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壁から人が現れたと思ったらいきなり切りつけられて手足をもがれた件について

「うぅ……すいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいません……」


 あぁ!?

 すいませんじゃねーんだよ? そっちが吹っ掛けてきた戦争だろうが?

 達磨にされただけで正気ぶっとばしてんじゃねーぞ? ほら、お得意のトラップ作成とやらはどうした?


 頑張ってトンネルを掘り続け『紳士隊』の本部に侵入した俺達の目の前には、大鎌で四肢を切断されたシーデーというPLがいた。


 地下にある廊下までトンネルを繋げたら、アホ面かまして歩いていたので、何かされる前に無力化した。


 シーデーについては、見るからに女の顔と格好だが、骨格が男っぽく、おそらく女装だろう。

 先輩が例の如く魔法で治療したので、しばらくは死にはしない。


 という訳で、ただいま尋問中である。


「なんでだよぅ……よりにもよって『魔王』と『死神従者』が私のとこに来るんだよぉ……」


 『魔王』は先輩の、『死神従者』は俺の、それぞれの二つ名だ。

 何故か、掲示板では俺達に直接関わってはならないと言われており、何かあったらドラゴムさんを頼るように、と書かれてあった。

 ……心外すぎる。


「知らなかったのかい? 魔王からは逃げられないんだよ?」


 先輩、それ言ってみたかっただけですよね?

 

 俺は肩の上で満足そうにふんぞり返っているこねこに目を向ける。


「うん! 割りと満足!」


 それは良かった。

 俺も二つ名で呼ばれてちょっと嬉しいですよ?


 嬉しいんで勝手に指が動きます。ぱん、ぱん、ぱーん。


 俺は銃を構え、手足をもがれたシーデーに向かい数発弾丸を打ち込む。

 ホントに当てると死んでしまいそうなので、あえて、顔の周りや、ギリギリ霞めるように弾丸を撃ち込み、恐怖を煽った。


「いやぁぁぁぁぁあぁあぁ!? やめてよぉぉぉぉ!? 殺すなら殺してぇ!?」


 おいおい? そんな物騒な事するわけ無いじゃん?

 お前が口を割らない限り、ここで生かしておいてやるよ。死ななきゃ独房に送られることはないからさ、安心だろ?


 にっこり。

 俺は顔に笑いを貼り付かせた。


「ツキトくん、ちょっとやりすぎだよ? こんなんじゃ自分で舌噛み切って死んじゃうって。……猿つぐわさせてチャットで尋問しようぜ? どうせログアウトしても欠損部位は治らないし、逃げられないんだから」


 あ、いいですねぇ。


 PLの身体の一部が欠損した場合、リジェネレートの魔法を使わなければ元に戻らない。

 逆に、ただの回復魔法で治らないので、こうやって尋問ができるわけだが。


「いくないよう! 話す、話すから! これ以上は許してぇ!」


 おお、やっと話してくれるのか。


 じゃあ聞こうか?

 ……何が目的だ? セクハラするためにリリア様を幽閉している訳じゃねーよな?


 俺と先輩がヒビキ(ぷち)に案内されトンネルを掘っている際に、いろいろと話し合っていたのだが、気になったのはそこだ。


 リリア様を捕まえておきたい理由は何か?

 ただ、手元に置いておきたいという理由では弱すぎる。

 アーティファクトを積極的に集めようとしたり、PLの情報を探っていた事についても繋がらない。


 何か、一貫した目的があるのではないか?


 俺達が行き着いた答えがそれだった。


「し、知らない! ただ、リーダーが強いNPCが必要だって言っていたんだ!」


 強いNPC?

 先輩、何か分かりますか?


「……幾つか心辺りはある。けど、どれも録な事にならないね。……君達のリーダー、ワカバの能力を教えてくれ。それでわかるはずだ」


「り、リーダーの能力は私もわからないんだよぉ。あいつ、私達が裏切っても良いようにって能力を教えてくれなかった……」


 嘘は言っていないように見える。

 

「役にたたないなぁ……。じゃあ、メレーナを使ってアーティファクトを集めようとしていたのは?」


 メレーナの名前を出すと、シーデーはハッとした顔をする。


「メレーナの姉御!? そ、そうだ! メレーナの姉御はどうなったんだよ!? クランには帰って来ないし、連絡しても無視されるし……お前ら何を……、いやぁぁぁぁ!! やめでやめでやめでぇ!?」


 無駄口を叩いたので股間をグリグリと踏みつけてやった。痛覚はカットされているだろうが、ここを攻撃されるのは男として精神的にダメージがくる。良くわかる。


 予想通り、シーデーの顔が苦悶に歪んだ。


 質問に答えろ、そしたら教えてやる。


 涙を流すシーデーにそう言うと、嗚咽を漏らしながら口を開いた。


「ひっ……ひっく……、アーティファクトは、NPCに装備させるって……。軍隊を作るって……ひっく……」


 NPCに? ……ペットを強化させようとしたのか?


 俺の疑問に先輩が答える。


「いや、PLがペットとしてつれ回すことができるNPCには数に限りがある。とても軍隊とは言えない数だね」


 ……。

 駄目だ、このくらいの情報量じゃ俺にはピンと来ない。


 おそらく、リリア様を利用したいということは察する事はできるが、このゲームにおいて最強の女神達に手を出せる次元に、まだPL達は到達していないだろう。


 例えば、『プレゼント』の能力がNPCを利用する能力だとする。

 『糸』というヒントから、NPCを操る能力なのではないかと、考察できないことは無いが……、それ女神様に効くか?


 それに、もしできたとしても、何かしらの条件があるはずだ。

 その条件を満たす時間を許す程、女神は甘くないだろう。


 ……くっそ、わからん。


「私が知っているのはここまでだよぉ……、姉御は……姉御はどうなったんだよぉ……」


「うん、情報提供のお礼に教えてあげてもいいかな。……メレーナは僕らに寝返ったよ。今はサアリドでPL狩りでもしてるんじゃない?」


 それを聞いたシーデーは、えっ……、と小さく声を漏らした。

 ショックだったのかも知れないが、その後、シーデーは力無く笑った。


「はは……なんだ、このゲームやめたんじゃないんだ。……じゃあいいや、姉御このクラン嫌ってたし」


 メレーナと仲がよかったのか?

 お前の話は聞いたことが無いがな。


「まぁね……、姉御は言うことを聞かないと『プレゼント』を晒してやるって脅されてたし。居場所が無くなるのは辛いだろうって……。多分私の事も嫌ってた……」


 メレーナは『プレゼント』のデメリットで犯罪者になっており、どんなに善行を積んでもそれが変わることはない。

 『ペットショップ』に加入するまでは自由に街の散策もできなかった彼女にとって、自分の居場所を奪われるのは避けたかったのだろう。


「なんか……安心した。あの人、悪い人じゃないからさ、優しくしてあげてよ……」


 無理だな。

 こちとら既に殺害予告を受けてるんだよ。俺とあいつは殺るか殺られるかの関係だ。無茶を言うな。


 俺は大鎌を構え、刃をシーデーの首に当てた。

 その行いに対し、シーデーは慌てる事無く、静かに目を閉じた。


「そっか……、じゃあよろしくって言っといてくれないかな……?」


 おう。


 俺はそう答え、シーデーの首を大鎌ではねた。


 情報はもらった。

 これ以上怖がらせることも無いだろう。俺は約束を守る人間だ。


「……にしても、僕ら残虐行為が板についてきたところあるよね? これからはもうちょっと自重した方がいいかな?」


 まぁ……、相手が早めに口を割ってくれればこんなことしなくても良かった訳ですし……。

 汚れ仕事なら任せてくださいな。


「悪いね。……ところで、メレーナも本格加入したし、新しい部署でも作ろうかなと思うんだけど? ……暗殺班的なの」


 おおー、なら俺はチップとヒビキを押しますかね?

 アークも良いんじゃないですか? 今回みたいな仕事なら大活躍でしょうし?


「いや、キミも入ってるからね? やるならとことん死神やろうぜ?」


 はっはっは。

 先輩、俺は見た通りの農民ですよ? 首を刈るのは副業なのであしからず……。

 ……ホントですよ?



「んっ!」


 左肩に乗っているヒビキ(ぷち)が長い廊下の先を指し示す。

 入り込んでいる道という訳では無いが、ここまで導いてくれたこの子の言うとおりの道筋に従い、全力で廊下を駆ける。


「順調だね。誰もいないのが嫌な感じはするけれど、陽動が上手く言っていることを信じるばかりだ……。そういえばヒビキくん達は?」


「……ますたーは今、市民のひとたちを助けにいっています。リリアたまはよろしくと」


 先輩の質問にぷちが答える。

 簡単なやり取りならば、可愛らしく答えてくれる。


 ……純粋だった頃のあいつを思い出して涙が出そうだ。何故、あんなにのびのびとした自由な性癖に育ってしまったのか……。


「市民……? もしかして街のNPCも確保していたのかな? ……ますますわからなくなってきた。何が狙いなんだ?」


 ……先輩、嫌な予感がします。

 チップを呼んでください。アイツの機動力が欲しい。


 最悪、リリア様だけでもチップの能力で連れ出してくれれば、この勝負は半分勝ったも同然だ。

 『紳士隊』のクランメンバーはライブで狂っているはずなので、ゆっくりと対処すれば良い。

 残っている中核メンバーの二人はそいつらの後で良いのだ。


 だからこそ、先ずは当初の目的を……。


「うん、わかった。……けど、間に合うかわからない。チップちゃんのキャラクター確認の能力は夜には使えないんだ。ピンポイントで僕達のところに来れないかもしれない」


 大鷲だけに鳥目って事ですか?

 ……ちなみに、今のゲーム内時間は?


「もう夕方だね。取り敢えず連絡は送る。それと増援も頼んでおこう」


 ありがとうございます。

 ……結局は俺達がなんとかするしか無さそうですね。


「大丈夫さ。僕らが協力すれば倒せない敵なんていない。それにヒビキくんとアークくんだっているんだ。負けやしないよ」


 ええ、ですが油断せずにいきましょう。


「……! あそこ!」


 ぷちちゃんが目の前の扉を指し示した。


 俺は手に拳銃を持つと、その扉を蹴り破り、中にへと突入した。

 同時に拳銃を構え、部屋の中を確認していく。


 ……!


「これは……」


 目の前にあったそれは、巨大な、巨大な鳥籠だった。

 中は清潔な空間で、白を基調にした家具が檻の中におかれている。

 ベッドやテーブル、三面鏡、水場まであり、個室のトイレやバスルームの様な物も設置されていた。


 この辺りに漂う厳かな雰囲気で、この場所に囚われている者はただ者で無いことが、誰の目にもわかるはずだ。


 そして、俺達が探していた存在はベッドの上に横たわり、寝息を立てている。

 神官を思わせるような服と美しい青色の髪、そして目を奪う白銀の天使の羽……。


 穏やかな顔で眠る少女、主神『聖母のリリア』に、俺達は再び相まみえる事となった

・本日はお休みします。

         ~by見守る女神様~

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