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浮気者が撒いた種

 まぁ、イカサマだったんですけどね?


 いや、常識的に考えて、配られた時点でロイヤルストレートフラッシュ揃えてくるような奴に、勝てる理由はないし。


 俺がやった手口は簡単。

 そう、時間停止、『パスファの密約』である。


 フェルシーに言い当てられた時には、心臓が飛び出そうになったが、なんとか誤魔化した。


 俺がこの計画を実行しようと考えたのは、1回目の勝負が終わった時だ。

 ニャックにイカサマで協力してもらっても勝てない。

 この事実が判明したとき、俺は自力でなんとかする方向性に変更。とっさに計画を考えた。


 『パスファの密約』で時を止め、フェルシーの手札と俺の手札を交換したのだ。


 ちょうど、カードをひっくり返すタイミングに割り込み、イカサマを決行した。

 あの時のフェルシーの顔は傑作だったなぁ。けけけ。


 そんな感じで、1回目は余裕で成功したが、2回目のイカサマについては難問だった。

 イカサマを実行するにあたり、突破しなければいけない障害が幾つか存在していたのだ。


 まず一つ、『パスファの密約』を使用するために、捧げ物を贈ること。

 そして、もう一つは、フェルシーがカードを手に取らないこと。


 この、2つである。


 捧げ物を贈る事については簡単だった。ただポケットに手を突っ込めば、そこに最高の贈り物があったからだ。


 ビギニスートでもらった、リリア様の写真である。


 シバルさんにもらった写真はポケットに入れっぱなしになっていた。

 この贈り物をパスファ様は大層気に入っていて、朝、昼、晩と使うくらいには気に入っている。


 罪悪感が堪らないんだって。

 何の話だろうね?


 そんな理由で、俺はポケットに手を突っ込むと、不良よろしくテーブルに足を上げた。

 こうすれば、足を上げるという行為事態に目がいくはずだ。ポケットの中の物が消えるなんて事は気づかれないだろう。


 で、問題が次だ。

 フェルシーにカードを見られない事。


 もしも、フェルシーがプライドでは無く、勝利にこだわる性格であったなら、俺は勝つことができなかっただろう。


 勝利に拘り、カードが配られた瞬間、それを手にとられていたら、俺はお手上げだった。


 だからこそ、相手を挑発し、プライドに火を着ける必要があったのだ。

 『お前の幸運なんてそんなもんだ』と、煽り、お互いに伏せられたカードを見ず、交換せず、そのまま勝負をする状況を作らなければならなかった。


 ……と、偉そうに言ってはみたものの。

 俺が勝てたのは、フェルシーが『神技は連続して使うことができない』という、固定概念に捕らわれていたのが大きな要因だと思われる。

 そのおかげで、フェルシーは油断していた。


 もしかしたら本人としては、一度『パスファの密約』を使わせて、他のイカサマもできないことを確認したから、普通にやったら負ける事は無い! とでも思っていたのかも知れない。


 簡単にまとめれば、相手の油断に漬け込む事ができた、それだけの話である。


 そんな感じで、俺は無理矢理フェルシーの信者になった。


 向こうは最後まで嫌がっていたが、俺にギャンブルで負けたことを他の女神に言いふらすと脅したところ、涙を飲みながら承諾してくれた。


 それと副賞の絶対命令権は、すぐに使おうとも思ったが、せっかくの権利だ。焦らして焦らして、最高のタイミングで使うことにした。


「この怨み、いつか……必ず……!」


 そんな事を俺を睨みつけながら言っていたが、無視した。

 こちらには、なんでも願いを聞いてくれる、最高の命令権が残っているので、危険になったらそれを使うだけだし。


 用事が済んだので、俺は呪いの視線を背中に受けつつ、フェルシーの部屋を後にするのだった。




 と、まぁ、こんな感じで、俺としては今回の家出は中々面白い体験ができている。たまには、こうやってフラッと遠出するのも悪くないな。うん。


 そんな事を、俺はバインセンジの街を歩きながら考えていた。

 

 それにしても、目の前の光景の様な文化水準の高さや、観光名所の発見、更にニャックの器用さ等、見所は多く、土産話もできたので、他のクランメンバーと共有しよう。


 ……てか、斥候班め。

 アイツら、こういうおもしろい情報は伝えないんだもんなー。敵の規模や地形だけ報告してもしょうがねぇだろ。そこの文化や歴史とかも調べないと。

 でなきゃ、補給線の断絶とか、ゲリラ戦とか奇襲がやりにくいだろうに。


 作戦を立てるのなら、その辺も知っておかなければいけない。根本から潰していく必要性を、その身に教え込んでやろうかな……?


 とりあえず、チップに頼んで講習会を開こう。奴らに情報とは何か教えて、来るかも知れない戦争に備えなければ。


 という訳で、チップにチャットを……。


 ……。


 やべぇ。


 気付かなかったけど、先輩からめっちゃメッセージ来てる……。


 どう言うことだ!?

 あの人、自分から謝る人じゃ無いだろ!? このメッセージを見る限り、『僕が悪かった』とか『早く帰って来てね』とか。


 そんなのしか書いて無いぞ!?

 まだ家出して1日なんですが!?


 って、日が変わってから『連絡して』ってメッセージが30分毎に来てるんですけど!? 怖ぁ!?

 先輩どうしたんですか? アナタ、そんなキャラじゃ無いでしょう!?


 …………まさか!

 俺がいない内にクランに何かあったのでは!? 


 クソッたれが! 何で俺が居ないときに限ってそういう面白い事が起きるんだよ!?

 何があったんだ? ロリコン共が復讐しに来たのか? それとも、面倒事を起こす首刈りリストの奴らが、暴走したか?


 少なくとも、サアリドの街が吹き飛んでいる位の出来事が起きていると、覚悟しよう。


 ……ん?


 ある時期を境にメッセージが途切れている……?

 ちょうど、俺がポーカー勝負を始めた時間の辺りだ。一体、何があったと言うんだ?


 気になる……。


 けど。

 

 俺今家出中ですしー。

 拗ねてますしー。


 というか、まだ家出して1日しか立って無いんだよな。正確にはゲーム内時間で24時間とちょっと。

 これで帰ったら、流石に笑い者だ。


 先輩には悪いけども、俺が有事以外で、クランから離れたらどうなるのか、と言うことを体験してもらおう。

 そして、俺の首刈り行為がどれだけの抑止力になっていたのかを、認識してもらわねば……。


 って、あれ? ドラゴムさんからもメッセージ来てる?

 珍しいな。あの人、いつもならゼスプか先輩を通して俺にメッセージよこすのに。

 なんだろ?


『ドラゴム 緊急。農場にて待つ』


 …………。

 そういうキャラでしたっけ?


 え~……。もふもふドラゴンらしからぬ文章なんですけど。本当にどうしたんだろ?

 ゼスプからのもふもふハラスメントで、遂に精神に異常が出てしまったのだろうか……。やはり、セクハラもふ魔族も滅ぼさねばならない。性癖の矯正は、我がクランの急務になりつつあるな。


 仕方ない。

 クランには戻らずに、農場……もとい俺の家に戻るか。

 もしかしたら、先輩もいるかも知れないけれど、そんときは拗ねてやる。




 俺は帰還のスクロールを使用し、自分の拠点へと帰還した。

 既にチップは帰って来ているはずなので、俺達が隣国へ遊びに行っていた事は伝わっているだろう。


 いったい、どんな話をされるのだろうか?


「来たわね……!」


 俺が農場に足を踏み入れると、短い前足を組んでドラゴムさんが仁王立ちをしていた。

 相変わらずの、素晴らしい毛並みである。もふハラ被害者No.1の称号は伊達じゃない。


「まずは、よく顔を出せたと、誉めて上げるわ……」


 ……あれ? 何か怒っていらっしゃる?


 ドラゴムさん? どうしたんですか?

 何かあったんです? ちょっと俺、今家出中なのでクランの事はちょっと……。


「とぼけないで! これを見ても同じ事を言えるの!?」


 そう言うと、ドラゴムさんは毛皮の中からもふもふと、一枚の写真を取り出した。


 それを見て、一気に血の気が引くのを感じる。


 俺とチップが同じ布団で眠っている姿が、そこには写っているではないか。

 しかも、寝返りをうったのかは知らないが、まるで、チップが俺に抱きついている様にも見える。


 この時、俺に電流が走った。

 

 あの温泉宿で見たあのメイド、ヒビキが情報収集の為に子機を侵入させていると思っていたが……。

 まさか、中身は本人だったのか!?


 やられた。

 まさか、ロリ女神に注意を促した怨みが、これ程までに根強いなんて……。

 とっ、とにかく何か、言い訳を考えなければ!


 すいません! 軽い気持ちで一緒に寝たのは謝ります! しかしながら、誤解しないでください!

 俺とチップは何もいかがわしい事なんてなにも……、


「黙りなさい! じゃあ、何でチップちゃんのお腹があんなに大きくなっているのよ!?」


 それ、焼きそばぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


 違うんです! 俺に罪は無いんです!

 チップ! チップはどこにいるんです!?

 ちゃんと話は聞いたんですか!? アイツからも話を聞いてください!


「チップちゃんは今、お腹が苦しいと横になっているわ……」


 そう言うと、キラリとドラゴムさんの目元が光った。


 違います。涙を流すとこじゃ無いです。

 それ、ただの食い過ぎなんですよ。


「軽い気持ちで、女の子と無理矢理寝たなんて、貴方最低よ……。しかも責任をとろうとしないなんて、父親として失格よ!」


 お願い、話をきいて!?


「この事に、みーちゃんも心を痛めて、寝込んでしまっているわ……。だから、私がここにいるの」


 ドラゴムさんはそう言うと、全身の毛皮がブワッと膨らんだ。

 続いて、背中の翼が巨大化した。ドラゴムさんはそれを羽ばたかせ、宙に浮く。


 やべぇ……、戦闘モードに移行しようとしている。完全に俺を滅却する気だ……。


「貴方はここで終わり。あんなに、あの子達を苦しめるなんて……許せない! 最悪でも、お腹の子を認めるまで、私は貴方を殺しづつける鬼となるわ……!」


 殺し続けるって……。


 その言葉に戦慄した。

 俺のリスポーン地点は、この農場だ。死んだらここで復活する。

 つまり、これから俺はドラゴムさんにリスキルし続けられるのだろう。


 クソ……恨むからな……! ヒビキぃ……!


 俺は大鎌を構えた。

 こうなった原因が、俺の撒いた種だとしても、リスキルなんてたまったものじゃない。

 例え、あのドラゴムさんが相手だとしても、足掻ききってやる……!


「覚悟はいいみたいね……。行くわよ!」


 その大きな翼で風を巻き起こしながら、ドラゴムさんは俺に向かってきた。


 クラン『魔女への鉄槌』及び、クラン『ペットショップ』の総合No.2の実力者、『もふもふ要塞』ドラゴムさんが、俺に、牙を剥いた。

・同僚がボロカスにやられたそうなので、顔を見に行ってきます。

          ~笑いをこらえる女神様~

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