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大事なのは気合い

「兄貴……凄いよ……、これで5体目だ。元気なウサミミメイド達だよ……」


 俺の目の前には、ウサミミ装着済みのメイド人形が5体立っている。

 ヒビキが俺の身体に寄生し、身体の中で成長したものが、生まれてしまった。


 宿主になった俺の身体はボロボロになり、血が溢れだしている。


 我が弟は、寄生先の生物の特徴を取り込みつつ、身体の中で成長出来るそうで、ウサミミはその証だそうだ。


 成体まで成長したそれらは、以前の物とは比べものにならない、破格のステータスを有しており、その辺のPLでは太刀打ちすら許されない。


 ヒビキは嬉しそうに、その性能を確認している。


 質量保存の法則よ、仕事、してくれ……。


 俺は意識を失いかけながら、そんな事を考えていた。

 ウサギさんの身体から、1分の1スケールの人形が、あらゆる法則を無視して飛び出してくる光景は、恐怖でしかない。……想像しない方がいいぞ?


「ありがとう。これでリリア様に告げ口した件はチャラでいいよ?」


 ……あ、そうなの? そんな怒ってたのね。

 なら、回復して? もうお兄ちゃん死んじゃう……。


 俺は朦朧とする意識の中で、微笑むメイドの姿を見た。


「次からは、イベント用……いってみようか……?」


 もぅ俺、苗床なるのやだー……。


 そう呟くと、俺の意識は深淵へと落ちていった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 俺達は残された1日の時間を使い、変化した姿の戦い方を模索する事となった。


 ところで、会議が終わってから数時間の記憶が曖昧なんだけど……。ゼスプ、お前なんか知らない?


「え……ホントに産まされたの? 君の弟、鬼畜が過ぎない? うわ、目が死んでる……」


 ハハハ、ナンノハナシヲシテイルノカ……。


 俺ウサギとゼスプ狸は、ケルティの訓練道場に訪れていた。

 先程言った通り、身体の動作確認をする為、という理由もあるが、どうしても話しておかなければならない事があったからである。


 先輩とドラゴムさんについてだ。


 俺とゼスプは隣り合って、ちょこんと座っていた。はた目から見たら、ウサギとタヌキが並んで座っているホンワカ空間となっている。


「ドラゴムとは、連絡ついたよ。俺が連絡したときは、パニックになっててメッセージに気が付かなかったそうだ」


 そうか。

 何も無かったのなら、よかったね。


「まぁね。ちょっと恥ずかしいから、皆の前に出れないって言ってたよ。みーさんも一緒だから、大丈夫だろう。……そういえば、みーさんは?」


 あー、先輩だけど……。

 連絡はついたよ、うん。確認したけど、メテオフォールでバインセンジを吹き飛ばしたのはやっぱり先輩だったね……。


 あの後、送られて来た画像を見たが、そこにはクレーターだらけの荒野に、何かの残骸が散らば照っている光景が写されていた。


 あの綺麗に整備された、近代的な町の名残は何一つとして残っておらず、攻撃の激しさを察する事ができた。……やっぱ先輩は一味違うわ。


 ついでに、フェルシーについては、俺達の姿が戻って無いので生きてるだろう、という話で落ち着いた。


 俺は遠くを見つめる。

 遂にやったか、というのが俺の素直な感想な訳だが、一般PLからしてみたら恐怖でしかないだろう。


「やっぱりかぁ……。思えば、ツキトがあの人の手綱を握ってたから問題を起こさなかっただけで、充分危険人物なんだよね……」


 そうだよ? 俺をもっと誉めるがいい。

 ……という冗談が軽い気持ちで言えればいいんだけどな。今の状況は結構不味い。

 理由は……ドラゴムさん、結構甘いところあるじゃん?


「あー……あるある。不味いよね、一番近くにいるストッパーが機能してないのは不味い……」


 そうなんだよ、しかも姿が変わっていて、現在地が捕捉できないのが、さらにヤバさを加速させてる。


 先輩は前作PLの中でも、好き勝手やっていたタイプのヤバイお方。前作未プレイの俺達には予想もできない行動をとるだろう……。


 簡単に言うと、歩き回って、勝手に爆発する核兵器ってとこだな。手がつけられん。


「その説明で凄いしっくりきた……。連絡してクランに戻ってもらってよ……」


 お願いしたよ?

 でもさ、『会いたくない』の一言だよ。心折れちゃう……。


 俺はガックシとうなだれた。

 ここまで拒絶されると、心に来る。家出の件は、渋々ながらお許しを頂いたのに……。


 俺が落ち込んでいると、ゼスプは前足を伸ばして、俺の背中をもふもふと撫でた。


「心配しなくても大丈夫さ。ドラゴムもみーさんも別に会いたくない訳じゃないよ。……強いて言うなら、ちょっと失敗してしまっただけさ」


 励ましの言葉を、背中を擦りながらかけてくれる。優しみを感じながら、俺はゼスプに振り替えった。よく見ると、つぶらな瞳をしている。


 ……どゆこと?


「魔物種族のPLで、人型以外の種族だった場合、アバターのキャラメイクの時間があったんだけど……」


 ゼスプはそこまで言うと、辺りを警戒しつつ、俺に耳打ちする。


「間違って、初期アバターのまま決定したんだって」


 ……二人とも?


 そう聞くと、ゼスプは静かに頷いた。


 俺の記憶が確かならば、PLのアバターは、リアルの自分と同じ姿になるはずだ。

 それを、なにも弄らないで決定してしまったということは、つまり……。


 リアルの先輩を見ることができる!? 


 こんなところで油売ってる場合じゃねぇ! もふられに行かなくては!


「はい、待てー」


 俺が飛び出そうと足に力を入れた瞬間、ゼスプにのし掛かられ、捕まってしまった。


 ええい! 離せ! リアルドラゴムさんも気になるんだよ! イベントよりもそっちの確認が大事に決まってんじゃねーか!


 俺はもふもふと手足を手足をバタつかせるが、中々脱出することができない。

 クソっ、これがセクハラもふ魔族の底力か……!


「二人が見られたくないって言ってるんだからさ、そっとしておこうよ。……ところで、君、いい毛並みしてるね?」


 前半はともかく後半!?


 今のはドラゴムさんに報告させてもらうぞ! 真面目に貞操の危機を感じたわ!

 てか、よく考えなくても、今の俺達、被捕食者と捕食者の関係だよな!?


 助けてー! ここにセクハラもふ魔族がいます! 助けてー!


「食べない、食べない……もふるだけ」


 なにも知らない人達は、可愛らしいウサギさんとタヌキさんが、じゃれあっているように見えているのかも知れないが、 そんな事はない。


 嫌だ……! もふハラやだぁ……!


「なに遊んでんのさ……」


 気がつけば、目の前にはレズツムリと化したケルティが俺達を冷ややかな目で見ていた。


 姿は会議の時からだいぶ変わっており、今はうまく身体を変化させていて、パッと見でケルティとわかる見た目になっている。

 大きさは手のりサイズだ。


「道場の闘技場空いたよ。何回でも死ねるけど、後がつかえているから10分だけね」


 そう言い残すと、ケルティはパタパタと去って行った。


 丈夫な鱗と甲殻を持ち、背中の殻に生えた翼を使って移動する生物、か。

 レズツムリの生態は未知に包まれているな……。


 俺が不思議生物を眺めていると、背中から重さが消えている事に気付いた。


「何してるんだよ、ツキト。時間も無いんだし、早くやろう?」


 道場の闘技場にちょこんと、不敵な態度でタヌキが座っていた。


 闘技場は、何度死んでもその場で即時復活できる、拠点専用の施設だ。もちろんデスペナもない。

 そして、自ら率先してその場所に入ったタヌキの真意を、俺は察する。


 ……オーケー、言いたいことはわかった。

 久々にその首刈り取ってやらぁ!


 俺は全力で飛び出すと、闘技場に鎮座しているタヌキに襲いかかった。

 ウサギの恐ろしさを教えてやろう。


「ふっ、その小さい身体でやれるものなら、やってみるといいさ」


 ゼスプは前足を前につき出す。すると、足先に魔方陣が展開した。

 姿が変わり、身体的構造も変わったとしても、魔術師ならば変わらないスペックを披露できる、ということだろう。


 全く、甘い奴だ。種族が変わったら、戦い方も変わると言ったのは、お前だろうが。


 よっこい……すあぁ!!


 俺が気合いを込めると、じゃこん、という感じに右前足の爪が大きくのび、大鎌の様なブレードが出来上がる。


「え、ナニソレ」


 俺は入場の勢いのままゼスプに突っ込み、身体全身を回転させ勢いをつけながら、タヌキの首を切り飛ばした。


 ところで、野ウサギさんは足が速く、最高速度は80キロにも達する、という話もある程だ。そのスピードを自力で出せる生き物なんて、そうはいない。

 そんな種族が、人間より遅いわけがないんだよなぁ……?


「ちょ! キモっ!? お前ウサギじゃ無いのかよ!? なにその爪? キモっ!」


 ゼスプが闘技場内で復活した。

 そして、俺の予想外の行動に対し、抗議してくる。


 落ち着けって、動物のPLは気合いを入れれば、ある程度なら爪とか尻尾とかを強化できんだよ。

 先輩もピッキングするときは爪伸ばしてたし。

 けど、耳が良くなったから、衝撃属性は勘弁な? 弱点だから。


 俺はそう言って、伸びた爪をしまった。じゃこん。


「キモっ!? 限度があるだろ!? え? なんで、そうなんの?」


 まぁ、ほら、ウサギって首を狩る習性があるし……。


「無いよ!? ツキトの中の、ウサギは化け物か何か? ……ところで、それってオレにもできるかな?」


 ゼスプは何処と無くウズウズしながら俺に聞いてきた。

 先輩の言う通りなら、動物の特徴にあった変化があるかも知れない。


 やってみろよ。

 もしかしたら、スゲー効果があるかもだし。あと、デメリットもある時があるから気をつけてな?


 とりあえず、はぁ! ってやってみ? はぁ! って。気合いを入れればいいから。


「そんなのでいいの? それじゃあ……はぁっ!!」


 ゼスプが気合いを込めて叫ぶと目に見える変化が起きた。


 ぽん。


「お?」


 なんと、軽快な音と共に、ゼスプ狸がまん丸になった。

 どうやら、一気に毛のボリュームが膨れ上がったらしい。暖かそうである。


「おお……いいなぁ……、これ……」


 セクハラもふ魔族、ここに極まれり。


 恍惚とすんな。お前、もふもふできるなら自分でも良いのか?


「いや、誤解だよ? この状態はアークもなっていたから覚えがある。てっきり冬毛だと思ってたけど、気合い入れてたんだね」


 アークは狐のPLだ。

 幻影を見せたり、相手の心を読めたりと、狐っぽい事ができる能力がある。


 あー、アークか。

 そういえばたまに見かけると、動く毛玉になってたりしてたな。


「そうそう。確か、この状態は防御力と氷結属性が強くなる変わりに、火炎属性に弱くなるはずだね」


 へぇ~、そうなのか。


 ……よっと。


 試しに俺は、爪を伸ばしてゼスプに切りかかる。

 全力では無かったが、分厚い毛皮に邪魔されて、俺の爪は肉まで届かなかった。毛皮は天然の鎧として、充分機能しているらしい。


 おお! スゲェじゃん! 魔術師の脆さをカバーできるな! ……ん? どうした、ゼスプ? ゼスプ~?


 俺が声をかけると、こてん、とゼスプが倒れ込む。

 どうしたのかと、疑問に思ったが、今のゼスプの姿を見て、ピンと来た。


 ……あ、タヌキ寝入りだ、これ! ホントにやるんだ!  初めて見た!


 ゼスプ狸の面白い姿を堪能していると、時間が来てしまったので、俺はゼスプを背中に乗せて、道場を後にするのだった。




 そして、イベント当日。


 俺は農場で汗を流していた。

 まぁ、農民ですからね。カルリラ様にお供え物もしなくちゃいけないし。

 それに、イベントの時間になったら、ウィンドウのメニューから何処でも戦場に飛べるらしい。


 それなら、神技を発動させる為の捧げ物を、アイテムボックスにできる限り詰めていこう。

 そう考えたのだ。


『ウサギさん、ウサギさん。少しいいですか?』


 おや?

 カルリラ様だ。イベント前に何か伝える事でもあるのかな?


 時間ありますよー? どうしましたか?


『ふふふ、すっかり可愛らしくなってしまいましたね? 後で、その姿のまま遊びに来てくださると、嬉しいのですが……』


 喜んで行きましょう。

 ですが、これからは少し用事がありますので、落ち着いたら参ります。


『そう、その事で少し伝えたい事があります。……フェルシーは、こんな事をする娘じゃありません』


 ?

 調子に乗って、やりそうだと思うのですが?


『いえ、彼女がニャックに反旗を翻されるのは恒例行事みたいなものです。それで、粛清すると言って、眷属達と遊ぶのですが……』


 それを恒例行事というのはどうかと思うのですが……。

 それに、今回は俺達も巻き込んできましたよ?


『それです! 冒険者を巻き込むのはパスファの許可がいります。頼めばいいにも関わらず、彼女はパスファからその権限を奪い取りました』


 ……え、パスファ様、最近静かだと思ってたら、やられてたんですか?

 またまた~? 冗談ですよね?


『いえ、本当です。今はフェルシーに封印されています。神技を使うこともできないでしょう……』


 俺はそれを聞いて、『パスファの密約』を使おうとしたが、ウィンドウからその項目事態が消えていた。

 予想外の出来事に目を見開く。


『気をつけてください。フェルシーは何をしてくるのかわかりません。私達も力を貸しますから……』


 と、それを最後にカルリラ様の声は聞こえなくなってしまった。


 イベント前に不穏な話を聞いちまったぞ……。

 別に、あのアホ女神の性格なんて、どうでもいいんだけどなぁ。別に話してても腹黒キャラみたいな感じだなぁ、としか思わなかったし。


 何かおかしなところ……。

 俺はいろいろと悩み、とあるシーンを思い出した。


『趣味ニャア!』


 出会って早々、俺がネコスーツを弄ったときの台詞だ。

 フェルシーは、俺の言葉を笑って流した。

 そのせいで、親しみやすいキャラだとしか思わなかったが……。

 そこからのフェルシーは、化けの皮が剥がれるように、キャラが変わっていった。


 もし、あれが本人の意思とは関係ないものだったとしたら?


 ……いかん、なんか怖くなってきた。


 と、カルリラ様に言われた事を気にしていると、目の前にウィンドウが現れた。


 そこには、『ニャック大戦~天運の女神は微笑まない~が始まります。移動しますか?』という文章が書かれてあった。


 遂に始まるらしい。

 なにやら、不穏な空気を感じるが、ここまで来たのならやるしかないだろう。


 俺は覚悟を決め、戦場へと向かうのだった。

・あっぶなぁ!? あり得ないのニャ! 街ごとミャアを殺そうとするなんて、頭がおかしいとしか思えない! ……クソめ! 逆らった奴らは皆殺しだ。生意気なニャック共々二度と目覚めないように冥界に送ってやる。……い、いや、なに言ってるのニャ。それは、やりすぎニャ。ちょっとお仕置きするだけニャ……。なんか変なのニャ……、ミャアはどうしてしまったのニャア……。

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