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無双のキキョウ

 はい、あ~ん。


「あーん……。んぎゅんぎゅ……、んぅ、んま。…………あ~ん」


 俺は鉄格子越しに、目の前の女神、キキョウ様に作りたてのステーキを切り分けて、餌付けをしていた。


 ……と、いうのは半分冗談で、キキョウ様は手足が枷で拘束されており、自由に食事もできない身だ。

 

 捧げ物として調理された食事を好んではいるが、一人で食べる時は、まるで犬のように口を皿に付けて食べなければならない。

 それを黙って見ているというのは、良心が痛む……。


 という訳で、俺は囚われの女騎士のお世話を親切でしていたのだ。

 やましい気持ちなど全く無い。


 どうです? お口に合いますか?


「もぎゅ……もぎゅ……。んっ……。……あ~」


 何も言わずに、目を瞑って口を開いてくれた。

 そういうのはやめてほしい。何故かぐっと犯罪臭が増す気がするからだ。こんなん、口になに突っ込まれても文句言えないぞ、おい。


 しかも、キキョウ様の今の姿はPVの様な全身鎧の正装などではなく、捨てられた子犬の様に汚れたぼろ布しか纏っていない。

 女神というよりも、奴隷と呼んだ方がしっくりくる様相だ。顔の大きな古傷や身体中の細かい傷がよりそう見せる。


 ……あれだ、相手が自分より遥かに強いことはわかるのだが、そういう要素が合わさり庇護欲を加速させる。


 このまま一生お世話していくのもいいかな?

 いや、良くない。また刺される。


「ふぅ……。御馳走様、大変美味だった。お前のような信者を持って、私は幸せ者だな。ありがとう……」


 ……くっ! 

 いやに素直な女神様だ! まとも過ぎてコメントに困る……!


 ……いえいえ、いいのですよ。ここに来たついでみたいなものですし、苦になる訳でもありませんので。


「うむ、やはりお前は優しい男だ。送られてくる捧げ物も食べやすいようにと、切り分けられているしな。いつもありがとう、感謝しているよ」


 ホントにまともだ。

 いつも大なり小なり狂っているクランメンバーと絡んでいる俺にとって、こういう相手は苦手だ。

 いつもなら相手の狂ったチャンネルに合わせておけば話もしやすいのだが……このお方にはそれが通じないと見た。


 致し方なし、普通にいこう。


「さて……お前をここに呼んだのは理由がある。……パスファからの依頼は受けたか?」


 ええ、リリア様の救出、見事やってのけましょう。しかしながら、俺からも質問が幾つかあります。

 後でお答えして戴いても?


「構わん。それで、私の用事なのだが……、お前、武器が欲しいと思わないか?」


 武器?


 予想外の質問に、つい呆けたように聞き返した。

 確かに、俺の武器はヒビキが作ってくれた大鎌しかない。手榴弾の類いは幾つかストックがあるが、今回のクエストには不向きだろう。


「いや、この聞き方は少し回りくどいか。……私はお前に武器をくれてやろうと思う。光栄に思うといい」


 おお! 女神様から直々に貰える武器!


 恐らくはアーティファクトの類いだろう。何をくれるかはわからないが、相当な強さだと考えていい。


 ちなみに、何を戴けるのですか!?


「ふっ、そんな期待したように見るな。……なに、そんな珍しい物ではない。ただの拳銃と弾丸だ。これから行く場所でそんな装備をしていたら目立つだろう?」


 キキョウ様がそう言うと、俺の足元にアイテムが出現した。それを拾い上げ、説明をウィンドウに表示する。


『・アダマンタイトオートマチックピストル

 これは遠距離攻撃ができる武器だ。

 これを使うには専用の弾丸を装備する必要がある。』


 お~……ピストルだ。

 いわゆる自動拳銃という種類の奴で、チップが使っていたリボルバーとは違う種類の拳銃だ。

 アーティファクトじゃないようだが、それはそれでいい、懸念事項が一つ減る。


 ついに俺も遠隔攻撃を導入するときが来たようだ。カルリラ様からは他の武器に浮気は駄目と言われたが、遠隔武器なら大丈夫……。


 ん?


 ……あ、アダマンタイトぉ!?


「どうした? そんな驚いて?」


 キキョウ様!? このアダマンタイトってかなりレアな素材では?  いいんですかね!? 貰っても!?


「え? 最近はそうなのか? 私が現役の時代は皆がアダマンタイトを使っていたぞ? 素材を変化させる技術も作ったはずなんだが、失われたか?」


 確かサンゾーさん曰く、アダマンタイトは武器にも防具にもオススメの最高品質の素材なはずだ。

 下手すりゃチップの使っている銃より大分強いぞ、これ。


 そして、何かのクエストのフラグが立った気がする……、後でゼスプをパシらせよう……。


「後、オマケも入っているはずだ。私の自信作だが貰って行くといい」


 オマケ?


 俺は弾丸の下に表示されているアイテムを選択し、詳細を出す。


『◎サイレンサー

 拳銃と合わせて使うことで、隠密性を引き上げる事ができる。しかし、連射しすぎると機能が低下してしまう。』


 ……アーティファクトじゃないですか、ヤダー。


 おそらく、俺がこれを手に入れたと、メレーナに通報が入ったはずだ。クソ、俺はまた、あの妖精から命を狙われなければいけないのか……。


「女神の作った物だからな。ちなみに、それ位なら冒険者の手でも同じ効果を持った物を作れるだろう」


 流石です! 信者に無益な争いをさせない辺り、流石キキョウ様!


 とりあえずメレーナにチャットでその事を伝えて、殺されないようにしなければ……。


『メレーナ アンタ銃使わないっしょ? 後で殺して奪うから』


 チャット(殺害予告)が飛んできた。

 ……早いな、流石メレーナだ。奪うことしか知らない悲しい存在め。どちらが上か、その身に刻み付けてやらなければならんな。


 というか、こっわ。

 なにアイツ、交渉しようとか思わないの? 前作PLはやっぱ違うわ。


「どうだ? 次の任務には使えそうか?」


 ええ、役立たせてもらいます。

 ……ところでお聞きしたいことがあるのですが?


「ん? そういえば、聞きたいことがあると言っていたな。言ってみろ、私に答えられることなら答えてやろう」


 何故、パスファ様が直接助けに行かないのですかね? 俺達に頼むより遥かに簡単に済むのでは?


「……ふむ。お前の言うことは最もだな。しかしだ、我々が冒険者に手を出すということは基本は無い。お前達から危害を受けた時ぐらいしか、女神は戦うことができん。この世界のルールだと思ってくれ」


 ?

 パスファ様はうちの男どもをミンチにしてましたが? それは……?


「セクハラは別だ」


 やはり、許されなかったか……。


「パスファはリリア様の救出のみを依頼したたのだろうが、それほどうまくはいかないだろう。……皆殺しにしてくるといい。おそらくだが、パスファが裏で糸を引いている。殺せば全員独房送りになるはずだ」


 ……成る程、了解しました。

 つまりは殲滅を御所望で? それならば我らが先輩の出番でしょう、ビギニスートなど瞬きする間に更地にして差し上げま……。


「罪の無い市民を殺すとリリア様が哀しむから駄目だ」


 あっ、はい。


 やはり、リリア様を保護してから殲滅していくしか無いようだ。徹底的にいこう……。


「質問はそれだけか?」


 今回のクエストについては。

 それともう一つ……何でキキョウ様は独房に入ってるんですかね?

 何か犯罪行為をしたわけでも無いでしょうし、入っていても意味無いでしょ?


「……それは色々あるのだ。私は自らの罪が消えるまでは、ここから出るつもりはない……」


 じゃあ、自分で入ったって事なんですか?


「そうだ。私の作った技術のせいで沢山の人間が死んでいった。カルリラは気にしないよう言ったが、それでは私の気が収まらない……」


 つまり、独断での行動だと言うことですか。

 ……んじゃ、壊しますねー。


「は?」


 俺は鶴嘴を取り出し、構える。

 そしてそのまま鉄格子に向けて振り下ろした。


 キキョウ様は呆気にとられた顔をしていたが、そんな事はお構いなしに鉄格子を破壊し続ける。


 先輩のシゴキのお陰で洗練された俺の鶴嘴さばきにより、あっという間に鉄格子全てをへし折った。


 よし。


「よ……よしじゃない! 何て事をしてくれたのだ! これでは罰にならないではないか! 何を考えている!?」


 あー、簡単ですよ。

 ご飯あげるときに邪魔なんですよね。ただそれだけの理由です。

 あと、こうしときゃ俺以外の誰かが来たとき、貴女にちょっかい出そうとするでしょうし。


「っく……。辱しめを受けろというのか……?」


 そんときは自分でその枷壊して暴れればいい。どうせ、何かされそうになったら殺すでしょ、貴女?


「……まぁ、そうだが」


 じゃあ大丈夫ですね。さっさと自由になってください。誰も貴女を怨んでなんていませんよ。

 きっと大丈夫。


 そう言い残し、俺は独房の出口に向かった。


 正直な話、ああやって囚われているキキョウ様はあんまり好きじゃない。

 どうせなら、PVで見せたような大暴れをしていただきたいものだ。


 次は洋服でも持って来ますんで。

 それじゃあ、また会いましょう。


 俺は独房の出口を開け、元の世界へと帰還した。




 残っていた3人に合流すると、何故か先輩とアークに哀れみの目で迎えられた。


 ……おい、ヒビキ。

 テメーなに言った。


「ん? 何も? ただボクの性癖を暴露しただけだけれども……」


 SAN値減らしてんじゃねーよ!?

 そのお前の何も隠さないところがお兄ちゃんは心配です! 頼むから相手の事をよく考えて!? お願い!


「だって兄貴が話題の幅を減らしたから……」


 減らして一番最初に出てくるのが性癖の話題とか、お前の頭の中の引き出しはどうなっているんですかねぇ!?


「あー、ツキトはん……ええんよ。苦労しとるんやね……」


 アーク!

 大丈夫か!? どんな話をされた!? リョナか!? それともケモホモ!? こいつなんでもいけちまうからな!?


「……両方やで。オシッコチビりそうになった……」


 ああ……、すまないアーク。

 俺がここにヒビキを置いていってしまったばかりに……。

 弟にはよく言っておくから、元気出してくれ……。


「ツキトくん……」


 先輩……大丈夫ですか……?


「僕には何を話しているかよくわからなかったんだけど……頑張ってね?」


 この状況、応援されるのが一番キツいのですが……。




 数字間後、俺達はビギニスートの外壁が見える場所まできていた。今は近くの森に潜伏している。


 ちなみに、途中にあった街『コルクテッド』は魔物に襲撃されており、一般市民の方々との殴り合いを繰り広げていたので、スルーしてきた。


「さて、ここを拠点としようか。……これより僕らは『紳士隊』に占拠されたビギニスートに潜入する。準備はいいかな?」


 先輩の言葉に俺達は静かに頷く。


 さて……、待っていろよロリコン共……。

 その性癖を矯正してやる……!





「それ……先に弟はんにやってくれへん……?」

 

 すまん無理。アイツさ普段は真人間なんだよ……。矯正されてあれなんだわ……。


「なんでやねん……」


 ねー……、ホントなんでだろー……。

・無双のキキョウ

 この世界における軍神であり、銃火機等の武器を作り出した存在。しかしながら、結果としてそう呼ばれているだけであり、元は平和を司る存在だった。自分が作り出した技術により多くの命が失われた事に心を痛め、自らを幽閉し、いつ終わるとも知れない投獄生活を送る。


・性癖

 まぁ……うん……。あまり他人に押し付けるものじゃないよね……。

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