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楽しんでいこう

「それでは、情報の共有をして行きたいと思います。よろしいでしょうか?」


 俺達は二組に別れ、向かい合っていた。

 俺と先輩、ヒビキとアークの組み合わせである。


 すまんな、弟をよろしく。


「よろしくないわ!? なんでウチの最強戦力が固まってんねん!? ワテとヒビキはんはこのゲームから始めた初心者やで!? あと、こんな変態と二人っきりになるのはゴメンや!」


 正論をアークが叫んだ。……これだから常識人は困る。


 えー? 仕方ないじゃん。

 先輩は俺とじゃなきゃ嫌だって言うんだし。それにヒビキだって、見境無いわけじゃないからさ。安心しろよ?


 なぁ? ヒビキ?


「当たり前ですよ、アークさん。ボクの年齢設定は全年齢の設定にしています。エロスなことはできません、しません。……尻尾をモフるのはいいですよね?」


「駄目や! アンタ触り方がエッチなんやもん! ……なぁ、みーはん、かわってーなー。後生やさかいに……」


 涙を流すアークに対し、先輩はビシッと顔の前で前足をクロスさせた。


「却下でーす」


 先輩は厳しかった。



 そんなやり取りがあった気がしたが、取り敢えず、情報の共有は淡々と進んだ。


 先ず、見張りについて。

 これについては陽動を受け持った、りんりんが上手いことやってくれた。

 噴水のある広場で『駆け出しアイドル ゲリラライブ! りんりんの歌を聞けぇ! ~チラリもあるかも~』を開催したお陰で、小人の彼女見たさにロリコンが殺到しているらしい。

 『プレゼント』も人を集める事ができる能力なので、広場では熱狂が巻き起こっている。


 ちなみにPLりんりんは、種族小人の職業アイドルのネカマだ。間違いなく、ネカマ。

 男の理想のツボとチラリズムを熟知しておる。

 まぁ、ヒビキと違い、本人から真実を伝えられてはいないので、真相はわからないが……。


「……少し陽動にしては弱いんじゃないか? 兄貴の人選だから文句は無いけれど……」


 ヒビキが余計な心配をしている。


 大丈夫。りんりんは呼び水、本命は後からやってくるはずだ。


「本命って……『ペットショップ』基本的にヤバい奴しかおらへんやん……。誰来るん……」


 タビノスケ。


 俺が彼の名前を告げると、全員が察したように口を噤んだ。


 タビノスケはサムライという近接職業についてはいるが、種族が魔法使いタイプなので器用に立ち回れるPLである。


 前にも触れた気がするが、奴の外見は……見るだけでSAN値を減らしてくるような触手の塊である。いわゆる宇宙外生命体、神話生物チックな見た目だ。


 どうやら、種族『宇宙外生命体』のPLの『プレゼント』には周囲を発狂させる効果が必ず乗るらしい。メリットのようなデメリットのような……。


「でも、タビくんになにさせる気? ツキトくんはりんりんにしか陽動頼んで無いよね?」


 ええ。

 ですが、タビノスケはりんりんの追っかけ、親衛隊長です。何も言わなくとも来ますよ。


 俺のプランはこうだ。

 りんりんのライブが盛り上がって来ると、タビノスケも盛り上がる。

 勝手に周囲を発狂させ始めるタビノスケくん。(同クランメンバー、パーティーメンバーには通じない。検証済み)

 すると不思議な事に、観客は自然とSAN値を削っていき、集団トリップ。

 ライブが終わる頃には、隣の客同士で乱闘が始まり、お互いの四肢にかぶり付き始めるだろう。


 ……悲しい事に、一度やってるのよね、アイツら。

 サアリドの街じゃない所だけど、街一つを滅亡させた実績持ちなので効果は期待できる。


 いつもNPC殺すのは控えろと言っているし、今回はあまり盛り上げないよう釘を刺したが……。

 まぁ、俺達がパパっと片付ければいいか。



 次に突入部隊、俺達についてなのだが……。


「兄貴とみーさんにはこちらを渡しておきます……お行き」


 ヒビキのメイド服から5センチ程の2頭身メイド人形が飛び出して、俺の身体をよじ登り、先輩とは反対の肩に座った。

 ……俺の肩はタクシーかなんかですかね?


「ヒビキくん、そこも僕の席なんだけど? 何? きみもついて来るの?」


「いえ、ボクの本体はアークさんをもf……ではなく、アークさんと一緒に侵入します。安全そうな経路を複数見つけていますので……」


「今! 今、もふるって! アカンよ! それはドラゴムはんのお勤めや! というか、お前もセクハラもふ魔族かコンチクショー!」


 なんということだ。

 またドラゴムさんに潜り込む虫が増えてしまった。

 首刈りリストが増えてしまうじゃないか……。


「その子が経路を教えてくれるでしょう。奴等の本部にも10体ほど紛れ込ませております。その子達の報告では、クランの人材はライブ会場に引き寄せられてしまい、本部は数名を残して、ほぼがら空きだそうです」


 成る程……。

 流石の人海戦術だ。これならライブが終わるまでにリリア様も救出できるだろう。


 ……ヒビキ、ちなみにこの人形、どこにいるか大体わかるか? 


「ああ。ボクのマップで人形の場所が座標で確認できてるよ。リリア様の部屋にも一体置いているから、何処からでも案内できる。……まさか兄貴、お前……」


 先輩、俺達は地下から行きましょう。

 俺が穴を掘るので、リリア様まで直通コースです。


 ……という訳で案内は頼んだよ。


 そう言うと肩の上の人形がコクりと頷く。


「うん、それが一番早いね。最短経路で案内できるかい?」


「もちろん。……それではボク達は上の入り口から行きましょう。アークさん? いいですよね?」


 精神的に参ってしまったアークは、もう全てを諦めてしまったような雰囲気を醸し出している。


「……あ? うん……ええよええよ……。けど変なことはマジで勘弁やで……、あと戦闘は任せたよ……」


 アークはそう言って地に付した。

 ヒビキは優しく微笑みながらアークを持ち上げると、自分の首に引っかけるように肩にのせた。


 あ、間違えた。やらしく微笑みながら、だ。ヒビキは尻尾をもふり始めた。

 

 すまんな、アーク。

 そんな変態を先輩と組ませる訳にはいかんのだ。



 最後に……。


「……さて、メレーナからの情報も伝えておくよ。『紳士隊』の中核メンバーの『プレゼント』についてだね」


 メレーナからの情報だった。


 このゲームにおいて殺さないというのは意外に効く。

 生かさず殺さずを徹底すれば、情報を引き出すのは簡単だ。

 ……メレーナは関係無く、すぐにゲロったが。


「相手には幾つかユニークな能力があるみたいだ。これを共通の認識にしておきたい」


 以下は先輩が語った情報だ。


 先ず、『ジェンマ』というPLのプレゼント。牢獄にPLやNPCを閉じ込める事のできる能力だ。

 リリア様もそいつに捕まっているらしい。

 死ねば出れるらしいが、NPCは例外だそうなので、直接助けにいかなければならない。


 次に、『シーデー』というトラップ製造する事ができるPL。

 人に入られたくない場所にはトラップがところ狭しと並べらているそうで、注意しなければならない。


 ……が。


「すでに殆どを除去しております」


 ヒビキが既に動いていた。仕事が早くて大変結構。


 最後に、リーダーである『ワカバ』。

 このロリコンの頂点に立つこの男の『プレゼント』なのだが……。


「どうやらメレーナでさえ看破できなかったそうだよ。けれども、『糸』を使って敵を倒しているのを見たことがあるそうだよ。……気を付けていこう」


 ここに来て不確定要素が来たか……。

 

 取り敢えず、メレーナが言うその3名に、気をつければいいのですね?

 理想は、気付かれずに全てを終わらせる事ですが……。


「そうもいかないみたいだね……。今ゼスプから連絡がはいった、本部が襲撃されたよ。メレーナがスパイを始末して感づかれたみたいだ」


「なっ!?」


 ……ほう?


 ヒビキは慌てたように目を丸くしたが、先輩は楽しそうに口を回す。


「いいじゃないか、実に。幸い僕らには被害は出なかったそうだし。それに、これでハッキリした。これはアイツらが僕らに吹っ掛けてきた戦争だって」


 ええ、そういうことになります。

 それでは、リリア様を救出した後、『紳士隊』はどういたしましょうか?


「……なんだよ? わかっている癖に、僕に言わせたいのかい?」


 そうですとも。さぁ、どうぞ?


「……虐殺だ、楽しんでいこう」


 戦争が、始まる。


・トラップ

 ダンジョンとかに設置している罠。地雷や、矢が飛び出るスイッチ、装備を解除する触手等、種類は多岐にわたる。


・トラップ

 いわゆる普通の男の娘。……いや、普通ではない。お、お前……男だったのか……、というお決まりのパターンがあるそうな。引っ掛かった時の精神的ダメージは大きいだろう。やはり性癖は押し付けるべきではない。


・宇宙外生命体

 多くの触手をもった種族。ステータスが高く、魔法に秀でている。手数の多さから近接戦闘もこなせる。強い種族ではあるが見た目がヤバい。分かりやすく言えばエイリアン。

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