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処刑兄弟

「それで? 結局どうするのさ、兄貴? リリア様に断られて、ついでにカルリラ様に刺されてきた訳だけど……」


 俺とヒビキはクラン本部に帰還し、とある部屋へと呼び出されていた。

 紆余曲折あり、二人で取り残されていると、ヒビキが話を振ってくる。


 あーあの件ね。

 いや、至極まっとうな話だと思ったわ。


 自分が信仰するのを許可したら、他の女神が断れなくなる、って言うのはなぁ……。


 リリア様はしっかりとしたお方だった。

 主神である自分が俺の信仰を許可した場合、他の女神達も俺を認めざるを得なくなる。

 もしそうなった場合、俺を認めなければリリア様の顔に泥を塗る事になるだろう。


 俺を認めるかどうかは彼女達の自由というのが、リリア様のお考えだ。


 しかし、リリア様からは、他の女神全員を信仰することが出来たのなら、信仰する事を認めてくれるという約束をしてもらった。


 後、何か他に願いを叶えてくれると言ってくれたので、俺もヒビキと同じように頭を撫でてもらった。……だって他に何も思い浮かばなかったし。


「良い香り……したよね。リリア様……」


 したなぁ……。

 今回の報酬、あれだけってのもどうかと思うけど……まぁいいか。

 けれど、このままだと俺、刺され損なんだよな~。


「じゃあ、次は違う女神様を信仰しにいけば? ボクとしてはフェルシーがオススメかな? 運が良くなるし、何故かNPCにモテるようになる。モテないお前にオススメ」


 少し馬鹿にしたようなヒビキに対して、俺はこう返した。


 え、マジで?

 ゲームの中だけでもいいからモテたいんだけど? ちやほやされたいんですけど? それ本気で言ってる?


「兄貴……マジでそういうところだからな!? せめて何か言い返せよ! PLと仲良くなれ! 出会いを求めて努力しろや! この素人童貞!」


 うるせぇな! ほっとけボケぇ!

 お前こそ、ネット使って女の子と簡単に繋がれると思うなよ!?

 世の中にはネカマという存在がいるんだよ!


「そんなもんいないと信じ込むんだ! そうすればちゃんと中身がいる美少女と遊べる! ネカマなんて存在しないと信じろ!」


 目の前にいるじゃねーか! 鏡見てこい!


「メイド服をキャラメイクの時に着せたら脱げなくなったんだよ! これは身体の一部なんだってーの! そんでもってツインテは趣味だ!」


 ネカマじゃねーか!


「じゃねぇって言ってんだろコラぁ!? 少しふざけただけなんだよ! 戻せなくなるなんて思わなかったわ! ……でも、ちょっと可愛いだろ?」


 そんなんだから、お兄ちゃんは心配なんだよ!? お前、ホント道は踏み外さないでね!?

 というか素出てるよ? 大丈夫?


「あー……人いないし大丈夫じゃね?」


 まぁね。


 ……そういえばさぁ。

 お前なんでワカバになんかやられたんだよ?

 その気になれば、最初に出会った時に『パラサイト・アリス』を使うこともできたろうに。


「……別に、普通に負けた。NPCのレベルが高くてね、(さば)ききれなかっただけだ……」


 ふーん……。

 俺はてっきり、NPCに情が移ったのかと思ったけど違ったかな? お前は優しいから。


 そう言うと、ヒビキがぎょっとして目を丸くする。


 だってそうだろ?

 街の再生成を提案したのもお前だし、その惨劇を直接見たのもお前だからな。情が湧いても仕方ないだろ?


「……馬鹿にしねーのか?」


 なんで?

 お前は倫理的にどうかと思う時もしてるけど、非情じゃない。

 可哀想なものを見て、心が動くことは普通の事だ。何も笑われるような事はない。


「そうだよね……、興奮……するよね……」


 茶化しても無駄だぞ?


 正直に言え、NPC殺せなかったんだろ? アークを逃がすのを優先したっていうのもダメだからな?


「……っち。仕方ないだろ、相手には何の罪も無かったんだから」


 ハイハイ、素直じゃないねぇ。

 まったく、誰に似たんだか。


「……てかさ、いつになったら人来るの? ボク飽きてきたんだけど?」


 さぁ?

 俺達の状況から考えて、もうすぐ来るとは思うよ? でも、なんでこんな格好で放置されてるんだろうなぁ……。


「そうなんだよねぇ……。ボク達、何かしたっけか……? 心当たりがありすぎてわからないんだけど……」


 なんだろうねぇ……。


 なんで俺達はギロチン台に固定されているんだろうねぇ……。


 はい、そういうことで。

 俺とヒビキは処刑室に呼ばれて、拘束されていました。手と首をね、しっかりと固定されてますよ、はい。刃を支えている紐さえ緩めれば、簡単に死ねますぜ?


 心当たり?

 どうせあれでしょ? ヒビキの監督責任とか何かでしょ? すいませんね、ホント。


 兄弟仲良く溜め息を付くと、処刑室の扉が開いた。


「やっほー! ツキトにヒビキ! 元気してる? これから二人を処刑したいと思いまぁす!」


 元気な声を出しながら銀髪のエルフ娘、ケルティが部屋に入って来た。後ろには大量のクランメンバーがいる。

 ニヤニヤと楽しそうな顔をしている奴もいれば、悲哀に満ちた顔をしている奴等もいた。

 表情からはこの状況の真意を察する事ができない。


 とりあえず……ケルティ。なんで俺達を拘束したのか、その理由を教えてくれないか?

 内容によっては納得して死んでやる。


「あーとね、簡単に言うとさ。……今、うちのクランが大炎上してるんだよねー。まいった、まいった」


 は……炎上中?


「そ、見覚えがあると思うんだけど……こちらの映像をご覧下さーい」


 俺達の前にウィンドウさんが表示される。

 そこには俺とヒビキ、そして『紳士隊』リーダーのワカバが映っていた。


 ワカバとの戦いの映像なのだろうが、第三者の目線で見ると……この状況はかなり酷い。


 まず俺がにこやかな顔をしながら、幼女に切りかかり、袈裟斬りにその身体をかっさばいた。


 その後、『産んでもらいます』というサイコホラー染みた言葉と共に、ヒビキが開いた傷口に手を突っ込む。


 絶叫する幼女。

 

 で、この映像を撮っていたのはRー18設定のPLだったらしく、その後の映像はモザイク処理がされていた。


 多分、いきなり幼女の腹が膨れて、そこからぷちヒビキ達が飛び出してきた映像なのだろうけど、……まぁ見せられないな……これ……。


 で、最後は目が死んでる幼女の首を、切り落とす俺の映像で〆と……。


 ……完全に事件だわ。全てのロリコンのヘイトが俺達に向いた音がした。そりゃ炎上もする。


 というか、俺達に不利なところしか映っていねぇじゃねぇか!?

 ふざけやがって!

 この映像とった奴は誰だ!? ああ!?


「なんか、そういうクランがあるんだって。動画投稿をしているクランで、今日も来てるよ?」


 そう言って、ケルティは後ろを指差す。

 ハンチング帽を被ったメスコボルトが、俺達にカメラを向けていた。


「こんにちわ! クラン『追い詰めカメラ』から来ました! 今日はお二人が責任をもって、処刑されるところをライブで見せてくれるのですよね? 全国のロリコンの皆様に、なにか言いたいことは?」


 コボルトちゃんは尻尾をフリフリしながらそんな事を言ってきた。

 ちなみに、コボルトはチップの様な獣人よりも大分ケモノに近い。


 その様子に俺は歯噛みする。


 クソ……可愛くモフモフしやがって……、ゼスプを懐柔して許可をもらったな?


 ……おう、コボルトちゃん。

 あれはね、ただのPvPだったんだよ? ネカマロリコンが喧嘩吹っ掛けてきたから殺しただけなんだ。


 今日日、PKなんてこのゲームじゃ珍しくないだろう? それで炎上なんてどうかと思うな。


 俺がそう言うと、ケルティが答えを返す。


「いやー、事情を知らないロリコンの数が、思った以上に多くてね? 今クランの前で暴動が起きそうなってんの。多分火を付けたのは『紳士隊』の連中だと思うんだけど……二人を殺せと騒いでいるんだよ」


 なるほどなぁ、一度死んだ位じゃ足りなかったと見える。


 ……コボルトちゃん?


「はい ! ………ひぃぃ!」


 ロリコン共にメッセージいいかな?。



 ……今から殺しに行くよ? 待っててね?



 俺はカメラににっこりと笑って見せた。


 ヒビキ、ちょっと付き合え。

 人手がいる、アイツらの性癖を矯正するには俺一人じゃ時間が足りない。


「ん、いいよ。処刑が終わったらね」


 おうよ。

 ……という訳で、コボルトちゃん。最後までしっかり撮っててね?


「ひゃ……ひゃい……」


 やだなぁ? そんなに怯えなくても良いんだよぉ? 君は君の仕事をしてくれよ? 大丈夫さ、殺しはしないから……。


「ハイハイ! 女の子を脅さない!」


 ケルティが俺達の前に出てくると、観客に向かい振り返った。


「それじゃあ、みんな! これから二人を処刑します! ツキトに首を刈られた人ぉ? ヒビキが女の子だと思ってて、悲しみを背負った私みたいな人ぉ? 少しでもスッキリしていってねー!」


 お前もかよ!?


「あ! 私は少し違うよ? ふられて落ち込んでただけ! けど、ちょっとショックだったかもね~」


 さいですか……。


「あ、どっちから逝っとく? ギロチンだからすぐ終わるよ?」


「じゃあボクから」


 ヒビキは軽い調子でそう言うと、ケルティに向かって手を上げた。

 ケルティはそれを見ると観客に向け手をふる。


「じゃ、みんないくよー?」


 ケルティは、ギロチンの刃を支えている紐を手に持つ。


「そー……れ!」


 ケルティがその紐を手から離すと、ジャコン! という音が聞こえると共に、刃が落ちた。


 悲痛な叫びが会場内に響き渡る。

 どうやら、まだ諦めきれていない奴等ばかりだったようだ。

 クソ、人の弟を変な目で見てんじゃねーよ。……いや、変な奴だけどさ。


 ギロチン台からヒビキの頭と手首が床に転がった。誰がどう見ても死んでいる。

 ヒビキのスカートの中からぷち達が飛び出してきて、転がった頭と手首を回収していった。


 俺はそんな弟の姿を見てニヤリと笑う。


「? ……随分と余裕だね、ツキト。……遺言は?」


 俺の様子を見てケルティがにっこりと笑う。……すげぇ優しい笑顔だ、リリア様に負けず劣らずって感じ。


 俺は鼻で笑うと、目の前の観客に向け、別れの挨拶をぶん投げた。


 ……あばよ、てめぇら。


 そう言った瞬間、俺の視点が変わる。

 ギロチンに固定された自分の身体を、見下ろす様な視点だ。


 観客席を見ると期待の視線が俺の身体に集まっている、そして━━━。


 刃が墜ちた瞬間、観客の熱狂が弾けた。

 部屋の中は最高の盛り上がりを見せ、声は空気を震わせる。


 まったく……懲りない連中だ。この間の鬼ごっこで首を落とされた事を忘れてしまったのだろうか? ……いや、忘れてないからこんなに恨まれているのだろう。


 はぁ……少しは学んでほしいものだ。


 刃が落ちる音を聞いてそんな事を考えていると、飛ばされた俺の頭が、



 黒い霧となって霧散した。



 ピタリと観客の熱が冷める。

 全員が全員、何が起きたのか理解できずに、ただただ立っていた。


 続いて、俺の身体が黒い霧にへと変わり、今の視点の位置に身体を再構築していく。


 再構築している際、隣にあったヒビキの身体が立ち上がった。

 ほぼ同時に、ぷちちゃん達が分離させた頭と手首を、ヒビキの身体へと取り付ける。


 俺の身体も再構築が完了し、『カルリラの契約』は完全に発動した。


 ヒビキはこちらに一瞥して微笑む。


「……ふぅ、復活と。じゃ、行こうか?」


 ああ。


 俺とヒビキはお互いに確認すると、臨戦態勢に入る。


 すでにケルティは離脱していた。ヒビキの身体が弾けなかった時点で、俺達の考えを察したらしい。


 目の前のコボルトちゃんは腰を抜かしてはいたが、それでも俺達にカメラを回している。良い根性だ。


 目の前の観客共は逃げようか、刃向かおうか迷っている様子だ。

 そんな腰抜け達の顔を見回しながら、俺は口を開く。


 いやいや、違うだろう? 間抜け共。

 お前らの反応はそうじゃないはずだ。


 ここがどこだと思っているんだよ?




 ……処刑室だぞ?




 俺はニヤリと笑ってやった。



━━━━━━━━━━━━━━━


 この日、二つの事件が起きた。


 一つ目、「公開処刑」。

 『魔女への鉄槌』と『ペットショップ』、両クランの炎上原因となった2名の処刑を実行。

 しかしながら、両名はギロチン刑を回避、観客をほぼ殺し尽くした。

 この様子は最後までライブ配信されており、「次はお前達だ」という台詞により、しめくくられた。


 二つ目、「収容所襲撃」。

 先程の2名と、妖精『裏切り者』のメレーナを加えた計3名が『紳士隊』メンバーの捕らえている収容所を襲撃。

 収容所の守衛も含み、その場所にいた殆どの人員が虐殺されていた。

 その後、2名のPLの行方が知れずとなっており、上記の3名が連れ去ったと思われる。


 これをきっかけに、『魔女への鉄槌』と『ペットショップ』の炎上は徐々に、物理的な方法で、鎮火していった。


 同時に、PL『死神従者』ツキトとPL『ドールズ・メイド』ヒビキの名前は、各クランへと伝播していったのだった。



・天運のフェルシー

 え? 次アイツの所行くの? 面倒事が起きるのが目に見えているからやめた方がいいと思うなぁ……。なんか企んでるみたいだし……。

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