『ドラゴン・ファードレス』
ドラゴムさんの、あの素晴らしきもふもふは、彼女の『プレゼント』である。
名前を『ドラゴン・ファードレス』。
魔物種には珍しい装備型の『プレゼント』だ。
守りに特化しており、高い防御性能を誇る。
能力は、自らの各種属性の耐性強度の操作。
魔物種は、装備品を装備できる部位が少ないが、レベルを上げていく事により、少しずつではあるが各種耐性が強くなっていく。
その耐性を、ドラゴムさんはバランスよく分配したり、何か一つの属性に特化させる事ができるのだ。
もう一つは、そのもふもふに他人やアイテムをしまう事が出来る、格納能力。……と言っても、あまりに大きすぎるPLやアイテムは格納できない。
格納されている時には、防御力や耐性が、格納されている人員の合計値分上昇する。
もちろん、ドラゴムさんも。
つまり、みんなでもふれば、みんなで幸せになれる能力だ。
デメリットはアイテムボックスの使用不可。もふもふにしまえる分しか、アイテムを持つことができない。
さて、この守りの能力で、なぜNo.2と呼ばれるか、なのだが……。
そもそもドラゴンという種族が強い。
近接戦闘に関するステータスが良く成長するので、レベルを上げればそれだけ強くなれる。
そして、ドラゴンの特性を持っているPLは、ドラゴンブレスを使うことができる。
ドラゴンブレスの威力は、耐久×耐性の数値で計算されている。
この際に参照される耐性の数値は、最も強い属性耐性のものになり、ブレスの属性もその耐性の属性に変化する。
ドラゴムさんは属性強度を一つに特化することで、ブレスの威力を高めているのだが……、これが凶悪なのだ。
火炎属性の全力ブレスを一度食らった事があるが、その時は全身が蒸発して消えてしまった程であった。
翼による機動力、ドラゴンの耐久性とパワー、ブレスによる殲滅、そして愛されるもふぷにの身体……。
以上の要因から、ついた二つ名は『もふもふ要塞』。
決して怒らせてはならない『魔女への鉄槌』の最終兵器である。
まぁ、怒らせたんだけどさ……。
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農場において俺とドラゴムさんの戦いは始まった。
俺の名誉を守る為の戦いである。
向かい合っているドラゴムさんの体毛が、青く輝いた。
自分の属性を変化させ、ブレスを放ってくるつもりだ。
俺は壁生成の魔法を使い、目の前に土壁を作り上げる。これに隠れればいくらかは、攻撃を防ぐ事ができるだろう。
だが。
「アナタの戦い方は、メレーナから聞いているわ!」
ドラゴムさんは空中から地面に向かい、広範囲のブレスを吐き出した。
白い霧状のブレスがあっという間に地面を凍らせていき、足場を封じられる。
メレーナの奴、余計な事を広めやがって。
「悪いけど、これでも戦闘訓練は受けてるの! 諦めなさい!」
クソっ! 冤罪なのに諦められっか!
俺は自分の足元に向け壁生成の魔法を使う。
すると、氷を突き破り土が盛り上がって来た。
これからは自分で足場を作るしかない。MPはたんまりとある。逃げ続け、ドラゴンブレスを避けなければ……。
「それも、想定内!」
ドラゴムさんはそんな身動きが取れない俺に対し、ブレスを引き絞り、糸のごとく細く超濃縮した光線を、俺に向かい撃ってきた。
レーザーによる狙撃だ。避けようがない。
そんな目で追えないような早さを、避けられる身体能力なんて備わっている訳もなく。
その絶対零度の光線は俺の胸を貫通し、身体を霧散させた。
レーザーが着弾した場所には巨大な氷柱出来上がる。
『カルリラの契約』を発動させた俺は、その様子を見てぞっとした。
「レーザーを……無効化した!?」
このスキルが発動した瞬間は、使用者に無敵時間が発生する。
発動後は属性攻撃以外なら黒霧化で避けることができ、これで飛躍的に生存率が伸びたはずだ。
俺は足場を作り、そこに身体を移動する。
ドラゴムさんに向き直り俺は叫ぶ。
俺は戦う気は無いんです! 頼むからチップと話をさせてください! そうすれば誤解は全て溶ける!
俺を信じてください!
この訴えに、ドラゴムさんは属性を変えたブレスを放ってきた。
黒なので暗黒属性だろう。
まともに当たれば、目が見えなくなってしまう属性だ。
俺はテレポートの魔法でそれを避ける。
「悪いけれど、信じられないわ! アナタみたいないい加減な『浮気者』はね!」
ちきしょう! 不名誉かつ、いい加減な言いがかりが俺を襲う!
早く『プレゼント』開封して、名前変えさせてくれないかなぁ!?
「そんなに否定するなら、証拠を見せなさいな! 私には、アナタ達が温泉旅行に行ったとしか思えないわ! しかも、みーちゃんに家出と嘘をついてね!」
くっ!
逆の立場だったら、俺もそう思う! 全く否定できねぇ!
「しかもお酒を飲ませて部屋に連れ込むなんて! まだチップちゃんは19歳よ!? ちゃんとその辺もわかってたの!?」
ドラゴムさん! ゲーム内の飲酒は、法律の適用外なのでセーフです! セーフ!
この間、テレビでやったましたよ!?
「じゃあ、お酒飲めないの知っててやったって事じゃない! なお卑劣よ!」
駄目だ、ドラゴムさんは俺をまるで信用していない。
まぁ、大事な妹分が、いい加減な奴の毒牙にかかったとなったら、こうもなるのは不思議な事では無いが。
「さぁ、どうするの!? かかって来なさい!」
……心苦しいが仕方がない。
ドラゴムさん、口調の割には荒っぽいところがあったりするアナタですが、その優しさは本物だと思っています。
「もうやめて! 言い訳なんて聞きたくないわ!」
いえ、これは覚悟です。
この場はアナタを倒して一度納めます。何の罪もないアナタを倒すのは辛いですが、許してください。
俺は大鎌を構えた。
もう後に引くことはできない。
「……悪いけれど、私はもう覚悟を決めているわ。ツキト君が認めるまで、殺し続けるって」
わかりました、それでは……。
姿勢を低くし、ドラゴムさんに狙いをつける。そして、俺は叫んだ。
もふらせろや!! 毛玉ドラゴンがこっらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
「きゃああああああ!?」
俺は全力でドラゴムさんに向かって飛び出し、毛皮の中に着弾した。
「えっ!? ええっ!? ツキト君!? アナタ何をしているの、離れなさい!」
ドラゴムさんは俺の奇行が予想外だったようでとても驚いている。だが、そんな事は関係ない。この絶好のチャンスを逃さないよう、全身でもふり始める
……スゲェ! 高級な毛布に包まれてるみてぇだ! 手触りよし! 柔らかさよし! 香りよし!
おお!? 話に聞いているよりもお肉が付いている!? ぷっにぷにだぁー!
「イヤァぁぁぁぁぁぁぁ!? もふハラよぉ!? やっ、そんなとこ、もみもみしたらダメっ、んっ!?」
俺のテンションは爆上がりだった。
なんせ、これが初めてのドラゴムさんもふもふ体験だったからである。
もふり込みの第一人者である、ゼスプの話を聞くたびに、嫉妬で首を刈っていたくらい、俺はドラゴムさんをもふってみたかった。
ある種、夢がかなったと言っても過言ではない。
「こっ、こら離れなさい! 離して! アナタ、私を倒すんじゃないの!?」
ええ! もちろんですとも!
もふり倒す所存です!
「アナタもそういう人だったのね!? 今まで他の人にやめろって言ってたくせに!? 離してぇ~!」
ドラゴムさんは空中で暴れまわる。
俺を振り落とそうと必死なのだろう。俺の視界もぐるぐると回り、気分が悪くなってきた。
しかしながら、離れようという気にはなれなかった。
ドラゴムさん! どうですか!? 俺を見逃してくれるのなら、すぐに、もふハラをやめましょう!
そうでなければ、俺にも考えがありますよ!
「いいえ! 騙されないわよ! このまま地面に叩きつけて、潰してあげるわ!」
え……もふもふで圧殺してくれるとか、なにそれ天国……?
じゃねぇ! ヤバい!
言葉通り、ドラゴムさんは俺を掴むと地面に向かって急降下する。
地面がどんどん近づいてくるのには恐怖を感じたが、俺は目を逸らさなかった。
「ごめんなさい! 死んで!」
地面に叩きつけられる瞬間、ドラゴムさんが叫ぶ。
俺を抱えたまま、ドラゴムさんは地面へと激突した。辺りに衝撃が伝わり、先程出来上がった氷柱がゆっくりと明後日の方向に倒れていく。
逃げる事ができなければ、確実に死んでいたのでは無いだろうか?
「……え!? い、いない? どこへ行ったの?」
俺は地面にぶつかる瞬間に、身体を黒霧状に変化させ、拘束から脱出していた。
そして俺は身体を再構築し、ドラゴムさんの尻尾を掴んでいる。
「!? 私の尻尾を持って、なにを……」
ドラゴムさん、先に謝っておきますね?
……ぬぉおおおお!!
俺は尻尾を掴んだまま、自分の身体を回転させ始める。それに合わせて、ドラゴムさんの身体も動く。
「な、何するの!? って、えええええええ!?」
そのまま振り回していくと、見た目よりも軽いドラゴムさんの身体は、遠心力で宙に浮いた。
充分な速度に達した瞬間に、俺はあるものに向かって、ドラゴムさんを投げ飛ばした。
俺の畑、正確にはシーデーの能力で作った、トラップへだ。
ドラゴムさんは畑を囲っている鉄網のドームに向かって真っ直ぐに飛んでいく。
あのドームには高威力の電流が流れているので、最低でも動きを止める事はできるだろう。
しかし……。
「んぅ! 危ない!」
ドラゴムさんは、ドームに当たりそうだというときに翼をはためかせ、空中でバランスをとり、停止した。
っち、失敗したか。
普段飛ぶことが無いので、ドラゴムさんの飛行能力を見誤っていた、俺のミスだ。
もう少し、ドームに近いところで投げ飛ばしていれば、楽に終わったのだが……。
「わ、悪いけども、く、空中に投げ飛ばしたのは、し、失敗、だったわね……」
だが、どうやら目が回っているらしく、ふらふらと空中をさ迷っていた。
そして、
「……!?」
ドラゴムさんの大きな翼が何かに触れる。
すると、地面からワイヤーがいくつも飛び出し、ドラゴムさんを拘束した。
素晴らしい。
その罠の出来映えに、俺はニヤリと口元を歪める。
シーデーはドームの周りに、目で見えるか見えないか位の、細く透明な糸でもう一つのドームを作っていたのだ。
これに引っ掛かると、地面からワイヤーが瞬時に飛び出し、獲物を拘束するという仕組みである。
そして、最後に……。
「こ、こんなの引きちぎって……。あ、あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"
!!?」
鉄網のドームから、ワイヤーに電流を流すというオマケまでついている。
電撃のバチバチという音が辺りに鳴り響いていた。
この電撃は、一撃でメレーナとシーデーを屠っていたので、威力は折り紙付きだ。
しかし、相手はドラゴムさん。
果たして、どこまでいけるか……。
やがて、電流が止まると、黒こげになったドラゴムさんの身体はズシン……と地面に倒れこんだ。
俺は急いで近付き、状態を確認する。
HPは僅かに残っている様だが、幾つかの状態異常が出ているみたいだ。これでは動く事はできないだろう。
しかし流石だ、本当に生き残るとは……。
意識が無いのなら、これ以上追い詰める必要は無い。
このまま翼と手足を縛ってしまおう……。
そう思い、手を伸ばした瞬間、ドラゴムさんが目を開いた。
しまった、と思った瞬間、ワイヤーを引きちぎり、俺に向かい拳を繰り出してくる。
俺は避けきれないと判断し、再び黒霧状になって攻撃を避けた。
「ハァ……ハァ……。今のは危なかったわ……」
身体を再構築させながらドラゴムさんを良く見ると、焦げた体毛の色が、黄色く変化していた。
あの状態で能力を使ったのか!?
俺はその事実に思わず目を見開き、驚く。
ゲームの都合上、痛みは無いが、気持ちの悪さや痺れ等は、本当の感覚で襲ってくるはずなのに。
どんな精神力してるんだ、この人……。
「まだ……まだよ。勝負は終わっていないわ……。貴方の目を覚まさせる、までは……。認めさせるまでは……!」
!
そ、そんな……、この期に及んで俺の事も考えていたなんて……。
ドラゴムさんはゆっくりと立ち上がる。
そして俺を見据えてきた。
駄目だ……。
さっきの一言で、俺の心が折れた。
まさか、俺を信用する心がまだ残っていたなんて……、思っていなかった。
俺は手に持っていた大鎌を手から落としてしまった。
カラン、という虚しい音がでた。
ドラゴムさん……、俺……。
もう、認めてしまった方がいいんじゃ無いだろうか……?
そうすれば、犠牲は俺一人で終わる。
大事なものをたくさん失う事になるが、こうした方が、幸せになれる人は多いのではないだろうか。
「ツキト君……、魔が差してしまっただけなんでしょう? 正直に言って……? チップちゃんを悲しませないで……」
ドラゴムさんが目を潤ませてそう語りかける。
きっと、身体がうまく動かせないのだろう。今にでも倒れそうだ。それでも、俺の元に歩いて近寄ってくる。
その姿は俺の心に深く突き刺さった。
俺……俺は……!
ふっ、と、『カルリラの契約』の効果が切れ、俺は膝から崩れ落ちた。
地面に四つん這いになった俺の肩に、ドラゴムさんは優しく手を置き、口を開く。
「大丈夫、ゆっくりでいいのよ……?」
ドラゴムさん!
俺は、自分が汚したその身体に、抱き付いた。
すいません……! 俺は、俺はなんて事を……!
何故か、目から涙が流れた。
完全に空気に飲み込まれてしまっていたのだ。
「いいの、いいのよ……。一緒にチップちゃんのところへ行きましょう? 私も謝ってあげるから……」
ドラゴムさんも飲まれていた。
うう……うう……ドラゴムさぁん……。
だが、俺とドラゴムさんは和解した。
もう傷つけ合う必要なんて無いのだ。
それが、俺にはとても安心できたのだった━━━━。
と、俺とドラゴムさんが感動のワンシーンを作り上げていると、掘っ立て小屋から冷めた目でこちらを見ている人物がいた。
チップちゃんである。
どうやら、食べた物も消化し終わっており、スッキリとしたお腹をしていた。
いつも通りの体型である。
「えぇっと……ツキトとねーさん……何してたの? 目が覚めたら、農場が壊滅してたんだけど……」
そう言いながら、近づいてくるチップと、俺を交互に見て、ドラゴムさんは困惑の表情をしている。
すると、なにかを思いだし、はっと表情を変えた。
そして一言。
「……焼きそば?」
よかった……俺の叫びは届いていたみたいだ。
その後、俺とチップは、ドラゴムさんに事の経緯を説明し始めるのであった。
・やぁ! 馬鹿にしにきたよー?
「げぇ!? パスファ!」
わたしがフェルシーの前に姿を見せると、彼女は嫌そうな顔で出迎えてくれた。……その顔が見たかったんだよねー。
なんだよ?
そんな顔して、何かあったのかい?
「お、お前のせいでミャアは恥をかいたのニャ! なんであんなのに力を貸すのニャ!?」
なんだ、知ってたのか。
『浮気者』は中々自由に生きてるからね、わたし、気に入ってるんだよ。
アンタみたいな調子に乗った女神を、簡単にのしちゃう事もあるしね~。見所あると思わない?
「くぅ~……なんて奴ニャ……。けど、ふふふ……、いいのニャ! もうすでに準備は終わっているのニャ! お前なら馬鹿にしに来ると思っていたのニャ!」
は?
何言ってんの?
わたしがそう聞くと、目の前の景色が揺らぐ。
これは……?
は! しまった……! コイツ、わたしの権限を……。
フェルシーは歪んだ笑顔を張り付かせ、高らかに声をあげる。
「『フェルシーの約束』使わせてもらったニャアン! 冒険者の管理者権限、貸してもらうニャ! ニャはははははははは!!」
部屋中に響く声を聞きながら、わたしの意識はどろどろに溶けていった……。
くぅ……覚えてろ……よぉ……。
・という訳で! ここはフェルシー様がのっとたのニャ! 次からお楽しみにニャア!




