しかっただろうし? アンタも復活させてもらったんだしねぇ? ふふ……」
メレーナは生き返って、綺麗になった俺を抱えながらそう言った。……メレーナ、ウサギが好きなんだね。
「うっさい」
俺はそんな素直じゃないメレーナを見上げた。
ところで、20階層には到達した様なもんだから、いいんだけどよ。
肝心な事を忘れちゃ駄目だろ。
……さっきの敵はなんだ。
明らかにおかしな敵だったぞ。前作PLのお前の意見を聞きたい。
「……」
メレーナは口を継ぐんだ。言いたくないというよりは、少し考えている様に見える。
「はぁ……悪いねぇ、私にはさっぱりだ。木偶の坊、アンタどうだい? 何か知ってる?」
ビルドーの方に顔を向けると、静かに首を横に振った。
「前作PLの二人でもわからないのか。……けど、次の階層にはみーさんがいる。きっとなにか知っているはず……ゴハァ!!」
話をしていると、タヌキさんが吐血した。
え!? どうしたの? 敵襲!?
「ごふっ! ごほ……、ああごめん、ごめん。魔法の反動でダメージが入っていてね。……大丈夫! 死ぬなら特大魔法を撃って死ぬよ。オレ、死に慣れてるから、心配ないさ!」
そう言ってゼスプは前足を上げてガッツポーズをとった。
先輩……、アナタ魔術師組に何してたんですか……。
『PL『ゼスプ』のパーティーが20階層に到達しました。
合計到達ニャック数 60』
俺は一回死んだが、なんとかここまでたどり着く事ができた。
20階層は先程の階層と同じように、開けた洞窟の様になっている。
ウィンドウのメッセージから考えれば、ここには先輩が来ているはずなのだが……。
「お、おお、おおお、お、遅かったじゃあないかぁ! 君達!」
と、部屋の奥から震えた声が聞こえた。
奥には大きな扉があり、その前に二つの影があった。
「い、いい、急いで来たぼ、僕たちがこれじゃあ恥ずかしいね! ま、まさか、ニャック達がいないと次に進めないなんて思わなかったもの!」
その内の一人がこちらに向かってくる。
震えた声で、こちらに語りかけてきた人物だ。
「……まっじ?」
その姿がハッキリと見えると、メレーナは驚いた声を漏らす。
そこに現れたのは、黒いドレスのような服をきた少女だった。
長い黒髪に、涙を溜めたぱっちりとした目。顔は整っており、真っ赤にそめた頬が可愛らしい。
体型は細く、抱き締めたら折れてしまうのではないかと思った。
身長もそんなに高くはなく、見た目は高校生のようで、下手したら中学生と見間違う姿をしたいた。
「い、急いだ結果がこれだよ! 結局姿を見せることになったじゃないか!? どうだ! なんか言ってみろぉ!? うわぁぁぁぁぁ!」
どう見ても自棄になっているご様子だ。
俺はメレーナの腕からおり、彼女の近くに跳ねていく。
彼女は、はっとした顔をすると、スカートを押さえながら俺に視線を落とした。
仕方のない人だ。ここはひとつ、気の聞いたことでも言ってあげよう。
俺は彼女を見つめ返し口を開く。
大体イメージ通りです。可愛いですよ、先輩。
そう言うと、先輩の目から大粒の涙が零れる。そして……。
「ちょっとは驚けよ!! 馬鹿ぁ!」
メレーナのものとは比べ物にならないローキックが俺を襲った。
パンツではなく、スパッツが見えたことに喜びを感じながら、俺は天高く舞い上がり、━━弾けた。
・来い……! 早くこの怒りをぶつけさせろ……!




