農民の朝はグロい
そう言えば、俺は農民だった。
最近は首刈り族としてヒビキと共に、ロリコン及びもふ魔族を殲滅していたが、自分の家に帰って来て本職を思い出した。
俺に目の前の畑には、巨大な作物が生い茂っている。
ビギニスートに旅立つ前に種を植えていたのだ。
今はその種が芽吹き、大きくなって爽やかな風に揺られながら、朝露を輝かせている。
なんということだ。俺はすっかり忘れていたのに、この子達はすくすくと成長してくれた。
勝手に目頭が熱くなった。
親がなくとも、子は育つ。
そんな言葉を思い出しながら、俺はその作物に群がる、アライグマに似た巨獣と、侵入者の首を刈る為に地を蹴った。
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ほんっと、油断も隙もねぇ!
人の物を取ったら泥棒って言われなかったのか? 畜生めが!
俺は仕留めた大アライグマとPLの残骸を回収して叫んだ。
まぁ、大アライグマは許そう。
アイツらは畑のマップだけに出現する敵NPCだ。首を刈られる悲しい運命を背負った存在なのだ。その姿には、俺でさえ哀れみを覚える。
しかし、問題はPLの方だ。
なんで害獣と一緒に作物漁ってんだよ!?
アライグマはお前らのペットじゃないだろうが!?
敵NPCと仲良くなってんじゃねぇ!
……まぁいい。
おい、シーデー。
今の不届き者を見てたな? アイツらをお前の能力で駆除するのが今回の仕事だ。
何故かアイツらは、朝になると勝手に湧いてきて俺の畑を荒らしていく。これ以上、被害を受けるとこっちも赤字になっちまう。
理解、できたか?
俺が振り替えると、そこには女盗賊の様な格好で、緑の長髪が映えるPLが居た。
様な、というのは、良く見ると手や肩の骨格に違和感を覚えるからだ。言うならば男の娘というジャンルになるだろう。……ニッチだなぁ。
名前は『シーデー』、今は無き、クラン『紳士隊』からメレーナが引っ張ってきたPLである。
ちなみに、一度五体バラバラにして尋問したことがあるので、俺に対して苦手意識があるらしい。かわいい奴め。
「わ、わかったよ! ツッキーさん! えぇっと、少し時間かかるんだけどいいかな? 怒らない?」
おう、怒らないよ。
とりあえず柵は作って欲しい。
そこから派生させて、いろいろ試していってくれ。お前の好きにやってくれて問題ない。
「う、うん。……あの、失敗したらどうなるの?」
こういう時、失敗したときのリスクを最初に考える奴には、ろくな奴がいない。
しかし、ちゃんと指示をして使ってやれば、それ相当の見返りをもたらしてくれると、俺は感じた。
なので、俺はにっこりと笑うと、日光を大鎌で反射させてシーデーを照らしてやった。
右腕、左腕、右脚、左脚、股間、首……という順に照らしてやると、シーデーの顔が曇り、震えだす。
そんなシーデーに向かって、俺は一言。
……わかるね?
「い、イェッサーぁぁぁぁぁ!! うわぁぁぁぁぁん!!」
そう言うと、シーデーは泣きながら二本のドライバーを取り出すと畑に向かって駆けて言った。
名前はわからないが、シーデーの能力はトラップを作成する事ができるそうだ。これで俺がいなくとも、害獣を駆除できる。
ふふふ……便利な人材を手に入れたなぁ……。
「おーい、私が連れて来たんでしょ。あの子はアンタにゃ渡さないよ? 貸すだけ、だ」
すぃっと、後ろから妖精が飛んできて、俺の目の前で止まった。
赤い髪の妖精、メレーナだ。
「まったく……手のかかる馬鹿め、クラン抜けろって言ったのに。私を待ち続けてるからこんなヤツに捕まるんだよ、ホント馬鹿だねぇ……」
おやおや?
メレーナさん、いつになく上機嫌じゃないですかぁ? 楽しそうにしちゃって。
面倒見てた子が自分を慕ってくれてたのが嬉しいんですかぁー? ……いったぁ!?
「なに馬鹿言ってんのさ! ……趣味は悪いけど、根は良いヤツだからね。それに一度面倒見た手前、途中で投げ出すのは気分が悪いの。……うわ、汚い」
そう言って、メレーナは俺から抜き取った生モツを投げ捨てた。
ちょっと~、それどこの部位? 手癖悪すぎません~?
「さぁ? 適当に抜いたから知らないよ? 死んでないし、魔法で治せば?」
メレーナはけらけらと笑っている。
最近、メレーナの『いたずらティターニア』は強化されたらしい。
なんでも、ステータスを上げたら効果範囲と盗める物の幅が広がったそうだ。
先輩が直々に鍛えたらしく、前に戦った時とは別物となっている。……また、頭のおかしい化け物ができあがってしまった。
ちなみに、今は新人育成の仕事をしている。
「そう言えばアンタさ、また信仰先増やすんだって? 懲りないねぇ……、カルリラだけ信仰しておきなさいな」
リジェネレーション……リジェネレーション……。
え? 俺はカルリラ様が一番だよ?
そう言うと、カルリラ様から神託が降りてきた。
『むぅ……もう騙されませんよ? 最近はパスファとお酒飲んだり、キキョウにお洋服をプレゼントしたそうじゃないですか! 私にはお野菜とご飯しかくれないくせに! 後、お茶したり、遊びに来てくれるくらい……あれ? 私、優遇されてる?』
よかった。自己解決してくれた。
カルリラ様一番なのはそうなんだけどさ、最近は『開封者』の話が出てきただろ?
俺の『プレゼント』の開封条件なんて、どう考えても一つしか無いだろうし、ちょっと気になるんだよなぁ。
「あぁ、それ? アンタのは分かりやすくていいねぇ、簡単に予想できる。私の場合は完全に偶然だったから」
メレーナはやれやれといった様子で、俺の肩に座った。
……やっぱり、メレーナは開封済み?
「まぁね。私だって、臓器を抜き取れるとは思ってもみなかったさ。けれど、試しにやったらできちゃってねぇ。大事なのは閃きだよ?」
へー、開封したらなんかメッセージとかあんの?
「あるよぅ? 『プレゼントを開封しますか?』ってメッセージがでる。で、開封するってやれば、それが能力として追加されるのさ」
そうかぁ。
俺は自分の『プレゼント』の開封条件の目星を付けていた。
全6柱、全ての女神を信仰する。
これしか無いだろう。
それ以外で俺の『プレゼント』に怪しいところは無い。
もしかしたら、ヒビキみたいにできるけれど、明確にされていないだけという事かも知れないが……。
「はぁ? アンタさ、なんか忘れてない?」
メレーナが俺の顔を覗いて、怪訝そうな顔をしていた。
俺の『プレゼント』は2つ、『浮気者の指輪』と『祭壇の指輪』である。
『浮気者』は全ての女神を信仰できる状態になる効果があり、『祭壇』はその場で女神達に捧げ物を送る事ができる能力がある。
俺の能力は『浮気者』の方が目立っているが、実のところ、使用者としては『祭壇』の方が便利だ。
本来、捧げ物は教会を訪れなければならないので、その手間を省く事ができる『祭壇』はとても重宝している。
ま、便利ってだけなんだけどねー。
「アホか! 私はそれのせいでアンタに負けたんだよ! 逆転の発想だ! 良く考えろ!」
メレーナから怒られた。すいません。
「その『祭壇の指輪』、なんでどこでも捧げ物ができるのさ? 本当なら女神像か、その女神の祭壇までいかなきゃダメだろ? ……なんで?」
はぁ? それは、そういう能力だから……。
ん? ……んー?
まて、今の無し。
「それでいい、考えてみな」
『祭壇』の能力は『小型の祭壇』という事になっている。
どこでも祈りを捧げる事ができると、説明に書いてあったので、そういうものだと考えていたが……。
もしかして、各女神の祭壇、及び女神像と同じ機能をしているって事なのか? 信仰してなくても、ここには6つの祭壇があると?
「……ま、前作PLの私から言わせればそうなるねぇ。試してみたら?」
メレーナは俺の肩から飛び立ち、シーデーの方に飛んでいってしまった。
メレーナの言うことが当たっているのだったら、すぐにでも次の女神と信仰を結びに行くことができるだろう。
……正直に言うと、あそこの教会まで行くの面倒なんだよな。もし、どこからでも女神に会いに行くことができるなら、そんなに便利な事はない。
……まてよ?
更に言うなら、俺が簡単に女神と邂逅ができるのは、『祭壇の指輪』のおかげなのでは?
その考えに至った時、目の前にウィンドウが現れた。
『『祭壇の指輪』の開封条件が満たされました! プレゼントを開封しますか?』
!!
マジでか! メレーナすげぇ!
俺はこの結果を全く考えていなかった。
開封できる『プレゼント』は『浮気者の指輪』だけだと勘違いしていたのだ。メレーナに言われなければ、この答えには至らなかっただろう。
メレーナは意外にも、人にものを教えるのが得意なのかも知れない。プレゼントを開封する前に、礼の一つでも言っておくのが筋だろう。
おい! メレーナ!
来てくれ! お前の言った通りにやったらさ……。
「ぎゃわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「うわぁあ!? メレーナの姉御ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
二人の方に顔を向けると、なにやら騒がしかった。
俺の畑の周りは、いつの間にか鉄網のドームで覆われている。そして、その上に何かの残骸とミンチが散らばっていた。
……え? メレーナ、さん……?
目を凝らして良く見ると、鉄網のドームの周りにはキラキラと輝く、糸の様なものが見えた。
なるほど。
目立つ障害の外側に、見えづらいトラップを仕掛ける事により、効果を高めているのだろう。
意外にやるじゃん。
「ツッキー! ツッキーぃぃぃぃ! どうしよう!? 姉御が罠にかかって死んじゃったよぉ! 私、姉御に殺されちゃう!」
泣きながらシーデーがこっちに近づいてきた。
あー……それは仕方無いよ、気付かないアイツが悪い。
そんな事はいいから、作業はもう終わったのか? だいぶ早かったな。
「そんな事って……。まぁ、作業は終わったけど……」
そうかそうか、お前は優秀な奴だ。
……。
なぁ、遠目から見た感想なんだけれどよ、あのドームの入り口って、どこにあんの? ちょっとわからないんだけど?
俺が疑問に思い、ドームを指差す。
すると、シーデーは間抜けな顔をした。
「あ、ごめん。作るの忘れてたや、えへへ……」
へぇ、そうかい?
俺はにっこりと笑うと、朗らかに笑っているシーデーを担ぎ上げた。
「……乱暴、する?」
どうやら、何かを察したらしい。
その震える声に、俺はハッキリと答える。
うん、する。
「それって、エッチなこと? ……きゃ! 変態!」
ううん。トラップの動作確認だよ?
「………………ゆるして?」
殺す。
俺はドスの効いた声で、最終的な決定稿をシーデーに告げ、金網に向かって放り投げた。
その後俺は『祭壇の指輪』を開封し、『教会の指輪』と名前を変えた、新しい『プレゼント』を手に入れた。
メレーナ、シーデーという、尊い犠牲の元に……。
・大アライグマ
害獣。鋭い牙と爪を持つ狂暴な動物。PLの畑に現れては作物を食い荒らす。けれども、見た目より弱いので大体PLに殺さる。ミンチとなり畑の肥やしになってしまう可哀想な存在。モフい。




