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理不尽なチュートリアルは意外に丁寧だったりする

 さてと、現状確認と参りましょう。


 俺が今いるのはどこかの路地裏だ。

 狭い路地には多少日が差し込んでいるが薄暗く、一本道の先には明るい光が見える。

 念のため後ろを振り返ると、そこは袋小路になっており、ボロ布を纏った老人が座っていた。

 おわっ!? と、情けない声をあげながら後ずさる。


 まさか既に後ろをとられていたとは。

 この野郎、ビビりなんだよ、なんか声ぐらいかけろや。


「ああ……、お若いの、目が覚めたかい?」


 枯れた声で老人は俺に話しかけてきた。

 いきなりの出来事に驚いてしまったが、俺は目の前の老人がどんな存在か思い出す。

 通称『チュートリアルジジィ』この世界の生き抜き方を伝授してくれるジジィだ。それを踏まえた上で、ジジィに狙いを定め、貰ったばかりの大鎌を構える。

 ……俺は知っているぞ、前作に当たる『リリアの祝福』、そのチュートリアルがイラッとすると言うことを! そしてジジィを殺しても、殺さなくてもチュートリアルは終わることもなぁ!

 さぁて、どの角度からチョンパしてやろうかぁ……。けけけ……。


「おうおう、元気じゃのー。ここで倒れていたのをワシに助けられた事も忘れたか。失礼なやつじゃの……、おーいおい……」


 そう言ってジジィは泣き真似をする。

 クソ、既に若干ウザいぞ。


 あー……それはすいませんね。気がついたら後ろに居たので少し驚いただけです。申し訳無いですわぁ。

 と、適当に平謝りをすると、じじいはニカっと笑った。


「まぁ嘘なんじゃが」


 よし、コイツはここで殺す、回りに誰もいない今がチャンスだ。


「待て、おちょくったお詫びに良いことを教えてやろう。……お主、そうやって罪も何もないワシに武器を向けたが、それ、犯罪じゃからな? ステータスを見てみると良い」


 は?

 俺はウィンドウを開き、自分のステータスを表示すると、見慣れない項目がある事に気付いた。


 善行 -2


 なんか減ってるんだけど?

 善行?

 俺なんか悪いことした?


「この世界では罪もない一般人に武器を向けるのは殺害予告と同義、失礼な奴じゃな御主は。わしが若ければ切り殺しているところじゃったよ、かかか」


 ははは、切り殺したいのはこっちなんだよなぁ。


「善行、ということは御主は元々善人なのじゃろう? 下げすぎには気を付けることじゃ、やんちゃをしすぎると独房に送られるからの。まぁ、御主は臭い飯が好きそうな顔をしとるからの、大丈夫か」


 予想以上にウザイなコイツ。


 あーハイハイ。ご忠告ありがとうございますね。で、良いことってのはそんなもんですか? 先を急いでるんですけどねぇ?


「おお、そうかい。それじゃあお詫びにコイツをやろう」


 ジジィは俺に向かって何かが入った袋を投げる。

 俺はそれを受けとるが、それはすぐに消えてしまった。

 あれ?

 どうなった?


「御主、異国よりの冒険者か? ならばアイテムウィンドウを開き、先程のアイテムを確認するのじゃ。そしたら取り出して食うと良い。あまり腹が減りすぎると餓死するからな」


 へぇ、食料管理も大事なのね。

 俺はウィンドウを操作してアイテムボックスの中の一覧を表示する。

 既に幾つかの装備とお金、食料が入っており、新しく取得したアイテムにはNewのアイコンが表示されていた。


『New! ふわふわのパン(呪われている)

     これは食べることができる。』


 …………。

 おい、これ食べたら駄目な物だろ? 騙されんからな。


「……食べんのか?」


 騙されんからな!?


 

 その後、一通りの操作を教えてもらい、ジジィのチュートリアルは終わった。

 結果として言いたいことが一つ。このゲームの開発者出てこい、ぶっ殺してやる。


「まぁ、こんなもんじゃな。にしても、最後まで付き合ってくれるとは御主はホントに暇なんじゃなぁ」


 はっはっは。

 感謝しろ、クソジジィ、恐らく最後までチュートリアルに付き合ってやったのは俺ぐらいだ。

 他のPL(プレイヤー)は確実にその首切り落としてるわ。


「それもそうじゃな! なら最後に……これは礼じゃ。もらっとけ」


 まだなにかあんのか?

 ジジィが俺に向かい、懐に収まる程度の大きさの一本の杖を差し出している。

 綺麗に細工され、先端には不思議な色に輝く珠がついていた。

 それを受け取ってアイテムボックスに送る。


 なんだよ、今まで渡してきたゴミとは大分質が違うじゃねえか。


「そりゃあそうよ。本来なら国宝級のお宝じゃしな。……そいつは『願望の杖』といってな、簡単に言うのなら『なんでも』願いを叶える力が込められておる」


 …………。

 んな、アホな。

 今まで、つるはしとかランタンとか小石とか、使えるかわからない物を寄越してきたのに、なにガチなもんだしてんだ。

 何で路地裏で油売ってるあんたがこんなお宝持っるんだよ。おかしくない?


 俺の言葉を聞くと、ジジイは神妙な面持ちで語り始めた。


「かかか……ワシも昔は冒険者でな、その杖を探して様々な旅をしてたのよ。それで命からがら見つけたのが……それじゃ。それでな、ワシの『杖を手にいれる』という願いは叶ってしまった……。それ以外の願いをワシは思い付かなかった……」


 ジジィは項垂れると一本のナイフを取り出した。

 俺はとっさに距離をとり構える。が、ジジィは座ったまま立ち上がる様子はない。


「手にはいっちまたら、そいつはワシにとっちゃただの棒になっちまった。そいつを手に要れた瞬間、ワシは死んだ。生きる目標が無くなった。だからお前は……」


 そしてジジィのナイフは振り下ろされ、


「お前はワシのようにはなるなよ」


 その胸に突き刺さった。


 じ、ジジィーーー!!


 咄嗟にかけよりジジィの体をつかもうとする。

 だが遅かった。

 ジジィの肉体は勢い良く弾け、飛び散り、辺りに血の海を残して消えてしまった。

 そんな……、ジジィ……。

 噂通りウザくてイライラしたけど、なんやかんや懇切丁寧にウインドウ操作を教え、ついでに俺を小馬鹿にしていたジジィ……。

 パンを食べなかったら、5回位「食べないの?」と、小首をかしげて聞いてきたジジィ……。

 ウザくて食ったら『腹痛』のバッドステータスで嘔吐する俺を見ながら爆笑していたジジィ……。


 どうして……。


 だが、そこで俺は気付いた。

 ジジィがいた場所になにかの袋が落ちている。

 まさかジジィのやつ、最後の最後まで俺に……。

 俺はそれに手を伸ばして中身をウィンドウに表示させた。

 これは……。


『New 元冒険者の肉塊(呪われている)

    これは食べることができる。

    これはあなたと同じ種族の肉だ。』


 うっわ、きったね、呪われてやがる。

 俺は馴れた手つきでそれをアイテムボックスから取り出し、その場に捨てた。ジジィから貰った使えそうにない数々のゴミは、俺の足元に散らばっている。


 さぁ、チュートリアルは終わった。

 貰うものも貰った。

 ここから俺の冒険が始まるのだ。


 それはそうと、このゲーム、死んだときの演出ちょっと過剰じゃない?

・チュートリアルジジィ

 ゲームを始めたばかりのPLにストレスを植え込む人物。しかしながら、チュートリアルの内容は確かなものであり、言うことを守っていればまず死なない。杖をくれるのは『Blessing of Lilia』になってから。


・願望の杖

 使えば大体の願いを叶えてくれる杖。使用回数は決まって一回のみ。願いの回数を増やす事はできない。


・人肉

 最初に貰える食料の一つ。人間種が食べると発狂する。美味しくない。

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