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モテない浮気者

 パスファ様、質問があります。


 目の前で、剣についた血を拭き取っている、おっぱい妖精『自由のパスファ』に、俺は質問を投げ掛ける。


「なんだい? 『浮気者』?」


 女神様は自発的にはPL……冒険者には手を出せないのでは無かったのですか?

 いきなり現れたと思ったら、いつの間にか殺されてたのでビックリしましたよ?


「だって、君が最初に喧嘩吹っ掛けて来たんじゃないか。キモいって」


 なるほど、つまり発言1つでも敵対関係になる、と。ようするに……俺が軽率な発言を女神様にすると殺されるかもしれないんですね?


「そういうことになるね。でも、『浮気者』は女神に殺されるの、まんざらでもないだろ? 良かったね!」


 ははは。

 そんな趣味はありませんぜ……。

 ところで、生き返してくれると助かるんですけど?


「あ、悪いけど、わたしはリリア様やカルカルみたいに他人を生き返らせる事はできないんだよ。おとなしく死んでね?」


 そう言って笑っていたので、俺はおとなしくデスペナを受け入れた。

 去らば鍛えたステータス……。


━━━━━━━━━━━━━━━━


 途中で、俺がパスファ様に襲撃されるというアクシデントは起きたものの、全体としてみれば、今回のイベントは成功した。


 まぁ、先輩の顔を見れたのは、結局あのパーティーだけだったが……。


 それでも、マゾゲー好きには良い感じの難易度だったらしい。


 俺はイベント終了後の後片付け等を終わらせ、今はクラン本部の先輩の自室へと足を運んでいた。


「『プレゼント』の開封おめでとう、ツキトくん。使い心地はどうかな?」


 先輩はイベントで使った玉座に横になっていた。どうやら気に入ったらしい。

 ヘソ天の姿勢で、ぐでーっとしている。


 中々いい感じですね。

 かなり便利になりました。

 捧げ物をまとめて送れたり、自由に女神様の元に移動できたりと、強化される前に比べると全くの別物ですね。


「うんうん、神技が使いやすくなったのは、大きな武器になるだろうね。そろそろ僕にも勝てちゃうんじゃない?」


 ご冗談を。

 絶対に負けないって、わかって言ってるじゃないですか。性格悪いですよ?


「ふふっ、ごめんごめん。それで、次は『浮気者』の開封を目指すのかな?」


 そうですね……。


 俺は少し間をおく。

 肯定はしたが、気になる事があった。


 ……けれど、もしかしたら、これで終わりなんじゃないか、とも思うんですよ。


「ん? どういう事さ?」


 先輩は起き上がり、座り直した。


 今まで、いろんな『プレゼント』を見てきましたが、俺のだけ異質だなと、思いまして。


 基本的にではあるが、『プレゼント』はそれだけで強くなれるチート武器、チートスキルという訳では無い。


 例えばヒビキの能力だ。

 自分と同じ存在を、いくらでも作る事ができるが、デメリットとして、レベル等の全ての成長が-80%になるデメリットがある。


 しかし、そのデメリットを上回る事のできる人形の数で修行を行えば、普通のPLよりも効率良く成長できる。


 ……まぁ、聞いた話ではヒビキには、『装備品装備不可』と『回復無効』のデメリットもあるらしいが。


 それでも、『数』という最大の武器を持っている。


 少しそれたが、『プレゼント』の真価というのはPLの成長の補助としての役割が大きい。

 だからこそ、それに気付けなかった『紳士隊』リーダーのワカバは、取るに足らない相手だったのだ。


 そこで、俺の『浮気者の指輪』の話をしよう。


 これの目立った効果は2つ、『全ての女神を信仰できる』事と『神技が発動できる』事である。

 神技については一般のPLも発動できるが、使えるようになるまでは相当な時間が必要で、俺以外が使っているのはシバルさん位しか見た事がない。……さすが狂信者。


 しかしだ、逆に言うと手に入れた時から俺はその恩恵に預かる事ができた。


 だから俺は、これ以上強くなるのか、と疑問に思ったのだが……。


「今はデメリットを消化してるだけでしょ? 全部の女神に気に入られなきゃいけないなんて、どんだけハードル高いのさ? 君、女の子にモテないのによくここまでやってこれたよね?」


 先輩はそう思っていないらしい。やはり、あの個性豊かな女神様達を説得するのは難しいそうだ。

 確かに、パスファ様とかは俺の何が気に入ったかわからない。


 なんで俺なんかの信仰を許可したのか……て、待て待て待て!


「なにさ?」


 なんで俺がモテないって知ってるんですかねぇ!?


「んー? それについては、『幼女から避けられるようになった、控訴』っていうメッセージが残っているよ?」


 ヒビキあの野郎ぉぉぉぉぉぉ!!

 よりにもよって、先輩に俺の恋愛事情を話しやがった! この間の恨みだとでも言いたいのか? クソがっ!

 というか、俺の個人情報を流すな!


「兄弟喧嘩はほどほどにね? けど……ツキトくん、彼女いたこと無いんだってぇ~? それでフェルシーの恩恵にあやかろうとか……。くくく……」


 だまらっしゃい!

 先輩にはわからないでしょうがねぇ! 思った以上に辛いんですよ!?

 年齢=彼女いない歴っていうのはねぇ!

 

 俺の魂の叫びを先輩はニマニマして聞いている。


「ちょっと~、必死すぎじゃない? そんなに気になることなの~? 僕にはちょっと理解できないなぁ。 あ、そうだ! そんなモテない君にチャンスを……」


 ぶち。


 いらねーよ! ちっっきしょうめぇぇぇぇぇぇぇ!

 もう怒りましたー! さっきから聞いてりゃずけずけと、俺の気にしている事をずけずけと!


「でも、モテないのはホントでしょ? だから……」


 ああ! また言った! モテないって言った!

 ホントに怒りましたよ!?

 こうなったら、しばらくクランには戻りませんからね!?

 家出してやる!


「はぁ!? 何言ってんの!? もしそんなことしたら、君からアイテムを買ってる人達が困っちゃうよ? 君も大人なんだからそれぐらい……」


 話も途中に俺は先輩の部屋を後にした。


 流石にいくら先輩でも言って良いことと悪い事がある。

 今回ばかりはちょっと頭にきた。本気でしばらくはクラン戻るつもりはない。……つっても5日位だけど。


 だが、そうなると暇になるな。

 『天運のフェルシー』と信仰を結びに行く事は決まっているが、それもすぐに終わるだろうし。


 それに、一人で遊ぶのもなんかつまんないし。


 ……よし。

 こういう時は、観光ガイドを頼ろう。




「……なんで、その話の流れでアタシに連絡がくるんだよ? ネットで調べろよな……」


 俺はクランの酒場に犬の獣人娘、チップを呼び出し、事情を話した。

 だが、いまいち自分が呼ばれた理由がわかっていないらしい。


 だって人に聞いた方が早いじゃん?

 それに、誰かとパーティー組んで遊びに行きたいしさ。今、何か仕事入ってる?


「入っては無いけどさ……って、えっ? お前、アタシとパーティーになる為に呼んだの? わざわざ?」


 むすっとしていたチップであったが、急に驚いた顔をした。


 そうだよ?

 ちょっと遊びに行こうぜ? ちょっと目的地が遠いから、チップの能力使ってパパっといきたいんだよ。

 ダメ?


「ダメじゃないけど……。他には、誰か誘わないのか?」


 言っただろ?

 家出だからな。そんなに人を連れて行ったら簡単に足が付いちまうだろうが。

 今回、声かけたのはお前だけだよ。


「そ、そっか。まぁ、別に? アタシが必要だって言うんなら仕方ないよな。うん。いいよ、付いていってやる」


 おや? 意外だ、もう少しあれやこれやと言って、時間がかかると思っていたのに、チップはすんなりと承諾した。


 まだ餌付けもしてないんだけどなぁ……。


「それで? どこに行く? 斥候班で作った地図も手元にあるけど……」


 いやいや、大丈夫だ。

 目的地はもう決まってるし、隣国『ザガード』の『バインセンジ』だ。


「バインセンジって……向こうの国のPLが最初にログインできる街じゃん。めっちゃ遠いぞ?」


 だから、チップに協力して欲しいんだよ。斥候班長のお前なら、ザガードの地理もわかってるだろ?


「わかってるけどさ。でも、何をしに行くんだ? あそこって特に見所とかも無かったと思うぞ?」


 旅行も兼ねて、フェルシー様を信仰しに行こうと思ってな。

 ま、俺はザガード行った事が無いから、旅行の方がメインっちゃメインになるけど。


 聞いた話では、バインセンジには『天運のフェルシー』が降臨しているらしい。

 リリア様と同じパターンで、ずっと街に残っているそうだ。


 まぁ、ただとは言わないって。ほら、ご飯もあげるから。


 そう言って俺はアイテムボックスからローストビーフのサンドイッチを取り出し、チップに手渡す。

 すると戸惑う事なく、チップはそれを口に入れた。


 ちなみに、食料には毒とか媚薬とか盛れるからそうやって簡単に口に入れるのは、どうかと思うなぁ……。


「むぐむぐむぐ……、ごちそうさま」


 早いな!?


「とりあえず、アタシの能力でバインセンジまで行くのはいいぜ? けどさ、ちょっと問題があって……」


 ?

 どうしたんだよ?


「最近さ……すぐお腹減っちゃうんだよな。それで食料の消費が激しくて……。どうしちゃったんだろうな?」


 あー、大丈夫大丈夫。

 その辺は俺がなんとかできるから。今でも大量の食料持ってるし……。


 ん?

 待てよ? 犬……最近……お腹が減る……。


 まさか……。


 俺ははっとしてチップの顔を見た。

 俺が驚いた顔をしているので、不思議そうにこちらを見ている。


 チップ……、お前……。



 どこの駄犬から種もらってきたぁ!?



「種……? ……な、何言ってんの!? 違う! 私そんなことしてない! って違う! アタシだ! してないし! それにアタシは犬じゃない!」


 俺のセクハラ発言にチップは顔を真っ赤にして答えた。あんまりこういうのには慣れていないらしい。一瞬素が出た。


「お、お前はアタシの事をどう思ってるんだよ!? ずっと犬扱いしやがって!」


 チップの問い掛けに、俺は冷静に答えた。


 大事な存在だと思ってるよ?(ペットとして)

 お前がいないと寂しいし。(犬小屋にペットがいないと感じる、謎の寂しさ)

 こう見えても、結構心配してるんだよ?(駄犬がよそ様に迷惑をかけていないか)


 俺が思っていたことを口にすると、チップは顔を真っ赤にして席を立ち、クランの出口に向かって歩き始めた。


 おいおい、待てって。

 どこいくんだよ?


「うるさい! お前がそんな事言うからだ! 馬鹿!」


 そう言って出ていってしまった。


 ……何か変なこと言ったかな?


 その後は、取り敢えず謝って、チップとパーティーを組んだ。

 本気で能力を使えば2日位で到着するらしい。


 こうして、俺の海外旅行、及び、犬の散歩が始まった。


・今日のこねこ

「家出ねぇ……、どうせすぐ帰って来るでしょ。そのときはこっちから謝ってあげようかな? ま、明日一緒にクエストにでも行ってあげれば機嫌も治るだろうしー。今日は修行しよっと」


 まだまだ余裕らしい。

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