復活のH(変態)
※またショッキングなシーンがあります、ご注意ください。
「ふ……ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
血の海から立ち上がったワカバが吠えた。
先輩の挑発に怒りを覚えたらしく、先程の顔とはうって変わって、激しい怒気を浮かべていた。
「雑魚どもを殺した程度で調子に乗ってんじゃねぇ……! 自分で自分の首を絞めたことも知らないくせによ……! おれはこれまで、最強になるために、なんでもやって来たんだ、それを見せてやる……!」
ほう?
どうやら奥の手があるみたいですよ?
「何だろうね? できれば面白いものを見せてくれると嬉しいんだけどね?」
そうですね。
「オマエらぁ! シカトしてんじゃあねぇ!?」
俺と先輩が楽しくおしゃべりをしていると、ワカバがまた吠える。
っち。
うっせーなぁ。わかったから、わかったから。奥の手があるんでしょ?
どうせ、リリア様から奪った力はNPCだけじゃなく自分にも付与する事ができるとか? それ以外、何かあんのか?
「………………」
俺が呆れたように予想を述べると、ワカバは黙ってしまった。
もしかして、図星……?
「え……、それだけなの……?」
先輩も呆れている様子だ。
呆けている俺達に対して、ワカバの顔は真っ赤に染まっていった。
何ということだ。取って置きの秘密を先に言ってしまった。
これは恥ずかしい、あんなに吠えてたのにも関わらず看破されてしまうなんて……。
……ごめんね?
「う、ぅあああああああああああ!!!」
俺が謝るとワカバが叫びながら俺達に突っ込んできた。
見たことの無い速さだった。
……いや、リリア様に体当たりされて死んでしまった時に見たか……。
嫌な事件だった。
あれのせいで俺はいろいろ面倒に巻き込まれてしまったのだ。そもそもロリコン共が悪い。
やはりロリコンは滅すべき存在……。
そもそも、あの時の神官風のロリコンはどこに行ったんだ? あいつの首をチョンパしなければ俺の気は収まらないぞ?
……仕方ない、これが終わったら斥候班に依頼して見つけ出してもらおう。
……あれ?
なんで、こんなに余裕に感じるんだ?
気がつけば、ワカバは俺に肉薄しており、その拳が迫って来ていた。
「くたばれぇぇぇぇぇぇぇ!!」
嫌です。
俺はワカバの攻撃を見切って避けた。
直線的であり、単純でいて、まぁそうくるよね、と予想できる位のちゃちな攻撃だった。
隙が出来たので、その背中に銃弾を撃ち込む。
相手は振り返り、こちらを見ていたが銃弾を避けることはしなかった。
「クッソ! いてぇじゃねぇか!? 避けてんじゃねぇ!」
……?
痛がっている? ステータスが高いので、たいしたダメージではないのはわかるが、痛みをいやがっている?
何故、避けなかった?
「まぁいい! 女神の力を吸収したおれの一撃が当たったらお仕舞いだろうしな! 不様に躍り続けろ!」
先輩、見た目ロリからダンスのお誘いが……。
「あー……何かさぁ……予想付いちゃったから、適当に乗って上げて? あ、支援魔法はかけたげる『ハイパーブースト』」
魔法により、速さをメインに各種ステータスが強化された。しかし、先輩としては乗り気では無い様子である。
……わかりました。強化ありがとうございます。
「余裕ぶってんじゃねぇ!」
再びワカバが殴りかかってくる。
だが、やはりどうという事はない攻撃だ。
2回、3回と短い腕を振り回してくるのを、言われた通りに踊るように避け、再び銃弾を打ち込んだ。
着弾すると幼女の短い悲鳴が聞こえ、ワカバが地面に膝を付く。
……あー。なるほど。これ、そういう事ですか。
「なっ……、なんで当たんねぇんだ!?」
俺と先輩は理解しているようだが、当の本人は何故こんな事になってしまったのかわからないらしい。
お前さ、そんなんでさっきの人形集団はどうやって倒したんだ?
「そ、そんなんどうでもいいだろ!? なんで……なんで攻撃が当たらないんだよ!? ……チートか!? お前らチーターだったのかぁ!?」
俺の質問を無視して、ワカバは悲痛な叫びを上げる。
んな訳無いだろ。
先輩、このアホになんか言ってやってください。
「ええ……? どっちかというと僕はイエネコだけど……?」
先輩、ナイスジョークです。
「猫科の話はしていない! なんで女神の力が通じないんだ!? おかしいだろうがァ!」
ワカバは俺達を指差し声を荒立てた。
その顔は悔しそうに歪み、目からは涙が溢れそうになっている。
なっさけねぇなぁ……。
仕方ない……先輩、講義のお時間です。目の前のアホにこの状況を説明して上げてください。
「ん? 僕でいいのかい? ……じゃあ教えてあげるけど……ステータスだけ高くても強くはなれないよ? スキルレベルをあげないと、攻撃の威力も上がらないし、命中もしない」
「……は?」
やっぱ知らなかったか。
このゲームの攻撃の精度は、基本的に掛け算だ。
ステータス×武器スキルレベル×近接か遠隔戦闘スキル×心眼スキル……ざっくりとではあるが、こんな感じで威力と命中が決まる。
つまり、ステータスだけ上がっても大して脅威ではない。そんな攻撃が当たることは無いからだ。
「スキルレベルは吸収できてないんだろ? 攻撃が当たらないのはそのせいさ。僕らみたいな狂った修行をやってきてる訳じゃないだろう? 20人以上に囲まれて銃弾の雨を避け続けた事は? 切れない刃物で一日中切られ続けた事は?」
「な……何を言ってるんだよ……」
「食べ物を食べて吐いて食べて吐いて……それを続けて拒食症になった事は? 餓死に怯えながら武器を降り続けた事は? 死ぬことも許されず呪文を詠唱しつ続け、魔力の反動でミンチ製造機になった事は? ……無いのだろうね」
先輩が言った以上の事は実際に行われている『ペットショップ』の日常の一端である。……修行怖い。
「僕達を舐めるなよ? そんな子供騙しで勝てる程甘くないぜ?」
先輩がそう言うと、ワカバはガタガタと震えだした。
「狂ってやがる……、オマエら本当に人間かよ……」
何故かまともな意見に聞こえるので悔しい。
まぁ、そういう事だ。
残念だがお前の攻撃には当たんねぇよ。
それこそ、さっきのNPCみたいに操りでもしなけりゃ……?
ここで身体の異変に気付く。
リリア様を抱えている左腕、その手の小指に糸のようなものが伸びていた。
それはワカバの右手へと伸びている。
「ツキトくん!? ……! 僕にも……! 詠唱不可まで……!」
見ると、先輩のおみ足にも糸が繋がっていた。
「……操りはできない。けれど少しの間なら動きを止めれる」
がちり、と身体が固まった。
身動きをとろうとするが指一本動かせない。
……いつの間に?
「さっきのご高説中にだ。……おれは理解したよ、おれはここで負ける……けれど……」
ワカバの身体は未だ恐怖で震えている。
しかし、それを抑えながら立ち上がると、俺に向けて殺気を飛ばしてきた。
「オマエは道連れだ! 『死神』ぃぃぃぃ!」
ワカバが叫びながら俺に向かって、拳を振り上げながら突進してきた。
これが当たれば死んでしまうかもしれない。命中が低くとも、当たれば無事では済まないほどのステータスをワカバは持っている。
先輩も動きが出来ないようだ。
クソ……! やられた……!
『……ボクの出番かな?』
俺の身体の中からヒビキの声が聞こえた。
そして、ワカバの拳が俺に当たる直前に、その腕を何かが掴み、止めた。
腕だ。
腕が俺の腹を突き破り、ワカバの腕を止めている。
……………………え?
「………は? ……何が起きて、いるんだ……?」
ワカバの反応から、これが敵からの攻撃で無いことはわかる。
俺はパニックになった。
痛みはそこまでではない。しかし、腕が生えてきた場所からは大量の血が吹き出している。
ステータスには大量出血という、状態異常になっていることを示すアイコンは出ているが、HPはさして減っていない。
……というかこの腕、何?
なんかヒビキの腕っぽいんですけど……。
頭の中で思考がぐるぐるしていると、もう一本の腕が生えてきた。
……………。
ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???
俺は思いっきり叫んだ。
なんで? ええ!? なんで?
質量保存の法則は何処に行ったぁ!?
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
ワカバももちろん叫んでいる。
あー、ごめんね? 変なもん見せて。
出てきた腕は更に蠢き、その姿を露にしていく。ズボン、と頭が出てくると、ずるりと、身体全体が俺の身体の中からこぼれ落ちた。
出てきたそれはスッと立ち上がると、握っていたワカバの腕を握り潰す。
「がぁ!? な、なんだと……! オマエは……!」
出てきた存在に、俺は目を丸くした。
見慣れた顔に、長いツインテールとロングスカートのメイド服。
「やぁ、兄貴。産んでくれてありがとう。スッゴク、気持ちよかったよ……?」
俺の中から、元の大きさに戻ったヒビキが、血塗れになって飛び出してきた。
・寄生攻撃
魔物の中には『寄生攻撃』をしてくるものがいる。寄生された場合、時間経過で体内から寄生した生物が飛び出してきて、寄生主に出血状態の状態異常を与える。生まれてくる生物は寄生した生物と同じ生物である。PLがこの攻撃をした場合、PLと同じ種族が生まれてくる。ちなみに、Rー18の設定にしていた場合、腹部がいきなり膨れ、そこを引き裂いて飛び出してくる演出が追加される。
・『ハイパーブースト』
上位の強化魔法。速さを上げると同時に、筋力と感覚のステータスを上昇させる魔法。『魔女への鉄槌』により作成したオリジナル。




