表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/123

緊急クラン会議~もふもふ現状把握~

「えー、ツキトがチップに色目を使ったことは置いときまして……」


 おいこら、ゼスプ。

 会議の冒頭で俺を弄る、っていう先輩のネタ使ってんじゃねーよ。

 色目使ってねーし。あと、その件は死んで詫びたから許して。


 俺達は明日から始まるというイベント『ニャック大戦~天運の女神は微笑まない~』の対策会議をするために、例の如く集まったのだが……。


「なんでお前がウサギなんじゃ。ワシもかわいいのがよかったのじゃが!?」


「熊もかわいいと、ボクは思いますよ? もふっていいです?」


「アナタ達さー……贅沢言い過ぎじゃない……? 動物なだけマシ……」


「お姉さまも可愛いですよ?」


「目線がいつも通りっていうのもいいねぇ。飛んでないのは違和感あるけど……」


「コボルトは基本変わりませんな、大きな変化があった方達は大変そうだ……」


 姿が変わってしまった事について楽しそうに、各々が会話をしていた。


 コイツらは……。


 盛り上がってんじゃねーぞ! まじで、今回ばかりは緊急事態だからな!


 俺が大きな声を出して叫ぶと、徐々にではあるが会議室の中は静かになっていった。


 よし。

 わかってくれたらいいんだよ。

 さて、現在の状況を確認していくか。


 まず、可愛いウサギさんになってしまった俺こと、『ペットショップ』副リーダー、ツキトです。


 俺が自己紹介をすると、一人のメイドが立ち上がり、近付いてきた。


 ヒビキである。


 そのまま無言で俺を抱き上げ、その人形の手で頭を撫でてきた。まったく、仕方の無い弟だ。


 ……えー、人間種族が魔物に変えられ、魔物種族が人間に変えられてしまったこの現象は、あのアホ女神の手によるものです。

 この辺りについては皆様、承知だと思います。


 俺がここまで説明をすると、チップが手を上げた。

 

 はい、チップ。どうした?


「弟に撫でられているけどいいのか?」


 いいんだよ。

 ツッコミをいれると、会議が進まないからな。俺だって、何をされるかわからなくて怖いんだ。察してくれ。


 そう言うと、ヒビキが俺の背中に顔を(うず)めた様だ。背中に何かの呼吸があたっている。……柔らかいかい?

 その様子を見たチップは、顔を反らした。


「……ごめん」


 うん、……続けるぞ。


 ヤツは自分に反発するニャック達を粛清するために、PLを募集したのですが……、運営発表では9割のPLがニャック達の味方を選んだそうです。カスい人望ですね。


 その結果に女神大激怒。

 自分の敵に回ったPL、全員の姿を変えやがりました。しかも、ターゲット機能で名前が確認できない、悪意あるオマケも付いているようです。


 はむ。


 耳を何かで挟まれる感触があった。

 これはもしかして、ウサギさんのお耳が甘噛みされているのでは無いだろうか?

 ……まぁ、いいか。


 俺は気にせず説明を続ける。


 しかも、先輩の日頃の教育からか、我々のクランは神殺し希望のPLが圧倒的に多く、殆どのPLが識別不可能になっております。組織として大打撃を受けたと言っても、過言では無いでしょう。


 故に、クランの運営にも大きな支障が出るだろうと予想し、現状の確認、及びこれからの方針を決めるため、皆様に集まってもらった次第であります。


 自分からは以上。

 続きまして、タヌキさんから説明があります。


 俺は、机の上に乗っている自分の身体に顔を突っ込み、己のもふみを堪能しているゼスプに顔を向けた。

 角が生え、マントを付けているタヌキの姿になっていた。


 ……何してんのさ、お前。


「もふもふ……ハッ! ……クラン『魔女への鉄槌』のリーダー、ゼスプだ」


 いきなり真面目になんのやめーや。


 そう思っていると、俺の後ろ足に口を伸ばそうとしたヒビキが動きを止め、ゼスプ狸に目をつけた。


 これはいけない。


 ヒビキや。そこのタヌキさんは、これから真面目な話をする、俺で我慢しなさい。


「……お腹のもふもふ吸っていい?」


 いいよ。だから大人しくしててな?


 という訳で、俺は吸われた。うあ"ぁー……。


「今回、我々の姿が変わってしまいましたが、変わっていないものもあります。……レベルと一部を除く各ステータスです」


 あ、ヒビキ、そこはちょっと……。

 不味いよ……、ああ……。


「プレゼントも問題なく使用できます。装備については、見た目は変わりませんが、データとしては機能しているようです。逆に、元が魔物種族だった場合、装備はできても、データとして機能していない、と報告がきています」


 ちょ、耳の中に舌入れるのはどうかと、お兄ちゃんは思うよ。って、あ。あ。あ。


「しかし、攻撃のリーチや、行動の速さが変わっているために、姿が変わってしまい、不利になっていることは変わりません」


 優しく……優しくもふって……。

 口に指入れないで……もがぁ……。


「特に、特徴的な種族だったPLは、今までの戦い方はできないでしょう。逆に、癖のありすぎる種族になってしまった方は、新しい戦法ができるはずです。……って、そこの変態兄弟! 気が散るんだよ! なにをしているんだ!」


 タヌキさんが怒って牙を向いた。

 顔に皺がより、キシャーっとなっている。


 怒られたヒビキは俺を机の上に下ろすと、ゼスプにとんでもない事を言い放った。


「身体に、ボクのパーツを埋め込んでいました。会議が終わったら、兄貴に産んでもらおうと思います。戦力の増強です」


 え。


「はぁ……誰もいないところで産んでくれよ?」


 え? 止めてくれないの?


「はい、たくさん産んでもらいます」


 え……俺、今まで何されていたの?


 衝撃の事実を伝えると、ヒビキは自分の席に戻って行った。ヤベェよ。身体の震えが止まらねぇよ……。


 そんな俺の心境を察する事も無く、ゼスプの説明は終わりに近付く。


「最後に、運営からのお知らせでは、この姿はイベントが終わった後、自由に使えるそうです。参加特典となっています」


 あー、姿だけ変えれるってやつね。着せ替え機能で、姿だけ変えられてるのか、俺達。


「そして、今回のイベント報酬につきましては、勝った陣営に参加したPLに、大量の賞金と経験値が与えられます。また、戦績がよかったPLには特別報酬があると発表がありました」


 ちゃんと報酬あるんだな。

 てっきり、フェルシーをボコれるのが、報酬の変わりだと思っていたのに。


「若干、トラブルはありましたが、オレからは以上です。質問及び報告はありますか?」


 ゼスプがそう問い掛けると、真っ先に手を上げたのはケルティ……の席に座っているフロイラちゃんだ。


「今回、ケルティちゃんは駄目です……。これじゃあ戦えません……」


 しかし、何処からともなく、ケルティの声が聞こえた。

 てっきり、代わりにフロイラちゃんが来てくれたと思っていたので、いきなり聞こえてきた声に驚く。


 ……ん?


 よく見ると、フロイラちゃんの肩に何かがいる。あれは……。


 カタツムリ?


 デフォルメされた可愛いカタツムリのような生物が、肩の上でうねうねしている。


 まさか。


 け、ケルティ……お前……なのか?


「笑ってよ……。今日からしばらくこの姿さ……。悲しいカタツムリさんだよ……?」


 ケルティーーーーー!!


 なんてことだ。

 事態は予想以上に深刻なようだった。

 戦力としてかなりの期待をされていた、エルフのケルティが、こんなレズツムリになってしまうなんて……。


「いや、『プレゼント』の能力で、身体を変形させればいいだろ」


 鋭い突っ込みがゼスプから入った。そういえば、ケルティはある程度なら、自由に身体を変異させる事ができる。


「あ、そっか。……どう? できてる?」


 ケルティ背中の殻が変異し始め、形を変える。

 なんと、レズツムリの背中の殻から、翼が生えてきた。それをパタパタ動かすと、不思議生物が宙に浮く。


 ……できてる、のかなぁ?


 本人に、その見た目のSSを送ったら、なんか納得していた。それでいいのか、お前は。


 次に手を上げたのは、人間になったメレーナだ。元の妖精の時の姿と見た目は変わっていない。人間サイズになっただけに見える。Tシャツにホットパンツというラフな格好をしていた。


「とりあえずさぁ、誰が誰だかわかんないんだよねぇ。ちょっと容姿と名前を一致させたいから、一人一人名前言ってってくんない? これ、放送中なんでしょ?」


 実は、今回の会議からクランメンバーに向けて会議の様子を配信することとなったのだ。

 その方が、いちいち説明する手間が無いから、という理由である。

 ちなみに、カメラマンは愛好会のリーダー君だ。


「誰が発言したかわかれば、下っぱ共も助かるでしょ? あ、私は教官メレーナだよ。これ終わったら、自信の無い奴等は講義を開いてやる。どんどん来なぁ?」


 次は、大きな黒い熊が立ち上がった。

 中々の迫力である。


「製造班長、鍛治士サンゾーじゃ。熊の姿じゃが仕事はできる。じゃんじゃん持ってこい。身体にあわせて武器を作り直してやるわい」


 次はチップにカメラが向いた。

 俺の目の前にいるのだが、何に変わったかは言わなくてもいいだろう。……犬種は意外だったが。


「斥候班長のチップだ。斥候班はいつも通り! 些細な情報でもいいから上げてくれ、以上! ……あと、ツキトとの件は忘れろ!」


 ウルフドッグが吠えると迫力が違うな……。

 てっきり柴犬とかになると思っていたのに……。それはそうと、後で背中に乗せてもらおう。


「はーい! カタツムリから奇跡の復活を遂げた、ケルティ訓練班長だよー! 明日までには戦い方を確認しておいてねー?」


 カメラを向けられたケルティは、全身が銀色のメタリックな人型生物になっていた。

 しかしながら、大きさは変わらないので、ブリキのおもちゃが、カタツムリの殻を背負っているように見える。

 ……レズカルゴでもしっくりくるな。


 その後も、他の部署の長が、連絡も含めて、自己紹介をしていく。


 ヒビキの番になったときは、何人かが不思議そうな顔をした。

 そういえば、コイツだけいつもと変わらない。……性癖ではなく、見た目の話である。


「便利屋、ヒビキです。本体は人の身になりましたが、能力で作った人形には、こうやって意識を移せますので、いつも通りです」


 コイツだけ女神の呪いが効いていない!?

 多方向に対して容赦がないな、うちの弟は。

 あの女神、今頃涙目なんじゃねーの?


「今は姿が変わってしまった方の為に、オーダーメイドで洋服を作る仕事もしています。実は裁縫士です」


 そうなのか。

 トラウマ製造士とかじゃなかったんだな。


「……それと、みーさんとドラゴムさんについて報告があります。各メンバーはよく聞いてください」


 !?


 ヒビキの言葉に、その場にいた全員が反応した。


 今回の会議、何故俺が前に出ていたかと言うと……、先輩と連絡が取れなかったからである。

 同じように、ゼスプはドラゴムさんと連絡が取れなくなっていた。


 しかし、早く今後の方向性を発表しないと、メンバーが勝手に行動し、取り返しのつかない問題を引き起こす危険があるため、急遽、会議を開いたのだ。


 皆、二人の安否を心配していたので、この報告は気になるものだっただろう。

 しかし、何故先輩とドラゴムさんはヒビキに?


「あの二人はボクの所に着るものを買いに来ました。二人とも姿が変わっていましたから。何故、クランに顔を出さないか聞いたところ、『こんな姿見せられるか! この件は僕とドラゴムで解決してやる!』とみーさんは仰っていました。解決するまで、クランには戻らないそうです。以上、終わります」


 そうか、今回は先輩とドラゴムさんが組むのか。

 ……もう、あの二人で全て終わるんじゃないかな?


 と、二人の安否がわかると、その後の空気は何処となく、柔らかいものになった。


 和やかに会議は進み、最後に俺の番がやって来る。


 ウサギさんです。

 ここからは、『ペットショップ』の副リーダーとして発言させてもらう。

 

 こうやって姿が変わってしまったPLが殆どなのだろうが、フェルシーの陣営についたやつもいると俺は思う。

 その選択をした理由はわからないが、その判断が間違っていなかったと思えるよう、今回のイベントを楽しんで欲しい。


 少数派で苦労する事もあると思うが、それに挫けないでくれ。

 もちろん、嫌になったらニャック陣営に寝返ってもいい。これについては、ニャック陣営を選んだ俺達にも言える事だが。


 とにかくだ、このゲーム初のイベント、予想できないことしか起きないだろう。


 楽しまないのは損だ。


 全力で遊び尽くしてやろうぜ?


 俺がそう言うと、皆は静かに頷いた。歓声でも上がれば御の字だったが、まぁ、これで十分だ。


「それではこれで会議を終了する。各自は明日に向け準備を……」


 ゼスプ狸が会議をしめようとした時、チップが吠える。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 チップ見ると、前足でウィンドウを操作している動作をしていた。その様子は焦っているように見える。


「今、『天運のフェルシー』がいるバインセンジの斥候から報告がきた! ……あー、全員、落ち着いて聞いてくれ」


 え、何があったんだよ。

 嫌な予感が……。


「えっと、バインセンジが、魔法による攻撃で……消滅した。多分、みー先輩だと思う……」


 全員が凍りついた。

 具体的にいうなら、訳がわからないと言いたそうに、真顔になっている。


 え。……フェルシーは?


「姿は確認できていないって……」


 チップの報告で会議室は静まりかえった。


 そのなかで、ボソリと誰かが呟く。


「イベント、終了のお知らせ……」


 俺達は忘れていた。


 自由にさせておくと、何をするのかわからない第一人者が、既に野放しになっていた事を。


 先輩……何やってんですか……。

・あれ? 魔物だった奴ら、もしかして人間になってるのニャ? ……パスファの力は使い方がよくわからんニャー。 ま、慣れない姿に戸惑うのは間違いないニャ! ミャア達の勝ちは揺るがないのニャ! ……んニャ? なんか、外の方が騒がしいのn

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ