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天運のフェルシー

 『天運のフェルシー』。

 幸運を司ると言われている女神だ。

 属性過多な格好をした、俺より背の高い、ナイスバディなお姉さんである。

 他の女神達は、ファンタジーの世界の住人の服装をしているのにも関わらず、この女神だけ、夜の繁華街で見られる格好をしていた。


 バニースーツのくい込みがエグい。もちろんいい意味で。


 しかし、ウサ耳と尻尾ではなく、自前の猫耳と尻尾がついているのにバニースーツというのはおかしいな。

 便宜上ネコスーツとしよう。うん。


 以上の事を踏まえて、PVを見た時から思っていた事を質問してみよう。



 なんでそんなアホみたいな格好しているんですか? アホなんですね。



「違ぇニャア! というか、自己解決するんじゃねぇニャ! せめて反論くらいさせるニャ!」


 どうやら、ツッコミ機能は搭載されているらしい。ノリノリで返してくれた辺り、好感が持てる。


「いいかニャ? ミャアがこんなアホみたいな格好を、何が悲しくてやっているのかと言うと……!」


 そこまで言うと、フェルシー様は右手を上に上げ、目を瞑る。

 溜めを作っているようだ。その内に、どこからともかくニャック達が現れ、ドラムロールを打ち始める。


 揃いも揃ってノリがいいなー、と様子を見ていると、バッと右手を俺の方に向かって振り下ろした。


 カッと目を見開き一言、


「趣味ニャア!」


 その様子に、俺は納得して首を縦に振った。

 成る程……アホという事で、よろしいですね?




 ニャックに連行され、フェルシー様の部屋に来た俺だったが、放り込まれた以降はそれほど手荒い事はされなかった。


 何故か、俺が信仰の許可を貰いに来たことを知っていたので、招待されたと見ても、いいのだろうか?


 いまいち、その表情から情報を引き出す事ができない。綺麗な顔でにこにこと俺を見ている。

 というか、この部屋に来るまでに見たPL達は何があってああなったのか、それが気になった。


「ニャン? ニャにか気にしている顔をしているニャア。さっきはミャアをバカにした癖に、妙に慎重な奴なのニャ」


 まぁ、フェルシー様の噂はここに来るまで聞いてきましたので……。


「そうなのかニャ? それじゃあ、ミャアの事は話さなくてもいいみたいニャね。天運の名前を頂いた女神。フェルシー、ニャ。よろしく!」


 ニャー、と片手を上げて挨拶をされた。


 あー……ど、どうも?


 軽いノリだ。

 近所のお姉さんって感じで、親しみ安い雰囲気ではあるのだが……。

 屋台のニャックから聞いた話を思い出すと、心を許してはならない気がする。


 俺の胸の内を察したのか、フェルシー様は俺の方に近づき、俺の顔を良く観察するかの様に目を細めた。


「どうしたのかニャ~? まるで、ミャアを警戒している様に見えるのニャ。……ここに来た目的を思い出すのニャ。……おめーは何をしに来たのニャア?」


 フェルシー様の声を聞いていると、不思議とフワッとした感覚に襲われた。


 ……まずい!


 俺は咄嗟にフェルシー様から距離を取った。

 すると、先程よりも思考がハッキリとする。……あぶねぇ、何かされていたな、今。


「むむ!? 中々やるニャア~。わざわざミャアに会いに来るだけはあるのニャ。……手間だから、身ぐるみ剥いで捨てようと思ったのに」


 笑う顔に妖しさが灯った。


 ひぇ。


 忘れてた、こんなのでも女神様だ。一癖二癖無いわけがねぇ!


 どうする? 今、目の前の女神は本性をチラ見えさせたが、かなり厄介だと思われる。というか、この女神、邪神なんじゃないの? なんか邪悪な顔をしているんだけど?


 取り敢えず、関わってはいけないという感じが、ひしひしと伝わってくる!

 ここは、さっさと用件を済ませ、この場を去ることが吉!


 フェルシー様!


「ああン? なんニャ?」


 わー、一気にガラが悪くなったぞー? ……負けるな、俺!


 申し訳ありません! 不躾とは思っているのですが、自分を貴女様の信徒にさせていただけないでしょうか!?

 捧げ物は致しますので!


 俺は叫びながら地に伏した。

 伝統芸能、土下座である。


 別にスキルとかそんなものでは無いが、この動作には一定の効果があると俺は信じていた。


 というか、絶大な力を持つ女神に対し、俺は下手に出る事しかできない。お願いします、どうか見逃してください……!


「……ふ~ん、そういう態度を取るのかニャ? 必死って奴なのかニャ? ……いいよ?」


 口調が柔らかくなった。機嫌が悪いようには感じない。


 やった! 許された!


『馬鹿者! 逃げろ!』


 ぅお? キキョウ様?


『あーあ、『浮気者』、君はホントについてないねぇ……。いろいろと……』


 パスファ様からも? え、なんなの? こんなに一気にコメントが来るとか久々……。


『何があっても、諦めないで下さいね……。今回は許しますので……』


 カルリラ様まで!? 

 なんだ? 女神様達は何を思ってそんな事を言うんだ? 俺は何をやらかしてしまったんだ? 


 考えていると、俺は謎のプレッシャーを感じた。なんだろう、汗が滲みだして来る。これは、フェルシー様からのものなのだろうか?


 ……ちょっと、顔を上げてみようかな?


 俺はゆっくり、ゆっくりと、嫌な予感を押し殺し、フェルシー様の顔を見上げた。


 …………。


 狩られる。


 そう口にしてしまったのは、動物としての本能だったのだろう。

 フェルシー様は獲物として、俺を見つめていた。

 俺は、このお方にとって、一匹のネズミにしか過ぎないのだ。


 それに気づいたときには既に手遅れで、俺の両脇には、先程と同じように巨大なニャックが立っていた。

 そして、ここに連れられて来たときのように拘束される。


 いやぁ!? 乱暴しないでぇ!?


 俺がみっともなく足掻いていると、フェルシー様はパチン! と指を鳴らす。

 すると、ニャック達が大きなテーブルと椅子を2つ運んできた。それを設置すると、テーブルの中央にトランプを置く。


 フェルシー様は用意された椅子に軽やかに座った。俺も無理やり、対面の椅子にへと座らせられる。

 その後、俺を運んできたニャックの2匹は、それぞれ俺とフェルシー様の後方へと移動した。


 あの……フェルシー様、これは……?


 俺が質問すると、フェルシー様は目をギラギラと輝かせて答える。


「ニャはははは! おめーが信者になるのは構わないニャア? けれど、他の女神も一緒っていうのが気に入らないニャ!」


 え~……。でも、信仰をやめるのはちょっと……。そういう能力ですし。仕方ないんですよ。


「ミャアは嫌ニャ! ……で~も、ミャアは優しい女神様ニャ。皆に慕われてる素敵な女神ニャ。だから、おめーにチャンスをやろうと思うのニャア~?」


 にたり、と嫌な笑顔を見せられる。その顔に思わずゾッとした。


 ははは……間違いねぇ。コイツ、邪神だわ。


 俺がその事実に気づくと、テーブルに一匹のニャックが乗って来て、トランプを拾った。


 ここまで来たら、何をやらされるかなんて馬鹿でもわかる。


「ミャアにポーカーで勝ったら、信仰させてあげるのニャ。それで、負けたら信者になってもらうニャ。意味はわかるかニャ?」


 ……負けたら、他の女神との縁を切れと?


「良い勘ニャ。気に入った」


 先ほどから、目の前の邪神は笑顔を絶やさない。不気味だ。

 絶対に俺が負ける予感が、その表情から伝わってくる。


 すいません、もし勝負したくないって言ったらどうなるんですかね……?


「そしたら、ここで身ぐるみ剥いでお外にぽいニャ。後、この場所の使用料を後で請求するのニャ」


 どっちにしろ、俺は逃げる事ができないらしい。最悪だ。

 運命の女神相手にギャンブルで勝負するなんて、勝てる気が全くしない。


「勝負は2回勝った方の勝利ニャ。ディーラーはうちの者を使うけど不正は絶対にやらないニャ。もしもやったら、後ろのデカいのがすぐに気づくニャ」


 俺はちらりと後ろの大きなニャックを見る。

 すると、グッと親指を立てて、良い顔で見つめ返された。……なんか、信用できる気がするな。


「そういえば……おめーだけ負けたときのリスクがデカイのは、いただけ無いニャア。……そうニャ、お前が勝ったら追加で一つ、なんでもお前の言うことを聞いてやるのニャ。この条件で、どうかニャ?」


 絶対に勝つ自信があるからこその提案であることは明白だった。

 コイツ、性格が悪いな。

 そうだ、一応、保険をかけておこう。


 最後に一つ、ルールを追加してくれ。


「なにかニャ?」


 これ以降、ルールを一切変えない……、この事を約束してほしい。


 そう言うと、フェルシーは満足げに微笑む。それを確認したニャックが、いきなりカードを配り出した。


 な!? まだなにも……!


「了承したニャ! でも、逆に言うなら、それを受諾したならもう勝負は始まったも同然! ゲームスタートニャア!」


 俺は顔をしかめながら5枚のカードを手に取った。断るつもりはなかったので問題はない、勝てばい、い……!?


 俺は予想外の出来事に、目を見開いた。


 既にスリーカードの役が揃っている?

 

 俺はカードを配ったニャックに目を向けた。彼は目を合わせなかったが、コクりと小さく頷く。邪神の後ろにいるニャックもだ。


 まさか。

 この3匹は、目の前の邪神を裏切ろうとしている? もし、そうならば、俺にも勝機があるかも知れない。


 罠かも知れないが、俺に何も言わずにこんな事をする理由は、女神への裏切りしか無いだろう。

 さっきの屋台での話では、目の前の女神を良く思っていないニャックの方が多いらしい。

 ……よし、信じてみよう。


 俺は迷い無く、いらない2枚のカードを捨て、新しくカードを補充した。

 その2枚を元の手札と合わせるとフォーカードが出来上がる。それで俺の推測は、確信へと変わった。

 俺は1人ではない、ニャック達がついている。それだけで心強さが全く違う。


 勝てる、勝てるぞ……!


「準備は良いかニャ? 良かったら、せーので公開するニャ!」


 そう思っていると、フェルシーはカードに一切手を触れず、そんな事を言ってきた。


 ……アンタは替えなくても良いのか?

 というか、テーブルからカードを手に取ってすら無いじゃねぇか。


「ニャニャ! 幸運の女神をバカにしないでほしいニャ。負けるわけ無いのニャ」


 慢心だ。

 俺達に勝てるわけ無い……とも言えないな。なんて言ったって、相手は女神だ。

 PLとは違ういる次元にいる存在なのだ、こちらも油断はできない。

 その証拠に、邪神は余裕の表情を崩さず笑っていた。


 俺は一度深呼吸をしてから、口を開く。


 わかった。いくぞ?


 ……せーの!


 俺は手札をテーブルに叩きつけた。

 8のフォーカード。

 中々強い役だ。よっぽど事が無い限り負けるわけが……。


 しかし、そんな甘い考えは、簡単に覆される。


 フェルシーがカード表にすると━━━━、そこにはハートが揃っていた。

 そして、数字も綺麗に並んでいる。


 これは……。


「ロイヤルストレートフラーッシュ! ニャ! まず一勝もらいだニャア! ニャニャニャ!」


 まさか。あり得ない。

 ロイヤルストレートフラッシュはポーカー一番強い役だ。狙って出せるものじゃないし、一度も交換しないで出せる役でもじゃない。

 これができる強運こそが、この女神の力だとでも言うのだろうか?


 己の勝利に対し、目の前の邪神が高笑いすると、ニャック達の顔が僅かに曇る。


 今回も駄目だったか。


 そんな顔をしていた。


「ミャアは世界で最も運が良いのニャ! 例えイカサマされても、ミャアの運命は変わらない! 勝てると思ったかニャ? 残念! お前には敗ける運命しか残っていないのニャア!」


 邪神は身を乗りだし、俺に顔を近付けて、大いに笑う。

 顔を歪めて、俺達の絶望を見透かし、自らの絶頂を噛み締めている。


 これが、この女神の正体なのだろう、邪神にしか見えない。


 だが、その顔を見ながら、俺は静かに言った。


 ……次だ、カードを配らせろ。


 すると、フェルシーはピタリと笑うことをやめた。顔の笑いも消え去り、俺を見つめている。

 ニャック達も驚いた顔で俺を見ていた。


 2回勝った方の勝利だろ?

 まだ終わっていない。


「へぇ……、心が折れてない。……自分は大丈夫ってその顔、腹が立つ」


 フェルシーは俺を睨み付け、椅子に座り直す。


 それを見て、テーブルの上のニャックが俺達にカードを配った。

 目の前に5枚のカードが並べられる。


 それを確認し、俺は目の前の邪神に目を向けた。


「さっきと同じ。これで良い。早く替えろ」


 冷たい目をしている。

 ゴミを見るよりも、酷いものを見る目だ。

 目の前の物に一切の興味がなくなっている、冷めた目である。


 そんな目を真っ直ぐに見据え、俺は宣言した。


 ……俺もこれで良い。

 また、せーの、で表にするのか?


 俺はとても落ち着いて、そう言った。

 馬鹿にした気は無かったのだが、フェルシーの顔は憎悪に燃え上がった。真似をされたのが相当、癪に触ったらしい。


「……気が変わった。お前を信者にした後は一生不幸にしてやる。カス以下の人生を歩むといい」


 負けたら、な?


 いくぜ? せーの……!


━━━━━━━━━━━━━━━━


 フェルシーは目の前のカードを掴みテーブルに叩きつけた。


「……は?」


 そして、その表情が一変する。

 先程までの表情が、まるで、今にも死んでしまいそうな顔にへと、徐々に変わっていった。

 何度も瞬きをして、自分の手札を確認していた。


 俺もフェルシーの手札を確認する。


 そしてほくそ笑んだ。


 ブタだ。

 役なんて一つも揃っていない。

 ワンペアですら、その手札には存在しなかった。


 ニヤニヤしながら、俺は裏返したカードを綺麗に並べる。


 ……ロイヤルストレートフラッシュだ。

 これで俺も一勝。次で決まるかな?


 その言葉を引き金にしたように、フェルシーは目を見開き、叫んだ。


「何をしたぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 目の前の邪神が、テーブルに手を付いて立ち上がった。

 その目は、焦点が合っておらず、顔からは汗が噴き出していた。呼吸が荒く、誰が見ても緊張している事がわかる。


 ……さぁ? なんの事だか。

 というかよ、お前。さっき自分にはイカサマは効かないって言ってたじゃないか。運が無かったんじゃねぇの? けっけっけ……。


 俺はポッケに手を突っ込んで、足をテーブルに上げた。


 それとも何か? 自分が勝てなかったらイカサマ呼ばわりか。

 俺はお前と同じ方法で役を揃えたんだぜ? 最初に配られた手で、こうなる確率はゼロじゃないはずだろう?


 さっき、お前自身がやって見せてくれたんだからさぁ?


「っく……。ニャぁぁぁぁぁぁぁック!! ソイツの体を確認しろ! そのポケットに隠した手もだ! 徹底的に調べろ! トランプも替えてこい! クソっ……クソっ……クソっ……!」


 ガンガンと、テーブルを殴りながら叫ぶ女神の顔には、一切の余裕はなくなっていた。最初に顔を見た時とはまるで別人である。


 その後、俺は一度裸にまで剥かれて、身体中を点検された。

 フェルシーの前だったので少し恥ずかしかったが、女神の表情がコロコロ変わるのは見ていて非常に愉快だった。……たまんねぇな、おい。



 点検が終わり、疑いは晴れたようで、俺は再び女神と向かい合う。当たり前だ、不正なんて出てくる訳がない。


 女神様はだいぶ落ち着いた様子だ。俺を睨み付けると、ゆっくりと口を開く。


「……『パスファの密約』、かニャ?」


 そして、新たな疑いが向けられた。


「別に答えなくとも良いのニャ。……神技はその強力さから、捧げ物をしなきゃ再使用はできないニャ。特に、パスファの時間停止は強力。再使用はよっぽどの物を送らなきゃ無理ニャ」


 あ? 知らねぇな。イカサマなんてする訳がねぇだろ? 負けた時の言い訳ばっか考えてんじゃねーよ。


 目の前から舌打ちが聞こえた。

 実に愉快な気分である。調子に乗っていた奴が崩れていくのを見るのは気分が良い。


 そして、お互いの目の前にカードが配られる。

 最終決戦だ、これで俺の運命が決まる。

 しかし、どちらも配られたカードには触れようとはしなかった。


「もう、お前には勝ち目は無い……! 見栄を張ったツケは、払ってもらう……いくぞ!」


 せーの! 「せーの!」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 俺達は一斉にカードを捲った。


「当然! ロイヤルストレートフラッ……!? う、そ、ニャ……」


 フェルシーの手元には、2から始まり6で終わる、スペードのストレートフラッシュが出来上がっていた。


 それでも十分強い役なのだが、予想外の結果だったらしい。


 フェルシーは恐る恐る顔を上げ、俺の手元を見た。


 そして、こちらの手の内を見て、ヒッと、小さく悲鳴を漏らす。


「う、う……嘘ニャ……。イカサマ……イカサマニャア……」


 俺の手元には10から始まり、エースで終わるクラブのロイヤルストレートフラッシュが出来上がっていた。


 同じ役でも、俺の数字の方が強い。

 これで、俺の勝利は確定した。


「ミャアのまけ……? あり得ない……、イカサマのはず……。い、今なら怒らない……、お願い、何をしたのか教えて……」


 フェルシーの顔からは血の気が消え去り、真っ青になっている。

 先程の怒気は消え去り、みる影もない。


 そんな、墜ちた女神に対し、俺はニヤリと口角を上げて、笑った顔を見せつけた。


 あぁ? イカサマだぁ?

 証拠は何処だよ? さっきお前がいった通り、『パスファの密約』の連続使用は無理だ。そもそも、使って無いけどな?


 ニャック達も見ていたろう? 俺に怪しいところはあったか?


「あ、あったはず! おめーら! ミャアを助けろ!」


 フェルシーは泣きながら周りのニャック達の顔を見渡す。

 しかし、審判として立ち会っていたニャック達は静かに首を横に振った。


 目の前の女神の顔が、絶望に染まる。


「こ、これは何かの間違い! もう一度、もう一度だけ勝負させて欲しい! そうすれば……」


 駄目だ。


 最初に確認したはずだぜ?


 これ以降はルールを変更しないと。そして、お前はそれを了承した。

 そうだったよな?


 2回勝った方の勝利、このルールは絶対だ。


 そう声を上げて、俺はフェルシーを指差した。

 フェルシーは顔を真っ赤にして、声にならない言葉を口から漏らしていたが、やがてそれは絶叫にへと変わった。


「イヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだぁ!!」


 椅子から滑り落ち、まるで駄々っ子の様に地面を転げ回る。涙と鼻水で顔をグシャグシャにする様子は、子供そのものであった。

 自分の得意分野で負けたのが、想像を絶するほど悔しかったのだろう。

 その心中には同情しないでもない。


 まぁ、だからといって、容赦などしないが。


 俺は転がり疲れたフェルシーに近づき、その顔を見下ろした。

 すると、ビクンと驚いた様に身体を硬直させる。


 さて、約束を守ってもらおうか?


「約束は……守る。でも、……お前の、お前の顔なんて二度と見たくない……。信者にしてやるから、早く帰って……お願い」


 勿論ですともぉ?

 でも、約束は、それだけじゃ無いですよねぇ?


 俺がそう言うと、フェルシーの顔は真っ青になり、恐怖で身を震わし、許しを請い始めた。

 もしかして、忘れていたのかな?


 俺が勝ったら、追加でなんでも願いを聞いてくれる、そう言いましたよね?

 

 ……約束は、守ってもらうぜ? 『天運のフェルシー』さんよぉ……?


 再び、女神の叫びが部屋に響き渡った。

・今日のこねこ

「な、なにこれ!? 意味がわからないよ!? なんでツキトくんとチップが一緒の布団で寝てるのさ! わけわかんない! やだぁ!?」


「お、落ち着いて!? きっと何かの間違いよ、ちゃんと事情を聞けば……」


「うぇ……着いたー。……あれ? みー先輩とドラゴムのねーさんじゃん。何してるんですか?」


「みーちゃん! 本人が来たわよ!? ……!」


「あ、チップ! 戻って来たんだね!? いきなりだけど、君には聞きたいことがある! この写真はな……!? ……ね、ねぇ、チップ、その膨れたお腹……、ど、ど、どうしたの……?」


「これは、その……。ツキトの奴が、(焼きそばを)たくさん入れてきて……。(焼きそばは)もう入らないって、アタシは言ったのに。アイツ、身体はそう言ってないって、限界まで無理矢理……。受け入れたアタシも悪いんですけど……」


「       」


 こねこ、脳内処理追い付かず。

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